馬車の中での話なんですが

 なんとか盗賊たちを撃退した僕たちは、教会から来た馬車に揺られて街へと戻っていた。

 あの屋敷は標高の高い山の上に建てられていたようで、扉の隙間からすりぬける風は冷たい。

 一方で窓から見える空の色は深く、延々と続く緑の草原と相まって、なんとも美しいコントラストを作り上げていた。


「……キレイだね」


 思わずつぶやくと、ミシェが「そうだね」と返す。

 馬車の後ろには、同じ形の馬車が何台も続いている。

 猊下たちを捕縛する用と、捕まっていた子たちを搬送する用のふたつだ。

 ちなみにこの馬車には、僕以外に、ミシェとジョシュアくんが乗っている。

 アーネットは用事があるらしくて、乗ってきた馬車でそのまま帰っていた。


「……ねえ、ジョシュアくんは大丈夫?」


 横で顔を真っ赤にしているジョシュアくんに話しかける。

 馬車で帰る前、捕まっていた子たちに行き場だとか、ないなら希望の場所を聞いて、そこに送り返そうとしていた。

 僕はてっきりリーフくんと一緒か、元々住んでいたところに帰るんじゃないかと思っていたのだけど、なんと彼は僕と一緒に暮らしたいと言い出したのだ。

 もちろん、彼には彼なりの考えがあるだろうから、理由をムリに聞き出したりするつもりはないけど……。


「あ、ああ。大丈夫だ」


 顔を真っ赤にしたまま、ジョシュアくんが答える。

 ――これだ。これが心配になるのだ。

 ちょっと前までは元気だったジョシュアくんだけど、僕が短剣をそらした前後から、急におとなしくなってしまった。

 ショッキングな光景を見て落ち込んでしまったのかもしれないし、そうではないけどなにか風邪にでもかかってしまったのかもしれない。

 馬車でやって来た回復術士の人からは心配いらないとは言われたんだけど、やっぱり不安なものは不安だ。

 そういうこともあって、僕は定期的に彼へと話しかけることにしていたのだった。


「……ショウくん」


 あんまりジョシュアくんをかまいすぎてスネてしまったのか、ミシェが頬を膨らませた。


「ごめんごめん。けどジョシュアくんが心配で……」

「心配いらないって言われたでしょ? 本人も大丈夫だって言ってるんだから大丈夫だよ」

「……そ、そうだ。し、心配はいらないぞ……」

「うーん……でも……」


 僕としては、やっぱり彼が心配で仕方がない。

 けど本人が大丈夫だと言っている以上、心配しすぎてもよくないのも事実だ。

 ――よし、こうなったら。


「ジョシュアくん」

「な、なんだ――――!」

「――!」


 無防備になったジョシュアくんのスキをついて、彼のおでこに右手を添えた。

 熱がないか測るためだ。

 急な行動すぎたからか、ミシェとジョシュアくんがこっちを向いて固まってしまっている。


「……うん、熱はないね」


 ごめんね、と突然やってしまったことを謝ったのだけど、ふたりは相変わらず固まったままだ。


「……ふたりとも?」

「……ショ」

「ショ?」

「ショウくんのバカーーーーーーーッ!!!!!」

「うわっ!」


 ミシェの大きな声が、雲ひとつない青空にこだました。

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