色々教えてもらったんですが
「こいつの名前はリーフ、俺と一緒にあそこへ放り込まれた人間だ」
細かく話を聞くと、元々彼とは同じ牢屋に入れられていたらしい。
ただ、先に彼が牢屋から出され、それ以来会えなかったのだとか。
一方のリーフくんの話を聞くと、牢屋から出されてから、ずっと枢機卿猊下の従者としてこき使われていたらしい。
牢屋で捕まっていた人から猊下が経営している孤児院の子どもまで、色んな子がここでひどい目にあっている。
彼の話は、つまりそういうものだった。
「……まさか、猊下がそんなことをしていただなんて……」
ミシェがショックを受けている。
今は彼も教会の人だというのも理由だろうし、もし孤児院が違えば、自分もこうなっていたかもしれないというのもあるのだろう。
僕はあの部屋を見ていたからショックはそこまでではないのだけど、だからといってまったくないわけではない。
なにより気になるのは、アーネットがこのことを知っているかどうかだった。
「……法王台下や聖女も、この件を知っているの?」
「聖女様はなんとも言えないけど、法王様に関しては大丈夫だと思う。猊下はいつも法王様の愚痴を言ってたし」
リーフくんの補足を聞いて、ミシェは安心したみたいだ。
さっきまで下がっていた眉が、きれいな円形を描いている。
――一方の僕は、不安な気持ちを抑えきれずにいた。
「ねえ、聖女がどうかわからないっていうのはなんで?」
「なんでっていうか……聖女様は猊下とそんなに仲が悪いわけじゃないんだよ、教会に所属しているもの同士ってこともあるし」
「たしかにそうだね……」
「でもさ、聖女様ってこういうのに厳しいんだろ? なのに黙認なんてするかなーって」
「! そ、そうだよね!」
「……なあ、こいつと聖女様って関係があるのか?」
僕の様子を見て、ジョシュアくんが不思議そうな顔をする。
アーネットは有名だけど、僕を含めた3人はそうでもない。
その上長いこと牢屋に入れられていたとなれば、そんな反応になるのもおかしくないことだった。
「ああ、この人は聖女アーネットと一緒にパーティーを組んでいる人だよ」
「……え」
「昔は、ね」
「え、あの噂マジだったのか?」
リーフが伝えてくれた僕の過去は、しかしジョシュアくんにとってはまさかの内容だったらしい。
フリーズしたままの彼を放置して、話を進めることにする。
「ちょっと色々あってね……ところで、この件を教会に持っていきたいから、メモさせてもらってもいいかな?」
「うーん……気持ちはすっげえ嬉しいんだけど、それは難しいんじゃないかなー……」
リーフくんが悲しそうに首を振る。
「え、なんで?」
「……教会の過半数は枢機卿派だ。相当な理由がない限り、彼らを動かすことは難しい」
そうだね?
ミシェの問いかけに、リーフくんがうなずく。
「……そんな」
「まあそんな落ち込むなって。脱出だけならちゃんとさせてやるからさ」
「でも、それじゃ……!」
「ショウくん、気持ちはわかるけど、こういうのは聖女様でも来ない限りは――」
「――そうか」
リーフくんがハッと顔を上げる。
なにかに気づいたみたいだ。
「馬鹿じゃねえか……! なんで忘れてたんだ俺……!」
「え、な、なに?」
リーフくんが、こちらに顔をずいと近づけた。
「聖女様だよ! 聖女様!」
「あ、アーネットが……?」
「そう! 聖女様が今日ここに来るんだった!」
リーフくんが瞳をキラキラさせながら、ありがとうと僕たちの手を振り回す。
「く、くわしく説明してくれないかな?」
「あ、すまない。……今日な、聖女アーネット様がこの屋敷にお越しで、今は客間で待ってもらっているはずなんだ。猊下のほうがすがりついてなんとか招待できたらしいんだけど」
「……そうか! アーネットにこの件を伝えられれば……!」
「そう! 聖女様は慈悲深いお方だ、無下にはしないだろう」
「ハハ、たしかにアーネットは優しいからね、ちゃんと聞いてくれそう」
「だろ!?」
さっそく他の奴らにも伝えねえと!
リーフくんが意気揚々とドアを開ける。
「……あ、リーフくん」
「ん? なんだ?」
「それには協力したいんだけど、どうやったら客間まで行けるの?」
そう、客間に行くためには、この場所から出ないといけない。
けれども、僕たちはこの屋敷をまったく理解していないのだ。
「ああ、あの階段を下に降りて、真っすぐ進んだ後、右に曲がったら客間だ」
「……ってことは、あの警備を潜り抜けないといけないってこと……!?」
「安心しろ」
「え?」
「実はな、この屋敷には秘密の抜け道があるんだ」
そこを案内してやるよ。
リーフくんはそう言ってニッと快活な笑みを浮かべた。
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