助けられたんですが

 扉の向こう側は通路につながっていた。

 通路はまっすぐと続いていて、向こう側には階段がある。

 左側の壁にはいくつも扉がついていた。細かい内容まではわからないけれど、部屋はかなり狭そうだ。

 壁はかなりボロボロになっているけれど、一応使われてはいるみたいで、床も扉も綺麗に掃除されていた。

 警備の人はいない。人がいるような音もあまりしないけど、この様子でいないほうがおかしいだろう。


「……警戒はしておいたほうが良いだろうな」

「うん、そうだね」


 ジョシュアくんの言葉に僕はうなずく。

 警備は見当たらないとはいえ、部屋の中がどうなってるかなんてわからない。

 できる限り気取られずに行動したほうがよさそうだ。


「それじゃあ、できるだけ慎重に」


 ふたりがこくりとうなずいた。

 その様子をしっかり見届けたあと、そろりそろりと通路を進んでいく。

 床も古くなっているのか、気をつけないとすぐに音が鳴ってしまう。

 ――これは、大丈夫なのかな……。


「――あっ!」


 ジョシュアくんが叫ぼうとして、必死に口を閉じた。

 どうやら失敗してしまったようで、ギシリ、と床のきしむ音がする。

 ――これは仕方ない。問題はどう脱出するかだけど……。


「……なんだ?」


 通路の奥から籠った声が聞こえる。

 どうやらいないと思っていた警備の人は、通路の向こう側で立っていただけみたいだ。

 それだけじゃなく、扉の向こう側でもざわざわと音がしはじめて、とうとう扉が開いてしまった。

 まずい――!


「一体なにが……?」


 部屋の中から、ひとりの男の子が顔を出した。

 彼はぼんやりとした眼で周囲を見渡す。

 ――早く逃げなきゃ……!


「ふたりとも! はやく――!」

「いや、大丈夫だ」


 逃げようと急かす僕を、ジョシュアくんが止める。


「そんなこと言ってる場合じゃ――」

「……ジョシュア?」


 男の子が、そうつぶやいた。


「……とりあえず、ここに来て」


 監視がすぐに来るから。

 焦った男の子に案内されるまま、僕たちは彼の部屋へと入っていった。

 思っていた通り部屋は狭くて、4人も入ると身動きが取れなくなってしまうほどだ。

 そんな中に大きなクローゼットと豪華な鏡台があって、部屋の中で異質な存在感を放っている。

 僕たちは彼にクローゼットへと押し込まれ、そこでしずかにしているようにと言われた。

 ――ドタドタと、荒っぽい足音がする。

 そしてこの部屋の前で止まると、バタンと大きな音を立てて扉が開かれた。


「おい! なにか物音がしなかったか!?」

「いえ、とくには。鼠かなにかじゃないでしょうか」

「……嘘をついてるんじゃないだろうな」

「なぜつく必要があるのですか?」

「……チッ」


 警備は大きく舌打ちをすると、これまたバタンと大きな音を立てて扉を閉めた。

 ダンダンと足音を立てながら、警備が遠のいていく。


「……もう大丈夫だ」


 男の子がクローゼットの扉を開けるのと同時に、ジョシュアくんが口を開いた。


「……お前、ここにいたんだな」

「うん。色々あってね」


 男の子が言いづらそうにする。

 ――まあ、あの部屋の様子を見るに、言うに言えないだろうな。


「……ジョシュアくん、その人は?」

「ああ、紹介が遅れたな」


 ジョシュアくんはそこでいったん言葉を区切って、それから続けて言った。


「こいつの名前はリーフ、俺と一緒にあそこへ放り込まれた人間だ」


 よろしくね、とリーフくんは軽く手を振った。

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