とりあえず行ってみることにしたんですが
結論から言うと、僕は猊下からの依頼を受けることにした。
アンさんの言う通り、この依頼が怪しいのは確かなのだけど、本当に盗賊がいるなら放っておけないからだ。
彼女にそう伝えると「仕方ありませんね」と困った顔をされてしまった。
その表情になんとなく罪悪感を覚えながら、賊がいるという洞窟までやって来たんだけど……。
「……わざわざ一緒に来なくてもよかったのに」
「監視のためにいるんだよ? 一緒にいなかったらなんのためにいるのさ」
一緒についてきたミシェは、そう言って呆れたようにため息をついた。
「う……そ、それはわかってるけどさぁ……」
「だったらそんな必死に止めようとしないの。ほら、早く行くよ?」
そして僕は、ミシェに手を取られて洞窟へと入っていった……。
洞窟の中は薄暗く、いくつかのたいまつが置かれていた。
複数の足跡もあって、人の行き来が頻繁にあるのがすぐにわかる。
「盗賊かどうかはともかくとして、誰かが歩いているのは確かみたいだね」
「そうだね。……ミシェ、足音を立てちゃだめだよ、バレちゃうから」
「わかった」
抜き足差し足忍び足。
盗賊やモンスターの多くは、こういった暗い洞窟に潜んでいることが多い。
モンスターの中には聴力に優れたものもいるし、そうでなくても暗い洞窟の中で位置を悟られるのはまずい。
だから足音を消して歩くのは、冒険者にとって必須の技能なのだ。
どうやらこの洞窟はかなり複雑な地形をしているみたいで、まるで教会の中みたいに、無数の柱が地面と天井をつないでいる。
こういった死角の多い地形では、敵が隠れていないかいつも以上に気をつけないといけない。
迷わないように、持ち込んだナイフで柱にマークをつけながら進んでいく。
「……バレないの?」
ミシェが不安そうに聞いてくる。
あのマークについて言っているのだろう。
「大丈夫。あれは僕しか意味をしらないマークだからね。もしバレたとしても、それがなにを示しているかなんて相手はわからないよ」
そうやってミシェをなだめながら、慎重に、でも大胆に洞窟を進む。
洞窟が深くなるにつれて、たいまつの数も増えていく。
壁の様子も変わりはじめて、段々とナイフや剣だとかの武器が飾られるようになっていった。
「……ミシェ、そろそろ着くよ」
「了解」
今までよりもさらに慎重に、慎重に進んでいく。
これだけ音が響きそうな場所だと、石につまずくだけでもバレてしまうかもしれないので、僕たちは地面を見ながらゆっくりゆっくりと歩いていった。
地面には今まで以上に大量の足跡があって、どれがどれだかわからないほどだ。
――ふと、ミシェが足跡を見て、なにかに気づいたようなそぶりを見せた。
気づいてはいけないものに気づいてしまったかのように、口をはくはくとさせている。
「ね、ねえ、ショウくん」
「なに?」
「これ、もしかしたら枢機卿猊下の――」
ふっと、周囲のたいまつが消えた。
「い、いきなりなに!?」
「ミシェ落ち着いて! ここはいったん――」
――いきなり身体の自由が効かなくなって、顔になにか布のようなものが当てられる。
そこから嫌な臭いがして、僕の意識は闇の中へと消えていった。
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