捕まっちゃったんですが
「うぅん……」
ぴと、ぴとという水音を聞きながら、僕は目覚めた。
――頭が痛い。物理的なものが原因というより、薬を使われたような痛みだ。
たぶん、あの布の中に催眠効果のある毒がしみ込んでいたのだろう。
ミシェの気配はない。
あのときの様子を考えると逃げられたとも思えないので、たぶん別の部屋で捕まっているんだろう。
「まさか不意打ちを食らうとはね……」
ほとんど雑用係だったとはいえ、一応それなりに冒険者をしてきたのに、我ながら情けない。
……でも、自分を責めるのはまだ先だ。
まずは、ミシェを探しだしてここから脱出しないと。
「えっと……」
最初に周囲を見回してみる。
辺りはさっきの洞窟と同じかそれ以上に薄暗くて、天井からつるされたランプがうすぼんやりと周りを照らしている。
僕がいまいる場所は石レンガでできていて、あちらこちらに緑色の何かがへばりついているみたいだ。
たぶんコケかなにかだろう。
目の前には大きな檻がとりつけられていて、そのまま出ることはできなさそうだ。
出窓みたいなものもどこにも見つからない。地下牢かなにかだろうか。
ひと気はない。
理由はわからないけど、見張りはいないみたいだ。
「それと……」
次に自分の身体を見てみる。
荷物なんかは没収されてしまったけど、服装はそのままみたいだ。
身体にはゴーレムの欠片でできた、ものすごく頑丈な手枷と足枷が取り付けられている。
鎖は部屋の壁に取り付けられていて、一定以上の距離を歩けないようにしているみたいだ。
これは重罪人を捕まえるときによく使われるやつで、たとえ大砲がぶつかっても壊れないって評判なんだけど……。
「えい」
力を入れて腕を前に引っ張ると、手枷はあっさりと砕けてしまった。
同じ要領で足にも力を入れると、同じようにボロボロと崩れていく。
――あれ、これはもしかして。
「よ……っと」
……できちゃった。
手枷足枷が壊せるならと、目の前の檻を引っ張ってみたのだけど、まるで飴細工のようにあっけなくねじ曲がってしまったのだ。
――うん。もしかしたらできるかもなとは思っていた。思っていたけれど……。
「まさか本当にできちゃうなんて……」
本気で力を入れたら、一体どれくらいのものが壊せちゃうんだろう。
僕は自分の力がとたんに恐ろしくなって、ブルリと大きく身震いした。
檻を出て廊下を歩く。
人の気配がしない不気味な空間に、コツコツコツと靴の音だけが響く。
――ふと、遠くから声のようなものが聞こえた。
ただの幻聴か、それとも本当に人の声なのか、耳をすませて聞いてみる。
「…………ョウ……ん」
――やっぱり。
間違いない、これはミシェの声だ……!
声を聞いた感じだと、上のほうからしたような感じはしない。
反響してしまっているのである程度場所がわかりづらくなってしまっているけど、それでも同じ階にいるのは間違いないはずだ。
声の位置を頼りに、彼がいる場所を探り当てる。
――いた。
「ショウくん!」
僕を見つけたミシェが喜びの声を上げる。
女の子だと勘違いされたのか、彼は褐色肌の少女と牢屋に入れられていた。
女の子のほうは白い髪を肩のあたりまで伸ばしていて、そこから長くとがった耳が飛び出ている。
どうやらダークエルフの子みたいだ。
――じゃなくて、早く助けないと。
「ミシェ、それとそこのあなた! ちょっと離れてください!」
僕がそう叫ぶと、ふたりとも素直に後ろに引いてくれた。
そしてさっきみたいに檻に手を入れると、思いっきり力を入れて引っ張る。
「……おい、そんなことをしても無駄――」
僕の力を受けて、ふたりを閉じ込めていた檻がまるで粘土みたいに歪む。
僕を止めようとしたダークエルフの子が、信じられないといわんばかりに目を丸くしたのがわかった。
でも今は彼女に説明している場合じゃない。
「ミシェ、それとそこの、えっと……」
「……ジョシュアだ」
「ありがとうございます。ジョシュアさん、ちょっと待っててくださいね、すぐにそれをはずしますから」
そう言いながら、彼らの手と足につけられていた枷をはずす。
今度は力づくだと怪我しちゃうかもしれないから、枷の構造をうまく利用してはずせるよう、慎重に。
――よし、できた。
「ふたりとも、もう大丈夫ですよ」
ガチャン、と重々しい音を立てて地面に落ちた手枷と足枷を見て、信じられないといった様子でこちらを見る2人。
しばらくの間、ただただぽかんと口を開けていたけれど、すぐ喜びに満ちた表情へと変化した。
「ありがとうショウくん! もうダメなんじゃないかと……!」
「どういたしまして。それじゃあすぐに脱出――」
「――おい」
僕たちを遠目で見ていた女の子が、こちらに話しかける。
「なんですか?」
「お前たち、ここから脱出するつもりなのか?」
「はい。そうですけど……」
「そうか。そうなのか……」
僕の言葉を受けて、彼女はなにかをつぶやきはじめた。
細かい内容までは聞き取れないけど、「これなら」とか「やっと」とか、そんなことを言っているのはわかる。
しばらくそんな様子で下を向いていたのだけど、やがて顔を上げ、僕の目をしっかりと見ながら言った。
「……お願いだ、オレも連れて行ってくれないか」
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