怪しい依頼がやってきたんですが
「……キョウ枢機卿猊下からの依頼?」
「はい。あなたのスキルを見込んで是非、と」
アンさんに連れられた僕たちは、ギルドの奥にある依頼室で、アンさんから話を聞いていた。
ちなみに依頼室というのは文字通り依頼をするための部屋だ。
大体は依頼主から話を聞いたり、報酬をどれくらいにしたいかを聞くために使われているらしいのだけど、たまに冒険者が使うこともある。
偉い人が名指しで依頼してきたり、特殊依頼が来たときだ。
そういった依頼は大体秘密にしておく必要があるので、具体的な依頼内容がバレないように、この依頼室が使われたりする。……らしい。
らしいというのは、僕が実際に依頼室で依頼を受けたことがないからだ。
黎明の聖女としてそういった依頼を受けること自体はあったのだけど、ガフとブレイは僕に来てほしくなさそうだったし、アーネットも「あなたにはあのような場はふさわしくありませんよ」なんて言って入れてくれなかった。
だからこれは、僕にとってはじめての経験だったりする。
「どんな依頼なんですか?」
アンさんに聞いてみると、彼女は露骨に言いづらそうな顔をした。
……もしかして、きなくさい感じ?
「……とある洞窟に族が出たから、彼らを退治、あるいは捕縛してほしい。それが猊下からの依頼です」
「……なるほど」
アンさんの答えを聞いて理解した。
これは確かになにか裏がありそうな案件だ。
「……ええと」
ミシェが恥ずかしそうに手を上げる。
「なんですか? ミシェルさん」
「なんとなく怪しいのはわかるんだけど、具体的にどう怪しいのかがいまいち掴めなくて……教えてもらってもいいかな?」
ミシェはそういうと、頬を赤く染めた。
……なるほど、ミシェは教会の人で、冒険者として活動していたわけじゃない。
昔から頭は良かったし、今も違和感は感じているけれど、あと一歩足りないんだろう。
――そうだな。まずは……
「……まず、ギルドに出される依頼には2種類のものがあるんだ」
「2種類?」
ミシェが不思議そうに首をかしげる。
……アンさんがそれを見て「ヒッ」と奇声を上げていたのは、きっと気のせいだろう。
正直に言うと、ものすごーく気になるけれど、今は無視することにする。
「そう。ひとつ目は「通常依頼」と呼ばれるもの。ギルドの掲示板にいっぱい張り紙があったでしょ? ああいうもののことだよ」
「ああ、それなら何度か教会の人が依頼してるのを見たよ。ああいうののことなんだね」
「うん。薬草の採取だったり、モンスターの討伐だったり、はたまたお使いだったり……とにかくいろんなのが通常依頼に入っているね」
ここまではわかった? と聞くと、ミシェはこくりとうなずいた。
うん。これなら大丈夫そうだ。
「そしてもうひとつが「特殊依頼」。今回の依頼もその内に入るね」
「なるほど、特殊依頼は通常依頼とどう違うの?」
「通常依頼と違うところは、とても重要性が高いってことだ。モンスター討伐の中でもドラゴンの討伐だったり、別の国だけど、内戦を止めてなんて依頼も来たことがあるらしい」
「そ、そんなのが……!?」
「そう。だから特殊依頼は基本的に守秘義務がある。そうでなくても秘密にしておかないと不都合なことがほとんどだね」
「な、なるほど……」
「それでね、なんで今回の依頼が怪しいのかというと、これが特殊依頼だからだ」
やっと本題に入れた。
ミシェはというと、急に言われたせいでよく混乱しているみたいだ。
「……えっと、なんで?」
「この依頼は特殊依頼としてあまりにも
「普通すぎる?」
「そう。こういう偉い人が個人的に依頼をしてくること自体はたまにあるんだけど、そういうのってものすごく重要な内容か、逆に屋敷の草むしりとかそんな内容なのが普通なんだよ」
「く、草むしり……?」
ミシェは驚いたみたいで目を丸くしている。
……うん。そこが気になるのはわかるんだけど、今回話したいのはそこじゃなくて。
「それらと比べると、族の退治という依頼内容はあまりにも普通なんだ。別に通常依頼でもいいくらいには」
「……なるほど。普通に通常依頼でもよさそうな内容なのに特殊依頼だから、なにか裏があるんじゃないかと思ってるってことだね」
「その通り」
ミシェは納得がいったみたいで、それまで入っていた肩の力がふっと抜けているのが見えた。
さて、ミシェにはちゃんと説明できたし、あとは……。
「……アンさんとしてはどう思いますか?」
「ギルドの職員としては、この依頼を受けるべきだと考えます。」
怪しいのは事実ですが、枢機卿とのコネはそれを補ってあまりある魅力ですから、とアンさんは付け加えた。
「ですよね。それなら個人的には?」
「……あまりおすすめはしませんね。猊下は慈善事業に力を入れている一方で、後ろ暗いうわさも多々あります。断ったほうが賢明かと」
どうされますか? とアンさんが聞いてくる。
僕は――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます