突然の来訪なんですが

 僕たちが朝ごはんを食べ終わるのとほとんど同時に、玄関の方向からコンコンとドアを叩く音がした。

 ――いったい誰なんだろう。


「……どうする?」


 僕はミシェにたずねた。

 僕自身はともかくとして、ミシェはあの法王台下の養子だ。

 彼の利用価値を狙って、なにかよからぬことを考える人だっていっぱいいるだろう。

 もし彼が誘拐されたりしないようにするためにも、用心するにこしたことはない。

 そう思って、さっきの言葉を口に出したのだけど――


「……まったく、ショウくんはいつもそう」


 ――ミシェから呆れたような目で見られてしまった。

 いわゆるジト目というやつだ。


「え、だってミシェは法王台下の養子でしょ? でも僕は、黎明の聖女に昔いただけの普通の人間だし……」

「特殊スキル」

「……あ」

「……ほら、すっかり忘れてたでしょ」


 ミシェがはあとため息をつく。

 実際に忘れていたので、反論しようにもすることができない。


「……はい。その通りです」

「よろしい。それでだ、今のキミはとっても珍しいスキルを持ってるわけ」


 ミシェがびし、と僕の顔を指さした。


「情報公開については深く教えてもらえなかったけど、偉い人の間にはもう届ききっているはず。キミのその力を狙って悪い人が来たっておかしくないんだよ?」


 それに、とミシェが言葉を続ける。


「そもそもボクはキミを監視するために来たのであって、キミに守られようとしてやって来たわけじゃないんだ」


 凛とした瞳でそう言われてしまって、僕はなにも言い返せなくなってしまった。

 別にそういうつもりじゃないと言うこともできるけど、きっと彼はそれでは納得してくれないだろう。

 だから僕は、


「……うん、わかった」


 そう口にすることしかできなかった。

 ミシェはまだ不満そうだったけど、「まあ、今はこんなもんでいいか」とつぶやいて、僕に


「それじゃあまた聞くね。ショウくんは出たほうが良いと思う?」


 と聞いてきた。

 ――僕か。

 僕の考えで言うならだけど……。


「……だったらいいんじゃないかな。急に僕たちをさらおうとする人がでるなんていうのも変な話だし」


 そう、僕たちはここに来てまだ1日目だ。

 確かにもう情報が届いているかもしれないけど、だからといってすぐに誘拐の計画を実行するなんてこともないだろう。


「そうだね。ほら、早く出ないと怒らせちゃうよ」


 ミシェにとってその答えは満足できるものだったみたいだ。

 にこにこと明るい笑顔で笑うと、そのまま僕の背中を押して、玄関まで連れてきた。


「さ、さっきと言ってることが違うじゃないか!」

「だってああ言わないと納得してくれそうになかったんだもん」

「そ、それは……」

「図星でしょ? ほら、早く開けようよ」

「うぅ……わ、わかったよ……」


 ミシェがなんだか意地悪だ。


 僕はしぶしぶ、ドアノブをゆっくりとまわす。

 そこには――


「……あ、おふたりとも起きていたんですね」


 依頼が届いたので、おふたりへ伝えに来ました。

 そう言いながらいつもみたいに微笑む、アンさんの姿があった。

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