はじめての朝なんですが
まさかの共同生活から一日が経って。
僕たちは孤児院にいたときと変わらないようで、実は少しだけ距離感のある、そんな微妙なラインを引いて夜を過ごした。
「ご飯できたよー」
目が覚めると、扉の向こうからミシェの声が聞こえてくる。
白い木枠で作られた窓から朝日が差し込んできて、これが夢じゃないのだとやっと理解した。
ちなみに寝室は2階のものを使っていて、それぞれ自分の部屋を持つようにしてある。
他にもいくつか使ってない客室が残っているのだけど、それらはどうしようか考え中だ。
最初は一緒に寝たいと言われたのだけど、ふたりともそれなりに成長したんだしと言って、なんとか個室を入手することに成功したのだ。
――本当の理由は、単純に距離の取り方を測りかねてるからだけど。
「ショウくーん」
ミシェが待ちかねたように声を上げたので、僕はおずおずとドアを開ける。
――そこには、ハートがあしらわれたフリフリのエプロンを付けた、ミシェの姿があった。
「おはよう!」
満面の笑みを浮かべながら、ミシェが抱き着こうとしてくる。
それを真正面から受けてしまった僕は、彼の妙に良い匂いに混乱しながら、1階のリビングへと引きずられていった……。
リビングの机には、色とりどりの料理が置かれていた。
木製の器に入れられたサラダ、そして同じく木製の器に入れられたスープ。
そしてその横には、ふっくらと焼き上げられたパンがひとつ、おしゃれな皿の上に置かれている。
「……これ、ミシェが作ったの?」
思った以上に凝った料理が出てきたので、僕は思わずミシェにたずねた。
ミシェは当然といわんばかりのドヤ顔で、深く深くうなずく。
「こんなに豪華な料理を作って……お金もかかったんじゃないの?」
そう、こんな料理を食べられるのなんて、普通は貴族とかそのくらいしかいないのだ。
孤児院では豆のスープとかが出てきたけど、それでさえ裕福とはいかないにしても十分食べられる人の食べ物だったし、冒険者になってからなんて、行き先で狩った動物を焼いただけのものを食べる、なんてこともザラにあった。
そんな食生活を送ってきた僕からすれば、幼馴染が作ってくれた目の前の料理は、豪華すぎて失神してしまいそうなレベルだ。
「……もう。ショウくんぐらい活躍した人だったら、みんなこれくらい食べてるよ?」
「いや、確かにお付き合いでこんなすごい料理を食べさせてもらったことはあるけどさ、自分で食べると思うとどうしてももったいない気がして……」
ショウくんは変わらないね、とミシェがあきれたように笑う。
「……ほら、早く食べて。せっかく作ったのに冷めちゃうよ?」
「え、あ、あったかいの!?」
「もちろん……ほら、早く早く」
いつの間にか食卓へとついていたミシェに急かされて、目の前の料理へと手を伸ばす。
ふっくらとしたパンは柔らかい食感で、噛むたびに甘みが口へと広がってくる。
スープには豆だけじゃなく、キャベツや色んな野菜が入っていたみたいで、それぞれの味が互いを邪魔せずに、口の中で複雑に絡み合う。
最後に、サラダへと手をつけてみる。
新鮮な野菜を使っているみたいで、噛むたびにシャキシャキと歯切れのいい音が響いた。
ドレッシングが入っているのだろうか、野菜の味だけじゃなく、甘じょっぱい味も同時に口の中へと広がるのを感じた。
――おいしい。
「これおいしいよ……!」
思わず身を乗り出してミシェに近づく。
褒められた当の本人は、僕がいきなり近づいたせいでびっくりしてしまったみたいで、椅子を後ろに引きながら、頬を赤く染めていた。
「そ、そうかな……ありがとう」
ミシェのいじらしい反応に、僕は微笑んで「どういたしまして」と返す。
こうして、どこかぎこちなかったふたりの仲を解きほぐしながら、はじめての朝は過ぎていくのだった……。
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