新しいおうちに辿り着いたんですが
「わぁ……」
立派なおうちに家事手伝い付き。
そんな考えもしなかった待遇にフリーズしていた僕を、アンさんが引きずるように中へと連れて行った。
――ここはリビングだろうか。
少し古い床材に、レモンのような色をした土で作られた壁。
カーペットはさわやかな水色をしていて、船とドラゴンのようなものが刺しゅうされている。
左手はキッチンへと続くようになっていて、右手の壁には大きく取り付けられた窓と、赤いレンガでできた暖炉の姿が。
奥のほうには小さい窓と、アンティーク調のドアが。
――あれは裏口になるんだろうか。
扉の左手には、優雅な手すりをつけた階段が伸びている。
見た目から薄々わかってはいたけれど、本当に2階があるみたいだ。
階段の反対側、つまり扉の左側は壁になっているけど、ちょこんと取っ手が飛び出ているのが見える。
多分、あそこがバスルーム兼トイレになるのだろう。
あまりにも豪華な内装に、僕は口をあんぐりと開けて驚くことしかできなかった。
「こちらがショウさんとミシェルさんのおふたりが住む家となります。……本当は、ショウさんの稼ぎや功績を逆算すれば城ひとつ買うこともできたのですが」
「さ、さすがにそれは……」
恥ずかしいし、住むのにも一苦労しそうだし……。
それについてはアンさんも同じ気持ちだったみたいで、大きくうなずいてくれた。
「はい。居住性、それと交通の利便性を考えて、こちらの家を選ばせていただきました」
お気に召されましたか、とアンさんが質問してくる。
「うーん……とても素敵なおうちなんですけど、僕には――」
――そう断ろうとして、止めた。
アンさんの瞳の奥に、なにかすさまじい熱気のようなものを感じ取ったからだ。
――これを断ったら、次はもっと豪華な家を紹介される。
不思議とそういった予感がしてしまったので、僕は言いたいことをすべて飲み込んで、首を縦に振ることを決めた。
「……そうですか。それは良かった」
アンさんが安心したように息をほっと吐く。
――どうやらこれ以上派手な家に住まなくて済むみたいだ。
「それでは私はここで失礼しますね」
なにか困ったことがあったらすぐに連絡してください。
そう言い残して、彼女は去っていった。
「……ねえ、ショウくん」
「なんだい?」
しばらくの間、彼女の帰りを見守っていると、ミシェがもじもじした様子で僕の服を引っ張ってきた。
なにか言いたげな様子だ。
「……そういえば言ってなかったね。なんで教会に行ったのか」
――確かにそうだ。
法王台下の養子になっただとか、そういったパンチのある話に囚われて肝心のことを聞き忘れていた。
「……ねえ、ボクね、ショウくんとずっと一緒にいたいんだ」
――かと思った次の瞬間、また新しい爆弾が投下された。
「……な、なんかその言い方だとプロポーズみたいに聞こえるよ……?」
「そう受け取ってくれてもいいよ」
ミシェが頬を赤く染めながらつぶやくので、僕は余計に混乱してしまった。
――え? 彼が? 僕を?
「……ショウくんは孤児院を出たあと、A級パーティーのメンバーになっちゃったでしょ? あのときさびしかったんだ」
ずっと一緒にいてくれると思ってた人が、遠いところにいっちゃったみたいで。
ミシェはほんとうにさびしそうな声色で、あのころのことを語った。
「……ごめん」
「もう、そこは別にいいんだよ? 怒ってないから」
「で、でも……!」
「ボクがいいんだからいいの。……それでね、あのとき思ったんだ。『ボクがA級パーティーと同じくらいすごい人になったら、またショウくんといれるんじゃないか』って」
ミシェは恥ずかしそうに頬をかく。
――ってことは……。
「……もしかして、僕のために……?」
「そう。ショウくんと一緒にいるために、教会に入ったんだ」
まさかこんなに速く会えるなんて思ってなかったけど。
ミシェはそう言って、僕の目をじっと見た。
「それで」
「え?」
「それで、ショウくんの答えはどうなの?」
ミシェの透き通った瞳に、僕の真っ赤な顔が映る。
そう、僕は今、顔を真っ赤にしているのだ。
正直なことを言うと、ミシェはとてもかわいい。
金色の髪が日の光に当たって輝く姿は神秘的だし、青空のような色をした瞳には思わず吸い込まれてしまいそうだ。
――けれど彼は男だし、そもそもそれ以前にもっと小さいころから見てきた幼馴染だし――!
「そ、そういうのはまだ早いんじゃないかなって……」
「……もう」
ミシェが頬を膨らませる。
――もしかして、やっちゃったかな?
冷や汗をかいた僕だったけど、ミシェははああぁと長いため息を吐いたあと、仕方ないなあと笑った。
――なんとかなった、のかな?
「今回は許してあげる。……けど、次は絶対にボクのこと、好きにさせてみせるからね」
覚悟してよ。
そういいながら不敵に笑う彼の表情は、とても年下とは思えない、肉食獣のようなものだった。
――どうやらうやむやにはしてくれないみたいだ。
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