衝撃の結果なんですが

「あ、あの」


 僕の声がいやに響き渡る。


「僕が持っている……本当に持っているとも思えないんですが……その、スキルって、そんなに危険なものなんですか?」

「おや、彼になんの説明もしていなかったのですか?」


 アマリア殿下がマキナさんにそう問いかける。

 少し声が弾んでいて、この状況を楽しんでいるのは明らかだ。


「…………」


 マキナさんはというと、腕を組んで黙ったままでいる。

 何か深く考え込んでしまっているみたいだ。

 ……そんなに考えなければいけないようなものなんだろうか、僕のスキルって。


「……そうだね」


 何時間も経ったと錯覚してしまうような沈黙が流れたあと、マキナさんが重々しく口を開いた。


「ショウ、君が持っているスキルは、おそらく『特殊スキル』と呼ばれるものだ」

「はい、他のひとも言ってましたけど、それって……」

「『特殊スキル』は、文字通り特殊な発動条件を持ったスキルのことだ」


 基本的には弱いスキルとしてみなされることが多いが、スキルなしと判断されることも決してめずらしいわけじゃない。

 マキナさんはそう語った。


「だとして、なんでこんなすごい人たちを?」

「……発動条件が、あまりにも危険だからだ」


 たとえば。

 マキナさんがそう続ける。


「モンスターを一定以上倒した場合、味方を傷つけた場合、……友好的な人間を、殺した場合」


 ――背筋がゾクリとした。

 僕の中にひそむスキルは、もしかしたら誰かを殺したことで発動してしまったかもしれないのだ。

 ……もちろんそんなことをした覚えはない。

 けど、彼らが懸念しているのが、そういうことであるのは間違いなかった。


「それだけじゃない。スキルを発動した者の中には、凶暴になったり、殺人衝動が生まれてしまうようなことも少なくない」


 彼らによって、ひとつの村が滅ぼされてしまったことすらあるんだよ。

 マキナさんは、悲しそうにそう言った。


「……もちろん、特殊スキルを持っていても、それから普通に過ごした人だっている。今回彼らに集まってもらったのは、君への対応を決めるためだね」


 マキナさんは軽く息を吐くと、僕を安心させるために微笑んだ――ような気がした。

 ……本当に対応を求めるためなら、ここに来てもらう必要はないはずだ。

 なのにここへとやって来たのは、きっと万が一のためなのだろう。

 もし僕が彼らを傷つけようとしたとき、迅速に牢屋へと送るために。

 ……あるいは、処刑するために。


 ――黎明の聖女のみんなを思い浮かべる。

 結局パーティーをクビになってしまったけど、彼女たちのおかげで僕はここまでやってこれた。

 ギルドの人たちのことを思い浮かべる。

 彼らはずっとよくしてくれた。

 どんなに落ち込んでいても、悲しんでいても、彼らはそっと傍にいて、僕を励ましてくれた。

 もし、僕が彼らを傷つけてしまうようなことがあったら……。


「……わかりました。スキルを鑑定しましょう」


 自分でも驚くくらい、するりとその言葉が出た。

 ――そうだ。彼らを傷つけるくらいなら、死んだほうがマシだ。

 だからもう、僕に迷いはなかった。


「……そうか」


 マキナさんが悲しそうにつぶやく。

 でも、僕は彼も傷つけたくはないのだ。

 ……だからこそ、覚悟はゆらがない。


「……お願いします」


 魔法陣に、ぼうっと光がともりだす。

 スキルの確認ができるようになった証だ。

 僕はまっすぐに、その魔法陣のまん中へと向かった。



 魔法陣の中は暖かくて、まるでなにかに包まれているようだった。

 意識を集中させるため、目をゆっくりと閉じる。

 一拍ほど置いて、身体の中に、なにかが入り込んでくるような感覚を感じた。

 昔と同じ、スキル鑑定の感触だ。

 ――あの時は、くすぐったくてちょっと笑っちゃったんだっけ。

 鑑定員の困った顔を思い出して、声もなく少し笑ってしまった。

 ……命がかかっているというのに、心の中は軽い。

 彼らのために動けたのだと、僕は心の底から幸せな気持ちで、スキルの鑑定を終えた。


「……」


 ゆっくりと、今度は目を開ける。

 周囲の人たちは困惑した様子で、僕の頭上、スキルの詳細が映し出される画面を見ていた。

 ――さっきと空気が違う。

 今までは、どこか殺気だった、シリアスな空気だったはずだ。

 なのに今は、とてつもなく気の抜けた空気になっている。


「……あ、あの、なにか問題でも……?」


 あまりの温度差に耐え切れなくなって、マキナさんに問いかけた。


「ああ、問題ないといえばないんだが……」


 マキナさんが言いよどむ。

 ――この結果だと、悪いことがあったわけではなさそうだけど……。

 どんな内容が書いていたのかがあまりにも気になって、僕は頭上へと視線を移した。

 ……移して、しまった。


 名:ショウ・ターロ

 スキル:プリマドンナ

 発動条件:女装


 ――女装?

 JOSOU?

 確かに今の僕は、服がないから仕方なく――


「……あ!」


 思ってもみなかった結論に、乾いた笑いが抑えきれない。

 そうか、そういうことだったのか。

 僕のスキルの発動条件は女装で。

 つまり、あの時服を着替えたから、発動したのか。


「……ハハ、ハ」


 アンさんとマキナさんが、同情の目で僕を見ている。

 気持ちはありがたいけど、今はそんな目で見ないでほしい。

 あとカナルさんとアマリア殿下、そんな興味深そうにしないで。

 それとキョウ猊下、なんですかその怖い目は。


 ――拝啓、アーネット様。

 そちらはお元気ですか。

 ブレイやガフとは仲良くやっているでしょうか。

 僕は、今さっきスキルを持っていることが判明しました。

 ……発動条件が女装らしいのですが、一体どうすればいいでしょうか。

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