すごい人たちが来たんですが

 扉から入ってきた人たちを見て、僕は驚きのあまり息を呑んだ。

 入ってくる人たちが、あまりにも大物揃いだったから。


「特殊なスキルの保持者が見受けられたと聞いたが」


 そう言いながら、立派な杖をついた男の人が入ってくる。

 僕たちが住む国、アルロス王国一の商人である、カナル・ゴウさんだ。

 このギルド『朝焼けの騎士団』にも、多くの出資をしているらしい。

 なにはともかく、本来だったらどれだけ頑張ったって会えなかったはずの人なのだ。


「あくまで可能性ではあるけど、確率は高いね」

「なるほど。拙速とも見られかねない召集スピードはそのためですか」


 調整に難儀しましたわ。

 長いスカートを上品につまみながら不敵にほほ笑む彼女はアマリア・アルロス殿下。

 このアルロス王国の第2王女だ。

 王位継承権は低いらしいけど、ものすごく優秀らしくて、もう色々な職務をしていると聞いている。

 街に出てくるのはもっぱら彼女で、それもあってか国民からの支持は厚い。

 基本的に王位継承権の低い人は他の国に嫁いでいってしまうのだけど、彼女はこのまま王国に骨をうずめるんじゃないか。

 そうまことしやかに噂されているくらいだ。


「まったく、我々にも都合というものがあるのだ、その辺りを考えてもらわなければ困るな」


 そう怒りながらキラキラした服を部下に持たせながら歩いてきた男の人はキョウ・カルヴァドス猊下。

 仲間の――とは言ってももう追放されちゃったから「元」仲間なんだけど――アーネットも属している、リース教の枢機卿だ。

 リース教はアルロス王国の国教に指定されている宗教で、その影響力には計り知れないものがある。

 昔はリース教の法王が国王よりも偉い時代もあったんだとか。

 現代では政治的なことにはあまりかかわらず、孤児院だとか慈善事業に手を出したり、芸術家のパトロンみたいなことをしている。

 けれど影響力がなくなったわけじゃなくて、キョウ猊下は政治についても積極的に意見を出していることで有名だ。

 最近は教育にも力を入れているそうで、才能のある子どもを無償で寮に住まわせて、日々色んなことを教えているらしい。

 ……まあ、ちょっと黒いうわさを聞く人でもあるけど。


「……さて、件のスキル保持者はそこのおなごか」


 カナルさんが僕を見て、そうつぶやく。

 ……言われてみると、まだ僕は女の人のかっこうをしたままだった。

 だとしても、女の子に間違われるのはちょっとわからないけど。


「ああそうだった、説明がまだだったね」


 マキナさんが納得したようにうなずくと、言葉を続けた。


「勘違いされても仕方ないが、彼は男なんだ」


 判明したのが今日だったから、その服を着たままでいてもらっている。

 マキナさんがそう説明すると、カナルさんは少し驚いた様子で「ほう」と漏らした。


「つまり、その服装はそやつの趣味というわけか?」

「そういう訳でもないんだ。かつてはとあるチームにいたんだけど、そこを追い出されてしまってね……」

「……ああ、ショウ・ターロか。うわさには聞いていたが、まさか本当に捨てられているとはな」


 優秀な若者だというのにもったいない。

 そういいながらカナルさんは僕を凝視する。

 まるでなにかを観察するように。


「カナルさま、小さな子をそういう目で見るものではありませんよ」


 アマリア殿下がクスクスと笑いながらカナルさんを静止する。


「まさか、俺はあくまでそやつのポテンシャルを見極めていただけだ」

「でも、商品の広告塔にだとか、そういったことは頭にあったでしょう?」

「まあな」

「やっぱりダメじゃないですか。……まあ、わからなくもありませんが」


 私が男であれば思わず求婚していたでしょうし、とアマリア殿下。

 ……そんなに女の子に見えるんだろうか。

 最後のひとりであるキョウ猊下はというと、血走った目で僕を見ていた。

 心の奥底まで見ようとするような、そんな目で。

 思わず背筋がゾッとして、僕は彼と反対の方向に視線をそらした。


「静粛に」


 マキナさんが手を軽くたたくと、全員の視線がそこに注がれる。

 彼は仮面の奥底に表情を隠しながら、こういった。


「改めて説明するが、今回特殊なスキル保持者と思われる少年が見つかった、そこのショウ・ターロだ」


 続いて、僕に全員の視線が僕に注がれる。

 5人の視線の圧と、彼らの身分の高さがオーバーラップしてしまって、僕は背筋を震わせながらピンと糸でつられたようにまっすぐ立っていた。


「特殊スキルは効果、発動条件共に危険なものが多い。また発動前はスキルなしと診断されたり、凶暴化などの副作用を持つようなことが多いのも特徴だ」


 マキナさんの説明を聞いて、一番驚いたのは僕だった。

 これだけの人が集まらないといけない「危険なもの」なんて、一体――


「今回のスキルは任務中に発動したらしい。同行していた者たちは無事でとくに異常な行動もなかったようだが、何かしらの事故が起こらなかったか、そして彼らがスキルの影響下にないかどうかの確認のため、今からスキル診断を行う」


 異論があるものはいるか。

 マキナさんのその言葉に、声を上げる人は誰ひとりとしていなかった。

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