空気が重たいんですが
連絡のために、としばらく後ろに引っ込んだあと、アンさんは戻ってきた。
その左手には鍵束が見えるので、どこかの部屋にいくのだろうということがわかる。
「それではこちらに」
アンさんに連れられるまま、僕はギルドの廊下を歩いていく。
見慣れたギルドの廊下をコツコツと歩くと、やがてスキルを鑑定する部屋の扉が見えた。
でもアンさんはそこを通り抜けて、さらに奥へと進んでいく。
「あの、あそこのじゃだめなんですか?」
「はい。今回のものはかなり特殊なので」
疑問に思って質問をしてみると、アンさんは硬い口調でそう返した。
その声色はどこか緊張感のある空気をまとっていて、僕は思わず黙り込んでしまう。
そして静かなまま歩き続けると、アンさんがとある扉の前で立ち止まった。
ワンテンポ遅れて、僕も足を止める。
そこには複雑な彫りが入れられていて、どこか神々しい雰囲気を醸し出している。
――ここが目的の部屋みたいだ。
「失礼します」
「し、失礼します……」
――嫌だなあ。
アンさんのピリピリした顔つきを見て、僕は率直にそう思う。
とはいえ泣き言を言ってはいられない。
僕は大きく深呼吸をしたあと、その複雑な彫りが入れられた綺麗なドアをガチャリと開けた。
――すごい。
部屋を一目見た感想は、そんな感じのものだった。
まるで部屋をリボンで巻いたかのように、薄く延ばされた金が床から壁、そして天井までをぐるりと一周していて、しかもそれがふたつみっつとある。
そこには所狭しと呪文が書かれていて、記憶の奥底にある知識から、その呪文の内容は強力なバリアであることがわかった。
部屋の大きさはちょっとした広場くらいあって、その真ん中に魔法陣が書かれている。
スキルを鑑定するために使われているものだ。
けど、それとはちょっと仕様が違うのか、魔法陣がそうそう壊されないように、手間のかかったものになっている。
それだけではなく、この部屋に危害を加えようとした場合、拘束を行うという内容付きだ。
――まるで、危険なものを確認するためのものみたいな――
「……ショウ」
部屋にいたマキナさんから声をかけられる。
「はい」
その声がいつもより硬く聞こえて、僕もつられて堅苦しく答えた。
マキナさんは、僕を3人くらい縦に積んだくらいの背丈をした男の人で、このギルドのマスターだ。
いつも仮面を被っていて、その表情をうかがい知ることができない。
だけど、その分ギルドメンバーにはやさしく話しかけてくれる。
スキルを持たない僕のような人相手でも区別なく接してくれるので、とてもやさしい人だと誰もが知っていた。
「しばらくしたら呼んだ人たちが入ってくるから、それまで待っていて」
そう語るマキナさんはどこまでも冷静で、でも言葉の間から彼が悲しく思っていることが見て取れた。
――僕のこれは、それほどまでに喜ばしくないものなのだろうか。
僕が思考の海へと船を漕ごうとしていたとき――
「……お待ちいたしておりました」
ガチャリと、扉のゆっくりと開かれる音が聞こえた。
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