新しい子の護衛をすることになったんですが

 ギルドに女の子の格好で行った次の日。

 僕は再び、ギルドの戸を叩いていた。


「ま、またその格好でいてくれるんですか……!?」

「はい、前の服も洗ったんですけど、変な臭いが付いちゃったみたいで。服を買うお金も今のところないから……ごめんなさい、こんな格好で来ちゃって」

「い、いえ! むしろごほ……ン゛ンッ!」

「だ、大丈夫ですか?」

「大丈夫です。少しむせただけですから」


 んっ、ともう一度咳払いして、アンさんはきりっと厳しい顔つきに変化した。

 ギルドの任務を伝える事務員としての顔だ。


「ショウ・ターロさん。あなたには今から、新人冒険者とパーティーを組んでスライム討伐をしてもらいます」

「スライム、討伐?」


 スライム討伐とは、新人冒険者にほとんど必ずといっていいほど充てられる任務だ。

 上位種は別として、基本的なスライムは弱く、簡単に倒せる相手だ。

 けれどもそれは優れた身体能力を持っているか、スライムの身体についての知識を持っている場合の話で。


「僕にそんな力はないですよ……?」

「スライムについての知識は一定以上でしょう?。かつてパーティーがスライムの群れに襲撃されたとき、あなただけで荷物を死守したと聞きましたよ」

「あ、あれは基本種のスライムが振動で周囲を探知するのを利用して、穴があるところに捨ててもいい武器を投げただけで……」

「それが素晴らしいのです。あの場は狭い洞窟であり、物理では間に合わず、範囲魔法では荷物が犠牲になる可能性があった。あなただけにしかできない方法だったのですよ」


 彼らは「魔法も使えない無能の姑息な手」だとか負け惜しみを言っていたようですけど。

 そう吐き捨てるアンさんに、僕は少し困ってしまう。

 確かに悲しかったけど、僕にとって、やはり彼女たちは仲間だからだ。

 そうしてなんともいえない表情でいると、アンさんは解せないとでもいったように顔をしかめた。


「……あなたをクビにして、あまつさえ資産さえ碌に与えずに放り投げた相手だというのに、ショウさんは怒らないのですね」

「だって、僕が力不足だっただけだから」

「百歩譲ってその意見を認めたとしても、急に追い出すような形でクビになったのなら、もっと怒ったっていいんじゃないですか?」

「……確かにクビにはなっちゃっいましたけど、恩人なのは変わりませんから」

「……まったくもう。これだからショウさんは」


 さて、とアンさんは手を軽く叩いた。


「これからショウさんにパーティーを組んでもらう子たちを呼んできます。しばらく待っていてください」


 そう言ってアンさんは、冒険者たちの群れの中へと消えていった。



「お待たせしました」


 そういって連れてこられたのは、僕とそう変わらない見た目の男女二人組。


「こちらの男性が格闘家の『ヤン・チャー』さん」

「すごい奴だって聞いているぜ。これからよろしくな!」

「そしてこちらの女性が錬金術師の『ラー・ネック』さんです」

「よ、よろしくお願いします……」


 中々キャラの濃いふたりだ。

 僕は彼らに軽く会釈をして、それから口を開いた。


「はじめまして、僕は『ショウ・ターロ』と言います。前は『黎明の聖女』で雑用係をしてました」


 もうクビになっちゃいましたけど……と付け加える。

 相手は後輩なのになぜかちょっと敬語になっちゃったけど、急に変えるのも変なのでそのままにする。

 冒険者になる人たちはこういうのを嫌うことも結構あるのだけど、ふたりはそうじゃなかったみたいでよかった。


「とはいえ、それ相応の力はあったということでしょう? 何ら恥じることはありません」

「そうそう! スキルはないって聞いたけど、それであんなにすごいパーティーに入れたなんてものすごいぞ!」


 実は昔、パーティーが俺の村に泊まったことがあったんだ!

 笑みを絶やすことなく励ましてくれる彼らは、きっととてもいい子たちなんだろう。

 ……よし、僕もがんばらなくちゃ。

 こんなに優しい彼らを死なせないためにも。


「……力はないけど、経験だけはあるのでなにか役に立てることもあると思う。ほんの少しの間だけど、よろしくお願いしますね」


 そう言って、僕はふたりと握手した。

 ……あ、そうだ。もうひとつ言っておかなきゃ。


「訳あって今はこんな格好をしていますけど、僕、本当は男なんです」


 日帰りになると思うのでそこまで心配することはないと思いますが……と彼らをちらと見る。

 ふたりは、口をあんぐりと開けて僕を見ていた。


「え……」

「……男?」

「はい。正真正銘男です」

「「……え」」

「え?」


「「えええーーーーーーーーーーーーー!!!???」」


 彼らの絶叫は、ギルド中に響き渡ったのだった。

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