ギルドに辿り着いたんですが

 パーティーをクビになったとしても、ギルドに所属していることは変わりない。

 とはいっても、クビになった身だ。

 まだ情報は届いていないだろうけど、どうしても足が震えてしまう。

 がたがたと震える手を抑えながら、僕はおそるおそる、ギルドのドアを開けた。


「ギルド『朝焼けの騎士団』へ……ヴエ゛ェっ!?」


 扉を開けた僕に挨拶しようとした案内嬢が、変な声をあげた。

 いつもは賑やかなギルドに似合わない沈黙が続く。

 ――ふと周りを見てみると、他に入っていた人たちも口をあんぐりと開けてこちらを見ていたみたいだ。

 ……替えの服がなかったとから仕方ないとはいえ、女の子の服はやっぱり変だったかな。


「か、かかかか、かわ……あれ?」


 受付嬢――アン・ナインさんが、ずり下がっていた眼鏡をクイと上げる。


「もしかして、ショウさんですか!?」

「ハ、ハハ……こんばんは」


 恥ずかしくなった僕は、にへらと困ったような笑みを浮かべた。



「――ええ!? それじゃ、あの三人はショウさんをクビに!?」

「ハハハ……はい、そうです」


 驚いた様子のアンさんに、気分が沈みながらもなんとか答える。

 やっぱりビックリするよね。パーティーをクビだなんて。


「一体なにを考えてるんですか……!? 戦闘以外は明らかにショウさんがいるから回っていたパーティーだったのに」


 生活は……いやそれ以前に装備をまともに整えられるか……とブツブツつぶやくアンさんに、いつも通りだなとすこし安心する。

 アンさんは、いや、ここのギルドの人はみんな僕を評価してくれた。

 戦う力が何もない僕が、曲がりなりにもAクラスパーティーになるような人達と一緒に冒険できたのも、全部彼らのおかげだ。

 ――そして、だからこそ申し訳ない気持ちになる。


「……アンさん」

「なんですか?」

「……ごめんなさい。パーティーをクビになって」

「……いいえ、謝罪するべきは私たちのほうです。ショウさん、力及ばず申し訳ありませんでした」

「……ううん、全部僕が弱かったからだよ」

「……まったくもう、ショウさんはいつもそう」


 アンさんはそう言って、困ったように僕の頭をなでた。


「いいですかショウさん、力は腕力だけではありません。頭の良さも、口が回ることも、人を良く見ることも、全部その人の力なんです」

「……うん」

「そしてショウさんは『黎明の聖女』でいかんなく力を発揮していきました。彼らは力こそあれどマナーがなっていなかったですから、あなたがいなければとっくに解散していたでしょう」


 そうだそうだ、とベテランの冒険者の人がやじを飛ばす。

 それだけ僕を買ってくれているのは、とても嬉しい。けど……。


「……そんなすごいことは別にしてないよ」

「……まずは、ショウさんに自信をつけさせる必要がありそうですね」


 また明日来てください。ショウさんにぴったりの依頼を探してきますからと、アンさんは笑った。

 彼女の笑みがとてもやわらかかったから、僕もつられて、笑った。



「そういえば、なんで女装してるんですか? いえ、似合ってますけど……」

「ああ、これね。パーティーから追い出されるときにトランクを渡されたんだけど、これだけが入っていたんだ。最初はいつもの服で来る予定だったんだけど、転んじゃって……」


 あまりにも恥ずかしすぎてえへへと笑うと、ギルドの空気がなんとも言えないものに変わる。

 ピリピリしたような、どこか浮かれたような空気に、僕はただ笑うしかないのであった……。

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