第63話 大将戦決着と4-Sとの戦い

「続きを始めましょうか。」


「ああ…。行くぞ!!」


 タケルはアークとの絶望的な実力差に勝てないということは分かっていたが、今出せる全力を全てぶつけることを決意した。


「はあああああ!!!!」


 タケルはアークに連続で斬りかかった。これが同年代の子であったのなら、6,7撃目程で決着がついているだろう。しかし、相手はアークであるので決着など付くはずもない。


 アークは全ての斬撃を受けるのではなく、避けられるのは避け、受け流せるのは受け流し、弾けるものは弾いていった。


【クレアブルム流刀術】を使うまでもなく、淡々と捌くこと約3分……。


「くっ…!剣術単体では無理か…!それなら…!〔火魔法〕――“ファイヤーランス”!!」


 タケルは一旦距離を取り、火の槍をアークに向けて放った。


 お…!来た来た!


《――あれをやるんですね?》


 うん、レギオンアント討伐作戦の時には上手く使えなかったあれをね…。


 アークは個人的に修行用亜空間内で修行していたとある能力を使ってみることにした。その能力とは――――


〔力学魔法〕――“力線改変りきせんかいへん”――“流星ながれぼし


 アークは片手を前方へ突き出して人差し指を立て、その指をクイッと上へと向けた。その途端、タケルが放ったファイヤーランスの軌道は真上へとねじ曲がった。


 そして掌を開くと、今度は力を込めて掌を握った。


 ――“星屑ほしくず


 真上へと軌道を変えたファイヤーランスはアークが掌を握ったと同時に弾けて消えた。


「な、なにが起きた…!?」


 タケルは自身の魔法が急に進行方向を変えて、弾けて消えてしまったことに理解が追いついていないようだ。そして、理解が追いついていないのは観客席でも同じだったようだ。


「魔法が、曲がった…!?」


「な、なんだ!?なにが起こったんだ!?」


「あのお面の子がなにかしたのよね…?」


「魔法が当たらないってことか…!?ヤバすぎるぞ!?」


 とりあえずアークが何かをしたということはアークの挙動を見て分かっているようだが、やはりどうして魔法の軌道が変わったのかというのは分からないようだ。


 この場でその原理を分かっているのはレギオンアント討伐作戦を共にした『光翼の癒し』の面々と、ヤマトくらいであろう。他の有力者やケンシンらはなんらかの魔法で軌道を変えさせたのだろうとしか分かっていなかったようだ。




「――そろそろ終わりにしますか…。最後はちょっとだけ本気出しますよ?」


「…ッ!そうか…。ならば、来い!!」


 アークはある程度の時間を稼いだしそろそろ終わりにしてもいいだろうと思い、そう声をかけた。タケル自身もアークが少し本気を出すと言ったので自分の負けが近付いていることを悟り、最後の瞬間へと意識を集中させる。


 歩刀混合術――“月下美人げっかびじん花摘はなつみ


月下美人げっかびじん”は身体の軸をブレさせずにスライドするようにして急速に移動する歩術で、これを使われた相手は目の前に瞬間移動されたように見えるのである。予備動作もないので、反撃するタイミングを掴むのは不可能なのだ。


 一瞬でタケルの目の前へと距離を詰めたアークは“花摘はなつみ”により器用にタケルの木剣を自身の持つ木刀で絡め取り、吹き飛ばした。


 そして、得物を失ったタケルの首元へ木刀を突き付けた。


「――これが、僕の少し本気です。…あはは。」


「―――――はははは。参ったな、これは。強すぎる。」


 あまりのアークの強さに笑いがこみ上げてきたタケルはお手上げ状態で降参した。


『『そ、それまで!!勝者、アーク!!』』



 ―――――――ワ、ワアァァァァァァァ……!!!!!!


 ジュウベエの宣言から数秒後、観客たちはようやく勝敗が決まったことを認識し、歓声を上げた。観客からしたら、アークが瞬間移動したと思ったら急に決着が付いてしまったといった感じだ。




 ケンシンとマイは―――


「うはー!あんなの使われたら堪ったもんじゃねェな!刀は手放さねェ自信はあるがそれでもさすがに危ういぜ?」


「魔法戦も強くて近接戦も強いなんて、味方にいたら頼もしすぎるわよね…。」




 クシンとコウメイは―――


「――あの魔法と刀術…。反則じゃないですかねぇ?」


「――ああ…。あの少年には弱点が見当たらない。これから仲良くしていきたいものだが……。大丈夫そうか?クシン殿。」


「ええ、それはもう。アークくんは基本物腰柔らかくて大人びていて優しい子ですから。こちらから敵対しなければ仲良くやっていけると思いますよ?」


「そ、そうか。それはよかった…。」




 ヤマトは―――


「うーむ…。あれは〔重力魔法〕かのぅ…?儂の知っている魔力の波動とは違かったんじゃが……。それならば〔重力魔法〕の上位に位置する魔法かのぅ…??」




『光翼の癒し』は―――


「さっすが私たちの弟ね!!完勝じゃない!!」


「レギオンアント討伐作戦の時に使ってた魔法かしら?あれを使われたらもうお終いよね…。」


「――俺、ガチで負けるのでは…?」




 マサカゲとアカネは―――


「ま、魔法の技術もヤバいじゃないか…!それに最後に見せたあの動きは、俺でも捌ききれんかもしれないぞ…!?」


「――あらあら…。ミカゲったら、本当にお手柄じゃない。はやく兄様に食事会を開いてもらわなきゃね。」




 それぞれがアークの実力を目の当たりにし、そのヤバさを認識してしまった。実際アークは実力の1割も見せていないのだが、それでもヤバすぎた。


 対戦相手のタケルも実力が高いことで有名だったのにも関わらず、それを完全に上回ってきたのだ。拮抗することもなかったので、それは驚くだろう。


「ありがとうございました。お世辞抜きにして、本当に強いと思いましたよ。」


「はは。そうか…。それは光栄だ。」


 アークは普段クラスメイトとよく模擬戦をしたり、観戦したりしているのでタケルの実力の高さは理解できていた。打ち合いの際も、的確に隙を突こうとしている箇所がいくつも見られていた。


 1つ上の学年ではあるが、剣術だけで言えばアークとクレア直々に修行を付けているジンより少し上のレベルであった。相当鍛えていることが分かるし、才能もかなりあることが感じられた。


 なので、アークはそうタケルに告げたのだった。言われたタケルも、試合前には見せなかった笑顔を作っており、嬉しそうだ。


「あっ、僕は【シンラ刀王術】の継承はしないですよ。僕には僕の流派があるので。」


「そ、そうなのか!?なんだ、てっきり国王様直々に指導して頂いているのではないかと思っていたのだが…。」


「あはは…。多分リュウシン様とユウシン様が継承するんだと思いますよ。」


「そうか…。――では、また食事会かなにかで会うだろう。またその時に話でもしよう。」


「食事会……?――あ、はい、まあよろしくお願いします、?」


 貴族の間には食事会と言われる定期的に行われている交流会的なものがある。アークが貴族となって約4ヶ月経ったが、その間にも4,5回程様々な会場で開催されている。


 アークはまだ1度も参加したことがなく、一応アーク宛に招待状は(大量に)送られているのだが、全てマイによってアークの元へ届かないようにされている。


 そもそもアークは食事会の存在など知らないのだ。そして、これから開催される食事会に強制的に参加させられることもまだ知らない。


 アークはなんだかよく分からずに返事をし、歓声が沸き起こる客席へ向けて手を振りながら皆の元へ帰って行った。


「完勝だ~。いえい。」


「アーク様お疲れ様です!!余裕の完勝でしたね!!」


「刀術はまあいいとして、あの魔法は僕らも知らないんだけど…。なんだい?あれ。」


「あの魔法は、なに??ねえ、なんなの???」


 サクラは素直に喜んでくれたのだが、ジンとツバキはアークが使った魔法について気になりすぎて賞賛も忘れて質問をぶつけている。


「え?あれは―――知ってどうするの?」


「私にも使えるかも知れないでしょう?だから教えなさいよ。」


「あれが魔力操作の技術の応用だったりしたら、僕も使ってみたいかな。」


「うーん…。結論から言うと、多分僕以外には使えないかな。あれは特殊魔法だからね。」


「そ、そうなの…。それで、なんて言う魔法なのよ?」


「それは――――秘密かな?ふふふ。」


「も、もう、なによ!」


 アークの〔力学魔法〕はこの世界でただ1人しか修得していない魔法だ。別に教えてもいいのだが、何かの拍子でその情報が洩れてしまうとなにが起こるのか分からない。そのため、敢えて茶化して秘密とした。


「まあ、その内教えてあげるさ。あ、あと魔力操作を極めていけば似たようなことができるから頑張ってね。」


「「「そうなの(ですか)(かい)!?」」」


「う、うん…。まあ、ちょっと魔法を逸らすとかだけど、それができる人は殆どいないから有効な手段になるはずだよ。まあ、まだまだ無理だと思うけどね…。」


 魔力操作を極めることが出来れば、相手が放った魔法を乗っ取ることが可能だ。ただ、その代わり大量の魔力が必要となり非効率なのだが。


 丁度いいのは少しだけ干渉して軌道を逸らさせたり、発動前に集めている魔力を拡散させ、発動を阻害したりすることだ。




 2-S vs 3-Sの対決は2-Sの圧勝で終わった。3-Sもレベルは例年に比べて高いのだが、今回は相手が悪かった。


 アークとクレア直々の指導を受けた3人は実力的にはそこら辺の冒険者並なのだ。この歳でそこまで行けるのは正直ヤバい。


 次の対戦は3-S vs 4-Sとなったようだ。元々の予定では2-S vs 4-Sだったのだが、恐らく2-Sと4-Sの対戦が本日の目玉となると運営側が考えたのだろう。その結果、3-Sの

 方が先にやることになったようだ。


 アークたちは特に見ていなくてもいいと思い、少し遅めの昼食を取りに食堂へと向かった。そこで手早く食事を済ませ、控え室へと戻ってきた。


 戻ってきた丁度の時、シオリがタケルをノックアウトさせたところだった。戦闘時間としては少し短めだったようだ。


 シオリがタケルの攻撃をのらりくらりと躱し続け、飽きた頃にボディーブローでワンパンだった。これには観客も国王夫妻もタケル本人も驚愕だった。


 特に驚いていたのは、シオリの父親であるケンシンと義母親であるマイだった。シオリは率先して訓練などを行わないような子だったのでそこまで戦闘力が高いといったことはなかったのだが、思っていた以上に強かった、いや、強くなったのが以外だったのだろう。


 シオリの強さに関してはポテンシャルが抜群に高かったのと、アークとクレアによる【クレアブルム流刀術】の歩術や足捌きなどを中心に叩き込んだことにより覚醒したのだ。


 シオリの実母は第3王妃のミーシャで、ミーシャは獣人族だ。獣人族の血を引いている彼女は身体能力がかなり高く、アークとクレアが教えたことをすぐに吸収するのでこの数ヶ月でかなり強くなった。


 修行メンバーの中で歩術を1番マスターしているのはシオリで間違いないだろう。




 3-S vs 4-Sは、4-Sの完勝だったようだ。先鋒戦、次鋒戦は相性が悪く、近接戦が得意な方が勝った。副将戦はお互い魔法戦も近接戦もできたが、こちらは総合的に4-Sの方がレベルが高かったために勝ったようだ。






 そうして、2-S vs 4-Sがとうとう始まった。


 先鋒戦はツバキvs虎人族のガル。次鋒戦はジンvs伯爵家のゲンタ。副将戦はサクラvs侯爵家のレーナだ。






『『これより、Sクラス対抗戦最終戦を始める!!先鋒戦、2-S 4位 ツバキ対、4-S 4位 ガル!!2人は中央へ!!』』


 ツバキとガルはそれぞれの待機場所から中央へと出てきた。ツバキは魔法戦でガルは近接戦が得意だ。相性的には圧倒的にガルの方は有利である。


「俺は相手が魔法使いだからとか言って手加減などしないぞ。」


「はっ。舐めてかかると足下掬われるわよ?」


 傍目から見て、勝敗の予想はかなり偏っているだろう。学年が2つも上であり、体格差もあり、戦闘スタイルの相性もあり、観客のほぼ全てはガルが勝つと予想しているようだ。




『『それでは先鋒戦、開始!!!』』


「速効で終わらせてもらう!はっ!」


「そう来るなんてチョロいものね!だったら面白い魔法見せてあげるわ!〔水魔法〕――“スチームブラスト”!そして、〔火魔法〕――“ファイヤーブラスト”!!」


 ――ドゴォォォォォォォォォ………!!!!!!!


「――ぶはッ…!」


 ツバキが2つの魔法を発動させた途端、真っ直ぐツバキへと突撃してきていたガルの目の前で爆発が起こった。ガルは迫り来る魔法を避けようと横に跳んだのだが、急に発生した爆発に巻き込まれてぶっ飛んだ。


 爆発の規模はかなり大きく、会場全体が揺れるほどだった。その威力はツバキ本人にも予想できていなかったのが問題であるのだが…。


「あ、あら…?ちょっと、やり過ぎたかしら…?」


 ツバキはこの疑似〔爆発魔法〕をアークに伝授してもらったのだが、威力を抑えたものを何度も挑戦してなんとか修得したのだ。……そう。威力を抑えたものを、だ。


 アークはこの魔法の威力の危険性を知っていたため、くれぐれも魔力の込めすぎには注意してと教えていたのだが、ツバキは試合特有の空気感につい魔力を込めすぎたようだ。


 ぶっ飛んでいったガルはと言うと、訓練場の内壁にぶつかるかというところで急に静止した。もし内壁に突っ込んでいたら恐らくガルは生死の境を彷徨っていただろう。


「――やれやれじゃのぅ…。儂の孫はとんでもない魔法を覚えてしまったようじゃわい……。」


 ガルを救ったのはこの学園の学園長であり、ツバキの祖父であるヤマトだ。観客席の方から〔空間魔法〕を使ったのだろう。さすがは【大賢者】の1人だ。


『『―――はっ?あっ、そ、そこまで!!しょ、勝者、ツバキ!!!』』




 先鋒戦の決着は、一瞬の内に着いてしまったのだった。

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