第64話 次鋒戦と副将戦その2
「―――ツバキには暫くは魔法教えないから。」
「そ、そんなぁ!!待ちなさいよ!!少しミスしちゃっただけじゃない!!」
「だめです~。そもそも人に向けて使わないって約束だったでしょ?それを破っちゃあ、ねぇ?」
「ぐっ…。ちょっと使ってみたくなっちゃったのよ…。でもあんなに威力が高くなるなんて思わなかったし…。」
アークはこの疑似〔爆発魔法〕は対魔物用に編み出したのだ。そして編み出した次の日くらいにツバキからなにか秘蔵の魔法を教えてほしいと言われたので、編み出した時の嬉しさからパパッと教えてしまったのだ。
「あれは魔物殲滅用に作ったというか、考えたものだから使っちゃダメって言ってたのに…。まぁ、もし教えるとしたら危険性のないものにするから。」
「むぅ…。まあしょうがないか…。私が悪いものね…。」
ツバキが放った疑似〔爆発魔法〕によって、訓練場の地面が抉れてしまったのと観客たちがプチパニックを起こしてしまったのとで今は小休憩となっている。
爆発を食らったガル本人はと言うと、王都1の医者の元へと緊急搬送されたそうだ。学院の医療担当の先生もそこそこ回復魔法だったり医療に関しての知識だったりが高いのだが、さすがにガルの状態が悪すぎて一流の医者に診せた方がいいと判断したようだ。
「――おい、あの魔法って、複合魔法ってやつなのか?」
「……いいえ、違うわね。あれは魔法同士をぶつけ合って威力を高めたり別の現象を発生させたりするものね。“ファイヤーブラスト”を放ったのは分かったけど、最初に放ったものは何だったのかしら…。〔水魔法〕っていうことしか分からなかったわ…。でも……。」
ケンシンは魔法にあまり詳しくなかったので、隣に座っているマイに先程の魔法について聞いていた。
マイは魔法の知識がかなりあるのである程度なにが起こったのか分かっているようだ。ただ、〔火魔法〕と〔水魔法〕は相反する属性であるので組み合わせると威力減衰が起こる、というのは通説なので、あの爆発は理解できないようだ。
疑似〔爆発魔法〕は、水蒸気爆発の原理を利用したものだ。水が非常に温度の高い物質又は火と接触することにより気化されて発生する爆発現象である。
アークはこの現象を【
それをツバキへと伝授したのである。
「あれは絶対アークくんの入れ知恵よね…。今度のパーティーの時に問い詰めなきゃいけないわね…。」
「ガハハ。程々にな。…ってそれより、魔法師団の奴らがツバキのところに詰めかけないかが心配だよな。…あいつらが。」
「ふふ。お父様に見つかったら消し炭にされそうよね。あの子たち、せめて起こる未来を予想してから行動してほしいわ。」
ツバキが発動した魔法は〔火魔法〕と〔水魔法〕というのはある程度の魔法使いであればすぐに分かることである。その相反する2属性を使って強力な魔法を発動したとなれば、問い詰めてくる輩は多くなるだろう。
ケンシンとマイは特に問い詰めてきそうな者たち“の”身の安全を心配していた。
『『これより、Sクラス対抗戦を再開する!!次鋒戦、2-S 3位 ジン対、4-S 3位 ゲンタ!!2人は中央へ!!』』
「おっ、再開されるみたいだね。それじゃあ行ってくるよ。」
「うん、頑張ってね。」
「ジン様、頑張ってください!!」
「……頑張りなさい。」
学院の教師陣によってある程度訓練場の修復が完了し、観客の騒ぎの収まったのでようやく再開するようだ。
尚、ツバキはあの後公衆の面前でヤマトからお説教されて今は不機嫌モードである。
「ゲンタ様、僕はツバキみたいにバカはしませんので安心して下さい。」
「あ、ああ…。是非とも頼む。さすがにあれは怖すぎるぜ…。――って、本当はバカできるってことなのか……!?」
『『それでは次鋒戦、開始!!!』』
ゲンタはジンの発言の違和感に気付いたようだが、ジュウベエの開始の合図により試合が始まってしまった。
「歩術――“
ジンはジュウベエの開始の合図と同時に木刀を抜いてゲンタに突っ込んでいった。ゲンタは出遅れてしまったので、その場で木刀を抜いてジンを待った。守りに入るようだ。
「刀術――――っと見せかけての、〔雷魔法〕――“サンダー”。」
「――んなッ…!!アバババ!!!」
近接戦を挑んできたと思い込んでいたゲンタは、ジンの突拍子もない魔法を全く予想していなかったのか、諸に食らってしまった。そんなゲンタはと言うと――
『『――あっ、終わった。……じゃねえ、しょ、勝者!!ジン!!…おいジン!早えよ!!!』』
少し出力を上げて放った〔雷魔法〕“サンダー”はゲンタの意識を完全に奪っていった。余りの決着の早さにジュウベエは気を抜いていて焦った。
ジンは3-Sとの戦いの時のように時間をかけてから決着を付けようと考えていたのだが、ツバキは一瞬で片を付けたことで別にいいかと思い、自分も早く終わらせようとすぐに〔雷魔法〕を使ったのだ。
「――この不意打ちはいいね。ただ、魔力操作の修行をしてなかったら不可能だったから、アークには感謝だね…。って言うか先生、自分のミスを僕のせいにしないでほしいよね…。ツバキも早かったんだし僕もいいじゃないか。」
魔法使いの常識としては、走りながら魔法を放つなど不可能なのだ。魔法を放つのはかなりの集中力が必要であり、止まって、詠唱をして、狙いを定めて放つのが一般常識である。
移動しながら魔法を放つことができるのはやはり上級者しかいない。それをやってのけられるのはジンの才能もあるが、クレアが教えている修行方法のおかげだろう。
アークたちは超効率的な修行と最強の才能により大人顔負けの魔法の実力を子どもながらも手に入れているのだ。
そして、ジンが何故こんなに早く片を付けたのかと言うと、ちょっとしたツバキへの対抗心と不意打ちを試したかったため、それと、別に自分が主役ではなくアークが主役であると考えたためである。
一般客は自分の試合を楽しんでくれているのが感じられたが、貴族からの視線はどことなく違和感が感じられた。
そしてアークが出てきた途端、その違和感の正体が発覚した。貴族たちは今話題沸騰中のアークを見に来たのだと分かった。このSクラス対抗戦はアークを見るために開催されたのだと分かったのだ。
ジンはそのことに嫌悪感を抱くことは全くなかった。むしろ、当然だと思っている。自分やツバキ、サクラの戦いはメインディッシュ前の前菜のようなものなのだ。
そのこともあって、一瞬で片を付けたのである。観客たちには申し訳ないと思ったが、前回は時間をかけたので許してほしいと思っている。
ジンはジュウベエに対して若干の不満を抱きながら皆の元へと戻っていった。
「あの不意打ちは完璧だったね!あれなら対人戦でかなり有効な手札になるね。」
「ジン様、完勝ですね!」
「ど派手に決めて怒られればよかったのに。」
「ははは。ツバキが一瞬で終わらせたから僕もって思ってね。あ、僕にはど派手に決めるような魔法はないからそれは無理だったね。」
ジンの勝利に皆は当然と思っていながらも賞賛を送った。ツバキだけはまだ機嫌が直っていなく、賞賛を送っていなかったが。
「次は私ですね!ツバキちゃんもジン様もすぐ決着を付けたので、私も頑張りますね!」
サクラはツバキもジンも短期決着だったので自分もそうしようと考えていた。サクラには、ツバキに疑似〔爆発魔法〕があるように、ジンに〔雷魔法〕があるように、とっておきの手札を持っている。
サクラは今回これを使おうと心に決めたようだ。因みに、サクラのとっておきはアークとクレアしか知らない。サクラがアークに相談して、それをクレアを交えてサクラに合うような魔法を修得させたのだ。
『『続いて副将戦、2-S 2位 サクラ様対、4-S 2位 レーナ!!2人は中央へ!!』』
「それでは、行ってきます!」
「うん、がんばってね。」
「落ち着いて臨めば絶対勝てますよ。」
「ど派手に決めてきなさい。」
やはりツバキの機嫌はまだ直っておらず、サクラにもど派手に決めろと催促している。しかし、サクラのとっておきは全然派手なものではないのだ。
「レーナ様、申し訳ないのですが、私もすぐ決着を付けに行こうと思うのです。アーク様にいいところを見せたいので…。」
「サクラ様、最初から本気で来て頂けるということですね。…いいでしょう。私も悔いの残らないように最初から本気でいきましょう。」
レーナはサクラと同様に近接戦も魔法戦もできる魔法剣士だ。ユキムラ侯爵家の人間なだけあって、実力はかなり高い。特にユキムラ侯爵家特有の魔法を使った戦闘は、レーナがこの学院に入学してからほぼ負けたことがない程だ。
因みに、勝つことができなかった人物とは、シオリの他にリュウシンとユウシンなどだ。調子に乗って挑んだところを見事に返り討ちにあったらしい。
『『それでは副将戦、開始!!!』』
「最初からいきますよ…。〔氷魔法〕――“アイスフィールド”!!」
レーナはユキムラ侯爵家に伝わる魔法、〔氷魔法〕で訓練場中央の床全体を凍らせた。これはレーナの得意な戦法で、魔法使いでも近接職でも効果があるのだ。
「ふふふ。そう来るというのはお姉様からリサーチ済みです!!私も本気で行きますよ!〔空間魔法〕――“私だけの箱庭”!!」
サクラはまだ不完全ながらもなんとか形になってきている魔法を発動した。空中に透明な小さい立方体を不規則に散らばせ、それらを自由に動かして足場を作り、立体軌道をすることを目的として編み出した魔法だ。
サクラはかなりの数の箱を創り出し、空中へ浮遊させた。そしてその箱の1つに飛び乗り、凍らされた地面から離脱した。
「なッ――!!そう来ましたか…!ならば、〔氷魔法〕――“アイスバレット”!!」
レーナの得意としていた戦法は完全に対策されていた。空中に離脱されてしまうと、せっかく張った氷の床が無駄になってしまう。今までずっと刺さってきたのでまさか対策されるなど考えつかなかったのだろう。
しかし、それで思考停止するほど落ちぶれてはいないようで、すぐに〔氷魔法〕でサクラを打ち落とそうと仕掛けた。
「当たりませんよ!はあッ!!」
サクラは展開させた透明な箱を足場に、飛び跳ねるように氷の礫を回避する。途中当たりそうなものもあるが、それは手に持つ木刀で叩き落としていく。
「くッ!当たらない…!まだまだ…!〔氷魔法〕――“アイスバレット”!!」
レーナは諦めずに魔法を乱発する。何度も何度も魔法を放つのだが、それでも立体軌道で飛び回るサクラを捉えることができない。
「――そろそろ反撃です!一気に行きますよ!!〔空間魔法〕――“拘束の足枷”!“拘束の手錠”!!」
サクラは“私だけの箱庭”の他にアークに伝授してもらったこの2つの魔法を発動した。この2つは完全にアークの考えた魔法だ。両足、両手を透明な箱を用いてその場に固定させるといった魔法である。
「な、なんなの…!!動けないわ…!!――ッ!!」
「ふふふ…。勝負ありですね!」
レーナが動けなくなったところを、サクラが空中から降りてきてレーナの首元に木刀を突き付けた。これにより、完全にサクラの勝利となった。
『『そ、そこまで!!勝者、サクラ様!!』』
ワアァァァァァァァァ――――!!!!!!!!
サクラとレーナの戦いは観客を完全に湧かせた。短時間であったものの、サクラの立体軌道は観客の目に映えたようだ。
「サクラ様はまともだと思ってたのに、全然まともじゃないのですね…。やはり、アークさんという人物の影響かしら…。」
「わ、私はまともですよ!!でも、アーク様のおかげでとっても強くなれましたのは事実ですよ!!」
レーナは先鋒戦、次鋒戦と観戦していて、2-Sの戦闘能力のおかしさに恐怖していた。実際に目にしていたものの、やはり信じたくはなかったのか、サクラだけはまともに戦うものだと思っていた。しかし、現実は無情なもので、サクラもまともではなかったのだ。
サクラは自分はまだ弱いと思い込んでいるのでまともであると主張したが、それはここにいる全ての人が否定するだろう。あんな空中を飛び回るようなお姫様などまともなわけがない。
「サクラの奴、努力してるんだな…。まだまだ甘ちゃんだと思って煽ってみたが、案外正解だったのかもな。」
「ふふふ。〔空間魔法〕をあんなに使いこなすなんて…。あなたと私のいいところ、受け継いでるじゃない。」
「ハハッ。そうだな。まあ、これなら冒険者になってアークに付いていかせるのも大丈夫そうだな。多分ジンも、マサカゲんとこの娘も、ツバキは分からんが…付いていくんだろう。冒険者になる頃には完全に自分の身を守れるだろうさ。」
「ええ、そうね。」
ケンシンとマイはサクラの甘さというのが生まれてからずっと見てきたので、冒険者にはなれないのではないか?と思い課題を出していたが、サクラはそれを見事クリアできたようだ。
「アーク様!勝ちました~!!」
「わぶっ…!お、お疲れ様。上手く魔法使えてたね。」
サクラは副将戦が終わり、一目散にアークへと飛び付いた。アークに教わった魔法が上手くいったのと、ただ単に大好きな人に抱きつきたかったからだ。
アークはデレッデレな表情のサクラの頭をなでなでして褒めておいた。サクラはその表情を更にデレさせてクネクネしている。王女様が公衆の面前でこんな醜態をさらして大丈夫なのだろうか…。
「〔空間魔法〕にあんな使い方があったのね…。私も教えてもらわなきゃね。」
「サクラ様もなにか手札を隠しているのは分かっていましたが、さすがですね。」
ツバキも〔空間魔法〕を持っているのでサクラの〔空間魔法〕の使い方の有用性に気付いたようだ。アークとしてもどのみちツバキにも教えようと思っていたので、そのうち教えることになるだろう。ただ、“私だけの箱庭”はツバキには合わないので教えないが。
そして次の試合は貴族たちの本命、アークの大将戦だ。
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