第62話 副将戦と大将戦

『『それでは副将戦、始め!!』』


 副将戦はサクラとミルダ伯爵家令嬢アオイの戦いだ。お互いが魔法も刀術も使える魔法剣士タイプであるので、完全に力量差が勝敗を分ける。


「サクラ様、全力で倒させて頂きます。」


「アオイ様、私としてもアーク様に格好悪い姿は見せられないのです。私も全力でいきますよ!」


 アオイは即座に詠唱を開始し、魔法を放った。そして、それと同時にサクラへと駆けだした。


「〔水魔法〕――“ウォーターボール”!」


「――〔光魔法〕――“ライトボール”!」


 サクラは無詠唱で光弾を放ち、アオイが放った水弾と相殺させた。水弾と光弾がぶつかり消えた瞬間、その影からアオイが飛び出してきた。


 が―――。


「――ッ!!くッ!!」


 アオイの目の前には、もう1つの光弾が迫ってきていた。なんと、サクラはこのことを見越して1つ目の光弾の真後ろにもう1つの光弾を仕込んでいたのだ。


 アオイはなんとか横っ飛びをして光弾を回避した。すると、体勢が崩れたアオイに向け、今度はサクラが突っ込んでいく。


「いきますよ!―――はっ!」


「負けません!―――はぁ!!」


 サクラとアオイはお互い手に持つ木刀で打ち合い始めた。


「くッ!なかなかやりますねサクラ様…!」


「ふふふ…。毎日毎日アーク様と修行してますもの。愛の力は無限大なんですよ!」


 最初の数回は互角の勝負であったが、時間が経つにつれ、段々サクラが優勢となってきた。


 サクラは余裕の表情でアオイの斬撃を捌き、すぐに終わらせてはつまらないだろうと考え、しばらくはこの状況を維持することにした。


「――――こ、こんなに強いなんて…!!」


「ふふ…。まだまだこんなものじゃありませんのに。」


 サクラは今出せる実力の半分ほどしか見せていないのだが、アークたちとの修行の成果が出すぎているので、アオイでは全然役不足であった。


「――それでは、そろそろ終わりにしましょう…!」


 サクラは続けていた打ち合いをやめて距離を取り、〔無魔法〕で自身の足に最大の強化を掛けた。そして鞘はないが腰の位置に納刀するように戻し、腰を落として構えた。


 客席では突然サクラが距離を取ったことによってなにかが起こるのではないかといった期待の歓声が鳴り響いていた。


「行きますよ…。――歩刀混合術――“咲渡さきわたり彼岸花ひがんばな”!!!!」


 サクラは一気に地面を蹴り抜き、アオイへと肉薄した。そして、アークとクレアに教わっていながらもまだ練度が低い刀術、“彼岸花ひがんばな”を繰り出した。


 練度が低いと言っても、実戦で使えばかなり有効になるくらいなのでそこは問題ない。練度が低いというのはアーク基準だからというのもあるだろう。


 サクラの急接近に驚いたアオイは咄嗟に木刀を構えサクラに向けて振りかざした。が、その攻撃は当たることはなかった。


 カァァァァン―――!!!


「きゃあ!!」


 抜刀の勢いを利用して威力を跳ね上げる技である“彼岸花ひがんばな”によってアオイの持っていた木刀は吹っ飛ばされてしまった。アオイはその衝撃により尻餅をつき、更には腕がビリビリと痺れてしまっている。


「―――これで試合終了、ですね?」


「――負けました…。」


 サクラは座り込んでいるアオイの首元に木刀をスッと差し込み、勝利宣言をした。


 ―――――ワァァァァァァァ!!!!!!


 突然のサクラの神業に客席は最高潮となった。サクラはまだ幼いこともあって国民の前に出る機会というものがほとんどなかった。それが今回、このような形で国民へのお披露目となったのだ。様々な意味で観客たちは盛り上がっている。


『『そこまで!!勝者、サクラ様!!』』


「いい戦いでした。ありがとうございました。」


「――いえ…。私もまだまだのようです…。これからも精進致します。」


 2人はお互いの手を取り合い、握手をして別れた。


「皆さん、勝ちました!!」


「うん、お疲れ様。とってもよかったよ!」


「まあ、サクラなら余裕よね。」


「サクラ様、おめでとうございます。」


 サクラはぴょんぴょん飛び跳ねながらアークたちの元へと戻っていった。余程嬉しかったのだろう。


「お母様とお父様にもいいところを見てもらえました!恐らくこれで私も冒険者になることを許してもらえます!」


「――えっ。王様と王妃様も来てるの…。って、許してもらってなかったの??」


「はい…。アーク様に護られるだけの弱い私のままではアーク様の弱点となってしまうと言われまして…。」


「そーだったんだ…。でも、無理言ってでもサクラを連れ出してたと思うけどね、僕。護ってあげたいし。」


 アークは手をモジモジとさせているサクラの頭を撫でながらそう言った。


「―――はわわわわ…!!!ア、アークしゃま……///」


 サクラは突然そんなことを言われて、更に頭を撫でられて頭が沸騰した。普段から何度かこういうことがあるので気絶は免れたが、それでも意識は飛びそうになる。


「それじゃあ、僕の番だね。行ってくるね。」


「は、はい!頑張って下さい!!」


「本気出しちゃダメよ。可哀想だわ。」


「……程々にね?」


「あ、うん。そのつもりだけど…。」


「いいえ、思っているよりもっと手加減しなさいって言ってるのよ。」


「―――あ、はい…。」


 アークはこれまでの午後の実技の授業でクラスメイトと度々模擬戦をしてきたが、特に魔法戦となると全く勝負にならない。手加減しても、魔法の威力がデカくなってしまうのだ。


 この原因は、アークが使っている魔法にある。例えば、〔風魔法〕の下級魔法は“ウィンドボール”だが、アークが使っている〔風魔法〕の最弱の魔法はオリジナルの“風弾”といった名前であり、そもそもの発動方法が違っている。


 世間一般的な魔法使いは詠唱により体内の魔力を発動媒体または掌などに集めて魔法へと変換するのだが、アークや高位の魔法使いは体内で魔力を練って収縮してと、自在に操りながら魔法を発動するのだ。


 アークはそもそもの魔力値が桁外れであるので、かなり魔力を極小に絞っても中級魔法並の威力になってしまうのだ。


 クレアはもう少し修行をして魔力操作関連のスキルレベルが上がればその問題も解消できるでしょうと言っていた。半年後くらいにはなんとかなっているだろうとアークは踏んでいる。


『『最後に大将戦、2-S 1位 アーク対、3-S 1位 タケル!!2人は中央へ!!』』


 ジュウベエのかけ声と共に、アークとタケルは訓練場の中央へと移動した。


 観客席からはタケルを応援する声が多いような気がする。まあ、それはそうだろう。次期アカツキ公爵家の当主であるタケルは天才児として有名で、また見た目もかなり美形であるのでかなりの人気がある。


「――君の強さが計り知れないのは承知しているが、こちらとしてもそう簡単に負けるわけにはいかないんだ。【シンラ“剣”王術】の継承者としてね…。」


「【シンラ剣王術】…?刀王じゃないんですか?」


「シンラには大きく分けると2つの剣術があるんだが、そのそれぞれの頂点に位置するものが現国王様が正統後継者の【シンラ刀王術】と、俺の父様が正統後継者の【シンラ剣王術】なんだ。」


「ほえ~…。そうなんですね…。」


「父様からは君が【シンラ刀王術】の後継者の1人かもしれないと聞いている。だから、尚更負けられないんだ。」


「―――――ん?」


 今なんて…?


 アークは全くもって【シンラ刀王術】とやらを継承するつもりがない。そもそも【クレアブルム流刀術】があるので不必要だ。むしろ、いらないとまで言える。


 ―――まあ、否定するのも面倒だし、このままそういうことにしておこっと。


 アークは使命感に駆られているタケルを見て、否定してもややこしくなりそうだと思いスルーすることにした。


『『それでは大将戦、始め!!』』


「俺から行かせてもらう!はあ!!〔シンラ剣術〕――“ざん”!!」


 タケルは少し大きめの木剣を両手で持ち、アークへ向かって駆けだした。そして、まずは小手調べだとでも言うようにシンプルに袈裟斬りをしてきた。


 うお…。力技って感じかな?――ちょっと驚かせちゃおうかな…。


 アークは小手調べであるのは分かっていたが、若干舐められているのではないかと感じ、ちょっと意地悪をすることにした。


 打術――“零梅こぼれうめ


 腰に佩いたままの木刀を抜刀し、柄部分を前方に突き出した。そして、タケルが振りかざしてきた木剣に柄の先端を思いっきり叩きつけた。


 カアァァァァン――――!!!


「痛ッ……!?」


 タケルの木剣の刀身とアークの木刀のタケルは持っていた木剣を余りの痛さに手放してしまい、その木剣はタケルの後方へと飛んでいった。


 アークは絶好のチャンスを作り出したのだが、まだ試合は始まったばかりであるので、ここは一旦距離を取る。


 タケルは追撃してこないアークを不思議に思いつつも飛んでいった木剣を回収しに後方へ急いで下がった。そして木剣を拾い、構え直した。


 その時の観客の反応はと言うと―――――


「な、なにが起きたんだ…?」


「2年生の方は少ししか動いていないように見えたが、なにしたんだ…?」


「タケル様の剣筋もかなりよかったと思ったんだがな…。」


「サクラ様より順位が上ってことは、やはりそういうことなんじゃないか…?」


 ほとんどの観客はアークのしたことを認識できていなかったようだ。アークも一瞬の内に技を繰り出し、そして何事もなかったかのように後方へ下がったので仕方ないだろう。


 しかし、それでも一定数はアークがなにをしたのかが分かる人が客席にはいる。




「おうおう。アークの奴、面白い技持ってんじゃねェか。俺も真似してみるか。」


「木製だからまだマシでしょうけど、金属製だったらあれは辛いでしょうね…。」


 この国の国王と王妃、ケンシンとマイはアークが使った“零梅こぼれうめ”の本来のヤバさに気が付いているようだ。ただ、この技は技術的に難しく、ミスると致命傷になりかねないので注意が必要な技だ。




「――これはタケルにはちと厳しいな…。いや、ちとどころではなくかなり厳しい、か…。」


「いやあ、仕方ないですよ。アーク君の実力はまだ計りきれていませんけど、各所からの情報での推定ではギルドランクでAランク以上の実力と言われていますからね。」


「――それは厳しいを通り越して無理ですな…。」


 貴族席の中でも高位の席に座っている2人は、公爵家当主の2人だ。1人はお馴染み、国王であるケンシンの弟のクシン。もう1人はタケルの父親、【シンラ剣王術】正統継承者のコウメイ=フォン=アカツキだ。


 クシンとコウメイは先程のアークの動きを見て早々に試合の結末が予想できたようだ。コウメイはタケルにかなり剣術を叩き込んでいるつもりなのだが、それでも差がありすぎた。




「ほっほっほ。ありゃ歴戦の剣士と言われても納得の技じゃのぅ。このまま成長すれば、あの大爺をも超えるんじゃろうなぁ…。楽しみじゃのぅ…。」


 ヤマトはこれまでの戦闘の経験上、アークの技術がずば抜けていることがよく分かっていた。アークはまだ子どもであるので、これからの成長が楽しみだと思っているようだ。




「――アークの奴、やっぱりずば抜けて強えよな…。」


「それはそうでしょう!なんたって、私たちの弟なんだから!!」


「そうね。多分だけどカールとやっても勝てるんじゃないかしら。」


「はあ!?そんなわけねーだろ!俺は負けねえぞ!」


 貴族席の後方にはリンカ、ルーミニア、カールニアの3人が護衛として控えていた。シズとイワオは別行動で、それぞれの位置でアークの試合を見ていることだろう。


 リンカたちの声はかなり大きく周りの貴族たちは疎ましく思っていたが、超有名な冒険者パーティーである『光翼の癒し』のメンバーが謎のお面の少年(?)のことを弟だと言っていることに驚いていた。


 貴族たちはアークの正体を知っている。そもそも貴族たちがアークの実力を見てみたいがためにSクラス対抗戦の開催を一致団結して催促したのだ。


 それでアークの実力を見極めようとしていたのだが、何故だか新たな情報が出てきて貴族たちは困惑したのだった。




「あの技の精度……。ヤバすぎるんじゃないか…?あれは達人の技術だぞ…。」


「ええ…。ミカゲからの手紙にもアーク君は尋常じゃないくらい強いって書いてあったし、兄様の割とガチな一太刀を受けきったって言ってたものね。ミカゲもいい子を捕まえたものね…。」


 ヤサカ辺境伯家当主のマサカゲとその妻、アカネは娘の婚約者となるアークの人となりや実力を見てみようと無理をして辺境の都市から遠路はるばる王都までやってきた。


 2人はこの後、ケンシンの協力を得てアークと話をしようと画作している。取りあえず娘の婚約者となったので話してみたいというのと、アカネ個人として仲良くなりたいという理由らしい。





 そして戦いは続く…。




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