第61話 Sクラス対抗戦
『『以上で4年生の入替戦を終了する!!そして、全ての入替戦が終了した。続いて、Sクラス対抗戦を休憩後に行う!対象の生徒たちはSクラスの訓練場の控え室に来るように!!』』
予定されていた試合は全て終了し、休憩の15分後、いよいよSクラス対抗戦だ。まずは2-S vs 3-Sとなる。
対戦形式は1対1の試合形式で、勝っても負けても下がる形となる。先鋒、次鋒、副将、大将はそれぞれ順位の順番で決められる。そのため、先鋒はツバキ、次鋒はジン、副将はサクラ、そして大将はアークである。
「アーク、ジン、頑張れよ!!」
「サクラ様、頑張って下さいまし!」
「ツバキちゃん、頑張ってね!」
「「「「「頑張ってね!!!!」」」」」
アークたちはクラスメイトたちから激励の言葉をもらっていた。クラスの誰もがアークたちの勝利を疑っていなかった。
「アーク…。頑張ってね。応援してる。」
「アークくん、応援してるです!」
婚約者の2人は対抗戦に出られないので今回は応援するのみになってしまった。ミカゲが5位、ミルが7位なので出場は叶わなかったのだ。
「うん、皆ありがとう!頑張ってくるね。」
「ええ!頑張ります!!」
「ああ、頑張ってくるよ。」
「見てなさい。私たち全員勝って完勝で締めくくってくるわ。」
4人は声援を受けながら教室を後にし、いつも使っている訓練場に向かった。そして、普段は使っていない控え室に入ると、先客がいた。
「アークくん!!昨日ぶりね!!」
「わぶ…!!」
控え室には4-S、3-Sの生徒が既にいて、試合前とは思えない穏やかな雰囲気であった。アークが入ってきたのを見たシオリは速攻でアークに飛び付いた。
「お姉様!!人前ですよ!離れて下さい!!」
「あ、そうね。でもアークくんを見ると抱きつきたくなるのよ。」
「そ、それは分かりますが…。」
シオリはサクラの言葉に素直に従い、すぐに離れた。
シオリは4-Sに進級して、3年生の最終成績は1位であった。そのため、戦うのはアークとだ。シオリとしては楽しみでしょうがないようだが、アークからしたら複雑である。
「あ、私のクラスメイト紹介するわね。こっちから順番に、レーナ、ゲンタ、ガルよ。こちら、私の婚約者のアーク。仲良くしてあげてね!」
「いやいや…。シオリ、適当すぎよ。私は、ユキムラ侯爵家長女のレーナ=フォン=ユキムラよ。よろしくね。」
「俺はアグレース伯爵家二男のゲンタ=フォン=アグレースだ。よろしくな。」
「俺はガル=ティガロと言う。フォレストピア大森林からの留学生だ。よろしく。」
レーナは薄水色の長髪で、美形な感じだ。ゲンタは茶髪の短髪で、ちょっとガッチリとしている。ガルは虎獣人で、『虎の咆哮』のリーダー、ウィルと同じような見た目をしている。
「はい、僕はアーク=フォン=フォレストブルムです。シオリがいつもお世話になってます。」
「あら、アーク様はしっかりしているのね。シオリとは正反対よね?」
「ちょっと!レーナは余計なこと言わないの…!」
「あ、あはは……。」
シオリはアークにしっかりしていないと思われたくなかったのか、少し顔が赤くなっている。そこへ、3-Sの生徒たちが話に加わってきた。
「シオリ様、我々もよろしいでしょうか?」
「ん?ええ、いいわよ。」
「ありがとうございます。俺はアカツキ公爵家長男、タケル=フォン=アカツキだ。同じ公爵として今後もよろしく頼む。」
「ミルダ伯爵家二女、アオイ=フォン=ミルダです。よろしくお願いします。」
「私はミューラ子爵家三女のハナ=フォン=ミューラですわ。よろしくお願いしますね。」
「僕はトト。エルフだよ。君たちの同じクラスのミルとは違う村だけど、一応面識はあるんだ。よろしくね。」
タケルは赤黒い髪色で、若干伸ばした髪を後ろで纏めている。アオイは青髪長髪の真面目な感じだ。ハナは金の長髪でお嬢様な感じだ。トトは緑がかった銀髪で、いかにもエルフと言った感じだ。
「あ、はい。よろしくお願いします。」
アークは全ての視線が自分に注がれていることに違和感を覚えながら一応挨拶をしておいた。
アークに視線が集まっていた理由は様々だが、女子からはその見た目のため、男子からはその強さのためであった。アークの強さについてはどの学年のSクラスにも知れ渡っている。Sクラスの実技は基本ジュウベエが教えているのだが、毎度のようにアークのことを話しているようだ。
控え室ではその後、たわいもない話をした後、いよいよ試合の始まる時間となった。まずは2-S vs 3-Sだ。アークたちの学年とタケルたちの学年の対決だ。
『『これより、Sクラス対抗戦を始める!!王立シンラ学院の最高戦力たちの戦い、楽しんでくれよな!!まずは3-Sの入場だ!!』』
ジュウベエのかけ声と共に、まずはタケルたち4人が入場してきた。4人並んで手を振りながらの入場だ。
タケルは公爵家でかなり有名であるため、歓声もかなり大きい。他のメンバーも美男美女揃いで、それも歓声の大きい理由なようだ。
『『続いて、俺が担任を務めているクラス、2-Sの入場だ!!』』
こちらは1人1人出てくるようだ。まずはクロムウェル伯爵家のツバキ。貴族の子女らしく優雅にスカートの裾をつまみ上げてお辞儀をした。
ツバキが出てきただけでもかなりの歓声が来た。ツバキは学園長であり、3大賢者の1人の孫ということは有名なので、それもあるだろう。
次に、タチバナ公爵家のジンが出てきた。ジンはシンプルに客席へ向けて手を振るのみだ。
次に、シンラ国第3王女のサクラが出てきた。サクラはパンツスタイルだったのだが、ツバキと同じようにお辞儀をした。
かなり観客が盛り上がっている中、最後にアークが出てきた。しかし、歓声は一部の観客席を除いて静かになってしまった。その理由は、アークはお面を付けていたからだ。
盛り上がっている人たちは、冒険者であったり貴族であったり、アークのことを何かしらで知っている者たちだけだった。
アークは手を振って出てきたが、あまりの歓声の少なさに恥ずかしくなり、一瞬でやめた。
うはー…。意気揚々と手を振って出てきちゃったよ…。恥ずかし…。
《―――ふふ…。お面を付けた謎の少年が出てきたらそんなものですよ。でもあそこにいるリンカさんたちはかなり応援してくれていますよ?》
えっ!来てるんだ…。
アークはクレアが脳内で教えてくれたリンカたちの位置の方へ向くと、貴族席の後ろの方でめちゃくちゃ叫んでいるリンカを見つけた。護衛か何かで来ているのだろうが、そんなに後ろで騒いで大丈夫なのだろうか…。
『『先鋒戦、2-S 4位 ツバキ対、3-S 4位 トト!!2人は中央へ!!』』
「行ってくるわ。」
「頑張ってツバキちゃん!!」
「頑張ってね。」
「頑張れツバキさん!」
ツバキは負けるわけがないといった態度でアークたちに手を振り訓練場の中央へ出て行った。反対側にいるトトも中央に出てきた。
『『それでは先鋒戦、開始!!!』』
ジュウベエの合図で試合が始まった。トトは詠唱を開始したが、ツバキは無詠唱で風弾を放った。
「〔風魔法〕――“ウィンドボール”!」
「――んなっ!早い!」
トトは唱えていた詠唱をやめて緊急回避をした。幸いギリギリ当たらなかったが、このままでは完全に不利になるのは当然のことだろう。
観客席では、まだまだ子どものツバキが無詠唱で魔法を放ったことに驚愕していた。普通無詠唱というのは高位の魔法使いが使えるものとされている。それをまだ6歳のツバキが使えるとなればそれは驚くだろう。
「悪いけど、あなたにはなにもさせてあげないわ。“ウィンドボール”!“ファイヤーボール”!“ウォーターボール”!“アースボール”!」
ツバキは4属性の魔法を頭上に展開させた。それぞれの属性ごとに5つの玉を創り出し、合計20個の魔弾が宙に浮いている。
「避けられるものなら、避けてみなさい?――はっ!」
「む、無理でしょこんな――――!」
ドドドドドドドォォォ……!!!!
「――ぐわぁ!!」
ツバキが放った魔法は2,3弾を外してそれ以外はトトに命中した。弾数重視で威力はそこまで高くないものの、かなりの数が当たり、トトは気を失ったようだ。
『『そ、そこまで!!勝者、ツバキ!!』』
あまりの結果に審判であるジュウベエも唖然としてしまった。そして、観客席は爆発的に湧いた。
「やべえ!!あれが【大賢者】の孫か…!!」
「強すぎる…!!あれで4位だと…!?」
「い、いや…。勉強の方が、悪かった、可能性も…。」
「そ、そうだな!!さすがにあれは学年トップだよな!!」
ツバキのあまりの強さに観客たちはかなり驚いたようだ。先鋒戦はSクラスの4位とジュウベエが言っていたので、この強さで4位というのはさすがに信じられないのだろう。
「ふふん。楽勝ね?毎日の魔力操作の修行は最高だわ…。」
ツバキは1人訓練場の中央でポツリと呟いた。アークとクレアによる修行は修行の質としては最高水準である。【大賢者】である祖父も認めたその凄まじさを改めて実感したようだ。
ツバキは澄ました顔を作り直し、くるりと後方へ振り返りアークたちの元へと戻った。
「ツバキちゃん、やったね!」
「さすがに圧勝だったね。」
「あれでもフルじゃないところを見るとさすがだね。」
「あら…。気付いてたのね。」
アークはツバキが本気を出していないことがすぐに分かっていた。アークは魔力を感じ取る能力がかなり高く、ツバキの体内の魔力と発せられた魔力に差があり、それで分かったようだ。
「まあね。でも、力をセーブできるっていうのはかなりいいと思うから、最高だったよ?」
「…っ!ま、まあね!!私はもっと強くなるの。これで満足なんてしてないわ!」
ツバキはアークに褒められてちょっと照れた。お面をしていたからまだダメージは少なかったのが幸いだろう。
『『続いて次鋒戦、2-S 3位 ジン対、3-S 3位 ハナ!!2人は中央へ!!』』
「お、僕の番だ。それじゃあ行ってくるね。」
「うん、ジンも頑張ってね。」
「ジン様。ファイトです!」
「頑張りなさいよ。」
ジンは全く緊張していない様子でスタスタと訓練場の中央へと向かっていった。反対側でもミューラ子爵家令嬢のハナが客席へと優雅に手を振りながら歩いてきている。
「ハナ様、この試合、負けませんよ。色んな方々に見られていますので。」
「あら。それは私もですわ。お手柔らかにお願いしますわ。」
ジンが言う色んな方々とは、ケンシンや自分の両親、兄弟、親交のある貴族の当主たち、それにアークや仲間のことだ。ジンは特にアークのことを指しているようだが。
『『それでは次鋒戦、始め!!』』
「先手はお譲りします。」
「あら。甘く見てると痛い目見ますわよ?」
ジンは模擬専用の木でできた刀、木刀を腰に佩いたままその場で佇んでいる。そして、ハナに先手を譲った。
そんなハナはジンを後悔させてやろうと込められるだけの魔力を詰め込んだ魔法の詠唱を開始した。
「―――〔風魔法〕――“ウィンドブラスト”!!!」
ハナはかなりの時間をかけて風属性の中位魔法を放った。威力は申し分ないのだが、それでもジンは慌てていなかった。
「〔風魔法〕――“ウィンドボール”。」
ジンは無詠唱で魔法を放った。ジンが出現させた風弾は5つ。その全てをハナが放ったウィンドブラストにぶつけた。
「――ッ!そんなのありですの…!?」
ジンが放った風弾により、ハナが放ったウィンドブラストは打ち消されてしまった。ハナはまさか自分の魔法が打ち消されるとは思っておらず、思考が停止した。しかし、すぐに立ち直り再び詠唱を開始した。
「〔風魔法〕――“ウィンドボール”!!」
「〔風魔法〕――“ウィンドボール”。」
ハナがすかさず放った風弾は、再びジンの風弾に打ち消された。その後も何度も何度も繰り返してこのやり合いが繰り返された。
「はぁ、はぁ、はぁ…。こんなの無理ですわ…。」
「――そろそろ終わりにしますよ…。〔雷魔法〕――“サンダー”。」
ジンはそこそこ時間も使ったし観客も盛り上げることができただろうと思い、ハナにトドメを刺しにいった。
「きゃあっ!!!」
ジンは最近練習中でアークに特訓を付けてもらっている〔雷魔法〕を使った。〔雷魔法〕はかなり便利なもので、出力や相手の実力によっては相手の意識を刈り取ることができるのだ。
ジンの掌から放たれた雷撃は一瞬でハナに突き刺さり、意識を刈り取った。
『『そこまで!!勝者、ジン!!』』
「少しは楽しめる試合にできたかな?やっぱり対戦相手はタケル義兄様がよかったかな…。近接戦もできるし…。」
ジンは従兄弟であるタケルの方を見つめながらポツリと呟き、そのまま振り向いて戻っていった。
「ジン、お疲れ。〔雷魔法〕も上出来だったよ。」
「ジン様、お疲れ様です!完勝ですね!」
「あなた、敢えて刀使わなかったのね。優しいじゃない。」
「ありがとう。まあ、魔法戦も強くなりたいからね。いい感触だったよ。」
ジンは魔法も刀もできる方だと思っていたのだが、それは間違いであるということをアークに気付かされた。それからアークの元で修行し、成長していった。魔法も刀も極めたいと言うジンにとってはこの戦いも成長する上で大切な試合だっただろう。
「次は私ですね!頑張ります!」
「サクラ、頑張ってね。」
「余裕だと思うけど、気を抜いちゃだめよ。」
「サクラ様、応援しています。」
副将戦は、第3王女サクラ対伯爵家令嬢アオイだ。
『『続いて副将戦、2-S 2位 サクラ様対、3-S 2位 アオイ!!2人は中央へ!!』』
「……サクラには様ってちゃんと付けるんだね…。」
「あはは…。」
アークとジンはサクラに様をきちんと付けていくジュウベエはしっかりしているなと関心したのだった。
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