第60話 入替戦
5つの訓練場は観客席が満席となっていた。それぞれの訓練場ごとに行われるクラスが違う。Dクラスの訓練場ではCクラスの枠を争うバトルロワイヤル、Cクラスの訓練場ではBクラスの枠を争うバトルロワイヤル、Bクラスの訓練場ではAクラスの枠を争うバトルロワイヤル、Aクラスの訓練場ではSクラスの枠を争うバトルロワイヤル、そしてSクラスの訓練場ではSクラス対抗戦となっている。
事前に知らされていたのは、Sクラス対抗戦がなかったので1つずつ繰り越しされていた。Dクラスの訓練場では全てモニター観戦となっていたが、今年はDクラスの訓練場でもモニターじゃなく観戦することができることになり、そう言う意味でも湧いていたようだ。
観戦の席は貴族・有力商人にはある程度用意されており、他は事前に行われる抽選制である。倍率はかなりのもので、毎年王都外からも抽選の申し込みが来るほどだ。王都外からは大体卒業生だったり有望な生徒を探しに来る者が多いが。
今年の観戦者は貴族が多い。その理由は多くの貴族がアークの戦いを見たいと思い、どこかの貴族が周りに呼びかけてSクラス対抗戦を実施するように仕向けたようだ。―――王族を巻き込んで…。
まずは各クラスのバトルロワイヤルが行われる。Sクラス対抗戦は他のが終わってから行われるようだ。Sクラスの訓練場ではモニターにて他の訓練場での試合が映される。
順番としては2年生、3年生、4年生の順で行われるので、アークたちのクラスメイトである4人の出番は最初だ。8人でのバトルロワイヤルなのですぐに終わりそうだと思われるが、案外1番長引き注目されるのがこのSクラスの枠を争う試合である。
ヤマトの挨拶が終わると、すぐに2年生の入替戦が始まる。4つの訓練場には続々と生徒たちが入場してきている。どの訓練場もかなり広いので、Cクラスの入替戦でも40人だが、広さ的にも余裕である。
Aクラスの訓練場には現在8人の生徒が睨み合っている。その内の4人にはSクラスであるオサム、ララ、シンジ、ケンジがいる。
そして、残りの生徒はAクラスで上位4人に入った生徒たちだ。
Aクラス1位、モデラ子爵家二女 ラム=フォン=モデラ。
Aクラス2位、ロンド子爵家三女 マルカ=フォン=ロンド。
Aクラス3位、カンパル男爵家二男 ノブ=フォン=カンパル。
Aクラス4位、有力商家長男 トム=バブル。
4人とも教師陣から実力はSクラスに相応しいと言われているらしい。入学当初は力及ばずでAクラスになってしまったものの、その悔しさをバネに格段に成長したようだ。
「マルカちゃん、頑張ろうね…。」
「ええ、ラムちゃん。Sクラスに昇格してアーク様とお話したいもの。絶対勝ちますわ。」
「う、うん…!」
子爵家の女の子2人は不純な理由でSクラスに上がりたいようだ。確かにSクラスに上がればアークと話すことはできるだろうが、果たして婚約者たちに割り込んで無事でいられるのだろうか…。
「俺は父様にいいところ見せないといけないからな…。さすがに負けられない。」
「僕はSクラスに行けば将来たくさんの貴族と繋がれるからくらいの理由なんだけど、まあ頑張るかな。」
観客席にはカンパル男爵が見に来ているようで、その息子のノブはさすがに無様な試合は見せられないと考えているようだ。トムの考えはかなり商人的な考え方で実に清々しい。
「僕はちょっと勉強が苦手なだけだったから、戦いだったら負けないよ!」
「そうだねぇ。ウチも勉強だけはねぇ…。」
「はぁ…。なんでお前らがビリ4位にいんだよ…。勝てるわけねえじゃねえか…。」
「そ、そうだよ…。でも、仕方ないから僕たちはオサムとララさんには近付かないようにして、Aクラスの子を倒しに行こう?」
オサムとララはSクラスの中でも戦闘派な2人だ。オサムは魔力量が比較的多く、午後の授業でアークに魔法を少し教わっているので同年代ではかなり強い部類に入る。ララはドワーフ族というのもあってかなり力持ちであり、戦闘に関してはハイセンスである。
シンジとケンジは勉強も戦闘も程々にできるのだが、やはりSクラスの中で比べてしまうと劣ってしまう部分がある。2人の幼なじみであるザックは2人と実力は同じくらいだが、頭の出来が違うようだ。
ザックとしては内心めちゃめちゃホッとしているに違いない。
『『それではぁぁ!!2年生の入替戦、第1回戦を始める!!総合審判はこの俺、ジュウベエが担当するぜ!!お前ら、後輩たちが見てんだ、気張れよぉ!』』
ジュウベエはSクラスの訓練場に設けられた特別観客席にて審判をするようだ。拡声器のような魔道具を手に持ち喋っている。ジュウベエの声は全ての訓練場に響き渡っており、会場の雰囲気は最高潮になっている。
『『試合、開始ぃぃぃ!!!』』
ジュウベエの開始の合図と共に、訓練場にいる生徒たちは戦闘を開始した。どの生徒もクラス昇格または残留のために真剣であるので、負けまいと必死である。
Aクラスの訓練場では、広々とした訓練場の中で8人の戦闘が行われている。戦況としてはSクラスvsAクラスとなっている。これは毎年同じような構図となる。ただ、3戦目は例外で順位次第で狙う相手が変わる。たとえ同じクラスで仲良しな子であっても、クラスの昇格または残留というのはかなり重要なことなのだ。
オサムは後方へと下がり、魔法の詠唱を開始した。シンジとケンジは2人で協力してAランクの4人の方へと突っ込んでいった。ララはひとまずオサムの護衛で留まるようだ。
ラムとマルカはオサムと同じように後方へと下がり、魔法の詠唱を開始した。ノブとトムは向かってくるシンジとケンジに向かっていった。
「ケンジ!!俺はあのバブル商会のボンボン野郎に行く!お前はあのお貴族さんの方に行け!」
「う、うん!分かった!」
『バブル商会』とは、高等商業区に居を構える大手商会で、シンラの国中に店舗を展開しているなんでも扱っている商会なのだ。かなりの大金持ちで、シンジとケンジからしたらかなり羨ましいという気持ちがあった。
同い年で目指している学校も同じだったため、死にものぐるいでザックと3人で訓練して、なんとかトムを抑えてSクラスになることができたのだ。それをこんな入替戦なんかで負けてしまい、入れ替わるというのは屈辱である。
シンジは絶対に負けないという意志でトムへと突っ込んでいった。
4人の持つ木剣が同時にぶつかり、コンッ!と甲高い音が訓練場に響いた。お互いしっかりと鍛え上げられた剣筋で、まったく6歳児とは思えない。
「おい、見たか!?今年の2年生は去年よりもレベル高いぜ!」
「あの双子早いな!たしか、商業区の親商会んとこの双子だったよな?」
「ああ!それにバブル商会の御曹司までいんぞ!すげえな!」
「こっちの子はカンパル男爵家の御子息様らしいぞ!いいカードが揃ってるよな!」
ほんの数秒の内に会場のボルテージが上がりまくった。この4人は王都の住人からしたらかなり有名らしく、応援の声がたくさん飛び交っている。ただ、この場にいるのはこの4人だけではない。
「―――よーし、いっくよー!〔火魔法〕――“ファイヤーボール”!!」
オサムは頭上に4つ炎の玉を創り出し、ラムとマルカへ向けて2つずつ放った。それを見ていたララは、おお~とのんきに拍手をしながらその行く末を見守っていた。
「―――や、やば!〔水魔法〕――“ウォーターボール”!!」
「―――わわわ…!〔水魔法〕――“ウォーターボール”…!!」
オサムの放ったファイヤーボールは、それぞれマルカとラムが放ったウォーターボールでなんとか打ち消した。
マルカとラムの2人は事前のリサーチでオサムは〔火魔法〕が得意だということを知っていたので、〔水魔法〕を用意していた。これが違う属性だったのなら完全にやられていただろう。
「アプリル男爵家の方、あんなに凄かったでしたっけ…!!」
「マルカちゃん…。危なかったね…。」
オサムもこれで終わるとは思っていなかったらしく、再び詠唱を開始していた。それを見た子爵家の2人も同じように詠唱を開始した。
「お、おい!!Sクラスの魔法使いの子やべえぞ!!あれだけ魔法使えてSクラスの下位なのか!?」
「もしかすると、勉強がダメダメなんじゃないか…?」
「女の子2人は可哀想だな…。」
「あの3人、貴族らしいぜ!さすが貴族の子息息女はちげえな!!」
魔法合戦が始まると、またもや観客席が湧いた。こちらもまた6歳とは思えない程の実力なので、当然である。一方、シンジたちの方は木剣の打ち合いとなっている。
「おらおらおらおら!!負けないぜえ!!」
「――くっ…!これは厳しいな…!」
「おりゃおりゃおりゃ!!」
「ふん!ふん!ふん!なんの!」
どちらかと言えばSクラス組が押しており、流れは完全ではないが傾きつつある。シンジとケンジはアークから少し刀術について教えてもらっていたり、試合をしてもらっていたりと他と比べて経験が多い。そのため、優勢に進められているようだ。
何十回と打ち合い、ペースは完全にシンジとケンジの流れへと傾いた。
「――そこだ!!」
「――ここ!!」
「「ぐはっ…!!」」
そして、同じタイミングで大きな隙ができたトムとノブはもろに木剣を身体に受け、後ろに飛んだ。威力はそこまで高くはないのだが、戦闘への復帰は不可能であろう。
「よっしゃあ!!」
「やったあ!!」
シンジとケンジが喜んでいると、魔法対決の方でも決着がつきそうであった。
「〔地魔法〕――“アースボール”!!いっけー!」
「「〔水魔法〕――“ウォーターボール”!!――って、〔地魔法〕!?」」
5回ほど魔法を打ち合っていたのだが、オサムはずっと〔火魔法〕を使っていた。しかし、それではらちがあかないと考えついたのか、魔法を変えた。属性の相性上、お互いに有利不利はないため単純な威力勝負となるのだが、今回はオサムに軍配が上がったようだ。
「「きゃあああ!!!」」
ラムとマルカはオサムの魔法が直撃し、戦闘不能になった。これで、残るはSクラスの4人となった。その瞬間、ずっと静観していたララがシンジとケンジにサッと近付き、持っていた大きな木槌で一振り、二振りとぶっ叩き吹き飛ばした。
それにより、2人は気絶して戦闘不能となった。
「あー、僕は降参だよ-!!」
「ごめんねぇ。これも戦法のうちだからねぇ。」
『『A会場、それまで!!A会場1回戦の勝者は、Sクラスのララだ!!それぞれの順位とポイントはモニターを見てくれ!!』』
うおおおおおお……!!!!!
「あの子、めちゃめちゃ早かったぞ!!」
「それにあんな大きなハンマー持って、ヤバすぎだぜ!!」
「ありゃあドワーフの子だな!!もしかすると親方んとこの娘さんじゃねえか!?」
Aクラスの訓練場の観客席では大音量の歓声が響いている。今までずっと動いていなかった小さな少女があっさりと勝ってしまったので驚きも混じっているのだろう。
結果としては――
1位 ララ 8P
2位 オサム 7P
3位 シンジ 6P
4位 ケンジ 5P
5位 マルカ 4P
6位 ラム 3P
7位 ノブ 2P
8位 トム 1P
となった。あと2戦やり、上位6人がSクラスとなる。このペースで行けばSクラスのメンバーはAクラスに落ちることはないだろう。
続く2回戦も3回戦も同じような戦闘内容であった。少し順位変動があったものの、大まかな内容は変わらなかった。その結果がこちら。
1位 ララ 24P
2位 オサム 21P
3位 シンジ 17P
4位 ケンジ 16P
5位 マルカ 9P
5位 ラム 9P
7位 ノブ 7P
8位 トム 5P
よって、Sクラスを勝ち取ったのは、Sクラスであった面々とマルカ、ラムの2人だ。
「皆残れてよかったね。まあ、一方的なワンサイドゲームって感じだったから1回戦見て安心してたんだけど…。」
「そうですね!あとは3年生、4年生の入替戦を見て、その後は私たちですね!」
「うん、僕たちの修行の成果を試すチャンスだから、頑張ろうね。」
「はい!!」
アークは隣の席で元気に返事をしているサクラに微笑みかけながらシンジたちが帰ってくるのを待った。
「勝ったぜ-!!」
「勝ったよ-!」
「完勝-!」
「余裕だったねぇ。」
「「「「「「おめでと-!!!」」」」」」
戻ってきた4人にクラス全員で祝福した。このクラスはアークのおかげか全員仲がよくなり、以前はあった商家や平民と貴族との壁が完全になくなっていた。サクラに対してだけは若干残っているが。
そして、その4人の後ろからヒョコっと飛び出してきた2つの影があった。
「は、初めまして!これから2-Sクラスでお世話になるロンド子爵家三女のマルカ=フォン=ロンドと申しますわ!仲良くして下さい!!」
「は、初めまして…!モデラ子爵家二女のラム=フォン=モデラです…!よろしくお願いします…!」
「「「「「「よろしくね(な)(です)!!!!」」」」」」
クラスの皆が息ピッタリで返事をした。返事を聞いた2人は恥ずかしそうにしながらも嬉しそうだ。クラスの皆も新たな仲間が増えて嬉しそうだ。
「2人の新しい席は僕の後ろだね。これからよろしくね!」
「「ふぁあ…!!は、はいぃ…!!」」
アークがラムとマルカの前に出てきて、2人の手を取り握手した。アークとしてはただ単に歓迎の証として握手をしたのだが、2人は顔を真っ赤にしている。
それを見ていた婚約者たちやアークを狙っている女子組はムスッとしたが、アークや男子たちはその空気に気付いていない。
その後、3年生と4年生も入替戦が行われ、無事入替戦は終了した。3年生の方は2年生の試合、特にAクラスの訓練場で行われた試合のレベルが高すぎて若干盛り上がりに欠けたが、4年生の試合はやはり非常に盛り上がった。
次はいよいよSクラス対抗戦である。
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