第57話 『打波』と『カグラ』と『力線掌握ノ腕輪』
刀が2段階で輝いた。完成して魔力を通したときと、『打波』と呟いたとき。恐らく2番目のそれは名付けなのだろう。ちょっぴり魔力が抜けた感覚がした。
アークは気になって鑑定してみた。
『魔刀-打波-』
レア度:☆☆☆☆☆
品質 :☆☆☆☆☆☆
武器能力:〔魔刃〕〔耐久ノ極〕〔魔法切断〕
「おおおお…!初めてにしては超大作…!」
武器の鑑定結果はレア度、品質、武器能力の3つが表示される。大抵の武器は武器能力はないので基本は2つだけだが。
レア度、品質共に最高値は☆7つであり、品質☆7つは様々な素材の中で見ることはできるのだが、レア度☆7つに関しては見ることはほぼ不可能である。ちなみに☆6も見ることはほぼなく、王族が所有する魔道具であったり武器であったり、大型ダンジョンで発掘される魔道具や武器であったりでしかない。
ただ、素材に関してはいくつか☆7つというのは存在することは知られていて、例えばドラゴンの素材であったり滅多に産出されない金属であったりといったものがある。
「アーク、いい出来ですね。2時間でこれだけの刀が打てるのは中々いないですよ。」
「そうかな…。まあ、これだけ知識が詰め込まれてたらできるかなって感じだよね…。」
アークが打った『打波』はレア度が☆5つだ。これは普通の鍛冶職人からしたら有り得ないものだ。レア度☆5つの武器を作るなど、人間国宝並の鍛冶職人がミスリルやアダマンタイトをふんだんに使って、長時間かけて丁寧に打たないと成し得ないレア度なのだ。
アークが打った『打波』はそれだけヤバい武器であった。それでもまだ改良の余地であったり素材のランクを上げたりすればレア度はまだ上がることを考えると、もうヤバい。
しかし、アークはしばらくは『打波』を使う予定なのでまだヤバい武器が生まれることはないのが幸いであるのだが。
現実ではまだ25分程しか経過しておらず、クレアはアークに新たな提案をした。
「――まだ時間がたくさんありますね。そうしたら今度はアクセサリーなどを作ってはどうですか?」
「そうだね~。僕もアクセサリーってちょっと作ってみたかったからやってみようかな!」
アークは冒険者たち(『光翼の癒し』など)が身につけている指輪やブレスレットなどが見た目的にも効果的にも気になっていたので、いつかはいいものを買いたいと思っていたのだ。それを自分で作るとなると、テンションも上がるだろう。
アークは大きい方の炉の火を落とし、今度は小さい炉の方へ向かった。こちらの炉はサイズ的にも細かい作業に向いているので金属細工などはこちらの方がいい。
「うーん…。でもなに作ろうか迷うし素材もどうしようか…。素材によって能力も変わるだろうし、クレアはなにがいいと思う?」
「――作るものは無難にブレスレットなんかはどうでしょうか?作りやすいですしね。能力に関しては魔石に〔力学魔法〕の魔力を注いだものを素材として用いればいいものができると思いますよ。」
「そっか。分かった!それじゃあ素材から作りますか!――あ、1つ気になったものがあったんだけど、『精霊鋼』って、僕でも作れる?」
アークは金槌に使われていた『精霊鋼』というものがとても気になっていた。地の大精霊テラが作ったという情報は鑑定から分かったのだが、その精霊鋼はどこからきたのかは不明であった。
「ええ、作れますよ。それも鋼だけでなく鉄でも『精霊鉄』になりますし、銀でも『精霊銀』になります。『精霊金属』の作り方としては精霊が魔力を注ぐ方法か、〔精霊魔法〕の魔力を注ぐかですね。」
「そーなんだ!割と簡単にできそうでよかったよ。」
アークは簡単そうだと言うが、実際に金属に魔力を注ぐことができる人なんて中々いないので簡単ではないのだが…。
「どうせなら、精霊金属素材の方にも〔力学魔法〕の魔力を込めた方がいいと思いませんか?」
「え?うん、そうは思うけど、〔力学魔法〕の精霊なんているの?」
「ええ。アークが〔力学魔法〕をこの世に創り出したのと同時に精霊界で誕生していますよ?私のところにアークと契約したいと言い寄ってくる中の1人でもありますね。」
「ええ!!そ、そんなことが…。な、なら契約した方がいいよね。」
「そうしましたら、お呼びしますね…。」
アークはただ単に思い付きで〔力学魔法〕を創り出しただけだと思っていたら、その付加効果で精霊まで生み出していたようだ。なんか不安になったが、それと同時にワクワクとした気持ちも出てくる。
そんな複雑な気持ちを抱いていたアークの目の前に、黒髪の長髪に黒目の同い年くらいの精霊が現れた。顔は和風な面持ちで、クレアの妹みたいな感じの印象である。服装は巫女服のようなものを着ていて、髪には煌びやかな簪を付けており、髪は後ろで1つに結われている。
「――アーク様…。この度は私を創り出して頂き、感謝しています。是非とも、貴方様のお役に立ちたく、契約をさせて頂けたらと思っております…。」
「ああ、いやいや…。勝手に生み出しちゃったみたいでごめんね。これから、よろしくね!」
アークは力学の精霊の手を取る。そして、お互いの魔力をお互いに流し込んだ。これが精霊との契約の仕方である。こうしてアークは8人目の精霊と契約を交わした。
「――アーク、この子には名前がありません。精霊王ではありませんが、特例で名付けをしてあげて下さい。」
「あ、そーなの…。ちょっと時間もらってもいい?しっかりとしたもの考えるから…。」
アークはその場に座り込み、必死に名前を考えた。そして、考え抜いて浮かんだ名前は――
「――『カグラ』…。かな…。単調過ぎるかもだけど、1番似合うかなって。」
「――ッ!!はい…。私は今日から『カグラ』と名乗ります…!」
アークがカグラと名付けた瞬間、身体からゴッソリと魔力が持って行かれた。その量はかなりの量で、アークが現状保有できるMAXの魔力量の9割を持って行かれた。
上位精霊7人が大精霊に進化したときに注いだ魔力は4割ほどだったのに、9割ともなればその魔力量は凄まじいだろう。
アークは一瞬フラッときたが、即座に“魔力貯蔵庫”から5割ほど魔力を補充したので倒れることはなかった。“魔力貯蔵庫”はかなり便利である。
アークの総魔力量の9割を吸収したカグラは案の定進化をするようだ。カグラの元々の状態は恐らく進化したての上位精霊くらいだった。
カグラは宙に浮かび、虹色に輝き出した。その輪郭は段々大きくなっていき、大精霊たちよりも若干大きくなっている気がする。そして成長が止まり――
――パァァ……!!
カグラを覆う虹色の光が弾け飛んだ。すると光の中から、18歳程に見える美しい巫女さんが現れた。進化前の姿の面影を残しつつ、かなり美しく成長している。
宙に浮いていたが、降下してアークに向かって地に膝を着いた。
「―――力学の『精霊王』カグラ。アーク様へ一生の忠誠を誓わせて頂きます…。」
「『精霊王』…!?――あ、ああ、うん…。よろしくね、カグラ…。」
「――ふふ。私も予想外でしたが、結果的にはよかったです。」
クレアはカグラが精霊王になるのは予想外だったが、いずれはそうなるのは決定事項なので時期が早くなった程度としか考えていないようだ。
予期せぬ精霊王との契約があったが、本来の目的は精霊金属を作ることである。〔精霊魔法〕の各属性を使うにはその属性の精霊と契約しなければならないので、クレアはカグラと契約させたようだ。
「アーク、それでは早速精霊金属を作ってみましょうか。元となる金属はどうしますか?」
「うーん…。ちょっと思い切ってランクが高いもの使ってみようかなって思うんだけど…。」
「それなら、ミスリルはどうでしょうか?精霊金属にするのにかなり向いている金属ですし、何より装飾品のような細かい加工をするのにも向いていますからね。」
「おお、じゃあそうするよ。」
クレアの提案で〔創造魔法〕でミスリルを創ることに決定した。創り出すインゴットの数は予備を含めて2つ。その2つだけを創り出すのに、アークは最高品質となる魔力量を注いだ。
そうしてできたのが――
『ミスリルのインゴット』×2
レア度:☆☆☆☆
品質 :☆☆☆☆☆☆☆
品質の値がMAXとなっていた。それにしても〔創造魔法〕はかなりのチートだろう。魔力を込めれば込めるほど品質や量が上がるのだから。(素材のみ)
「次はどうするの?」
「――カグラちゃんとアーク2人で力学の〔精霊魔法〕の魔力をインゴットに注げば大丈夫ですよ。1人でやってもいいんですが、精霊と契約主2人でやるとよりよくなりますから。」
「そうなんだ。分かった。」
「了解しました。」
アークとカグラは片手に1つずつインゴットを持ち、お互いが向き合うような形となる。端から見れば、6歳児とお姉さんが手を取り合っているだけに見えるのだけである。心なしかカグラの顔が赤いような気がする。
アークは〔精霊魔法〕を意識して、更にカグラとの繋がりを意識しながら魔力を流し込む。〔精霊魔法〕の魔力は自然と〔力学魔法〕の魔力と混ざり、力学精霊属性へと変わる。
――パァァ……!!
そしてある程度流し込むと、ミスリルのインゴットが輝きだした。ミスリルは白銀色だったが、薄く黒光りが混ざり、見る方向によって白銀色か黒銀色かに変化する美しい色合いだ。
かなりのエネルギーというか魔力の圧というか、そういったものが感じられる。
「――『力学精霊――聖銀』…?」
「聖銀はミスリルのことですね。無事完成したようでよかったです。」
鑑定した結果はこうだ。
『力学精霊聖銀のインゴット』×2
レア度:☆☆☆☆☆☆
品質 :☆☆☆☆☆☆☆
レア度が☆6つだった。これはかなりヤバい素材なのではないだろうか…。まあ、使い切ってしまえば問題ない。品質は言わずもがな、最強である。
「――では、私は精霊界へと戻り、アーク様を観さ――んんッ!見守らせて頂きます。それでは……。」
カグラは取りあえず契約し終えて、ここでやることもないため精霊界へ帰って行った。帰ってもずっとアークのことを覗いているのだろうが…。
「なんか観察って聞こえたような……。まあいっか。あ、あと魔石創ってないけど、カグラ戻っちゃったね。」
「魔石は力学精霊属性ではなくて〔力学魔法〕の魔力でいいからですよ。」
「ああ、そっか。――それで、魔石と魔蓄結晶、どっちがいいかな?」
「断然魔石ですね。加工面では圧倒的に魔石の方が優れていますし、魔蓄結晶は魔力を蓄えることにしか向かず、属性を付与することができないので。」
「そうなんだ。それじゃあ、魔石を創ろうか。」
アークは〔創造魔法〕で無属性の魔石を小サイズ1つと極小サイズ5つを創り出した。それも魔力増し増しで。おかげで品質はどれも☆7つであった。
そして、全ての魔石に〔力学魔法〕の魔力をMAXまで注ぎ込み、『力学の魔石』とした。
「これで一通りの素材は揃ったね。それじゃあ――」
〔火炎魔法〕――“
小さい方の炉へ火を灯し、超高温度になるまでブレスレットの構想を練った。基本となる材料が『力学精霊聖銀』であるので、精霊や精霊の羽を基調とした意匠とすることに決めた。
炉へ精霊聖銀を入れ、基本となる型枠に溶けた精霊聖銀を流し込んだ。精霊聖銀が固まるまで放置するとして、次に魔石をカット・研磨する。
固まったブレスレットを型枠から外し、意匠に取りかかる。
その意匠はまだ炉の中で溶けている精霊聖銀を〔力学魔法〕で操り、【
そして、中心部に小魔石とそれを囲うような五角形の対角に位置する箇所に極小魔石を配置するための窪みを拵える。その窪みに魔石をそれぞれピタリとはめ込み、最後の仕上げに〔力学魔法〕の魔力を流し込む。
――パァァァァァ……!!!!
作業が完了したしたブレスレットに魔力を流し込むと、『打波』の時とは比べものにならない程の輝きが鍛冶部屋を覆った。
「――ッ!で、できた…!」
作成時間は1時間にも満たないが、それでもその輝きでかなりのものができ上がったのが分かる。
『力線掌握ノ腕輪』
レア度:☆☆☆☆☆☆
品質 :☆☆☆☆☆☆☆
能力 :〔力学魔法強化〕〔力学精霊魔法強化〕〔力線掌握〕〔力線眼〕〔サイズ自動調節〕
「おお!☆6つだよ!やったね!」
アークはレア度がほぼ最高値となって単純に喜んだ。しかし、アークはこの重大性には気付いていなかった。ただ単純に無知なだけなのだが。そして、能力もヤバい。
「―――――さすがに予想外な能力ですね…。これはヤバいです…。」
「あっ、そうなの…?」
「〔力学魔法〕の強化以外で何らかのスキルは発現すると思っていましたが、まさか…。完全に規格外スキルです…。」
クレアが思い描いていたスキルの数倍、数十倍ヤバいスキルが発現したらしい。
「これ、どっちがヤバい…?」
「―――どっちもですが…。特に〔力線眼〕は、私の想像を絶する能力かと…。アーク、何かしました…?」
「いや…。前世で読んだ漫画の中に力の流れが見られる王様がいたんだけど、そのことを考えてたら……って感じ、かな?」
「―――――なるほど…。〔力線眼〕と〔力線掌握〕の組み合わせは……。これは修行計画を変更する必要がありますね……。」
クレアがアークに聞こえない声でぶつぶつと何かを呟いていた。クレアはこの能力の組み合わせがガチでヤバいことに気が付いたようだ。
「次は、素材のランクを落として、作ってみましょう?」
クレアはこれ以上ヤバいアクセサリーを作られると怖いと思ったのか、そう提案した。
「そうだね…。」
アークも素直に頷いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます