第56話 シオリのことと鍛冶
「実はね…。シオリから私たちに毎日連絡というか、手紙が届くのよ…。」
「は、はぁ…。」
「その内容なんだけど…。ほぼ全ての内容がアークくんに会いたいっていう内容なの…。放課後どこを探してもいないって、毎日泣いてるらしいのよ…。」
「ええっ…。」
アークは確かに放課後には出歩かない。それは授業が終わった瞬間にヤマトの部屋に行き、“転移”でアークの部屋に飛んでいるからだ。
「ちょっとシオリと会ってくれないかしら…?なんだかあの子、ちょっとおかしくなっちゃったみたいで、あの子に付いている侍女の子も手に負えないらしいのよ…。」
「あー…。すみません、僕のせいで…。分かりました。明日――いえ、今日ちょっと会ってみようと思います。」
アークはここまで放置してしまった形になるのですぐに会いに行こうと思った。アーク自身も会いたいと思っていたのだ。しかし、放課後は修行、無ノ日は冒険者ギルドで空いた時間がなかった。
「ええ、お願いね…。あ、それなら放課後の修行混ぜてもらえないかしら?あの子、素質はあるんだけど好きなことしかやろうとしないのよ。だがらアークくんに諸々お願いしたいわ。」
「はい、分かりました。そのことも含めて今日お話してきます。」
「それと、私個人から1ついいかしら?」
「――ッ!は、はい…?」
この瞬間マイの雰囲気が獲物を狙う肉食獣のように感じた。そう感じたのは皆も同じだったようで皆固まっている。
「お父様から聞いたんだけど……。なんでも、アークくんの修行方法を試したら魔法技術が格段に上がったらしいのよね……?そのことをいちいちお父様が自慢してくるの…。ねぇ……。私にも教えてくれるのよね……?」
「は、はいッ!喜んでッ!」
アークはマイに修行方法を教えることになった。それは同時に魔蓄結晶についても教えなければならないので、王城が騒ぎになったのは明らかであった。
アークが解放されたのは午後3時頃になってからだった。王城で昼食を食べても尚マイが魔力操作のコツを聞いてきて、帰るに帰れなかったのだ。
そして王城から直接寮へと送ってもらうことになり、現在自室にいた。
「じゃあ、シオリの部屋に行こうか。」
《―――そうですね。シオリちゃんの魔力を探って、そこに“転移”すれば行けると思いますよ。》
「うん、そうだね。それじゃあ―――――“転移”!」
アークは自身の魔力を薄く広げ、シオリの魔力を探した。すると、女子寮の方に反応があったので自室にいるのだろう。その部屋目がけて“転移”をした。
―――――――――――――――――――――
私はシオリ。和国シンラの第2王女。実母は第3王妃のミーシャお母様で、私は猫人族と人間のハーフなの。
前は婚約なんかしないで冒険者になろうと思ってたんだけど、今は、ドストライクなアークくんと婚約しちゃった♪
でも、最近会えてない…。学院が再開してもいつでも会えるかなって思ってたけど、会えてない…。ずっと探してるのに、見つからない…。
なんでなのよ…。最近はそのことばっかり考えちゃって、授業も集中できない…。
「あー…。アークくんと会いたいなー…。今なにしてるんだろう…?」
「ん?呼んだ?」
「きゃあ!!?」
―――――――――――――――――――――
「よっと…。着いたけど…。いないね。寝室かな?」
アークはシオリの部屋と思われる居室に到着した。侍女もおらず、シオリの魔力は寝室と思われる部屋の方から感じる。
アークは寝室のドアの方へ歩いて行くと、中から声が聞こえた。
「あー…。アークくんと会いたいなー…。今なにしてるんだろう…?」
お、声が聞こえる。なんか僕の名前呼んでたけど、なんだろう?
アークは気になったのでそのまま扉を開けて声を掛けた。
「ん?呼んだ?」
「きゃあ!!?」
シオリはベッドに横になっており、突然誰もいないはずの部屋から誰かが入ってきたことに驚いた。
「――ア、アークくん…!?」
「うん、そーだよ。なんか僕のこと探してるって聞いて、会いに来たよ。」
「――アークく~~~ん!!!」
シオリはベッドから飛び起き、アークに飛び付いた。学院の長期休暇が明けてから1度も会っておらず、ようやく会えて感動していた。
「会いに来なくてごめんね…。」
「――ううん…。大丈夫。」
「僕さ、放課後サクラとかクラスメイトたちと僕の部屋で修行してたんだ。だからシオリが探しても見つけられなかったんだと思うんだ。」
「そ、そーだったの…。」
「うん、それでね、シオリもその修行に参加しな―――」
「するわ!!」
「―――あ、うん、そう。じゃあ、放課後になったら迎えに来るから、部屋で待っててね。」
「うん、分かったわ!」
当初の予定通り、アークはシオリを修行に誘うことに成功した。その後、色々な話をして学院のことや2,3年の行事のことを聞いた。
その中で1つ、面白いと思うものがあった。それは『入替戦』と呼ばれるものである。それは、各クラスの優秀者と劣等者を選出し、クラスの昇格または降格を賭けて競い合うのだ。
入替戦は、新年度が始まる日に行われるらしい。なんでも、新入生の意識向上のためでもあるとか。1年生の参加はなく、2,3,4年で行う。
詳細は後日述べよう。
次に待つ行事はその入替戦ということで、生徒全員が昇格のため、または降格しないために必死になっているようだ。
アークたちSクラスは降格しかないので今のアークにはあまり関係がないだろう。しかし、クラスメイトとして過ごしているので、やはり1-Sの人には降格してほしくないとは思っている。
シオリとの話は夕食前まで続いた。アークは自室へ戻り、そのまま夕食を作り、クレアと2人で食べた。
無ノ日はアークの部屋で修行はしていない。冒険者ギルドに駆り出されるようになり、修行時間にアークがいるか分からないからだ。
今日は皆がいないため、アークは普段できないことをしようと決めたのだ。それは、生産活動である。
「クレア、生産設備の亜空間ってどうなってる?」
「はい。失礼ながら亜空間を勝手に増やしまして、現在は3部屋完成しています。」
「おお、そうなんだ!」
「現在も精霊たちを駆り出して作業させていますから、すぐ完成すると思われますよ。」
「――えっ?」
アークは予想もしていなかったことをクレアが言い出したので思考が停止した。アーク個人の私用のためにまさか精霊たちが駆り出されているとは思っていなかった。
「なんだか、アークと契約したいという精霊たちが私のところに殺到しましたので、手伝ってくれたら考えてもいいと言ったら是非と言うもので…。」
考えてもいいなので契約するのは確定ではないのに、精霊たちは是が非でもアークと契約したいようだ。少しでも関わりを持ちたいのだろう。
「ええー…。僕自身は契約するのは全然問題ないんだけど、契約数の上限みたいなのってあったりするの?」
「いえ、特に上限とかはないですよ。普通は1人なのですが、アークはもう既に7人と契約していますし。これ以上増えたところでなにも変わりません。」
「そーなのね…。――あっ、それなら僕と契約するんじゃなくてサクラたちに契約してもらうのはどうかな?精霊たちは僕の魔力がほしいみたいだし、僕の魔力をあげる代わりに皆のことを助けてあげてほしいからね。」
同じ属性の精霊が複数人いても仕方がないので、自分以外の仲間に契約してもらう方法を思い付いた。サクラたちは今後も一緒に活動していく予定なので是非契約してもらいたい。
「―――それはいいですね…。その方向で行きましょう。あ、でも特殊属性の精霊はアークに契約してもらいますよ。」
「特殊属性??」
「はい。ステータスの〔属性魔法〕の欄に含まれない魔法属性のことですね。例を挙げると、雷であったり氷であったり、空間であったりですね。」
「え、その属性の精霊はいるってこと?」
「ええ、いますよ。個体数はかなり少ないですけどね。」
「そうなんだ…。分かった。――それじゃあ、取りあえず生産やってみようか!」
「ええ、そうですね。まずは『鍛冶部屋』へ行きましょうか。」
アークはクレアが言った『鍛冶部屋』と呼ばれた部屋の入り口を創り出した。先程クレアからそれぞれの部屋についての情報が流れてきたので、一応分かった。
『鍛冶部屋』に入ると、まず目に付くのは一際大きな炉だ。見た目は何故か真っ白で、本当に熱に耐えられるのか分からない。しかし、“鑑定”してみると、あらゆる温度にも耐えることができるという説明が出てきて、さすがクレアと思った。
そして炉の前には木の台とその上に金床があり、その脇の棚には鍛冶道具たちが並べられてある。
巨大な炉から離れたところには、小さめの炉がある。こちらも真っ白な炉で、材質は同じだろう。その横には作業台があり、こちらは金属細工などができるようだ。
「あ、ちなみにこの部屋は時間の進行速度が速くなってまして、この部屋で5時間過ごしたとしても部屋の外では1時間しか進んでいないことになりますから、安心して生産に取り組んで下さいね。」
クレアはこの亜空間に時間加速の付与をしたようだ。アークとしても生産をする時間の確保は難しと思っていたので嬉しいのだが、気になる点はある。
「――僕がここに長居しすぎたら、皆より成長しちゃわない…?身体的に…。」
「安心して下さい。そこら辺も考慮して、成長速度は1/5にしてありますから。」
「おー…。なんか便利…。ならよかったよ。1人だけ明らかに成長してたらなんだか変だもんね。」
問題点も解決し、ようやく鍛冶をすることになった。アークは早速自分用の刀を造ることにした。
今まで使っていた『刀くん1号』と『刀くん2号』は、〔創造魔法〕で創ったものだ。しかし、どれだけ魔力を込めても切れ味は普通だし、耐久力もそこそこであった。やはり規格品のようになってしまうため、自分で打った方がいいと思ったのだ。
「では、まずは炉に火を入れましょうか。この炉は“温度保存”の魔法が刻印されてますから、〔火魔法〕ぶっ込んじゃってください。」
「あ、うん。」
“温度保存”とは〔火魔法〕と〔時空間魔法〕の合わせ技である。アークも知識として知っているが、実際に使ったことはない魔法だ。
〔火炎魔法〕――“
アークは〔火炎魔法〕で規模は小さくも、火力(温度)操作のできる魔法を炉の中に放った。温度に関しては、【
炉に火を灯すと、鍛冶部屋の温度は急激に上昇していく。それを〔多重思考〕を用いて〔水流魔法〕と〔暴風魔法〕の合わせ技で室温を下げていく。これを継続しながら、更に〔暴風魔法〕で外気を身体との間に風の膜を張り、遮熱する。
これにより、快適に鍛冶作業をすることができるのだ。
使う材料によって温度も変わるのだが、今回は〔創造魔法〕によって創り出した『魔鋼』を使う。素材であれば〔創造魔法〕を使えばキチンとしたものを創り出せるのだが、何かの加工品となると、それは何故か一律の規格品の品質となってしまう。
また、素材の品質は魔力を込めれば込めるほど質が上がり、量も増えるのだ。素材によっては魔力がバカ食いされることもあるが。
今回は魔鋼なのでそこまで魔力は持って行かれなかった。素材のランクとしては中間くらいである。ただ、産出される量に対して加工できる職人が少ないことが問題点ではあるのだが。
「――炉の温度はいい感じですね。そうしたら、あとはアークの思うようにやってみて下さい。」
「うん、分かった。」
アークは魔鋼のインゴットを1つ“時空間収納”から取り出し、炉の中に入れた。
今回創り出した魔鋼はかなりの魔力を注ぎ込んで創り出した。魔力量に対して魔鋼の量は少ないので、インゴットの一つ一つの品質は最高級である。不純物は何も入っていないようだ。
いい感じに熱された魔鋼のインゴットを取り出し、金床に乗せる。精霊鋼製の金槌(これは地の大精霊テラが造ったものらしい)を手に取り、金槌に魔力を通しながら魔鋼のインゴットを打っていく。
魔鋼を叩いて自分の魔力と馴染ませながら引き延ばし、折り返して整形して、また炉に入れる。
そしてまた取り出し、打って引き延ばし、折り返して整形して、また炉へ。
この鍛錬作業を15回程繰り返し、強度を上げていく。これにより、魔鋼の層は約33,000層に及ぶ。この作業をするのとしないのとでは強度は天と地程の差が出るのだ。
次の作業は、刀の形に整形する作業だ。また炉へ入れて熱し、再び金槌で魔鋼を打っていく。長方形のインゴットを各面打っていき、反りが特徴的な刀の形に整えていく。
何度か炉に入れて熱して打ってを繰り返し、なんとかしっかりとした刀の形に整えることができた。最後に〔水流魔法〕で水を創り出し、刀を急速に冷やした。
「――よしっ…。ひとまずは、いい感じにできたね…。」
あとは刀身を研ぐのと、柄部分を作るのと、鞘を作るので終わりだ。
「先に研ぎ作業を終わらせるか…。」
アークは打った刀身を持ち、研ぎ作業に入った。研ぎ方もこうするべきというやり方が手に取るように分かり、作業が手際よく進んでいく。
「――おおお…!」
研ぎ終わると、アーク自らの手で打った刀身は、不規則ながらも美しい波紋が浮かび上がり、その波紋は浮世絵で描かれた波のようだった。
その流れからインスピレーションを受け、柄と鍔、鞘を波をイメージして一気に作り上げた。
「――完成した…!!」
アークの鍛冶初体験にして、初作品が完成した。完成した刀に魔力を通すと、刀身の波紋を際立たせるように輝きだした。
「―――――『打波』…。」
―――パァァァ…!!!
アークが『打波』と呟いた途端、輝いていた刀が更に輝きだした。
―――――――――――――――――
ストックが切れそうなのと、そろそろ1年生編が終わるので、1年生編が終了したら少し連載お休みさせて頂きます…!
大変申し訳ないです…。
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