第55話 精霊の進化とリュウゾウの同行

「「「「「「「ふわぁぁぁ~~~~♡」」」」」」」


 7人の精霊たちはアークの魔力を注がれると、余りの快感に意識が飛んでしまった。精霊たちは、アークの魔力が美味であるという情報は分かっていたのだが、その情報は若干であるが間違っていた。


 アークの魔力は美味なのではなく、昇天するほど最上級の美味しさで、それと同時に快感を伴うものだったのだ。


「あ、あれ…。倒れちゃった…。―――って、うわ!!」


 精霊たちは突然輝きだした。それぞれの属性の色に。そして、精霊たちは気絶したままに宙に浮き、更に輝きを増した。


「――あら…。進化が始まりましたね…。」


「し、進化…?」


「ええ。精霊も進化するんです。精霊は精霊核というものを持っていて、そこに魔力が一定以上蓄えられると進化していくんですよ。順番で言うと、下位精霊、精霊、上位精霊、大精霊、精霊王、そしてそれを束ねる精霊神ですね。」


「おー…。そうなんだね。」


 アークはその辺の知識は余り知らなかったが、取りあえずは納得した。先程のクレアからの説明によると、目の前にいる精霊たちは上位精霊から大精霊へと進化をするようだ。


 精霊たちはだんだんと姿が成長していき、7,8歳くらいの容姿から、12歳くらいの容姿に成長した。それぞれかなり成長したようで、発せられる魔力が極端に上昇している。


 進化が終わると、精霊たちは目が覚めたようだ。それぞれ宙に浮かんだままだが、それぞれ自分の状態を確認している。


「や、やったわ!!進化したわよ!!」


「ええ…。魔力が湧き出てくるようね…!」


「わーい!大精霊だー!」


「はっはっは!ウチもついに大精霊か!」


「あら~。なんだか一気に強くなったような気がします~。」


「レイちゃんは、イルザちゃんに進化したのだ~!」


「うん…。格段に成長してるわね…。」


 精霊たちは進化をして、それぞれ格段に強くなった。そして、変わったのは強さや容姿だけでなく、名前も変わるのだ。




 火の上位精霊サラマンダーは、火の大精霊イフリートに。


 水の上位精霊ウンディーネは、水の大精霊オケアノスに。


 風の上位精霊シルフは、風の大精霊アエーラに。


 地の上位精霊ノームは、地の大精霊テラに。


 木の上位精霊ドライアドは、木の大精霊スプラウトに。


 光の上位精霊レイは、光の大精霊イルザに。


 闇の上位精霊シェイドは、闇の大精霊シャドウに。




 アークはここで疑問に思った。


「同じ名前の精霊っていっぱいいるんでしょ?これって、僕が名付けしちゃってもいいんじゃないの?」


「いえ…。名をもらうことのできる精霊は、精霊王からなのです。大精霊まではそれぞれ名前は統一され、名をもらうに相応しい個体にのみ、名が与えられるという掟があるのですよ。一応特例があって名付けをしなければならない子もいますが…。」


「へ~…。そうなんだね。じゃあ、もうしばらく待つ必要があるんだね?その間にいい名前考えておくね!」


 アークはクレアから精霊界における掟を教えられ、名付けはもう一段階上の『精霊王』からだということを知った。アークはどうせ名付けを行うのなら素敵な名前にしたかったので、あらかじめ考えておくことを精霊たちに輝くような笑顔で約束した。


「「「「「「「一生ついていきます!!!」」」」」」」


 精霊たちはめちゃくちゃデレデレした表情で叫んだ。精霊たちは見た目が12歳くらいになった影響か、精神年齢までもが少し上がっており、アークは庇護欲をそそられるようだ。


 この光景はさながら貴族の子息に仕えるメイドのような感じで、精霊たちはアークの言葉を聞き、忠誠を誓ったのである。


(ふふふ…。取りあえず作戦は成功ですね…。若い内から〔精霊魔法〕のレベルを上げてしまうのはマストだったので、ここで大精霊7人と契約しているのはでかいです…。10歳になって身体がある程度成長からじゃないと危険な修行もありますから、いいペース配分でしょう…。そしたら次は、生産を極めて……。ふふふふ…。)


 クレアはアークの成長計画を独自に練っており、それはクレアだけの秘匿情報である。【叡智ノ書庫アカシックレコード】から導き出された成長方針はかなり最適化されたものなので、それに加えアークの独自の閃きやアイデアを組み合わせることによって、更なる成長を遂げるだろうと確信している。


 クレアは誰にも気付かれないように将来のアークの姿に興奮するのであった。







 アークはその後、大精霊へと進化した7人の精霊たちとご褒美を兼ねて色んな話をしつつ、リュウゾウとの約束の時間を待った。このお話の最中、クレアはアークが複数創っておいた亜空間へと飛び、魔改造をしているようだった。


 そうして約束の時刻になったので、精霊たちには精霊界へと帰ってもらった。アークは“転移”で直接リュウゾウのいるギルドマスター室へと飛んだ。


「――うおッ!!…って、アークだよな…。おいおい、急にここに現れんなよ…。」


「いや~…。だって、面倒じゃないですか…。」


「それはそうだが…。まァいい。そろそろ時間なのか。うしっ。そんじゃ馬車乗って行くぜ。」


 リュウゾウは纏めていた書類を束ね、大きめのアイテム袋に詰め込んだ。恐らくこれはマジックバッグであろう。リュウゾウほどの人物であれば、仕事用、プライベート用と色々持っていそうなものだ。


「あの、僕どこ行くか聞いてないんですけど。どこ行くんですか?」


「あー…。言ってなかったか?まあ行けば分かる。楽しみにしとけ。」


「えー…。教えてくれないんですか…。まあいいんですけど…。」


 アークは行き先を結局教えてもらえず、連れて行かれるがままに馬車に揺られた。


 馬車に乗ってから40分程すると、そろそろ着くとリュウゾウが言い出した。アークは外の景色を見ていて、どこに向かっているのかがある程度予想が付いている。


「――行き先って、王城だったんですね…。」


「あ、バレたか!ガッハッハ!そうだぜ!ちょっとケンシンに報告しなきゃいけねェことがあるんだよ。」


「あー、ダンジョンです?」


「ああ、そうだ。まだダンジョン内の調査は完了してはないが、かなり深いってことだけは分かったんでな。ちなみに『光翼の癒し』がバリバリ働いてくれてるんだぜ?」


「おー。もうずっとあっちにいるんですか?」


「ああ、潜っては出て、報告、潜っては出て、報告ってのをここ1廻間は繰り返しているらしいな。」


「お、おー…。頑張ってますね…。」


 アーク自身もダンジョンがそんなに深いとは思っていなかったので、是非攻略してみたいと思った。まあ学院に通っている以上長期間潜るのは不可能なのだが。


「――うしっ。着いたか。ケンシンには前々から連絡は入れてたから、すぐ通されると思うぜ。ほら、行くぞ。」


「あ、はい。」


 アークは数廻間前まで過ごしていた王城に帰ってきて少し感傷に浸っていたが、リュウゾウに急かされてすぐに王城へと入っていく。







「お帰りなさいませ。アーク様。――それと、どうもギルマス。」


「ナギサさん、お久しぶりです。」


「――おい、なんか俺への態度違くねェか…?」


 ナギサは久しぶりにアークと会って嬉しかったが、視界にリュウゾウが入ると途端に嫌悪感を感じた。


「――それではご案内しますので、こちらへ。」


「おい、無視かよ!」


 リュウゾウの悲痛な叫びも無視され、2人はナギサに案内された部屋へと入った。この部屋は、謁見ノ間のすぐ隣にあり、以前アークが王族たちと自己紹介し合った部屋であった。


 部屋の中には、ケンシンとマイ、クシンが座っており、その背後に近衛騎士団長であるムラマサと騎士が数名控えていた。


「おう、ケンシンにマイ。そんでクシンにムラマサもいんのか。久しぶりだな!」


「リュウゾウ、久しぶりだな。それにアーク、お前は3廻間ぶりか。相変わらずはちゃめちゃやってるみたいだな!ガッハッハ!!」


「久しぶりね。アークくんも、元気だった?――あっ、ミカゲちゃんとの婚約おめでとう。」


「ケンシン様、マイ様ご無沙汰してます。――婚約については、なんだか増えてしまった申し訳なく思っていたのですが……。」


「ふふふ。いいのよ?サクラとシオリを幸せにしてくれさえすれば、いくらでも増やしていいのよ。」


「あっ、そうですか…。――あ、クシンさんとムラマサさんも、お久しぶりです。」


「ええ、お久しぶりですね。活躍は聞いていますよ。」


「おう、久しぶりだな。あんま話す機会もなかったが…。」


 部屋に入るとお互いに挨拶と軽い会話をして、早速リュウゾウが本題に入った。リュウゾウはこういった会話はあまり好きではないのだろう。


「早速だが、報告に入ってもいいか?」


「ああ。いいぜ。取りあえずダンジョンができたっつう報告は聞いたんだが、そこんとこの詳細だな?」


 ケンシンもある程度は聞いているようで、ダンジョンが発生していたことは知っているようだ。しかし、書面上や簡易的な報告であると思われるので詳しいことは知らないのだろうが。


「ああ。レギオンアントの巣があそこまで大規模になったのはダンジョンから湧いてくる魔物をクイーンが餌にしていたからっぽいんだ。まあレギオンアントは無事討伐したんだがな。――そんなことより、今『光翼の癒し』を中心に調査隊を組んでダンジョンに入ってもらっている最中だ。まだ入り始めて1廻間しか経ってねェからなんとも言えねェが、『光翼の癒し』が、入った感じ、かなり深いと思われる、と言っていた。あいつらは割とダンジョンの経験がある奴らだからある程度は信用できる。」


 リュウゾウは今分かっていることを報告した。レギオンアントの規模が大きくなった要因と、ダンジョンがある程度深いと予測されることだ。今のところこれくらいしか分かっていないのだが、こまめな連絡は大事なのでこれくらいでも報告したのだろう。


「――そうか…。そのダンジョンはレギオンアントの巣の最深部にあるんだろ?巣の入り口から歩いてどんくらいかかるんだ?」


「…アーク、どうなんだ?」


「あっ、僕ですか。はい、3時間くらいですかね。ダンジョンアタックをするのにはちょっと時間的にロスがあって面倒な面がありますね。」


「んー…。そうなるな…。」


「あら、それならレギオンアントの巣を利用して街を造ったらいいんじゃない?」


 アークから情報を得て、その面倒さに悩んでいたケンシンにマイがそう言った。


「おお、いいなそれ。でも、巣の中って暗いんじゃねェか?」


「いえ、なんか、壁がちょっと発光してましてそこまで暗くはないですよ。」


「ん?なんだかダンジョンみたいなんだな。まあそれならそれで都合はいいな。よし、リュウゾウ。巣の中に街を造る案、どう思う?」


 ケンシンはギルドマスターであるリュウゾウに問いた。ダンジョンの管理は基本国が主体で行うのだが、冒険者ギルドの提携して運営するのが一般的だ。ダンジョンに近くには簡易的なギルド出張所を設けなければならないので、その兼ね合いもある。


「ああ、いいんじゃねェか?手配の方はどうする?俺が手配するよりクシンの方が腕は良さそうだが。」


「ええ。私の方で進めさせていただきます。ただ、視察をしてみないと全体像を把握できませんので、一度赴く必要がありそうですね。」


「おお、ならクシン、行ってきてくれ。」


「はい、兄様。では明日行って参ります。」


 クシンは自ら行くことにしたようだ。ケンシンからの信頼も厚いようで、やはり有能なのだろう。


「王都にダンジョンが2つ目ってなると、かなり賑やかになりそうだな!」


「ああ、他のダンジョン都市に比べちゃ少ねェが、それでも人は集まるだろ。」


 王都には実際3つのダンジョンがあることになる。もう1つはシンラ王立学院の地下にあるダンジョンである。しかし、ここに入ることができるのは学院の生徒や教師、または引率者のみである。そのため、基本は王都にはダンジョンが1つとされてきていた。


 しかし、今回少し離れている場所にできたので劇的に王都に人が増えるということはなく、レギオンアントの巣にできた街に人が溢れるのだろうが。


「――と、まあ報告はこんな感じだ。んで?ケンシン。アークになんか用事あったんだろ?」


「ああ、そうだったぜ。」


 アークが王城に連れてこらされた理由はどうやらケンシンがアークに用事があったようだ。アークも報告の途中で自分がいる意味はあるのかと疑問に思っていたのだが、そういうことだった。


「そのことについては私から話すわ。」


 ケンシンからの用事だと思っていたら、マイから話すと言ってきた。ケンシンも心なしか乾いた笑みをしているようで、言いづらいことのようだ。


「実はね…。シオリから私たちに毎日連絡というか、手紙が届くのよ…。」


「は、はぁ…。」


 アークは予想もしていなかった方向の内容でその言葉しか出なかった。

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