第54話 【神威ノ創造手】と精霊たちへのご褒美

 次の日の朝1-Sの教室に入ると、ミカゲがクラスメイトたちに絡まれていた。どんな質問をされているのかは分からないが、ミカゲは顔を真っ赤にしてタジタジである。


「おはよー。」


「あ!来ましたわ!噂の公爵様が!」


「おうおう、どっちから申し込んだんだ!?」


「あら、それはもちろんミカゲさんでしょう?あんなに好き好きオーラを振りまいてましたもの。」


「ちょ…!そ、そう見えてたの…!?」


 ミカゲは真っ赤にしていた顔をもう湯気が出るくらいに恥ずかしがっていた。


「そうですよ?気づいてないのは恐らくアーク様自身くらいでしたよミカゲちゃん?ふふ。」


 サクラがミカゲにそう言った。実際はアーク自身も気付いてはいたのだが。


「ははは。でも、よかったねミカゲ。君は恋愛とか興味なくて適当な婚約者をあてがわれるパターンだと思ってたけど、無事意中の相手と婚約できてさ。」


「サ、サクラにジンまで…!」


 ジンはいつも一緒に修行をしているので皆よりは早く知っていたが、この会話に混ざって楽しんでいた。


 そうして数分話していると、ジュウベエが教室に入ってきた。


「おーう、お前ら席着け-。お、ミカゲとアーク、おめでとうな!それにミルもな!」


「「「「「ミルも!?」」」」」


 ジュウベエは何故かミルとの婚約も知っていた。恐らくルーミニアに聞いたのだろうと考えられる。


「ミルさんとも婚約したんですの!?」


「マ、マジか!それは知らなかったぜ…!」


「は、はいです~…。隠すつもりはなかったですけど、ミカゲちゃんの話題に引っ張られたです…。」


 ミルは貴族でもなければこの国出身でもないので、敢えて自分から言い出さなかった。貴族なら体裁を気にするのでお付き合いをして、別れるというのは基本NGであるので婚約という形にしている。


 しかし、ミルの場合は身分的には平民と一緒なので、婚約はしなくてもいいのだ。ただお付き合いしていると言えばいいし、その後別れても特に何もない。


 しかし、ミルはエルフという特殊な立ち位置にいる。エルフは実際伴侶を見つけるのは100歳以降が一般であるのだが、ミルはもう心に決めてしまったので婚約という形を取ったのだ。


「おいおい、静かにしろー。いいかー?今日は特に連絡はなしだ。午後はいつものように訓練場な。遅れるなよ!じゃあな!」


 ジュウベエはそれだけ言い残して去って行った。これもいつもの光景である。





 こうしていつもの学院生活がまた1廻間始まった。


 特に学院の行事というのはなく、午前は座学、午後は訓練場での魔法などの授業であった。ここ最近は魔法を教えてくれる先生はアークの魔法技術に惚れ込み、本当なら教える立場だが、アークに教えてもらっている。その授業態度は周りの生徒たちが引くほどだ。


 武器を扱う方はジュウベエが教えており、実際アークの方が強かったりもするのだが、ジュウベエは頑なに「俺が教えるんだ!」と譲らない。そもそもアークは自ら教えたいとは思っていないのだが。


 そして学院は終わり、アークの部屋での修行が始まる。この修行が始まって約2廻が経過したが、クレア視点ではまだまだ全員アークがこの世界に転生して3日くらいの技術にも満たしていないように見えている。


 それでも半神体であるアークがヤバすぎるだけなので、クレアとしてはサクラたちの成長が遅いとは思っていない。むしろ、【叡智ノ書庫アカシックレコード】からの情報としてはかなり成長が早い方だと分かっている。


 だからこそ、クレアは皆の成長が楽しみだし将来アークと共に旅をする仲間として認め、真剣に指導をしているのだ。


 魔力操作が1番上達しているのは、やはりそれだけを繰り返しているミルとツバキである。2人とも、元々魔法適正が高かったこともあるが、クレアが直々に魔力の操作方法や二人の苦手としているものの指導をしっかりしているため、成長が目覚ましい。


 刀術の方は、こちらは3人とも同じような進行具合であった。3人とも刀術、歩術の基礎的な技は習得はしたものの、練度はまだまだである。それに、戦闘を行う上での足裁きもまだまだである。


 これはアークが頭の上に木板を乗せて落とさないように歩くといった修行方法で改善しようとしているが、まだ一向に上達はしていない。


 なにはともあれ、まだ6歳であり、これからであるとクレアは考えているため、ゆっくり指導をしていく。






 そうして、3ノ月3ノ廻無ノ日。学院に入学して3度目の無ノ日だ。この日もアークは冒険者ギルドに出頭命令が出されていた。


 別に冒険者ギルドに来いというならそれはそれでいいのだが、ルドで帰る前に聞いたのにわざわざヤマトを通してクラスメイトの前で知らせなくてもいいだろう。


 これにより、サクラたちにまた冒険者ギルドに行くことがバレる。そしてまた無茶をしないでと説教をされるのだ。


 そんなことは置いといて、今回も朝早くから冒険者ギルドへと出頭した。


「よォ、アーク。朝早くから悪ィな!」


「いえいえ…。それで、今日はどんな依頼なんですか?」


 今日はいつもの応接室ではなく、ギルドマスター室へと通された。


「ああ、今日の依頼なんだが――っと、その前に、これ。お前、ギルドカード受取忘れただろ。返しとくぜ。」


「あ、すみません。」


 アークは先廻の時、すぐに帰りたかったので解散と聞いてからすぐに“転移”で帰ったのだ。アーク自身そのことに全く気付いておらず、言われて気付いた。


「おう、気を付けろよ。そんで依頼についてなんだが、今回は特にこれと言った依頼がなかったんだよなァ…。」


「ああ、それじゃあ帰っ――」


「だから、今日は1日俺の付き添いで着いてきてもらうぜ!」


「―――なぜ…?」


 依頼がないと聞いてなぜ出頭させたのかという疑問があったがまあないに超したことォはないと思い、早速帰ろうとしたら、なんだかよく分からないことを言ってきた。


「まあまあ、お前も知ってる場所だから、そんな気にすんな!そこに行くのは10時くらいだから、それまで好きなことしてていいぜ?本当は模擬戦したかったんだが、書類纏めなきゃなんねェんだ。すまねェな。」


「いえ、大丈夫です。」


 模擬戦をするとリュウゾウがかなり熱くなるのでアークとしては願い下げであったため食い気味に大丈夫と言った。


「ああ、出発は9時だ。一応馬車で行くから、9時前にこの部屋に来てくれ。」


「分かりました。それでは。」


 アークは集合時間と場所を聞いて、すぐに“転移”で寮の自室へと飛んだ。珍しく空いた時間でやりたいことがあったのだ。


「――おお。戻るのか。てっきりギルドには残っておくのかと思ってたぜ…。」


 リュウゾウはポツリとそう呟き、これから報告しに行くための書類を纏める作業を始めるのであった。











「ねえクレア?早速生産系にチャレンジしてみたいんだけど、どうかな?」


 アークは自室へと戻り、自分以外誰もいない空間へと声をかけた。すると、アークのすぐ側に銀色の魔法陣が現れ、そこから10歳ほどの見た目の美しい銀髪の少女が現れた。


「ええ、いいと思いますよ。それでは早速、スキルを創造しますか。」


「うん、任せるよ。お願いね。」


 アークはスキルの創造を全てクレアに任せていた。実際アークにも作ることができるが、クレアはそういったサポートを献身的にやりたいタイプなのだろう。自らやると言って聞かないのだ。


「―――〔創造魔法〕により〔鍛冶〕スキルを創造します。―――完了しました。スキル:〔鍛冶〕を獲得しました。続いて〔調合〕スキルを創造します。―――完了しました。スキル:〔調合〕を獲得しました。続いて〔調薬〕スキルを創造します。―――完了しました。スキル:〔調薬〕を獲得しました。続いて〔木工〕スキルを創造します。―――完了しました。スキル:〔木工〕を獲得しました。続いて〔石工〕スキルを創造します。―――完了しました。スキル:〔石工〕を獲得しました。続いて―――」


「ちょ、ちょっと待って?これ、あと何個くらい、続くの…?」


「―――30以上はありますかね?」


「…。スキルの欄見づらくならない?」


「最後に纏めようと思ってましたが、もう纏めて獲得してしまいますか?」


「あっ、うん。お願い。」


「分かりました。―――任意の複数のスキルを創造します。―――――――――――――――――――完了しました。続いて、獲得したスキルの統合を開始します。―――――――――――――――――完了しました。固有能力:【神威ノ創造手かむいのそうぞうしゅ】を獲得しました。」


「お、おおぉ――――」


神威ノ創造手かむいのそうぞうしゅ】を獲得した瞬間、様々な情報が頭の中に濁流のように流れ込んできた。〔鍛冶〕や〔調合〕を獲得した際には基礎的な知識しか流れてこなかったのだが、【神威ノ創造手かむいのそうぞうしゅ】を獲得した瞬間、統合されたであろう全てのスキルのコツや使い方など、ありとあらゆることが流れ込んできたのだ。


「なんか、すんごい、溢れるような…?」


「――ふふ。感じました?私の――【叡智ノ書庫アカシックレコード】の知識を詰め込みました!」


 クレアはこの【神威ノ創造手かむいのそうぞうしゅ】を創るのにかなりはっちゃけてしまっていた。本来統合するだけなら〔生産職ノ心得せいさんしょくのこころえ〕といったスキルになるはずなのだ。


 そのスキルは自ら練度を上げていかないと使い物にならないのだが、【神威ノ創造手かむいのそうぞうしゅ】の場合どんな作業でもどのようにしたら最高品質なものが造れるのかが分かってしまうのだ。


 まあ、それでも最初から最高品質を造れるとは限らないのだが。やはり知識があるのと経験があるのとでは違うということなのだろう。


「おお…!さすがクレアだね…。それじゃあ、この後は何しようか…?」


「そうですね…。取りあえず生産をする施設が必要ですから、創ってしまいましょうか。」


「――施設を、創る…?」


「はい。〔時空間魔法〕で亜空間を創り出して、その中に炉などの生産設備を造るのです。」


 アークの〔時空間魔法〕はかなり便利なもので、別の次元に様々な効果を付加させた空間を魔力量にものを言わせて創ることができるのだ。


「――しかし、どうせ創るのなら超高性能な設備がいいと思いますので、私の方で時間をかけて造っておきますね。それに素材等もあまりありませんから、今日は生産については保留ということで。」


「んー、そっか。…でも、そしたら暇になるね。どうしようか…。」


「それでしたら、1つ済ませておきたいことがあります。」


「なに??」


「はい。それでは―――」


 クレアが手を挙げると、7色の魔法陣が現れ、その中から精霊たちが現れた。クレアは精霊たちのご褒美の精算をこの機会に一気にやってしまおうと思っていた。


「アーク-!!来たわよ-!!」


「ふふ。ご褒美、何してもらえるのかしら?」


「わーい、ご褒美だね-?楽しみだよ-!」


「おうおう、ようやくか!待ってたぜ!」


「あら~。楽しみですね~。」


「レイちゃんも楽しみ~!」


「ええ…。私も…。」


 7人の精霊たちはどのようなご褒美がもらえるのか知らされていないので、今か今かと待ちわびていたのだ。


「あ~…。うん、そうだったね。それで、どうすればいいの?」


「そうですね。1人ずつ魔力を注ぎ込んであげたらいかがですか?」


「えっ、そんなことで―――」


「「「「「「「いいの!?」」」」」」」


「――え、いいけど…。なにか特別なことなの?」


「ええ。精霊にとって魔力を注がれるということは精霊としての核が成長する――人間で言うとレベルが上がることを意味しています。そして核が一定以上成長すれば、進化することも…。って感じですね。」


 精霊は人間と同じように魔物を倒すことで経験値を獲得し、それを魔力に変換して自分の『精霊核』と呼ばれる核に蓄え成長、進化していくのだ。


 精霊は各属性のランクごとに名前が変わり、精霊界には同じ名前の精霊が大量にいるのだ。そして、精霊たちはそれぞれ進化をして名前を変えるということが生きる上での目標とも言える。


 そして、精霊は契約主から魔力を注いでもらうのが契約をする上での条件に含まれるのだが、それが精霊にとって微々たる魔力でしかないのが普通なのだ。


 アークたちが行っている魔蓄結晶へと魔力を移すという修行で分かることだが、誰も彼も魔力操作がなっていないので、上手く魔力を注ぐことができない。しかし、精霊たちはそんな微々たる魔力でも欲しいのだ。


 7人の精霊たちはアークから魔力を注いでもらえると聞いて、かなり舞い上がっている。アークから大量の魔力をもらえるのはもちろんだが、アークの魔力はかなり美味なのだ。人それぞれ魔力に違いがある中で、アークの魔力は特に最上級の味がするらしい。


 精霊たちはアークから発せられる魔力を精霊界から観察していたとき、あれはヤバいと情報共有をして、〔精霊魔法〕がLv.10になったときに押しかけたのだ。


 まあ、これはクレアが精霊たちを思考誘導させたのもあるのだが…。これはクレアの秘密の1つである。


「じゃ、じゃあ一気に注いでいくね。」


 アークは一人一人に注いでいくのは面倒だと思ったので、全員一気に注ぐことにした。本来任意的に精霊に魔力を注ぐ場合、触れて魔力を注ぐのが一般的、むしろそうしないと注ぐことが困難なのだが、アークの魔力操作技術はかなりのものなので、触れずに注ぐのは容易なことであった。


 アークは全身から魔力を解放するように放出し、それぞれ7属性を属性ごとに束にしてた。魔力を視認できるものがいれば、7色の尻尾が生えたみたいだという感想が出るだろう。


 そして、それぞれ束ねた魔力をそれぞれの属性の精霊へと繋ぎ、魔力を注いでいく。


「「「「「「「ふわぁぁぁ~~~~♡」」」」」」」


 精霊たちは至福の表情で仰向けにバタリと倒れた。

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