第51話レギオンアントの巣再び
「おーー…。まだレギオンアントの処理が終わってないんですねー…。」
「そうね…。あれだけ大量にいたら、大変よね。」
巣穴の周辺、荒野と化した一帯には、レギオンアントとその上位種たちの死体が大量に並べられ、大量の人員により解体作業が進められていた。
解体された素材たちは、次々と来る馬車に乗せられ運ばれていく。その方向は王都方面ではなく、各方向へと向かっていた。
「王都はこっち側ですけど、王都には運ばないんですか?」
「ええ。多分だけど、王都にこれ以上運んでも捌ききれないんだと思うわ。だったら他の街とかに送ってしまおうってことなんじゃないかしら。」
アークの疑問に、ルーミニアが答えた。ルーミニアが答えた内容は正解で、リュウゾウは荒稼ぎしようとサブギルドマスターであるシュウと企み、各都市の冒険者ギルドや商業ギルド等にこの素材たちを売りつけていたのだ。
「なるほどですねー…。」
「それよりも、早く行きましょうか。巣の中にも魔物がいるみたいだし、早めに片付けましょう。」
ルーミニアの言葉により、一行は巣の中へと入っていった。アリの巣と言えば細長いイメージがあるのだが、この巣はルークのような巨体でも楽々と進むことが出来るほどの大きさで、直径10mほどある。
調査と言っても隅々まで詳しく調査する訳では無いのでそこまで時間はかからないが、ある程度、魔物がいないかだったり素材が落ちていないかなどの調査はしていく。
このレギオンアントの巣は階層という概念は無いが、斜面となっている道がかなりあり、水平面となっている所は部屋のように道より広くなっていた。
2時間ほど調査をしながら進み、中層くらいまで進むと、ようやく3体の魔物と遭遇した。
「「ギギィィ!!」」
その魔物は生き残りであるレギオンアント・ポーンであった。
「お、ようやく魔物が来たな。」
早く戦いたくてウズウズしていたウィルは早速剣を抜き、臨戦態勢に入った。しかし――
突如アークの周りに4つの魔法陣が現れ、薄赤色の魔法陣からサラマンダーが、薄黄色の魔法陣からレイが、薄紫色の魔法陣からシェイドが、緑色の魔法陣からドライアドが出てきた。
4人は乱暴に押し出されたような感じで飛び出してきた。恐らくクレアが無理やり連れてきたのだろう。
「よーし!!私たちの出番のようね!!」
「レイちゃん頑張るもんね〜!」
「活躍して、許してもらう…!」
「あら〜。私もですか〜?」
「「「「「「「「「えええ!!!!精霊が4人も!?」」」」」」」」」
『虎の咆哮』の6人に加え、『光翼の癒し』のリンカ、ルーミニア、カールニアの3人も驚いていた。イワオとシズはうんうんと頷くのみであった。
《―――これは罰ですから、しっかり働きなさいね?そうしたら、アークからご褒美あげますから。》
「「「「死ぬ気で頑張ります!!」」」」
ちょっとクレア…。まだウンディーネたちにもご褒美あげてないのに約束しないでよ…。
《―――ふふ…。ごめんなさいね。アークからのご褒美が今精霊界で話題らしくってつい…。そのうち大精霊たちや精霊王たちもそれ目当てで言い寄ってくるかも知れません。》
えっ!それは聞いてないよ!!
アークはまさか精霊界で有名になっているとは知らずにいたので、かなり驚いた。
しかし、そもそも最強である精霊たちが自分に仕えてくれるなどとは思っていなかったので今は軽い気持ちでいた。実際は上位精霊もかなり強い部類に入るのだが。
そして、4人の精霊たちは一瞬にしてポーンたちを消し炭へと変えた。
「あははー…。なんか、4人が頑張ってくれるみたいなので、皆さん気軽に行きましょー…。」
「ア、アークって、7属性の上位精霊を召喚できるのね…。やっぱり、神様の使いなんじゃないの…?」
「討伐作戦の時に3人、今回で4人…。それも全部属性が違うわよね…。フォレストピアの大爺様の孫なら、当たり前なのかしら…?」
まともな感想を言えたのはリンカとルーミニアのみであった。カールニアは呆れ笑いをするのみで、『虎の咆哮』の面々は顎が外れるくらい驚いていた。
「ル、ルーミニアの姐さん!!そ、その『フォレストピアの大爺様の孫』って…!本当なのか!?」
「え?ええ。本当だと思うけど…。アークくん、本当?」
ウィルがよく分からないところにツッコんでいたが、本当のことなので素直に頷いた。
「そうですけど…。どうかしたんですか?」
「「「「「「は、ははぁぁぁ!!」」」」」」
「うわ!ちょっと!!」
『虎の咆哮』の6人が一斉にその場で平伏した。
「やめてくださいよ!急にどうしたんですか…!」
「お、俺たちはフォレストピア大森林出身なんだ―です、!大爺様の孫とは知らず…!も、申し訳ない―です!」
「「「「「ごめんなさい!!」」」」」
う、うそ〜……。爺ちゃんそんなに敬われてるの〜……。
「もうやめてくださいよ…!爺ちゃんには悪いようには言わないですから!むしろ普通に接してくれないと悪く言いますよ!!」
「んな!!それは勘弁を!!…わ、分かったぜ。とりあえず、分かったぜ…。――それにしても、キャラ濃いなー…。お面に公爵様に精霊様に大爺様の孫…。頭が痛いぜ…。」
たしかに僕キャラ濃いかも…。でもまぁ修行に影響ないしいいか。
《―――どこまでも修行が大好きですね…。》
別に修行が好きなんじゃなくて、できるようになることが増えるのが好きなのさ。
前世ではなにをやっても人並み以下であったアークはこれ程までできることが増えるという経験は快感に近い感覚があった。
だからこそ、常に自分を高められるようになったのだ。
《―――なら次は、生産系に手を出してみますか?錬金術や鍛冶など、極めれば面白いと思いますよ?》
おー、いいね!空いた時間があれば生産系にも手を出してみよう!!
「あー、そう言えばあなたたちはフォレストピア大森林出身だったわね。その大爺様って、私は会ったこともないんだけど、やっぱり凄い方なの??」
「そりゃ凄いですよ!!フォレストピア大森林全域に結界があるのは知ってると思いますけど、その結界は何十種類の効果が詰め合わされてるんすよ!?それを大爺様は一瞬で展開したらしいです!詳しくは忘れましたが、あれは三大賢者ですら不可能なんですよ!!」
「そ、そうなの。凄いわね、それは…。」
その凄さを分かるルーミニアはしみじみと頷いた。
「そ、そんなことより、早く進みましょう?まだ魔物もいると思うので時間かかりますよ。」
「ええ、そうね。早く進みましょうか!」
アークとしては早くこの空気から解放されたかったので、先へ進もうと促した。
その後もレギオンアントが現れ続け、それを精霊4人が瞬殺をするというのを繰り返していった。
見慣れた作業を見続けながら調査をしていくこと3時間。
途中、隠し通路のような小さい通路を発見し、その中からビショップや通常種が出てきたり、ジェネラル率いるナイトやポーンの集団が襲ってきたりした。
それでも精霊たちは一瞬で消し炭へと変えていたのだが。
そして、討伐作戦の時にルークが立ちはだかった広い空間へと到着した。
その空間には、ルークが1体にジェネラル、ビショップ、ナイトの集団と、他の種類の魔物の死体がたくさん転がっている景色が広がっていた。
レギオンアントたちはその死体たちを食べており、こちらには気づいていない様子であった。
「――なんでこんな下層にこんな弱い魔物たちがいるのかしら…?狩りをしに出たとしても、今は冒険者たちが上にいるし無理なはず…。」
「そうだな…。可能性としては別の入口があるか、それともここで発生したか、だな…。」
ルーミニアの疑問に、カールニアが答えた。
魔物の発生は3パターンあるとされている。1つ目は、魔物から生まれるパターン。2つ目は、魔素溜まりから突発的に生まれるパターン。3つ目は、ダンジョンから生まれるパターン。この3パターンが今知られているパターンである。
「そんなことより、倒しちゃっていいかしら!!」
「レイちゃんがぶっ飛ばしちゃうよ〜!」
「あ、今回は素材残して!ちょっと試したいことあって素材欲しいんだ!」
アークは生産系に手を出すために、とりあえずの素材が欲しかったのだ。
「わかった…。とりあえずサラマンダーは攻撃しないで…。」
「なんで!!私も役に立ちたいわ!!」
「あら〜。サラちゃんが攻撃したら、燃えちゃうのよ〜?だから今回は遠慮してほしいわ〜。」
「んぐ…!!分かったわよ…!!」
サラマンダーの攻撃では確かに素材が燃えてしまい、使い物にならなくなってしまう。そのことを理解したサラマンダーは大人しく引き下がった。
「じゃあレイちゃんが1番デッカイのやる〜!シェーちゃんとドラちゃんは他のおねが〜い!」
「まぁいいわ…。ドライアド、あっちお願い…。こっちは私がやる…。」
「いいわ〜。すぐ終わらせるわ〜。」
3人はそう言って各々の配置へと散っていった。
最初に攻撃し始めたのは、シェイドだった。左半分に固まっていたレギオンアントたちを闇属性のオーラで包み込むと、そのオーラで包まれたレギオンアントたちは急に苦しみ出し、そのまま死んだ。ほんの数秒であった。
次に攻撃し始めたのは、ドライアドであった。地面から先端が刃のようになっている根を大量に生やし、そのままレギオンアントたちの首を一瞬にして刈り取った。
最後は、レイであった。こちらは2人に比べて大仰とした技を使って倒した。レイは巨大な光の鋏を作り出し、「チョッキ〜〜ン!!」と明るくも残酷な言葉を発しながらルークの首をちょん切った。ルークも突然現れた光の魔力に戸惑っていたが、何かしようとする間もなく死んでしまった。
「おお〜。お見事。」
そんな彼女らの作業を見て、アークは感心していた。毎回毎回消し炭にしていたのでこういったことはしないのかと思っていたが、お願いはしっかり果たしてくれた。これからも細かいお願いはしていこうと思ったアークであった。
アーク以外の面々は今まで消し炭にしてきたのを何度も見てきていたので、特に驚くことはないようだ。
アークは戻ってきた3人にお礼を言い、回収して欲しい旨も伝えると、今度はやることのなかったサラマンダーが誰よりも必死に回収してくれた。回収した死体たちは、アークが〔時空間魔法〕である“時空間収納”に突っ込んだ。
この“時空間収納”は、まだアークがフォレストピア大森林にいた頃に開発した技で、クレアと相談しながら創ったものだ。最初はただの時が止まる倉庫みたいな役割だったが、現在では時間の経過を早めたり遅めたり、混ざっているものから要らない成分を取り除いたりなどのようなこともできる。
アークはこれまでこの能力を使う時、常に誰もいない状況で使っていた。そのため、隠さなきゃいけないというのは分かっていたのだが、今回は気を抜いてみんなに見られてしまった。しかもいつもは魔法袋を使っていたのだが、魔法袋に入れる際には必ず手で触れなければならないので、少し不便だなぁと思い、“時空間収納”を使ったのだ。
「アーク…?それって…。伝説の〔収納魔法〕よね……??」
「あ。」
アークはやらかしたと思い、あ。としか言葉が出なかった。それは肯定の意味で捉えられ、全員がアークが〔収納魔法〕を使えると勘違いした。実際は〔時空間魔法〕なのだが。性能で言えば、後者の方がよかったりもする。
「あら〜。秘密ですよ〜?」
「ちょっと〜。私の真似しないでください〜?」
アークはなんとか誤魔化そうとドライアド風に言ってみた。
「…はぁ。大丈夫よ、アークくん。私たち冒険者は人のスキルや魔法を許可なく口外するのはマナー違反なの。例えそれが貴族や王族でもね。もちろんギルマスにも言わないわ。――でも、人前で使わない方がいいわよ?」
ルーミニアがそう説明してくれた。冒険者にも独自のルールみたいなのがあるようで、冒険者同士の結束は強いようだ。アークは冒険者ギルドにとってかなり有益な存在であるので、口外してアークを手放すといったことはしないだろう。
「ならよかったです。それにしても、お腹すきません?今日はここで野営?しましょうよ。」
「そうね。とりあえずこの魔物の死体も処理してから端っこの方で設営しましょうか。」
「死体処理なら任せて!!私がやったげるから!!」
先程出番がなく、回収作業でも満足しなかったサラマンダーが率先して手を挙げた。
「お、ありがとうサラ。お願いね。」
「―ッ!サ、サラって…!!ま、任せておきなさい!!」
アークから愛称であるサラと呼ばれたサラマンダーは照れて顔を赤くした。それを隠すようにすぐに飛び立ち、魔物の死体たちを綺麗にしていった。
「――あの子、チョロいのね…。」
密かに精霊という存在に憧れを持っていたルーミニアは寂しそうな表情をして呟いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます