第50話 調査依頼と『虎の咆哮』

「さて、報酬の件は一旦終わりだ。そんで、次なんだが…」


「えっ、依頼なんです……?」


「勿論だ!ガッハッハ!そのために“光翼”たちを呼んだんだからな!」


 最初からいたのは“享楽の盾”が謝罪するためじゃなかったのか…。まあなんとなくそんな気はしてたんだけどさ…


「お前には、“光翼”たちともう一つのパーティーとでレギオンアントの巣に調査に行ってもらう。あそこにあんな巨大な巣を作るとなると、さすがに気付かない訳ねェしな。なんかの原因があるはずなんだ。それの調査だな。」


「アーク、私がいるから安心よ!!私に任せておきなさい!!」


「私“たち”でしょ。もう…。私たちとしてはアークくんがいた方が効率的に調査を進められると思っているわ。引き受けてくれないかしら…?」


 アークとしてもあのレギオンアントの巣の規模は以上だと思っていた。その調査ともなれば、かなり重要な依頼であり、失敗はできない。しかし、正直『光翼の癒し』がいればそれだけで大丈夫なんじゃないかと思ってきた。


「えーっと…。僕がいなくても大丈夫じゃないですか…?僕、報酬ももらい過ぎちゃいましたし、なんか逆恨みされそうで怖いし。それに―――」


「それ、受けるわ-!!アークが受けてあげるわ!!!」


 突然アークの近くに赤い魔法陣が浮かび上がり、その中から火の精霊が飛び出てきた。1人で。


「うおッ!!なんだ!――って精霊か…。おーし、じゃ、受けるって言質も取ったし、早速行ってきてくれ!!ガッハッハ!!」


 突然現れた上位精霊、それも今まで見てきた3体の精霊と違う属性の精霊が出てきたことにここにいる全員が唖然とした。


「ちょ…!ちょっと!サラマンダーなに勝手に受けてるのさ…!」


「だって、私たちをいつまでも呼んでくれないんだもん!!私はこんなにアークのこと、好きなのに……!!――ってあれ!?皆は!?」


 サラマンダーは、他の3人の精霊、レイ、シェイド、ドライアドと共に出てきたつもりであったが、何故か自分しか出てきていないことに慌てふためいた。


 因みに何故かと言うと、勿論クレアの悪戯である。この計画は最初からクレアには筒抜けであったのだ。しかし、この、依頼を受けるタイミングで出てくるとは思っておらず、サラマンダーは完全に召喚されてしまった。


 本来クレアがしようとしていたことと言うと、魔法陣から頭しか出ずに藻掻く姿を見るというものであった。それも4人とも。


 クレアは予想外のタイミングに失敗した。しかし、そうなればクレアも作戦変更である。


《―――あら、サラマンダーちゃん…?あなた、勝手に出てきて…。分かっているのかしら…??》


「ひ、ひぃぃぃぃ…!!!ご、ごめんなさいクレア様ぁ!!」


 応接室に響くクレアの声にサラマンダーは恐れおののき、ジャンピング土下座をして謝罪した。


 その様子を見ていた面々は、やはりクレアは凄まじい存在であることを理解した。


《―――ふふ…。サラマンダーちゃんには、罰が必要ですね…。この依頼、馬車馬のように働いてもらいますからね…?》


「イ、イエッサー!!クレア様!!」


「――えっ、これってやっぱり僕も行くの…。」


「ガッハッハ!!勿論だぜ?もう一つのパーティーはもう既に城門の方にいるだろうから、急いで行けよ。あ、それと報酬もらってから行けよな!」


 こうしてアークは結局指名依頼を受けることになったのだ。









 受付で受付嬢のマリさんから報酬を受け取ったアークは、『光翼の癒し』と共に城門へ歩いていた。


「――それにしても、上位精霊を近くで見られるなんて、凄いわよね…。」


「ええ…。でもこの様子を見てると、ただの女の子に見えるわよね…。」


「えへへ~。アーク、やっと会えたね!!嬉しい!!大好きよアーク!!でも、もっと呼んでくれなきゃイヤ!!」


 サラマンダーは絶賛アークに文字通り絡みついていた。腕に抱きつき、頬ずりしまくっている。目はハートになっており、もうゾッコンであることがひと目で分かる。


「わ、分かったから…!後で呼ぶよ…!だからちょっと離れて…!」


「え~?イヤ!!でも、大好きって言ってくれたらいいよ?えへへ~。」


「んー…。だ、大好きだよ…?はい!言ったよ!だから離れて!」


「えへへへ~~。うん、分かった~!!」


 アークはここまでサラマンダーが積極的だったとは思っておらず、かなり戸惑っていた。ペースが崩されるのでちょっと止めて欲しいと思っていた。


「でもこの精霊、ちょっとヤバいわね…。」


「……確かに。」


 クレア…。この子、こんなだったっけ…?


《―――いえ、最初はそんなことなかったですが、よっぽどアークがドタイプなんでしょうね。火の精霊ともあって、直情的なんですよ。》


 そっかー…。でも恥ずかしいよ…。クレア、なんとかして…。


《―――ふふ…。分かりました。―――はい、サラマンダーちゃんに直接情報を送ったので、そこまで負担にはならないと思いますよ?》


 サラマンダーはクレアからなにかを送られた途端、ビクッとなり、それからはなんだか大人しくなった。ともあれ、これで平穏が訪れたのでよかった。


 しばらく歩くと、城門にかなり近付いてきた。城門の手前側には冒険者パーティーがおり、その近くに馬車が2台が止まっていた。


「あっ、やっときたぜ!!カールニアの兄貴!!イワオの兄貴!!姐さんたち!シズちゃん!お疲れ様です!!」


 パーティーのリーダーだと思われる若者の男性がこちらへ声を掛けてきた。


「おう、ウィル。一緒に行く奴らってお前たちだったか。」


「あら、予想外だったわ。クンとキャロがやられたって聞いていたけど、大丈夫だったの?」


 どうやらこのパーティーはレギオンアント討伐作戦に参加していたようだ。作戦中メンバーの2人が怪我をしたらしいが、メンバーは6人おり、欠けているようには見えない。もしかしたら8人パーティーである可能性もあるが。


「は、はい!ナイトに腕をやられて危なかったところを、精霊様に助けてもらったんです!!回復までしてくれました!!」


「ぼ、僕もそんな感じです…!」


「えっ。」


 それって絶対ウンディーネじゃん…。ウンディーネ、いいとこあるじゃん。見直したよ、評価+1だね。


《―――よしっ…!!》


 ん?なにか聞こえた気が…。まあいいか。


「んで、そこにいるのが“佩刀はいとう熾天使してんし”だな。それと―――な、なんで精霊様が…??」


 ウィルと呼ばれた青年はアークの隣にいる精霊、サラマンダーを見て、硬直した。レギオンアント討伐作戦でも精霊がいたのは知っていたが、だれが召喚したとまでは知らなかったようで、アークが召喚したのかと薄々勘付き始めたようだ。


「あーっと…。僕はアークです。それと、こちらは僕が召喚した、サラマンダーです…。」


「火の上位精霊でもあり、アークの嫁でもあるサラマンダーよ!!以後よろしくね!!」


 アークはサラマンダーの嫁発言を否定するのも面倒くさく思ったので、そのまま流した。


「おーー…。なんと言えばいいのか…。嫁…??」


「あー…。それは気にしないで下さい…。」


「そ、そうか…。まあ、自己紹介は移動しながらでいいよな。じゃ、早速出発しましょう兄貴たち!!」


 こうして『光翼の癒し』と未だ知らない冒険者パーティーとの依頼が始まった。








 アークは一旦サラマンダーに(強制的に)戻ってもらい、『光翼の癒し』ではないパーティーの方の馬車に乗り込んだ。取りあえず自己紹介をしたいとのことで、リンカは駄々をこねたが、ルーミニアが物理的に黙らせていた。


「んじゃあ、早速自己紹介しようぜ。俺たちはCランクパーティー『虎の咆哮』ってんだ。そんで、俺がリーダーのウィルだ。虎人族で、Bランク冒険者だ。よろしくな。」


 髪色が黒に黄色が混じった本物の虎みたい。実際に虎人族というので、全員そんな感じなのかな?


「次は我だな。我はダム。誇り高き熊人族の戦士である。冒険者ランクはまだCだが、いずれAランクを超え、Sランクへ至るのだ!」


 焦げ茶髪のがたいのいいお兄さんは、熊人族のようだ。かなり迫力がある。


「俺は犬人族のクンだ。冒険者ランクはCだ。君の精霊様には助けてもらったよ。感謝している。」


 茶髪でスラッとした体型のお兄さんだ。ウンディーネが助けたようだが、先程のサラマンダーを見て精霊の主が分かったようだ。


「ぼ、僕はキャロ。兎人族で、Cランク冒険者だよ。僕も精霊様に助けてもらったんだ…。ありがとうね。」


「私はキャルっていうの。キャロとは双子なの。ありがとうね。あっ、Cランクよ。」


 白髪の2人は兎人族の双子のようだ。かなり似ており、違いは体型と髪の長さくらいだろう。


「ウチはルーナって言います。狐人族で、Cランク冒険者ですよ。よろしくお願いしますね。」


 金髪のおっとりとしたお姉さんだ。格好は魔法使いのようで、いかにもなローブを羽織っており、杖を持っている。


「僕は、アークって言います。エルフ族で、Dランク?だったかな?…よろしくお願いします。」


 アークのことは皆知っていたようだが、一応挨拶はしておいた方がいいかなと思い、全員の自己紹介が終わってからアークも自己紹介をした。


「おー、Dランクだったのか!知らなかったぜ。あ、気になってたんだが、なんでお面なんか付けてんだ?もしかして、お貴族様だから身バレしないようにってか?ハハハ!」


 パーティーのリーダー、虎人族のウィルがそんなことを聞いてきたが、間違ってはいなかったので若干濁して否定はしない。


「あっ、はい。まぁ、そういうことかもですね…。」


「うわ、まじか!俺、ちゃんとした敬語とか無理だぜ…!?」


 アークの匂わせ発言にパーティー全員が怯えだした。まさか貴族の子息と同じ馬車、それも安いオンボロ馬車に乗せてしまっているので、もしかすると首が物理的に飛んでしまう可能性もあるのだ。


「あー、気にしないでください。今の僕は冒険者ですし、そういうのはキチンと区別してありますから。現に、リンカお姉ちゃんもルーお姉ちゃんも、カーお兄ちゃんも普通に接してますよね?」


「おー…。そう言えばそうだったな!なら俺たちも普通に接するぜ。よろしくな!」


 お面を付けている理由を適当にはぐらかすことに成功したアークは、そのまま雑談をしながら目的地へと向かって行った。






 出発から6時間程経ち、レギオンアント討伐作戦開始前に集まった防衛陣地に到着した。ここにはまだ人が残っており、恐らく調査員であると思われる。


 その人数は20人ほどで、慌ただしく作業をしていた。


 その中の1人がこちらに気付くと、駆け寄ってきた。恐らく冒険者ギルドからなにかしら知らされていたのだろう。


「『光翼の癒し』の皆様と、『虎の咆哮』の皆様、それにフォレストブルム公爵様でお間違いないでしょうか!!」


 駆け寄ってきた調査員がそのようなことを言ってきた。『光翼の癒し』の面々は慣れた様子で全員が頷き、『虎の咆哮』の面々は畏まられるのは慣れていないのか、ぎこちなく返事をした。そして、その数秒を空けて、アークの方へ驚愕の表情を向けた。


「「「「「「こ、公爵様!?」」」」」」


「あー……。これはギルマスの嫌がらせかなにかですかね…?わざわざ伝えなくてもいいのに…。」


『虎の咆哮』の面々は驚愕していたが、『光翼の癒し』の面々は呆れ笑いをするのみだった。アークのことを公爵だと知った当初のリンカは驚愕したのだが、それをメンバーにあらかじめ伝えておいたので元々知っていたのだ。


 まあ、知っているからと言ってアークが公爵であるというのを周りに言うということはなかった。だからこそ、冒険者たちはアークのことを公爵だと知らない者がほとんどなのだ。


「あの、皆さん普通に接してくださいね?僕は今“冒険者”なんですから!」


「あ、ああ…。分かったぜ…。」


 なんとか冒険者ということを強調し、普通に接してもらうことを強要した。


「それで、私たちは依頼の詳細を聞いてないんだけど、アリの巣の調査をすればいいのよね?なにか明確な依頼があるのなら聞いておきたいわ。」


「はい!先遣隊からの情報では下層に近づくにつれてレギオンアントではない魔物がいるとの情報があるのですが、何故かが不明なのです。他に陸地へと続く道があるのか、それとも別のことなのか。その原因究明をお願いしたいです。」


「了解したわ。それじゃあすぐに向かうから、よろしくね。調査依頼ってことだから一応巣の中で一晩過ごすかもしれないから。明日の夕方までには帰ると思うわ。」


「了解しました!お願いします!!」


 リンカがテキパキと調査員とのやり取りをしてくれたのでスムーズに依頼へと向かうことができた。普段のイメージとは違うリンカに、アークは少し驚いていた。


「リンカお姉ちゃん、(いつもと違って)かっこよかったね。」


「ま、まぁ、こんなもんよ〜?お姉ちゃん凄いんだから!!」


 急にいつものリンカに戻り、やっぱりこれが普通なのかと思ったアークであった。


 そして、到着したのがお昼過ぎだったので簡易的に昼食を食べ、巣のある方へと向かった。

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