第49話 精霊会議と報酬
「ねえ…。アークくん、絶対私たちのこと忘れてるよねー?ボク、楽しみにしてるのに寂しいよー!」
「ふふ…。確かにそうね。あれから1廻経ったのに、連絡も干渉もなにもないわね…。」
「そーだな。さすがのウチも、待ちくたびれたぜ…。こっちから出て行くにも、クレア様になんて言われるか分からねーしな…。」
ここは精霊界と呼ばれる、次元の異なる空間である。他にも神界、魔界など、様々あるうちの1つである。
その精霊界のとある場所で、3人の上位精霊が話をしていた。
「うーん…。でもアークくんのことだから、もうちょっとしたら絶対ご褒美くれると思うのー!」
「ええ、そうね。アークはあれだけ心が綺麗だもの…。すっぽかしたりなんてしないわよね。」
「あー。まだかな-!アークももっとウチらを呼んでくれりゃあいいのによ!」
アークがシルフとウンディーネを呼び出したとき、クレアが2人にやる気を出させるために敢えてアークからご褒美があると言いだしたのだ。実際はそんなご褒美などなくてもアークのために仕事はキッチリこなすつもりであったのだが。
すると、そこへ4人の精霊が何やら不満そうな表情で現れた。
「ちょっと!!なんでアークは私を呼んでくれないのよ!!これじゃあ私がご褒美もらえないじゃない!!」
「不満だよ~!レイちゃんも、アークくんに会いたい~!」
「確かに不満…。でも…。クレア様怖い…。」
「あら~。シェイドちゃん、今の発言は、聞かなかったことにしたいです~。」
プンプンと怒っているのは、火の上位精霊サラマンダー。アークに会いたいとプリプリしているのは、光の上位精霊レイ。クレアが怖いと発言したのは、闇の上位精霊シェイド。最後に、クレアからの飛び火を怖がっているのは、木の上位精霊ドライアドだ。
「ふふ…。仕方ないじゃない。アークは普段学院っていうものに通ってるらしいわよ?そこで私たちを召喚できるわけないじゃない。」
「そうだけどさ!!学院から帰ってきたら何にもなくても呼んでほしいじゃない!!」
ウンディーネの発言にサラマンダーが反論した。アークは学院に通っているが、それが終わって帰宅してもずっとサクラたちと修行をしているため、呼ぶに呼べないのだ。勿論クレアがいるし、それに上位精霊を呼べることは皆には打ち明けていないので、余計な混乱を招く恐れもある。
「あー!サラマンダーはアークくんの見た目チョータイプって言ってたもんね!」
「ちょ!!ちょっと!!違うわよ!?わ、私はそんな、アークとあんなことやそんなことしようだなんて……!!」
「「「「「「誰もそこまで言ってない。」」」」」」
ここにいる精霊全員に共通して言えることなのだが、全員が全員アークに好意を抱いている。その種類は様々だが、サラマンダーは特に完全なる恋愛感情であったのだ。精霊界からもアークの様子を見ることができるが、サラマンダーは常にアークを観察してだらしのない顔をしていた。
「な、な、なによ!!別にいいじゃない…!!そ、それよりも、アークが呼んでくれないことの方が重要よ!!」
「ウチらはもうご褒美確定だしな~。でも会いたくねえって訳じゃねーしな。そんで、なんか作戦でもあんのか?」
「勿論あるよ~!レイちゃんが考えたの!無ノ日って、アークくん冒険者?になる日でしょ?明日がその日だから、明日レイちゃんたち呼ばれてない4人が向こうに行っちゃうの!アークくんは優しいから、無理に返そうとしないと思うんだ~!」
レイが考えたという作戦は作戦と言えるようなものではなかったが、それはそれで効果的であろう。ただ、クレアからはなんて言われるかは分からないが。これも4人で行くから効果が薄れることを期待しているのだろう。
「お、お~…。そうか、頑張れよ…。ってかシェイド、よくやろうと思ったな…。」
「いつまでも怖がってたら、アークに会えないもん…。皆怒られるなら、まだマシかなって…。」
「そ、そうか…。」
シェイドが無理矢理参加させられたのかと心配したノームだったが、案外自分の意志だったようだ。
「うふふ~。皆で怒られれば、怖くないです~~。」
「ふふ…。ドライアドも乗り気なのね。」
こうして上位精霊たちの会合は終わった。
しかし、それを見ていた者がいたのは誰一人気付かなかった。
「―――クレアちゃんに報告しちゃお~っと☆」
明らかに上位精霊とは格の違うその精霊?はそう独り言を零すと、その場から消えた。
「アーク!久しぶりね-!会いたかったわ!!」
「むぐッ!」
アークはリンカのその豊満な胸に包み込まれ、息ができなくなった。アークとしては躱すことはできるのだが、さすがにそれをするのは申し訳ないので受け入れることにしている。
「スーハースーハー……。」
「はぁ…。リンカ、その辺にしておきなさい。あと3秒でぶっ叩くわよ…?」
「スーハースーハースーハー…。はい!3秒!って痛!!ちゃんと離れたじゃない!」
「“3秒で”、ぶっ叩くって言ったわよね?」
「そこは大目に見てよ…!」
応接室に入って早々に茶番劇があったが、いつものことなので周りの人たちはそのまま流すようだ。
「あ、皆さんお久しぶり?です。『光翼の癒し』の皆さんは数日ぶりですね。『享楽の盾』の皆さんは先廻ぶり、ですね。」
応接室に『光翼の癒し』の面々に加『享楽の盾』の面々もいた。タカとモリゾウはこちらに笑顔で手を振っている。モリシゲとは戦場であまり一緒になれなくて仲良くなれなかったが、タカとモリゾウとは少し仲良くなったのでこうして手を振ってくれているのだ。
「いや~。アークっち、急に倒れるから心配したっすよ?倒れたと思ったらなんか精霊様出てくるし、ホント規格外っすよー。」
「んだんだ。でも、アーク、強いからそこまで心配はしなかっただ。」
「あはは…。ご心配お掛けしました…。」
アークは何故ここに“享楽の盾”がいるのか疑問に思ったが、またなにかリュウゾウが企んでいるのかと思い、敢えて聞かないことにした。
「よし、まずは皆席に着け。話はそれからだ。」
リュウゾウがそう言うので、アーク、リンカ、カールニアは空いている席へ向かった。リュウゾウは奥の1番いい席にドカリと座った。
「うし、そんじゃあまずは、モリシゲ。言いたいことあんだろ?」
「はい。この場を設けて下さり感謝します。」
なにやらモリシゲからのお話があるようだ。アークはなぜ自分もいる時に言うのか不思議だったが、自分に関係するのか?と思い若干不安になった。
「まず、こちらの都合で俺が戦場を離れてしまったこと、本当に申し訳なかった。結果としては討伐作戦が成功してよかったが、それは結果論であると分かっている。迷惑を掛けて、本当に申し訳なかった。」
アークは自分絡みだと思っていたので安心した。それにしても、別に謝るようなことではないと思うのだが…。と、アークは思っていた。
「気にしなくていいわよモリシゲさん。今まで散々助けてもらってたんだし、それを差し引いてもまだ足りないくらいよ。」
「ええ。まあアークくんがいなかったらちょっとヤバかったかも知れないけど…。それも結果論かしらね。」
リンカとルーミニアは別に気にしていなかったようだ。アークはと言うと、自分の名前を出すなと心の中で叫んでいた。
「ほーら、モリシゲさん。言ったじゃないっすか。皆気にしてないっすよーって。アークっちが無双したから大丈夫っすよーって。」
おいおい、やめろ、なんてこと言うんだ!
アークはキリッとタカの方を睨み付けた。しかしそんなアークに気付いたタカは笑っていた。
「――そうか…。ありがとう、アーク。…あともう一つ。コルト!!」
「は、はいっ!」
「お前からなにか言うことがあるんだろう?」
おやおや?さっきから黙っていた青二才先輩からなにかあるようだ。こちらも謝罪なのかな?
「ま、まずは…。皆さん、俺が、不甲斐ないばかりに、抜けてしまって…。申し訳なかった…!」
やはり、謝罪であった。確かにコルトは自分の都合でちょっと手を抜いた挙げ句、動揺により気を失った。戦場に出ている者としては余りにも不甲斐ない。
「――まだ、あるんじゃないのか…?」
「は、はい…!――アーク、あの時は、情けないだとか、言ってしまった…。申し訳ない…!俺は、自分の方が本当に情けない奴だと自覚した…!本当に、すまない…!」
コルトはあれからなにか思うことがあったのか、改心したようだ。コルトとしてもあれだけ心にダメージを負う出来事が連発すれば、さすがに改心するはずであろう。
「あぁ~~…。気にしなくていいですよ…。僕はもう気にしてませんから。それより、良かったですね。自分の悪いところに気付けたら、次は改善できますから。人間、それの繰り返しで成長していくものなので、頑張って下さいね。」
「あ、ああ…!ありがとう…!ありがとう……!!」
「お、おぉ…。」
アークとしてはここまで謝罪と感謝をされると思っていなかったが、この言葉を理解してくれたのならよかったと思った。
「アーク、いいこと言うなァ。取りあえず、よかったなモリシゲ。これでお前らの用は終わりでいいか?」
「はい。助かりました。それでは我々は退出するとしましょう。行くぞ、お前たち。」
“享楽の盾”の面々は用が済んだらしく、颯爽と退出していった。未だ泣いているコルトを引きずって。
「あ、もう終わりですか?じゃあ僕も帰r――」
「いや、まだだ。」
「あっ、そうですか…。」
アークは指名依頼をされる前に帰ってしまおうと考えていたが、まだ他に話があるらしい。
「まず、報酬の話なんだが、いいか?」
「あ、忘れてました。どうぞ。」
「報酬を忘れる冒険者がどこにいるんだよ…。まあいいか。取りあえずお前のギルドカード出してくれ。」
「えっ?あ、はい。――どうぞ。」
アークからギルドカードを受け取ったリュウゾウは、謎の魔道具にそのカードを差し込んだ。
「―――おォォ!!お、お前まじか…!」
「ど、どうしたのギルマス!」
「え、どうしたんですか…!」
リュウゾウが魔道具に表示された何かを見て、かなり高価であろう椅子を倒し立ち上がった。
「レギオンアント22,547体……!レギオンアント・ポーン13,065体……!レギオンアント・ナイト8,471体……!レギオンアント・ビショップ3,282体……!レギオンアント・ジェネラル684体……!レギオンアント・ルーク4体……!そして、レギオンアント・クイーン1体……!計48,054体……!」
「「「ええええ!!!」」」
「す、すごい…。」
リンカ、ルーミニア、カールニアは盛大に驚き、シズは唖然としている。イワオはうんうんと頷いているだけで、その感情は読めない。
「――だからアイツらの報酬が少なかったわけか…。規模に対しての報酬が少ねェって文句が多かったんだが、そういうことなんだな…。」
「あー…。あははー…。なんか申し訳ないですねー…。」
今回の討伐作戦の報酬制度は、それぞれの種類の倒した数によって報酬が増えるというものだ。レギオンアント1体につき100オール、ポーン1体につき500オール、ナイト1体につき1,200オール、ビショップ1体につき1,000オール、ジェネラル1体につき5,000オール、ルーク1体につき10,000オール、クイーンで20,000オールと設定していた。素材料は今回は異例ということでなしとしていた。
アークがめちゃくちゃ倒してしまった分、皆の報酬が減ってしまったようだ。
アークの合計報酬は25,714,400オール。日本円にして2億6千万円だ。以前サクラを助けたときの報酬で白金貨10枚、10億オールもらっていたが、ここに来て更に増えてしまった。狙われないか心配である。
「おい!マリ!!いるか!?」
突然リュウゾウが誰かを呼ぶと、アークが最初ギルドに来たときに対応してくれた受付嬢が入ってきた。
「は、はい!なんでしょうか!」
「これ…。すぐに用意してくれ。」
「あ、はい。――って、えええ!!!こ、こんなに…!!アーク様、どうしたらこんな――んんッ!もごもご…」
「おい、そんなに大声出すな…!いいから黙って用意しとけ…!あんまり大金だってバレないように、できれば硬貨は纏めていいからな…。」
「わ、分かりました…!」
おー…。なんだか大事になっている感じがするー…。
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