第47話 プロポーズ大作戦
ダンジョン実習最終日の3日目。
アークたち一行は最初から9階層へと飛んでいた。アークの意見を皆が承諾した形でこの日はずっと9階層にいるつもりであった。
いつもの配置で行こうとしたのだが、ここでサクラが待ったをかけた。アークに配置の変更を要請したのだ。サクラが後衛に入り、アークとミカゲが前衛、中衛は変わらずといった感じだ。
アークとしても何の異論もないのでその要請を承諾し、配置を換えてダンジョン実習をスタートした。
「ミカゲ、よろしくね。基本は合わせるから、色んなこと試していいからね。」
「ッ!え、ええ…。よろしくね、アーク…。」
ミカゲはなんだかソワソワした様子であったが、アークは特に勘付く様子もなくそのまま歩き出した。
ミカゲには今日、重大なミッションが課せられている。それはクレアとサクラからのもので、なんとしても実行するようにと何度も言い聞かせられた。あの後ミカゲはサクラの部屋へ行き、作戦会議を開いた程なのだ。
しばらく歩いていると、早速魔物が出てきた。オーク1体とホブゴブリン2体だ。
魔物と接敵すると、ミルとミーナはなんの指示も出されずとも即座に魔法を発動させた。
「「“ウィンドボール”!」」
ミルはミーナの詠唱が完了するのに合わせ、同時に魔法を放った。
放たれた風弾はこちらへ走ってくるホブゴブリン2体に命中し、それぞれ吹っ飛ばした。そこへすかさずアークとミカゲが突撃した。ミカゲは“
ミカゲは倒れている片方のホブゴブリンの首元へ刀を横薙ぎに振るいトドメを刺し、アークは魔法を発動させた。
〔暴風魔法〕――“
幅1m程の風の刃を予備動作なく一瞬で飛ばし、倒れているホブゴブリンの首を正確に刎ねた。そして、アークは次なる行動に出た。
〔幻影魔法〕――“
アークは自分自身にできている影の中にスッと潜り込み姿を消した。そして、一瞬でオークの影から飛び出た。
打術――“
アークはオークの背中、心臓付近に拳を押し当て、一気に力を込めて吹き飛ばした。死なないように敢えて力を弱めていたが。
「ミカゲ!トドメを!」
「…ッ!ええ!」
アークは完全にミカゲへとお膳立てをした。別にする必要はないのだが、ここでアーク1人だけで倒すのも寂しかったのである。
アークにより吹き飛ばされてきたオークは若干気を失いかけていた。そのため反撃など全くなく、ミカゲにとって余裕で対処可能であった。
「刀術……“
ミカゲが放った“
「――やった…!!」
「おお!!いい感じだったねミカゲ!」
アークは見事“
「――や、ややややったわ、アークッ!///」
「――わ、わわわ!!ど、どうしたのミカゲ…!」
アークは突然の出来事に慌てふためいた。勿論ミカゲはこんなことをするような子ではないのだが、クレアとサクラによる指示(命令)でこのような行動に出たのである。
「べ、べべ別に…何でもないけど…?///」
ミカゲはそう言うとサッとアークから離れ、反対側を向き顔を見られないようにした。アークは自分から行くのは何の気なしに行っているが、来られるのは流石に慌てるようだ。
「そ、そっか…。あ、ミルとミーナさんもよかったよ。ありがとう!」
「むぅです…。はいですぅ…。」
「ええ、アークくんもミカゲさんもよかったわ。」
ミルはちょっと不機嫌そうに、ミーナはスッキリとした表情で答えた。
「――うふふ…。上手くいってますね…。」
「あら、サクラ様なにかミカゲちゃんに吹き込んだのかしら?」
サクラの独り言を聞いていたルーミニアは気になってサクラに聞いてみた。
「――はい、ミカゲちゃんの恋を叶えるための作戦、その名もプロポーズ大作戦を実行中なんです…!」
「――そうだったのね…!あ、でもサクラ様はいいのかしら?アークくんは婚約者でしょう?」
「ええ、いいんです。ミカゲちゃんは唯一の親友ですし、こんなこと初めてだったんですよ?いっつもお本ばっかり読んでてそういったことに無関心だったミカゲちゃんが、今ではお本よりもアーク様に夢中なんですもの。それに将来は一緒に旅をして一緒に住んで、とっても楽しそうです!」
ルーミニアはサクラの本心を聞いて、なんて素晴らしい子なのだろうと関心した。王族というものは普通傲慢な性格に育つのが普通であると思っていたのだが、このサクラという王女様は純粋な心の持ち主であった。ルーミニアは心より帝国を出てシンラに来てよかったと実感した。
「よし、皆-、進もうか!」
アークの一声により、班の一行は再び歩き出した。そして、また魔物が出現した。今度はホブゴブリン4体であったが、3体をサクラ、ミル、ミーナの魔法で吹き飛ばして転ばせ、倒れた2体をミカゲが、倒れた1体と無傷の1体をアークが呆気なく倒した。
そして戦闘が終了すると、再びミカゲがアークに抱きついた。
「アーク…!や、やったわね…!」
「うわ!あ、ああうん…。やったね…。」
ミカゲは恥ずかしくてすぐさま離れようとしたが、今度はアークが抱きしめた腕を解かずに引き留めた。
「ミカゲ…?さっきから、どうしたの?」
「――ふあ、あ、あの……す、好き―――ぷしゅぅ……。」
「――えッ!あっ、ミカゲ!?あ、あれ、だ、大丈夫!?」
ミカゲは予定していた告白のタイミングとは違うが、焦りすぎてつい告白めいたことを口走ってしまった。それを聞いたアークもテンパったが、なにより気絶してしまったミカゲをなんとかしないといけないという焦りも加わってなにをすればいいのか分からなくなった。
「あっ、ミカゲちゃん!」
「ミカゲさん!大丈夫…?」
「あらあら…。飛んじゃったのね…。」
「……むぅです…。」
皆は突然頭から湯気を発して倒れたミカゲの元へ駆けつけた。1人だけ不満そうな人物がいるが。
アークは困っていた。ミカゲからの好意には気付いていたが、自分には既にサクラとシオリという婚約者がおり、そう易々と婚約者は作れないと思っていた。そのことがあったので、自分はサクラ一筋ですよというのを見せつけて告白をされないようにしてきたつもりであった。
しかし、好きという告白と取れる言葉を聞いてしまった。相手は名門ヤサカ辺境伯家の御息女であり、無下にすることはできない。どうすればいいのかかなり悩んでいた。
皆が駆け寄ってきて数刻、ミカゲはアークの膝の上で目を覚ました。
「あ、起きた。…大丈夫?」
「ひゃ…!ア、アーク…!///」
ミカゲはまさかアークに膝枕をしてもらっているなどとは思ってもおらず、また気絶しそうになったがなんとか堪え立ち上がった。
倒れる前の記憶はしっかり残っており、自分は勇気を出して告白をしたつもりであった。実際は好きとしか言ってないのだが。
「――ア、アーク…!さっきも、言った、けど…!す、好きなの…!私とも、お、お付き合いして、欲しいの……!!」
ミカゲはもう既に完全に告白をした気でいたので、改めてアークに思いを伝えた。突然の告白にここにいる全員が固まった。
サクラはパッと嬉しそうな表情をし、ミルはまたまた不機嫌そうな表情になった。ミーナは同級生である子の告白を聞いて顔を赤くさせ、ルーミニアとシズは、おお!と驚きつつも楽しそうにしていた。
告白された当の本人はと言うと―――
「―――えーー…っと…。お気持ちは嬉しいんだけどー……えっとー…?」
完全に頭が真っ白になっていた。チラッとサクラを見ても何故かニコニコしていてその表情の真意はよく分からない。お断りするのも問題があるし承諾するのも問題がある。どうしようかと悩んだが、ここでクレアが勝手に現れた。
空中に突如現れた魔法陣の中から姿を現したクレアに驚愕する者はミーナだけであった。この中ではミーナだけがクレアの存在を知らないのである。しかし、驚愕はしなくてもミーナ以外の全員も少しは驚いた。
「あら、アーク。乙女の告白に沈黙するなんて、許せませんよ?」
「あ、ク、クレア…。いや、でも。僕婚約者いるし、相手は辺境伯家の子だよ…?こう、勝手に決めちゃうのは―――」
「アーク様!大丈夫です!お父様からの許可はもらっていますので!」
ここでサクラが話に割り込んできた。アークからしたら何故サクラが乗り気なのかがよく分からなかったが、アークが心配していたことの1つは解決した。
「アーク。貴方は公爵ですよ?家格は申し分なし。それに―――オルタ様やナナ様も言ってたようにいっぱい子孫残すにはいいと思いますよ…!ミカゲちゃん可愛いですしアークもちょっとは好きなんでしょう…?」
「んな…!た、確かにそうだけど…!」
アークは転生した時に時空神であるナナと約束をしていた。多くの恋愛をし、多くの子孫を残すことである。たしかにミカゲはちょっと日本人っぽさがあって可愛らしいと思ってはいたのだが…。
そんな時、待ったを掛けた人物がいた。
「ちょ、ちょっと待つです-!ミ、ミルもアークくんと結婚したいですー!」
「「「「えええ!!!」」」」
これに驚いたのはアークとミーナ、ルーミニアにシズの4人だけであった。サクラとクレアに至ってはしめしめとしたり顔をしていた。
クレアはこのことまで読んでサクラに作戦を伝えていた。そしてミカゲだけを焚き付け、ミルも思い切って告白させてしまおうという作戦だったのだ。もしかしたら不発で終わる可能性もあったのだが、うまくいったようである。
「サ、サクラ…?どうすればいい…?」
「アーク様。ここはビシッと男を見せて、お2人とももらってしまってはどうです?私のことは気にしないで大丈夫ですから。むしろミカゲちゃんとミルちゃんとずっと一緒にいられるのは楽しいです!」
アークはサクラの言葉を聞き、ようやく決心した。ここで退くのは男ではない。6歳で婚約者4人というのは不安が残るが、そんなことを気にしていてもしょうがないのである。何故か分からないがこの顔はモテてしまうのだから。
「―――うん…。分かったよ。ミカゲ、ミル。よろしくね?」
「「―――ッ!!は、はいッ…!!」」
ミカゲとミルは余りの嬉しさに涙を大量に流しながらその場に倒れ込むように座った。ミカゲは極度の緊張状態から解放されて今日はもう動けないだろう。ミルは動けはするだろうが、今のこの感じから戦闘は無理であろう。
「婚約したこと、まだ公表はしないってことでいいんだよね?」
「ええ…。まずは実家の方に連絡して、実家から正式に発表するっていう形になると思う…。」
貴族社会には色々あるようで、本人同士だけでの婚約というのはできないらしい。ただ、アークはかなり優良物件として注目されており、ヤサカ辺境伯家からは余裕で許可がでるだろうとのことであった。
実際サクラがケンシンに連絡を既に入れており、ケンシン経由でヤサカ辺境伯へはもう伝わっているようだ。この時アークやミカゲ、サクラは知らなかったが、ヤサカ辺境伯は飛んで喜んでいたようだ。
兄や姉から虐められているのに家の教育上助けてあげられなかった可愛い娘が、ここで自分の意中の相手を射止められたことの喜びとアークと繋がることのできた喜びで舞い上がっていたらしい。
「そっか。ミルの方はどうなの?」
「はいです。ミルは今度の長期休暇で帰省するときに報告しに行くくらいなので、特に隠すことはないです!」
ミルの出身はフォレストピア大森林に存在するエルフの集落の内の1つの集落である。エルフは子どもの出生率が極端に少なく、寿命がとても長い。留学の対象年齢の子が自分しかいなかったため試しで留学したところ、アークという運命のエルフ(ハーフエルフだが)に出会ったのだ。
「でもミカゲだけ隠しておいてミルの方は公表っていうのはなんか嫌だから、公表のタイミングは一緒でもいい?」
「ええ。私はそれがいいわ…。」
「はいです。ミルもいいですよ。」
こうしてアーク一行のダンジョン実習は終わりを告げ、この日の成果はアークの婚約者が2人増えたのみとなった。
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