第43話 ジンパーティー

予約投稿の設定し忘れてしまって遅くなりました…!申し訳ありません!!!



――――――――――――――――――――



「ほっほっほ。中々腕を上げたのぅ、ツバキ。魔力操作が前よりもよくなっとるわい。」


「ふふん。そうでしょう。アークに教えてもらった修行方法は今までの訓練より全然いいんですもの。これならマイ伯母様を超すのだって夢じゃないわ。」


 ヤマトとジュウベエの引率するパーティーは、ジン、カズマ、ユウマ、サチホ、ツバキの貴族組であった。出会う魔物全てをツバキの魔法で吹き飛ばし、その生き残りをカズマとユウマが仕留めるといった戦法を取っていた。


 ジンは後衛を努めており、サチホは詠唱の途中でツバキが倒してしまうので現在は傍観するのみであった。


「学院長よぉ。孫がいくら活躍したからって、これだといざって時に崩れるやつだぜ?ツバキの魔力が切れたらどうすんだ。」


「ほっほっほ。確かにのぅ。じゃが安心せい。これからそれを指摘するところじゃったんじゃ。」


 ジュウベエはホントかよ…。と疑っていたが、その真偽は分からない。


「ツバキや。現在ここはダンジョンの中じゃ。そして、パーティーの仲間がおる。ダンジョンアタックにおいて、1番重要なことはなんだかわかるかのぅ?」


「んー…。1番深くまで潜ること…?」


 ヤマトが求めていた答えとは違うことを応えたツバキのヤマトは優しく正解を教える。


「いいや。違うんじゃ。もちろんダンジョンに挑む者たちはそれも大事なことじゃろう。じゃが、それよりも大事なことがある。それは、全員で生きて帰ることじゃ。そのためにはパーティー全員で協力しなければならん。今のツバキはどうじゃ?全部自分でなんとかしようと考えとるじゃろう?」


「ん…。そうかも知れないわ。」


 ヤマトに自分の考えを当てられたツバキは肯定した。この短期間の成長具合を確かめると同時に自分が頑張って皆を楽にしてあげようと考えていたのだ。


「ほっほっほ。その考えはいいんじゃが、このまま行くとツバキは魔力切れを起こすじゃろう。そして動けなくなり、かえって皆の迷惑になるんじゃ。それに、アマミヤの嬢ちゃんを見てみぃ。頼れる仲間がいるんじゃから、協力してみたらどうじゃ?」


 サチホは突然名前を出されたことに驚いたが、ようやくツバキがこちらを向いてくたので思い切って声を発した。


「そうですわ!ツバキさん、ちょっと無理をし過ぎですわよ。私も魔法の腕は自身がありますの。少しは頼って下さってもよくてよ?」


「……ええ。そうね、悪かったわ。次は私が合わせるわ。」


 ツバキはいい感じに肩の力が抜け、仲間に頼るということを学んだ。これならばこのパーティーは大丈夫だろうとジュウベエは安心し、気楽にダンジョンアタックを見守ることにした。


「…っ!皆、奥の曲がり角から何か来るよ!ツバキとサチホさんは見えたら魔法を!カズマとユウマは前に出すぎないように!」


 ジンは素早く指示を行い、自分も魔法を撃てるように準備をする。そうすると、曲がり角から骸骨が2体と、ゴブリンが2体現れた。


「スケルトンとゴブリンだ!魔法はスケルトンの方に当てて!ゴブリンはまだ放置!」


 ジンの指示を聞いたサチホとツバキは魔法をそれぞれ別のスケルトンを吹き飛ばした。スケルトンは打撃耐性がないが、魔法耐性もないので先に倒しに行ったのだ。


 残りのゴブリンは、ある程度近づけさせてからジンが2つの風弾を当てて転ばせ、その隙をカズマとユウマが突く。


「おりゃあ!!」


「うりゃああァ!!」


 カズマは槍で急所を突き、ユウマは長剣で身体ごと叩き割った。2人は道中でも倒れた魔物に対して何度も止めを刺しており、慣れた様子であった。


 ジンたちは奥に吹き飛ばしたスケルトンがもういないことを確認しつつ、先へ進む。同じ場所に止まっていると、先程の戦闘音を頼りに魔物が寄ってきてしまうからである。


「このくらいの魔物なら僕たちだけでもなんとかなりますね。でも、もう少し先に行ったら戦闘時間は長引きそうかな…。」


「ああ、そうだな。まだツバキとサチホの魔法が当たってコケるからいいが、普通に耐えてくる奴らも躱す奴らも出てくるだろう。そうした場合の前衛ってのは、踏ん張りどころだぜ?」


「はっ。余裕だな。先生もそんな気にしなくていい。」


「そうだな!俺たちがなんとかしよう!な!カズマ!」


 突然話に出された前衛の脳筋2人組は今までが楽勝だったのでこの先でも大丈夫だと高をくくっているようだ。ジュウベエは確実に慌ただしくなることが目に見えており、それでも敢えて言うことはしない。学院の教師としてそこは厳しく評価しなければならないのだ。


 そうして、もうすぐ帰還する時間が近づいてきた。次の階層への階段を降りてすぐ帰還しようとなり、ジンたちは先を目指して進んでいた。


 現在は5階層。ダンジョンは数階層ごとにボス部屋というものが配置されており、そのスパンはダンジョンごとで異なる。短いところであれば1階層ごとであるし、長いところであれば20、30階層ごともあるものもある。


 そんな学院地下のダンジョンでは、5階層ごとであった。


 ジンたちはボス部屋に辿り着くと、その足で扉を開いた。部屋はそこそこ広く、学院の訓練場と同じくらいの広さであった。その中央には、ボロボロな鎧を身に纏ったオークと呼ばれる魔物がいた。その大きさは2m程で、子どもからしたらまさに巨漢といった感じであった。


「はっ。1体だけか!それならば俺が行く…!」


 そうしてジンの指示が出る前にカズマが1人で突撃していった。オークは木製の棍棒を手に持っており、カズマは槍であったためリーチの差があると考えたのだろう。これならば1人でなんとかなると踏んだようだが…


「なっ…!待てカズマ!!っくそ、まずい…!」


 ジンはカズマの身勝手な行動により焦っていた。距離が離れていたので魔法による先制攻撃が可能であったが、射線上にはカズマが走っており、魔法を撃つのは躊躇われた。


「…僕が出る!ユウマも付いてきて!」


「おう!カズマだけにいいとこは取らせん!!」


 ジンは刀を鞘に収めたまま手を柄に添えつつ走り出した。いつでも居合を放てるようにである。ユウマはジンに言われるまでもなく走り出していたが、そのスピードはジンに及ばず、出遅れた風になっていた。


 カズマはもう既にオークが槍の届く間合いに迫っていた。カズマの生まれであるランバルト伯爵家は槍の名門で知られ、幼少の頃から槍の英才教育を代々受けていた。カズマはその中でも才能が高いと評価されていた。そのため、若干であるが高飛車な性格であったり自信過剰な性格であったりとなってしまっている。


「オークめ、死ねェェ!!!」


 カズマはオークの首元へ向けて槍を撃ち出した。オークはそれに反応し、棍棒でその槍を受け止めた。槍の穂先はザックリと木製の棍棒に突き刺さり、防がれたカズマは防がれたことに驚き、硬直していた。


 そして、突き刺した槍を引き抜くことができずモタモタしていると、オークは棍棒を振り回しカズマの手から槍を奪い取った。槍を奪われたカズマはなにをすればいいか分からなくなり、頭が真っ白になった。


 オークは棍棒に刺さった槍を引き抜き、その槍を近くで立ち尽くしているカズマへ向けて投擲してきた。カズマはそれを目では認識しているものの、頭では理解できていなかった。


 そこへ、なんとか間に合ったジンが迫る槍に向け居合切りを放った。正確に放たれた居合は槍の穂先へ命中し、軌道を逸らすことに成功した。


「カズマ!すぐ槍を拾って戦闘態勢!!もう無理だったら退け!!」


 ジンは鬼気迫る表情でカズマへ指示を出した。もう少し遅かったらカズマは重傷どころか命を落としていたかも知れず、さすがに焦った。アークから(クレアもだが)歩術や刀術を習っていなかったらここまで早く近づくこともできなかったし、そもそも刀で槍をはじき返せなかったであろう。心の中でアークとクレアに感謝しつつオークを見据えた。


「あ、あ…ああ……あ…。」


 カズマはジンの言葉が聞こえていない様子であった。オークから槍が投擲された瞬間は理解することができなかったが、ジンが弾いた瞬間、自分が死ぬことを理解してしまったのだ。そのことでカズマは恐怖に押し潰され、再起不能となった。


「ほっほっほ。仕方のない奴じゃのう…。」


 ヤマトは再起不能となり立ち尽くしていたカズマを転移魔法で自分の元へ転移させ、戦闘の邪魔にならないようにした。ジンはそれを確認し、邪魔がなくなったとヤマトに感謝しつつ指示を出す。


「ユウマ!基本はオークの攻撃を受けないようにして!僕が斬り崩すから隙ができたらそこでトドメを!ツバキとサチホさんは僕らが退いた時に魔法を!」


「おう!任せろ!!」


「分かったわ!」


「お任せ下さいまし!」


 ジンはそう言うとオークへと接近する。オークはそんな接近を許すはずもなく、棍棒を振り回しジンを吹き飛ばそうとする。ジンは元より1人で倒すとは考えておらず、じわじわと削りつつ倒そうと考えていたので、まずは棍棒を持つ手を狙った。


「ふっ!――浅いか…!」


「ブオォォォ!!!」


 なんとか躱しながら棍棒を持つ手を斬ることはできたのだが、そこまで深く斬りつけることができなかった。それでも確実にダメージは入っているようだ。その後も数度斬りつけ、ユウマも数度斬りつけた。


「よし!今!ユウマ離れて!」


 ジンはツバキとサチホに合図を出し、ユウマと共にツバキとサチホの射線に入らないように後退した。そして、今まで魔力を溜め続けていたツバキとサチホは最大限の魔法をオークへ向けて放った。


「「“ライトレーザー”!!」」


 2人とも〔光魔法〕で光線を放つ。2本の光線はオークの右脇腹と左腕を吹き飛ばした。オークは倒れているが、まだ息があるようだ。そこへ、ユウマが倒れているオークの首へ向けてロングソードを力一杯振り下ろした。オークの首は吹っ飛び、絶命した。


「よし!!勝ったぞ!!なんとか勝てたな!!」


「…だね。カズマが突撃していったときはさすがに焦ったけど、なんとか勝ったね。ツバキとサチホさんも、ありがとね。」


「ええ、ジンもさすがね。」


「はい、やはりタチバナ公爵家の御子息なだけはありますわ。」


 ジンたちはまだ立ち直っていないカズマを余所に喜び合っていた。しかし、明日のダンジョン実習もこのままではメンバーを1人欠いた状態となってしまう。それだけは避けなければならない。ジンはどうしたものかと考えていたら、ジュウベエがカズマの首根っこを掴み上げ、ヤマトと共に近づいてきた。


「おう、ジン。いい判断だったな。さすがにカズマに槍投げられたときは肝が冷えたが、あれよく対処できたな。」


「はい、アークから刀術を習い始めましたから。それでも術の方はまだまだなんですけどね。」


 ジュウベエは元々のジンの技量を知っており、ジュウベエ自身も刀を扱うので分かるのだが、ジンは刀を扱う者としてはまだまだであると思っていた。しかし、この短期間で技量が上がっていると思ったら、長期休業期間中の訓練もあるのだろうがアークからも教わっていると言うのだ。それは技量も上がるだろうと思った。


「…そうか。まあ頑張れよ。――しかし、コイツどうする?自分が悪いとはいえさすがに可哀想だよな。」


「ほっほっほ。儂に任せなさい。魔法でなんとかしてやるわい。」


 ヤマトは自身で編み出した魔法を用いてカズマに魔法を掛けた。それは肉体に作用するものではなく、精神に作用する魔法であった。カズマの心を支配する恐怖心を緩和し、少し記憶を改変する。完全に書き換えてしまうとまた同じことをやりかねないので、そこは気を付けなければならない。


「――ん、あれ…?俺は、オークに吹き飛ばされて……っ!皆無事か!?」


 カズマは自分が突撃したものの、棍棒により吹っ飛ばされて頭を打ち、気絶したという記憶にすり替えられた。その様子を見たパーティーメンバーである4名は安堵し、ジンはカズマへ二度としないようにネチネチと説教をして帰還した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る