第42話 引率とダンジョン潜入

「よーし、お前らようやく来たな!ってなんだ、『光翼の癒し』はサプライズで出るっつってなかったか?」


 1-Sクラス一行が訓練場に着くと、もう既にジュウベエが来ていた。そして、自分たちが来るのを黙っていて欲しいと言ってきた『光翼の癒し』がアークたちと一緒にいることに疑問に思った。


「リンカとルー姉が突撃しちまったんだよ…。昨日アークがぶっ倒れたから、それが心配だったんだろうがな。」


「ちょっ!カーお兄ちゃんそれは言わないで…!」


 アークは急に暴露してきたカールニアを止めることができず、昨日なにかあったことが知られてしまった。


「アーク様…?なんで黙っていたんですか…!そんな倒れるくらいまで無理なさっていたなんて!!」


 それを聞いたサクラがアークを問い詰める。


「い、いやぁ、ただレベルアップ酔いして気持ち悪くなっただけだから!無理はしてないから大丈夫!!」


 アークは必死に弁解したが、そもそもサクラはレベルアップ酔いということを知らず、宥めるのになかなか苦労した。5分くらい無理していないことを必死に説明して、なんとか宥めることに成功した。


「ふふ。これはアークくんがやった詳しいことは言わない方がいいわね。」


「そうね。さすがにクイーンを一瞬で倒したなんて言えないわね…。」


 ルーミニアとリンカがこそこそ何かを言っていたが、他の人には聞こえない声で喋っていたのでそこは突っ込まない。


「まさかアークが冒険者ギルドの騒ぎに直接関係があったなんてね。それは言えないよね。あはは。」


 ジンはなぜそこまで誤魔化していたのかが分かり、スッキリしたような表情をしていた。


「お前ら、もういいか?そろそろダンジョンへ行くんだが、パーティー分けするぞ。」


「あ、それはもう終わってます!」


 ジュウベエのその言葉にジンはすぐに反応した。アークの助言で既にパーティー分けはしていたのだ。


「んあ?そうなのか。じゃあそれぞれのパーティーに『光翼の癒し』のメンバーを入れるか。しかし人数が合わねえな。どうしたもんか…。」


「―――ほっほっほ。それじゃあ儂たちも入るかのぅ?」


「ああ、そうだな。ガッハッハ!」


 ヤマトとリュウゾウが突如訓練場にタイミングを計っていたかのように転移で現れた。リュウゾウはクレアが来なくていいと言ってあったのだが、結局来たようだ。それにクレアは呆れすぎて言葉も出ないようだ。


「うえ…。ギルマスまで来てたの?ギルドで仕事してなさいよ。」


「ガッハッハ!仕事してるんだなァこれが!学院からの依頼なんだぜ?」


 リュウゾウはキチンと依頼として来たようだ。しかし本来であれば冒険者に任せるようなものであるので、サボりっちゃサボりである。


「ほっほっほ。これで2人ずつ入れるのぅ。どう分けるんじゃ?」


 ヤマトがそう言った途端、リンカとルーミニアは動き出していた。そう、アークの元へ。しかし―――


「「んな!シズ、早!!」」


「私の勝ち……。どっちか諦めて。」


 シズはもう既にアークを後ろから抱えていた。絶対にアークのパーティーに付くという意志が感じられる。


「まあ確かにシズはアーク以外のところ行ったら喋らなさそうだものね…。仕方ないわ。それじゃあ私とシズでアークくんのパーティーに付くわ。」


「ちょっっと待ちなさい!!私が付くのよ!ルーちゃんは違うところに行ったら!?」


 ルーミニアとリンカがバチバチに争っており、それを見ていた生徒たちは少し引いていた。それを見かねたリュウゾウが助け船を出した。


「んじゃあシズが決めてやれ。それで文句は無しな。」


「…ん。名案。それじゃあ…。ルーで。」


 シズはルーミニアを指名した。選ばれたルーミニアは飛んで喜び、選ばれなかったリンカは膝から崩れ落ちた。


「シズ…!なんで私じゃないの…!!」


 リンカは恨みがましい目でシズを睨み付けた。絶対自分が選ばれると思っていた矢先、この様である。


「…リンカはずるい。最初アークと会った時も、この前の討伐依頼も……。だから…。」


 あながちキチンとしていない理由であったが、ルーミニアは当然とばかりに頷いていた。リュウゾウが文句は無しと言ったのでこれ以上駄々をこねたりはしないが、それでもリンカは不満そうだ。


「それじゃあアークのところはその2人な。ジンのところは、俺と学院長でいいか。ツバキもいるしな。」


「ほっほっほ。そうじゃのぅ。それがいいじゃろ。」


 ジンのいる貴族組はジュウベエとヤマトの教師陣コンビとなった。ヤマトとしては孫がいるためジュウベエに言われなくても付くつもりであっただろう。


「んじゃ、俺はイワオと組んでこの男子組だな。リンカとギルマスは女子組ってことで。」


 カールニアはイワオと組み男子組へ、そしてリンカとリュウゾウが女子組へと決まった。


「それじゃあ、学院の地下ダンジョンに行くぞー。付いてこい。」


 一行はジュウベエを先頭に歩き出した。地下へ続く階段は訓練場の近くにあり、その階段を降り、その降りた先のフロアをまた歩いてまた階段を降りていく。それを何度か繰り返し、ようやくダンジョンの入り口に到着した。


 ダンジョンの入り口は門のタイプではなく、転移魔法陣が仰々しくあるのみであり、そこからダンジョンの雰囲気を読み取ることはできない。


「お前ら、これは一応授業の一環だ。ちゃんと成績は出るから、気ィ抜くなよ。それに、過去にはダンジョンに入って命を落とした生徒もいるんだ。甘く見てると死ぬからな。終了時間になったらそれぞれに付いている大人たちに転移石を渡してあるから、それで帰還するように。それじゃあ、行ってこい!」


 ジュウベエは簡単にそう告げると、早く行くように促した。生徒たちは過去に死者が出たという話を聞いて、かなりびびっている様子であった。しかし、引率者がかなりレベルの高い者たちであるので、その心配はないだろうとアークは思っていた。


「皆行かないなら、僕たちから行こうか。転移魔法陣ってことはランダムな場所に飛ばされそうだしあんまり順番は関係ないよね。」


 アークはそう言って一歩踏み出した。それに続いてパーティーメンバーは歩き出す。


 メンバーはアークと仲のいいサクラ、ミカゲ、ミルがおり、唯一話したことのないメンバーはミーナだけである。ミーナはアークとはあまり親しくしている訳ではないが、それでもアークがめちゃめちゃ強いということは知っているので、気は楽な方であった。


 アークたち5人は近くに立てかけてあった刀や杖などを手に取り、シズ、ルーミニアと共に転移魔法陣でダンジョンへ入っていった。






「―――おお、昨日の蟻の巣とは全然違う。明るいな。」


 アークが最初に見た風景は、洞窟内であるのにかなり広く、壁全体が程よく発光しており、周りには複数の湖まである風景であった。


「…ん。懐かしい…。」


 シズは数年前までこの学院に通っていたのでよく覚えているようだ。


「シズお姉ちゃんもここの学院通ってたんですね。どのくらいの階層なんですか?」


「……え…。あ…あの……。30はある……って聞いた……。///」


 アークが急にシズをお姉ちゃん呼びにしたため、シズは完全にキョドっていた。そして嬉しいのか恥ずかしいのか、顔が赤くなっていた。


「あらあら…ふふふ。シズったら。…それじゃあここにいても仕方ないし、進みましょうか。フォーメーションはどうするの?」


 ルーミニアはアークたちにフォーメーションについて尋ねた。ダンジョンにおいてフォーメーションはかなり重要なことであるので、これがしっかりしていないと死亡率が上がってしまうのだ。


「あ、はい。サクラとミカゲが前衛で、真ん中にミルとミーナさん、後衛に僕です。僕は後ろからの襲撃に近接でも対応できるし後ろから魔法も飛ばせますしね。」


「ええ、いい配置だと思うわ。皆は大丈夫かしら?」


「は、はい!アーク様の隣がよかったですけど、頑張ります!」


「わ、私も大丈夫です…。斥候役志望だったし、丁度いいかも…。」


「はいです!後ろはアークくんが護ってくれるから安心です!」


「え、ええ…。ミーナもそれでいいわ。アーク君は強いしなんとかなると思うしね。」


 サクラ、ミカゲ、ミル、ミーナはそれぞれ返事をした。いずれも了承し、否はなかった。


「上層は基本危険な魔物は出ないから安心して大丈夫よ。でも油断はしないでね。」


「「「「はい!」」」」


 皆気合いが入っている返事をしている。アークはそんな皆を後ろから見ていて、微笑ましく思っていた。


 1階層は特に魔物という魔物に出会うことなく、そのまま2階層へ階段を降りた。階段があった場所は祠のようになっており、分かりやすくなっていた。ダンジョンの地図はルーミニアが持っており、それを参考に道案内をしてくれている。


「2階層からはゴブリンが出てくるから、気を付けてね。かなり弱いんだけど、それでも武器を持ってたり集団で襲いかかってくるから。」


 アークは2階層へ降りてからわずかに感じる気配に気付いており、それがゴブリンということもなんとなく分かっていた。


「その先の角、2匹いるから気を付けて。」


 アークは先の曲がり角のところに感じた気配を報告した。そして、落ちていた石を投げ、気付いているぞと警告する。


 ゴブリンたちは奇襲が失敗だと分かると、勢いよく飛び出してきた。どちらも錆びた剣を持っており、こちらを殺す気満々であった。


「ミル!ミーナさん!魔法で迎撃を!サクラとミカゲは魔法を打ち終わったら突撃で!」


 ミルは無詠唱で水弾を、ミーナは数秒詠唱し風弾を撃った。どちらも着弾し、ゴブリンを吹き飛ばす。サクラとミカゲはそれと同時に駆け出し、倒れているゴブリンに刀を突き立てた。


 急所を突かれたゴブリンは両方絶命し、そのままダンジョンの床に吸収されていった。皆はある程度リンカたちに知識として教えられていたが、それでも目の前で吸収されていくのを見るのは不思議な感覚であった。


「や、やりました!」


「ええ…!やったわ!」


 サクラとミカゲは初めて魔物を倒したので、喜んでいた。それはミルとミーナも一緒で、2人も飛んで喜んでいた。


「うんうん、上出来ね。アークくんの索敵も、指示も完璧だったわ。それにしても、ミルちゃんはもう無詠唱なのね。エルフの英才教育かしら?」


「いえ、アークくんに教えてもらってるです!最初は詠唱してたですよ。」


「そ、そうなのね。将来がしんぱ……楽しみね。」


 ルーミニアはアークが魔法を教えていると聞いて、心配になったが慌てて言い直した。すると、ミーナが不安そうな顔をしてルーミニアに尋ねる。


「あの…。ミーナも無詠唱で魔法出せるようになった方がいいんでしょうか?学院では詠唱を教わっているから、詠唱してるんですけど…。」


「あら、ミーナちゃん。そんなに急がなくても大丈夫なのよ。まだ低学年の内は詠唱を教わるのが普通なの。無理して無詠唱で魔法を撃とうとすると暴発する危険もあるから、まだ詠唱でいいと思うわよ。」


 ミルの無詠唱を見てミーナはその実用性が理解できたようだった。確かに詠唱をすれば安定性が増すのだが、それは魔力操作を上手くできるようになったり、しっかり想像することができるようなったりすれば必然的に安定性は増すのだ。


 しかし、大人になってもまだ詠唱をしないと魔法を発動できない人はかなりいて、こうしてキチンとした学院に通っていなかったり、クラスが下の方の生徒は無詠唱教育を受けられないのでそういう人たちが詠唱を用いているのだ。


「そうですか…。ありがとうございます。ミーナも無詠唱で魔法を出せるようにこれから頑張ります!」


 ミーナはルーミニアのアドバイスを聞き、いずれは無詠唱でできるようになることを心に誓った。


「それじゃあ、先へ進みましょうか。危なくなったら助けに入るから、色んなことにチャレンジしていいのよ。」


 そうしてアークたちは次々と階段を降りていった。

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