第41話 ダンジョンとパーティー分けと『光翼の癒し』

 クレアと脳内で会話をしていると、サクラとミカゲ、ミルが教室に入ってきた。アークは自分にしか見えないステータスを閉じ、3人に向け手を振った。


「おはよう皆。」


「おはようございますアーク様!」


「お、おはようアーク…。」


「おはようです、アークくん!」


 3人それぞれがアークに向けて挨拶をした。この光景はもう馴染みの光景であり、特に誰も気にしていないようだ。


「昨日は修行に付き合ってあげられなくてごめんね。ちょっと冒険者ギルドで指名依頼受けさせられちゃって。」


「いえいえ。ちゃんとアーク様が教えて下さった修行方法を実践してましたので!」


「そうね。私も朝起きてからと昼と夜寝る前にやってたわ。」


「ミルもです!」


 修行を一緒にやっているメンバーはあれからずっと同じメニューを繰り返しこなしている。まだまだスムーズにできてはいないのだが、確実に魔力操作技術は向上していた。


「やあ皆、おはよう。修行の話かい?」


 サクラたちと話していると、ジンが教室へやってきた。


「あ、ジンおはよう。そうだね、昨日は修行を見られなくてごめんって話だったんだ。」


「そうなんだ、全然気にすることないのに。あ、それより冒険者ギルドの騒ぎ聞いた?」


 アークはジンのその言葉にピクリとなった。かなり心当たりがあり、違うことであってくれと願っても絶対にそのことであるのは確信している。


「え、なにかあったんですか?」


「私も知らないわ…昨日は特に外出もしてないし…」


「ミルも知らないです。アークくんは知ってるです?」


 サクラたちはずっと修行をしていたようで知らなかったようだ。ミルはアークが冒険者ギルドへ行っていたことに気が付き、何か知っていないか聞いた。


「んーー…?いやぁ…。なんだろうねぇ?」


 アークは下手な演技で誤魔化した。騙されたのは純粋なサクラとミルのみであった。ジンとミカゲはアークは知っているだろうと勘付いた。しかしなんだか誤魔化したいようであえて突っ込まないようにした。


 アークたちはなんだかんだでその後やってきたツバキも加え、修行の話に戻った。





 少しすると、ジュウベエが教室に入ってきて席へ着くように促した。なんだか生き生きした感じだが、なにかあるんだろうかと皆ソワソワし出した。


「お前らー、なんでだか知らんが、ダンジョンへの立ち入り許可が出たぜー!今日から3日間行っていいらしいんだが、さすがにお前らも準備がいるだろうし、午前の座学は無し!午後から行くぜ-!訓練場に集合な!それじゃあ、解散だ!ガハハハ!!」


 ジュウベエはそれだけ言い残し、早々に教室を飛び出して行った。クラスの皆はポカンとしており、まだなにがなんだか理解しきれていない。そんな中、アークとジンだけは冷静であり、ダンジョンに入ると聞いて今後やらなければいけないことをしなくてはと、行動を開始した。


「アーク、ダンジョンって正直僕はよく分かってないんだ。恐らくクラスの皆もね。どうすればいいかな?」


 ジンはアークが変なところで知識が豊富であることを知っていたので聞いてみた。


「うーん、そうだね。昨日もダンジョンみたいなところ潜ったからなんとなくだけど分かるよ。それに知識だけは少し知ってるし。」


 アークはここでさっき誤魔化したことを暴露してしまったが、皆ポカンとしていたのでそのことを聞いてくる者はいなかった。


「まずやらないといけないのは、パーティー分けだよねぇ。そういえば、21人て聞いてたけど20人だよね。なんでなの?」


 アークは最近疑問に思っていたことを聞いてみた。


「ああ、男爵家の子だったんだけど、家が取り潰しになっちゃってね。それで通えなくなっちゃったのさ。当主だけが悪かったから、なんとかその子と母親は生きているんだけど、その母親の実家のある街に引っ越したみたいなんだ。」


「あー…。そうだったんだね。そんなこともあるんだ。」


 アークは途中から入学したのであまり知らなかった。しかし、そのことで丁度20人となったので不謹慎ではあるが丁度良かったと思った。


「じゃあ20人なのか。5人で4グループに分かれるのが丁度いいかな。じゃあジン、ちょっと仕切ってもらっていい?僕そういうの苦手でさ…。」


 アークはそう言ってジンへこれからやって欲しいことを耳打ちし、仕切ってもらうことにした。ジンはアークからの指示を早速実行すべく、ザワザワし始めたクラスへ声を掛けた。


「皆ー!ちょっと話聞いて欲しいんだ!」


 ジンのその言葉に全員が静かになり、ジンへ目線を向けた。


「午後の集合時間までにまだ5時間くらいあるのは分かるね?先生は午前の座学の時間を使って準備をしろって言ってたんだけど、この準備も授業の一環だと思うんだ。だから、皆には協力して欲しい。」


 ジンは皆へ問いかけるように言葉を紡いだ。クラスの皆はジンの真剣な様子にそれぞれが気を引き締め、頷いていた。


「ああ、分かった。突然準備しろだなんて言われたけど、俺だけじゃなにすればいいか分かんないしな。皆で協力するか!」


「そうですわね。皆で乗り切りましょう。」


 以前サクラを呼び捨てにした件で絡んできた青髪の少年、カズマと金髪お嬢様のサチホがそう口にし、協力することに同意した。それにしても青髪は絡んでくるのが不思議だなぁとアークは考えていたが、今はふざけている場合じゃないと、考えを切り捨てた。


「それじゃあ、まずはパーティー分けをしようか。冒険者たちが組んでいるようなものだね。まずは魔法職か、近接武器職で分かれて欲しい。魔法職は窓側に、近接武器職は廊下側に分かれて。」


 そうして分かれた結果、魔法職が8人、近接武器職が9人となった。しかし、残りの3人であるアーク、サクラ、ミカゲは迷っていた。正直どちらでもできるので、どっちへ行ったらいいのか決められずにいたのだ。


「あー…。3人はどっちもできるんだよね。それなら魔法職が丁度8人だし、3人は近接武器職に入ってよ。そうしたら丁度12人で4分割できるしね。」


 そう言うジンは近接武器職の方へ行っていた。どちらかというと刀を使った方がいいと判断したのだろう。


「それじゃあ魔法職の方は2人組を組んで4つに分かれて。よし、こっちは3人1組だね。どうやって分けようか。やっぱり仲いい人と組みたいかな?」


 ジンは全員の大体の力量は把握していたが、それだけで決めてしまうのも悪いのかなと思い、そう聞いてみた。


「そうですね!私はアーク様と組みますから、その方がいいです!」


 サクラはなにがなんでもアークと組みたかったため、アークの腕を取りキープしたと言わんばかりの顔をしていた。ジンとしてはそうなることは予想できていたためそれはいいのだが、そうするとミカゲも一緒がいいと言い出すだろう。そうした場合のパワーバランスが考えどころであった。


「んー…。まあいいか。多分先生たちも付いてくるだろうし。分かった。仲いい人と3人1組ってことで、それぞれ分かれて。」


 ジンはアークと組めないことに残念がっていたが、他にも仲のいいメンバーはいるのでそちらの子たちと組んだ。


 パーティー分けの結果、第1班がアーク、サクラ、ミカゲ、ミル、ミーナとなった。ミーナはミルと同じく留学生の子で、犬獣人の子だ。


 第2班は、ジン、カズマ、ユウマ、サチホ、ツバキの貴族組となった。


 第3班は、シンジ、ケンジ、ボブ、オサム、ザックの男子組となった。オサムだけ貴族である。シンジとケンジは双子であり、商家の子である。ザックも商家の子であり、ボブだけが平民の子であった。


 第4班は、ララ、アンナ、ジュリ、カナ、アキの女子組となった。ララとアンナ、ジュリは商家の子で、残り2人は貴族である。


 こうしてクラスの貴族以外の子たちを紹介したが、平民はボブだけである。ボブはかなり優秀な生徒であり、こうしてSクラスにねじ込んだのだ。その他は大体商家の子である。下手な貴族より贅沢な生活ができているような有名どころの商家だったり、そこそこ名の知れた商家だったり、色々いるようだ。


「よし、取りあえずパーティー分けは終わったね。それじゃあ、後はアークがダンジョンについて知っているみたいだから、アークにパスするよ。」


「ええ!!僕…?えー…。まあしょうがないか―――――うわ!!」


 アークは仕方ないと、教室の前の方へ向かおうとしたとき、教室のドアが急に思いっきり開かれた。そこに立っていたのは、リンカとルーミニアであった。


「ア、アークぅぅぅぅ!!!!!無事!?無事なのねーー!!!!!」


「アークくん!!心配したわよ!!!本当に…!!!」


『光翼の癒し』の2人はそう言うとアークは飛びついた。


「うわああ!!や、止めて下さい……!無事です、無事ですから…!」


《―――ちっ。あれだけ来るなと言いましたのに…。》


 アークはクレアの独り言が若干聞こえていたが、今はそんなことを気にしている暇も無く窒息しないように藻掻くのに必死であった。


「おい!アーク大丈夫か!……って遅かったか…。おいリンカ、ルー姉。せっかくのサプライズだったのに、台無しじゃねえか!」


 駆けつけたカールニアはリンカとルーミニアの頭を叩きながらアークから引き剥がす。


「痛いわね!なによ、私たちの弟が心配だったからこうして駆けつけて抱きついていたのに。」


「そうよ。カールは心配じゃ無かったって言うの!?」


「いや…。そう言うわけじゃねえが…。ってそれとこれとは別だ!せっかくサプライズでダンジョンの引率をすることになったのに、これじゃあ台無しなんだよ!」


 朝ジュウベエが言っていたよく分からないがダンジョンに入れることになった理由が今分かった。リンカたちがAランクパーティーの権力を使って無理をしたのだろうとアークは察した。


「あー…。丁度よかったんで、皆さんでダンジョンについての講義やってくれませんか?」


 アークは『光翼の癒し』にダンジョンについての解説を頼んだ。教室の外にはシズとイワオも来ており、Aランクパーティーの面々が揃っている。まあ、シズとイワオはほぼ喋らないが。


「ええ!いいわよ!私たちは色んなダンジョンに潜ってきたんだから、その知識皆に教えてあげるわ!」


 こうして午前の残りの時間は『光翼の癒し』によるダンジョン講義と、それぞれの役割についてのアドバイスの時間となった。その後は皆で食堂へ行き、Aランクパーティーがいるぞと騒ぎになりつつも、昼食を食べ終え集合場所である訓練場へ向かった。

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