第38話 レギオンアント討伐作戦5
『享楽の盾』の一騒動があったが、現在アークたち一行はレギオンアントの巣の中を進んでいた。巣の中は不思議と真っ暗ではなく壁が薄らと発光しており、明かりを灯さなくても進むことができた。
しかし、“光翼”と呼ばれるリンカがおり、その異名である光の翼を展開させている。その翼を羽ばたかせながら光の波動を出し、周囲を照らすと同時に味方には回復を、魔物にはデバフを与えている。
ただ、この能力はかなり魔力消費が激しらしく、あまり長時間発動し続けられないらしい。魔力ポーションという魔力を回復させるポーションがあるにはあるのだが、それはかなり高価であるので使いたくないらしい。
そこで、アークが魔力譲渡を提案した。最初はそんなことできるのかと疑われたが、実演して見せたらあっさりと提案が通った。
そうして、アークは冒険者たちの中央部分でリンカと手を繋ぎながら魔力譲渡しつつ、歩いている。
「ふんふんふ~ん♪ふっふっふ~ん♪」
リンカはアークと手を繋いでおり、かなり上機嫌であった。繋いだ手をブンブンと前後に振り、若干スキップしている。周囲にいる冒険者は注意しようにもAランク冒険者であるリンカには何も言うことができないでいる。
唯一リンカを矯正することのできるルーミニアは、中央部ではなく先頭部の方に配置されており、接敵次第、高威力の魔法で殲滅している。これにより、進行速度は極めて速い。ルーミニア以外に、リュウゾウ、カールニア、タカの3人も前に出ているのでそれも相まって進行速度が速くなっているのだろう。
これほどペースを上げられるのはやはりリンカの“
しかし、ルーミニアは主に魔法を使っており、リンカの能力では魔力は回復しない。なので、次第に進行速度は落ちてしまっている。
そして現在、ルーミニアは中央部に下がり、前線ではしゃぎまくっていたリュウゾウ、カールニア、タカの3人+モリゾウも中央部まで下がり、他の冒険者たちと交代していた。
「ルーちゃん!お疲れ♪クイーンまでまだありそうだから、ゆっくり休んでね♪」
「―――リンカ…?あんた、なに1人で浮かれてるの…!!」
ルーミニアはアークと手を繋いでいる手と反対の手をヒラヒラと振っているリンカの頭をゴツンッ!と持っている杖で思いっきり殴りつけた。注意も警戒もなにもしていないリンカはもろに食らってしまい、繋いでいる手を離して頭を抱えてうずくまった。
「…いっったーーい!!!ルーちゃんひどい!私はずっと皆の回復してたのに!」
「うるさいわ!なに1人でアークくん独占してるのよ!私だって一緒に手繋いでお気楽に歩いていたかったわよ!!」
「おいおい、お前ら、そこまでにしとけよ?Aランク冒険者のお前らがそんな醜態をさらすんじゃねえよ。」
「そーだぜ?ルー姉も羨ましがりすぎて周りが見られてないんじゃないか?それに、ルー姉は魔力切れ気味なんだし手繋いで魔力分けてもらえばいいじゃねえか。」
リンカとルーミニアの様子を見たリュウゾウとカールニアは2人に声をかけた。リンカはムスッとし、ルーミニアはパッと顔を明るくしている。
「そうね!今度は私と手を繋ぎましょう?」
ルーミニアはそうアークに声をかけた。ダメージが回復しきっていないリンカを尻目にサッとアークに近寄り、手を取った。
「あ、はい、お疲れ様でした。ずっと魔法撃ってましたよね?」
アークは労いの言葉をかけながら繋いだ手から魔力を送る。アークの魔力量はかなりのものである上に、なぜか魔力の回復速度も桁違いに早い。そのため、リンカにずっと魔力譲渡していたものの、魔力はあまり減っていない。
「ええ。巣を進んでいくとかなりの数がいたわ。道も広いし高威力の魔法を連発して、残ったのをギルマスとカール、タカさんにモリゾウさんが突撃するって感じだったわ。―――それにしても、アークくんの魔力は暖かいわね……。疲れも取れるみたい。」
「皆さんさすがですね。あ、流してる魔力にちょっと〔光魔法〕で回復の作用を入れてるんです。それに、魔法を使いやすくもしてますしね。」
アークは回復の魔法を外側からかけるのではなく、魔力を流し込むのを利用して内側から回復させようと考え、やってみたのだ。それに、少し濁して伝えたがルーミニアの魔力路を活性化させ、魔力の流れや魔法の威力を改善させている。魔力を流し込んでいる感じでは成功しているようであった。
「そうなのね…!ありがとうアークくん。クイーン戦には私も戦いたかったから嬉しいわ。このままだったら魔力が回復しなくって後方支援になるところだったわ。」
実際ルーミニアは今いる冒険者の中で1番と言っていいほど魔法の威力が高く、抜けた場合の穴はかなり大きかった。ルーミニアがいるのといないのとでは取る作戦も変わっていたであろう。しかし、今回はアークによってルーミニアの魔力は高価なポーションを使わずに回復できたので、楽な方の作戦を取ることができる。
道中は、普通のレギオンアントはもちろんいるが、比率はポーンやナイトが多く、かなり深部まで来た今ではナイトとジェネラルが最も多い。そして、ルークの数もかなり増えており、その側には必ずビショップが控え回復に徹している。
アークたち一行は後方の戦力を極限まで絞り、前線の戦力に回している。もうすぐクイーンがいるであろう空間へと着きそうであるようで、レギオンアントたちはかなり必死にこちらを攻めている。
アークも前線へと駆り出され、主にルークからの魔法攻撃への対処を担当していた。〔地魔法〕で岩の礫を大量に飛ばしてくるのだが、アークとしては正直余裕で撃ち落とせる。しかし、ただ撃ち落とすだけでは効率が悪いので、なにか違う方法はないかとクレアに相談してみた。
《―――そうしたら、〔力学魔法〕の訓練をしてみましょうか。アークは〔力学魔法〕の有用性をまだ理解できていないようですから。恐らく、今日から〔力学魔法〕なしじゃ生きられない身体になりますよ?ふふふ――》
怪しいことを言いながらクレアはアークの脳内に〔力学魔法〕の使い熟し方を送ってきた。そしてアークは驚愕した。
――こんな使い方が…!!これを極めれば、もっと刀術に生かせる……!!!
《―――――はぁ……。たしかにそうですが……。まあいいでしょう。年齢が上がれば自ずと分かってくるでしょう。それでは、頑張って下さいね。》
うん、分かった!取りあえず、基本は〔力学魔法〕だけを使ってみて感覚を掴んでみるね。
アークはクレアにそう伝え、意識を集中させる。現在見える範囲にいるルークは6体。その内2体は冒険者たちが抑えており、残り4体は安全地帯から魔法を撃ち込んでいる。リュウゾウたちもナイトやジェネラルに阻まれ、ルークにはまだ手を出せていない。ルークたちは的確にリュウゾウたちへ魔法を飛ばし、こちらを妨害してくる。なので、アークはそれの阻止をするといったところだ。
「よーし……。大体の使い方は理解したけど…あとはイメージと集中かな…!」
アークはリュウゾウたちが戦闘している付近めがけて飛んでくる魔法へと意識を向ける。
―――魔法の流れ、力の流れを読む。……今の実力だと、ちょっと厳しいかもな…。うーん、これはもうゴリ押しするしかないかもしれない。とりあえず試してみようか。
〔力学魔法〕――“
「いっっっけーーー!!!」
慣れない魔力操作に〔力学魔法〕の新しい使い方でかなり力を入れて魔法を発動させた。4体のルークが飛ばしている岩の礫はかなり広範囲に展開され、その数は500を超えている。冒険者たちはそれぞれで自分に向かってくる岩の礫を迎撃していた。
その岩の礫の軌道を全て改変する。岩の礫それぞれの軌道を変えると言うよりは、ルークの魔法発生箇所からの力線、力の流れを改変させる。
冒険者へ向かっていく軌道を、ポーンやナイト、ジェネラル、ビショップに改変させた。魔法を飛ばしているルークとしては冒険者たちへと向かって飛ばしているはずなのに、なぜか同族たちへと飛んでいくことに戸惑っている様子であった。恐らく冒険者たちの方へ向けて軌道修正をしようとしているのだが、全然変わらないことに戸惑っているのだろう。
ルークの魔法によって次々とレギオンアントは倒れ、冒険者たちは岩の礫が飛んでこなくなったことにより殲滅速度を加速させていった。
「―――はぁ…はぁ…。これはまずい…。慣れてないとかなり精神力と体力消耗する……。魔力的にはまだ大丈夫なんだけど…。」
「アークくん!大丈夫!?…これ、アークくんがやったの!?」
近くにいたルーミニアがアークに駆け寄り、声を掛けた。急に岩の礫がレギオンアントたちに降り注いで何事かと驚いた矢先、アークが片膝をついて息を切らしていた。
「はぁ…。はい、大丈夫です…。ちょっと無茶しすぎました…。あはは。」
「もう…。とりあえず戦況はこちらに傾いたみたいだし、暫くは休んでなさい。」
「はい、分かりました…。」
アークはまだ戦おうと思えば戦えたのだが、既にもう2体のルークは倒され、リュウゾウたちは3体目、4体目のルークに突撃していたのでルーミニアの言葉に従った。他の冒険者たちも着々とルーク以外のレギオンアントたちを倒し進め、ルーミニアの言ったとおり戦況は完全にこちらに傾いていた。
主に魔法の迎撃に努めていたルーミニアや他の魔法職の冒険者たちは、そのまま残る2体のルークへ大量の魔法を浴びせていた。ルーミニアはさすがAランク冒険者といったところで、かなり高火力の魔法で巨体のルークを吹っ飛ばしていた。
なんやかんやでこの場のレギオンアントたちの討伐は終わった。アークはかなり消耗していたが、リンカがずっと展開している“
「よお、アーク。なんだかお疲れだな。お前、面白い魔法使ってたな。それのせいか?」
「あはは…。そうなんです。初めて使ってみたら、思ったより難しくて…。」
「……俺はもう驚かねェからな。お前は規格外すぎるぜ…。」
リュウゾウは呆れつつもいつものアークの様子に若干安心しているようだった。リュウゾウは無理矢理アークを連れてきた側なのでアークのことはやはり心配だったようだ。
「そうよ、アーク。私でもまだ驚くのに、大盤振る舞いしすぎよ。あとはギルマスとかカーくん、ルーちゃんにタカさんたちに任せて私と後方にいましょう?」
リンカはアークが使った〔力学魔法〕に驚いたが、アークが疲れていると分かるとこれはチャンスとまたもや自分の側にアークを置こうと考えた。
「…まあ今回は許しましょう。私としては本当は一緒に戦いたかったけど、さすがに無理はさせられないものね。」
「ああ、そうだな。まあ、無理しない程度に援護射撃飛ばしといてくれ。」
「そうっすね。アークっちに頼りっぱなしっていうのは情けないっすから、俺っちも頑張るっすよ。」
ルーミニアとカールニア、タカはそう言った。アークは皆にとって弟のような存在であるので、無理はさせたくない。しかし、その実力はかなり高く、ここまでスムーズに来られたのもアークのおかげであることは分かっているので少しの葛藤があった。
「はい、分かりました。でも、カーお兄ちゃんが言った通り援護射撃はしますからね。」
アークは援護射撃と言ったが、内心では援護爆撃を投下するつもりであった。
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