第37話 レギオンアント討伐作戦4
駆けだしたリュウゾウを追うようにアークとカールニアも駆けだした。アークは“
クレアブルム流刀術――
アークから青色の魔力が溢れ出し、その魔力は海龍のような形になったと同時にアークを飲み込み、その魔力は段々収束し、ドレスアーマーのような形状へと変化していく。
ドレスアーマーは普通、女性の騎士が着るようなものであるが、不思議とアークには似合っていた。そのドレスアーマーは女性用という形ではなく、男性でも着られるような形であったからである。もちろんアークが女の子っぽいというのもあるが。
頭上には水の魔力でできた王冠のようなものが浮いて付いている。
それは、海龍が憑依したかのような風貌であった。対峙した者はいずれも海龍を相手にしていると錯覚するほどだろう。
「反対側にいる1匹はもらいます!ギルマスとカーお兄ちゃんはそのまま向かっているルークをお願いします!」
「お…!また隠し球か!おう、任せろォ!」
「カーお兄ちゃん……!いい響きだぜ…!任せとけ!」
アークとしては双子の姉であるルーミニアが姉とすると、双子の弟であるカールニアは兄となる。変に考えすぎた結果、カーお兄さんと呼んでみたのだ。案の定感触はよかったみたいで安心である。
ルークは単体でいえばB+といったところであるが、集団であればAランク、その集団の中にルークが複数いればA+並であると言われている。今回はルーク同士がある程度離れており、Aに該当する。
アークは本当は“帝国剣術”を見たかったが、ルークを倒し終わった後でも見られるだろうと思い、効率重視で動いた。
“
正直、無敵状態であるのだが、これはこれで魔力と体力、精神力がかなり持って行かれるので長時間使用できない。現在のアークで1時間が限界だろう。なので、早急に片付ける必要があった。
歩術――“
アークは地面を思いっきり蹴り、90°進行方向を切り替えた。そのままの勢いでトップスピードまで加速したアークは道中のレギオンアントたちを切断しながら一直線にルークに向かっていく。
ルークとしてもこのままではやられるだろうと分かっているようで、魔法を放ってくる。先程と同じように〔地魔法〕で岩の槍を大量に放ってきた。アークもそれを黙って受けるようなことはしない。
歩術――“
先程と同様にアークは地面を思いっきり蹴り、進行方向を斜め右前へと変えた。迎撃しなかったのは周りにいたレギオンアントたちを岩の槍が貫いてくれるからである。
アークはそのままの勢いで再びルークへ距離を縮めていく。ルークは魔法を打ち続けているが、アークは全てを躱し、時には刀で切断していく。そうして、とうとう近くまできた時ルークはアークに向かって鋭く尖った足を突き立てた。
歩術――“
しかしアークにはその足は当たらない。アークはトップスピードの状態から急激に減速し、その攻撃を躱したのだ。ルークとしては絶対に当たると思っていたその攻撃を外したことに困惑し、一瞬止まる。
アークはその隙を逃してはいなかった。〔風魔法〕と〔力学魔法〕を用いて5mほどの位置にあるルークの頭部付近まで跳躍し、その頭部を胴体部分との接合部で斬り飛ばした。本来であれば切断できないような強度なのだが、“
アークはこれで止まることはなく、まだ残っている2体のルークを見据えた。どちらもリュウゾウやカールニア、他の冒険者たちに集中しており、もう1体のルークが倒されたことには気付いていないようだ。
それなら、とアークは〔完全隠蔽魔法〕を発動させ、全てからの認識から隠れる。そしてアークから見て手前側にいるルークに向かって駆け出す。道中のレギオンアントたちはもちろん切断していく。
そして、先程と同様に〔風魔法〕と〔力学魔法〕で高く跳躍し、魔法を放つことに夢中になっているルークの頭部を切り落とした。それと同時に〔完全隠蔽魔法〕を解除し、冒険者たちに自分が倒したぞ、とアピールをしておく。
魔法をガンガン飛ばしていたルークが急に死んだことに周囲の冒険者たちはかなり驚いていたが、先程まで無双していたアークがやったのだと認識すると、歓声が沸いた。
アークはこれでクレアからの指令を果たすことができたと安堵しつつ、もう1体のルークを見た。しかし、リュウゾウとカールニア、『享楽の盾』のタカとモリゾウの4人で切り崩しており、もうそろそろ終わりそうであった。ちなみに、『享楽の盾』のもう1人のメンバー、青二才ことコルトは、雑魚処理担当のようだ。凄い形相でレギオンアントたちを滅多切りにしており、仲間を殺されたことがかなり頭にきているようであった。
「とりあえず、一旦は落ち着いたかな…。」
アークはそう呟き、“
倒された2体目のルーク付近はもうレギオンアントはおらず、安全地帯と呼べるくらいであった。冒険者たちはアークへ駆け寄り、思い思いに声をかけている。
「よォ嬢ちゃん!やるなァ!!」
「ああ、さすがは秘密兵器だな!!」
「おい、コイツ男じゃなかったか?アークって名前だし、男だよな?」
「ええ!見えないわ!女の子みたい!!」
「ああ…。髪も長いし完全に嬢ちゃんだよな…。」
「それにしても、坊ちゃん強えよな。その耳……。エルフだよな。エルフなのに剣使うのか…。」
「―――おいおい、いい加減にせんか!!アークが困っているだろうが!!!」
アークへ一方的に声がかけられ、どう対処して良いか分からないところに、救世主が現れた。今まで“光翼の癒し”と行動していた『享楽の盾』リーダーのモリシゲであった。モリシゲもパーティーメンバーの仇を取りたいはずなのだが、後方支援に回っていた。
「済まないな、アーク。こいつらもお前さんに興味津々みたいでな。それより……。ギルドマスターたちの方も終わったようだな。一旦合流しよう。」
「あ、はい。分かりました。」
モリシゲを先頭にギルドマスターたちの元へ向かう。ここにいる冒険者はCランクパーティー以上の冒険者たちなのでこの後巣に入ることになっても簡単にはやられないだろう。そうして、リュウゾウやカールニア、その他の冒険者たちの元へとやって来た。後方支援をしていたリンカたち『光翼の癒し』は既にリュウゾウの元へ来ていたようだ。
「ギルドマスター、ここにいる冒険者で全員だ。地上に出たレギオンアントはほとんど掃討してあると思う。あとは後方に残した冒険者たちでなんとかなるだろう。あとは……。巣の中にいるクイーンを狩れば終わりのはずだ。」
「ああ。助かった、モリシゲ。それにしてもルークを倒すのが早かったな。アークにやらせたのか?」
リュウゾウは自分たちより早く2体のルークを倒したのがあまり面白くなかったようで、少し不機嫌であった。しかし、アークがやったということはなんとなく分かっていたのでそう聞いたのだ。
「1体は僕ですけど、もう1体は皆さんの助けがあって、良いところをもらってしまった形なんです。」
アークは半ば横取りしたような形になってしまったことに罪悪感を感じていたので少し弁解をしておいた。冒険者たちはそんなことないと思っていたが、ここで1人いちゃもんを付けてくる人物がいた。
「はっ!どうせコソコソ隠れて最後だけ攻撃しただけなんだろ。情けねえぜ。」
―――うん、確かにそうとも言う!
アークは悪口を言われていたが、特に気にした様子もなく確かに、といった顔をしていた。しかし、情けねえと言われたアークはちょっとツボに入っていた。
「―――ぷっ…。青二才さんも……。ルークと戦わずにナイトやポーンと戦ってたので……。ぷふ……。情けないのはお互い様ですね…!」
アークが笑いを堪えながら言った内容は、コルトにはかなり頭にくる内容だった。しかし、周りの冒険者たちやリュウゾウ、『光翼の癒し』、パーティーメンバーである『享楽の盾』には大うけであった。皆腹を抱えて笑っていた。
「……う、うるせェ!!俺だって好きで雑魚処理してたんじゃねェ!!ギルマスや師匠が戦いやすいように近寄ってくる奴らを片付けてたんだよ…!!」
「あれ、指示されたって訳じゃないんですね。」
アークはリュウゾウやタカに言われてやっていたのだと思っていたが、自ら率先してやっていたらしい。……結局情けないじゃないかと思ったが、口には出さない。
それを聞いて、ピタッと笑うのを止めた人物が2人いた。それはパーティーリーダーであるモリシゲと、師匠であるタカだった。
「コルト……。お前は最初から逃げたのか?自ら立ち向かわず、ギルドマスターやカールニア、タカ、モリゾウが戦っているからと、楽な道を選んだのか…!!」
モリシゲの言葉に周囲の笑い声はピタリと止んだ。普段ニコニコしているタカも表情が消え、かなり鋭いオーラが滲み出ている。
「い、いや!俺は―――」
「言い訳はいいっすよ。はいかいいえで答えればいいっす。」
タカは冷たい声でコルトの言葉を遮った。師匠としてかなり怒っているようだ。
「―――は、はい……。このメンバーなら、俺がいない方がいいかと……。」
「馬鹿者がッ!!お前はそれでもAランク冒険者か!!」
「……そうっすね。雑魚処理は他の冒険者たちで間に合ってたはずっす。アークっちに情けないとか言っておいて、コルトの方が情けないっすよ。」
パーティーメンバーにボロカスに言われたコルトは膝から崩れ落ちた。コルトとしては最善だと思って行動していたのだが、それはAランク冒険者としてはあってはならない行動であった。
「お、俺だって…。モリタの仇を取るために必死で戦ってきたんです!少しでも多くレギオンアントを殺してモリタの仇を……!!」
「なあ、コルト。なぜモリタがあれだけ前に出て孤立したのか、分かるか?お前は前しか見られないひよっこだから分からないかも知れないがな…。アイツは、お前のサポートをするために前に出たんだ…!危険だと知っていながら、お前を助けるために前に出たんだ!!お前がタカの指示を無視して突っ込んだ結果が、モリタの死なんだよ…頼むからもう少し考えて行動してくれ……。」
タカに秘密にしてくれと言われた内容をモリシゲはコルトに伝えた。いずれは言わなければいけない内容であったが、今言うのは中々キツいだろう。
「――えっ…?そ、そんな……。モリタは俺のせいで―――――」
コルトはあまりのショックで気を失い倒れた。親友であったモリタが死んだのが自分のせいという事実を告げられ、かなり心にダメージを負ったのだろう。
「うちのメンバーが失礼したな。…ギルドマスター、俺はコルトの面倒を見るので抜ける。申し訳ない。タカとモリゾウは残していくので、任せます。」
倒れたコルトをモリシゲが抱え、周囲の冒険者たちに謝罪した。そして、ギルドマスターにそう告げ、後方の防衛陣地へ向かって行った。
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