第36話 レギオンアント討伐作戦3
「―――お、おいお前…。これ全部1人でやったのか……?」
リュウゾウや冒険者の面々はレギオンアントやその上位種が頭部を切り離されて転がっている惨状を見て唖然としていた。現在、付近に残っているレギオンアントは見たところ200体程で、それに加え巣の近くにルークが3体いるのみであった。
「あ、はい。かなり疲れましたよ~…。ギルマスさんたちちょっと手伝って下さい。すぐ手前側のレギオンアントたちを倒して、あのでっかいの倒しましょう?」
「お、おう…。分かった。よしお前らァ!アークがこんだけ素材残してるから遠慮はいらねェ!!ぶっ潰せェェ!!」
「「「「「「「オオォォォォォ!!!!」」」」」」」
リュウゾウは連れてきてよかったと安堵しながらアークの要請に応えた。もしアークを連れてこなかった場合、討伐隊は壊滅、更に王都にも被害が出ていたかも知れないと思うと背筋が凍りつく。そんな思いを吹き飛ばすように冒険者たちへ檄を飛ばした。
「アークくん、ボクたちは?ボクたちは?」
「あ、お帰りシルフ、ウンディーネ。2人は一旦戻って大丈夫だよ。ありがとね。」
アークは2人が巻き起こした雷を落とす竜巻について聞こうと考えていたが、その前にクレアが原理を教えてくれていた。あれは竜巻の中に氷の粒を大量に発生させ、空気との摩擦により雷を発生させていたらしい。それにウンディーネが水の魔法で雷の落ちる場所を誘導し、シルフはシルフで竜巻から風の刃を出していたようだ。
「うん分かった!じゃあ後で、ご褒美待ってるね!むふふ~!」
「それではアーク。またすぐに……。うふふ…。」
2人は怪しい笑みを残して戻っていった。あまり無理なお願いじゃないといいなと願うアークであった。そんなアークと上位精霊2人を見た面々は、呆れたような表情をしている。またか、といったところだろうか。
「……お前、そういえば精霊に愛された、みたいな称号やら能力持ってたな……。よく分からん能力だと思ったが、そういうことだったか……。」
「ええ…。上位精霊を2人も召喚するなんて……。普通だったらあり得ないわね。」
「さすがは私の弟ね!」
アークはリュウゾウと『光翼の癒し』の面々には隠蔽した能力を見せたことがあり、その中に【精霊に愛された者】という称号と、【精霊ノ寵愛】の固有能力があった。それを覚えていたのだろう。
ルーミニアはしたり顔で頷いており、リンカは自慢げに頷いていた。カールニアは呆れ笑いをしており、シズとイワオはため息をついていた。唯一驚いていたのはモリシゲだけであった。
「それじゃあ、アークは今度こそ私たちと行動してよね!」
「そうね。アークくんの動きをまた見られるなんていい機会だわ。」
『光翼の癒し』のリーダーとサブリーダーのリンカとルーミニアが突然そんなことを言ってきた。アークは元々単独行動を取るつもりであったが、なぜだか両腕をガッチリと拘束されている。
「あ、あのー…。僕は単独―――」
「「私たちと……ね?」」
「は、はい…。分かりました…。」
有無を言わさずといった感じで同行させられるようだ。もう他の冒険者たちはレギオンアントをぶっ潰すために動き出していたが、リュウゾウと『光翼の癒し』の面々、『享楽の盾』のリーダーであるモリシゲはアークの近くで待機していた。
「私たちと一緒に行動するってことは、後方支援ってことだから、アークは私たちの護衛をしてね。だからしばらくは休憩していていいわよ?」
リンカやルーミニアはアークを休憩させるために敢えて強引に一緒に行動させたのだが、アークとしてはすぐに突撃したかったのが本音だ。しかし、かなり疲れているのは事実であるため、ありがたいことはありがたかった。
「うん……。ありがとう、お姉ちゃん。」
「「はぅあ……!!!」」
アークはリンカに言ったつもりだったが、なぜだかルーミニアまで悶絶していた。アークはお面を付けているのでそこまで破壊力はなかったが、それでもかなりの威力があったことは間違いなかった。
「い、いいいいーのよ!全然!当然のことだわ!」
「え、ええ!よしリンカ。私たちの本気見せてあげようじゃないの?」
「いいわね!じゃあ、今回はアークは私たちの戦いぶりを見てるのよ!私たちだってAランクパーティーなんだから!」
リンカとルーミニアはなぜか火を付けたようにやる気になっていた。たしかにアークは『光翼の癒し』の戦いを見たことがなかったので見られるのはありがたかった。休んでいる間は“
「シズちゃん!イワくん!2人で組んで私たちに近づいてくるレギオンアントを迎撃!カーくんは単独で迎撃!ルーちゃんは冒険者たちの支援を!」
リンカの指示と同時にそれぞれが動き出した。シズとイワオはコンビを組んで、イワオが護り、シズが仕留めるといった良いコンビネーションを発揮している。カールニアはさすがはAランク冒険者ということもあり、流れるようにレギオンアントを薙ぎ倒している。
シズとイワオは喋らずに淡々とレギオンアントを倒している。声を出さずにコンビネーションを取っているあたりがAランクパーティーである所以なのだろう。
カールニアは中々やり手である剣術の使い手のようだ。アークの知識にある剣術であったので、カールニアやルーミニアの出身地が窺えてしまった。その剣術は『帝国剣術』と言われているものであり、帝国民である者にしか教えてはならないとされているものだ。
ルーミニアはレギオンアントと冒険者たちの混戦となっている戦場へ向けて、魔法を放っている。冒険者に当たらないように攻撃魔法を放ち、また、正確に冒険者へ向けて支援魔法を放っていた。これだけでもかなり技術の高さが分かる。
「それじゃあ、私も本気で支援するわよ…!」
今まで指示のみであったリンカがようやく動き出した。
「〔聖魔法〕――“
リンカから溢れ出した魔力は光り輝く3対の翼に象られ、背中に生えたようになっている。そして、その3対の翼が羽ばたくと、光の波動が戦場に広がっていった。その波動を受けた冒険者たちは傷やダメージが徐々に回復していき、逆にレギオンアントたちは動きが鈍くなってきた。
味方には回復を、敵にはデバフを与えるなど反則技だろうと思うが、これは魔物に対してしかデバフハ働かないのだろう。対人戦では使えない能力である。それでもリンカは他にいい手段を持っているはずなので問題はなさそうだ。
「―――凄いですね…。僕の体力も回復していきます…!これなら僕もせんじょ―――――」
「「ダメよッ!!」」
「あっはい……。」
アークの出撃要請は当然の如く却下され、泣く泣く観戦するはめとなった。
することがないのでアークはクレアにリンカの“
しかし、今再現してみてできてしまったら追求が怖いので止めておく。
そうして観戦し始めて20分、ようやく粗方倒し終え、残るは巣入り口周辺のみとなった。ようやくルークが前進し始め、こちらを排除しようと〔地魔法〕で岩の礫を大量に飛ばしてきた。
前線にいた冒険者たちにその多くが殺到するが、ルーミニアがそれを察知し、同じ〔地魔法〕で打ち落とす。それでもまだ岩の礫は残っていたが、冒険者たちは各々で回避をしたり防御をしたりしている。
「――ちっ。さすがはBランクってところね…。それも複数体だし。」
「ルーちゃんの迎撃がなかったら死んでた人もいたでしょうね。ここからは仕掛けて行きましょう。ギルマス、ゴーゴー!」
「――ったく…。ギルマス使いが荒い姉弟なこって……。ならアーク借りてくぜ。いいな?」
「えっ、僕?」
アークは観戦しかしていなかったので今回に限っては嬉しいものであった。しかしリンカとルーミニアはかなり渋っていた。自分たちが本気を出すと言った手前、ここでアークの手を借りることになるのは情けないと思っていた。
ここで、いつもは静かにこちらを見ているだけであったカールニアが声を出した。
「ルー姉もリンカも、いいんじゃないか?もう十分自分の実力は見せただろう?なあアーク、どうだったよ?」
「あ、はい。かっこよかったです!」
アークは突然振られてどもったが、素直に思っていることを口に出した。アークのその言葉にリンカとルーミニアは満更でもなさそうだ。
「ま、まあ私たちにかかればこんなもんよ!」
「え、ええ!そうでしょう!私のこともルーお姉ちゃんって、呼んでもいいのよ?」
ルーミニアはテンションが上がってしまいつい願望を口に出してしまったが、アークも自分が戦いに出たくてなりふり構っていられないのでルーミニアの要望に応えた。
「はい、ルーお姉ちゃん…?」
「ぬはッ……!!」
ルーミニアは呼んでもらえると思っていなかったので予想外のお姉ちゃん呼びに心臓にダメージを負った。
「そ、それじゃあ、行ってきなさい!頑張るのよ!」
「ええ、気を付けてね、アークくん!」
カールニアは作戦が成功したとニヤリと笑い、アークにウインクした。アークもそのことに気づき、小さくペコリとお辞儀した。
「よーし、そんならカールニアも付いてこい。よってくる奴らはイワオとシズで大丈夫だろう。」
「おーおー、俺もですか。まあ、相手に不足なしってところなんで、問題ないですね。」
「おお…!“帝国剣術”を間近で見られるチャンスだ…!」
アークがそう言った途端、空気がピタリと止まったような感覚になった。
「―――お、おい…アークよお、今、“帝国剣術”って、言ったか…?」
「え…?は、はい。言いましたけど……。」
なんか地雷を踏んでしまったようで、皆表情が硬い。帝国でなにかあったのだろうか?アークがそう思っていると、
「―――アークくんは、私たちが帝国民って知っても、普通に接してくれるの…?嫌いになったりしない…?」
ルーミニアが突如そんなことを言いだした。アークからすれば全く理解できず、混乱していた。
「ん…?どうしてです?帝国がなにかしたんですか?」
「あー、アークは知らんのか?帝国は人族至上主義の国で、人族以外は奴隷として扱う国なんだよ。お前はエルフだろう?エルフや獣人族は特に帝国を嫌っているし、シンラ国民や多種族国家の国民も帝国は割と嫌っているのが現状だな。」
答えずらそうにしていたルーミニアとカールニアを気にして、リュウゾウが答えてくれた。アークとしては帝国が人族至上主義というのはなんとなく知っていたが、それ以外を奴隷にしているとは知らなかった。
「あー…。そうなんですね。でも、カールニアさんとルーお姉ちゃんは別にエルフや獣人族を下に見ている訳じゃないんでしょう?」
「あ、ああ!それはもちろんだぜ!」
「ええ!私たちはそれが間違っていると思って帝国から出てきたのよ!」
やっぱりそうだと思っていた。アークのことは最初からエルフ(本当はハーフエルフだが)だと分かっていたはずなのでもし人族至上主義であったならば最初からバチバチであっただろう。
「それならいいんですよ。そもそも帝国民っていうだけで嫌う方が間違ってるんです。それだとやっていることが一緒ですよ。だから、僕は気にしませんよ。」
アークのその言葉にカールニアとルーミニアは安堵したのか、地面にへたり込んだ。
「あー…。よかったぜ……。ギルマスが暴露したときは肝が冷えたが、結果的にはよかったな。」
「ええ…。嫌われちゃうかと思ったけど、安心したわ。」
「ガッハッハ!!なーに、アークがこういう奴だって分かってたから言ったんだぜ?ガッハッハ!!」
ここにいる全員が違うだろうと心の中でツッコんだことだろう。
「よし、そろそろ行くぜ?冒険者どももしんどそうになってきてるし、一発ぶちかましに行くぜ!!」
リュウゾウはその言葉と同時に駆け出した。アークとカールニアもそれに続いて駆け出す。
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