第35話 レギオンアント討伐作戦2

 刀歩刀混合術――“散桜ちりざくら乱咲みだれざき”――〈嵐牙らんが


 左右に揺れるよう緩急をつけて駆けだし、〔幻影魔法〕を用いて分身を4体つくり、その分身たちと共にレギオンアントたちへ向かう。“乱咲みだれざき”は、“狂咲くるいざき”と違ってクレアの軌道操作が入っていない。その速度は落ちるが、精度は高い。対人戦では連続で斬りかかり、斬りかかる度に相手の対処しにくい箇所を攻撃して追い詰めるものだ。


 しかし、これは1対多であるので相手に近づかれないようにただ風の刃を飛ばしまくる。分身たちまで風の刃を飛ばすので、その光景は凄まじいものである。


「うーん、これじゃあ遠くのレギオンアントたちには届かないよね…。よし、それじゃあお願いしようか。」


〔精霊魔法〕――“風精霊召喚シルフしょうかん”・“水精霊召喚ウンディーネしょうかん


 アークは戦闘を続けながら風の上位精霊シルフと、水の上位精霊ウンディーネを召喚した。上位精霊を呼び出せるようになったのは最近、〔精霊魔法〕のレベルが10を超えたときからであった。レベルが10になった途端各属性の上位精霊たちがアークの目の前に現れ、挨拶をしにきたと言うのだ。


 皆フレンドリーな感じだったり、忠誠を誓うみたいな感じだったり、ツンデレだったりと個性が爆発していたが、これから長いつきあいになりそうだったのでしっかり挨拶しておいた。


 薄緑色の魔法陣と青色の魔法陣が現れ、その中からそれぞれシルフとウンディーネが出てきた。その見た目はどちらも成人手前といったところの大きさであり、シルフは今のアークの髪色と同じように薄緑色に光っている。ウンディーネは薄青色に光っており、それぞれの属性を身に纏っているようであった。


「アークくん、早速お仕事だね-?ボク、がんばるよー!」


「ふふ。アーク、久しぶりですね。クレア様も、お久しぶりです。」


 お転婆な精霊がシルフ、お姉さんな精霊がウンディーネである。ウンディーネはクレアに様をつけて挨拶までしている。クレアは召喚していないがやはり階級というものがあるのだろう。


《―――ふふ。お久しぶりですね。シルフちゃん、ウンディーネちゃん。しっかり働いて下さいね。働き次第ではアークからのご褒美もありますから。》


 ええ!勝手に決めないでよ!!


「「本当ですか!!」」


 シルフとウンディーネはアークからのご褒美があると聞き、俄然やる気をみなぎらせた。勝手に決められたアークとしてはあんまり乗り気ではなかったが、ここまでやる気になってくれれば致し方ないだろうと思い、まあいいかと納得した。


「うーん…。分かったよ。いいよ。」


「やったーー!!がんばるがんばる!!」


「ふふふ…。久しぶりに本気を出しましょうか……。」


「……じゃ、じゃあやること説明するね。ボクの攻撃が届かないところに範囲攻撃で壊滅させてほしいんだ。それも冒険者さんたちに被害が出ないようにね。」


 ウンディーネから本気を出すと聞こえてきて若干心配になりながら指示を出した。


「分かりましたわ。それでは、行ってきます。」


「行ってくるよー!」


 2人は颯爽と飛び立ちアークの攻撃が届かないところへ向かっていった。すると、突如巨大な竜巻が発生した。その竜巻からは狙い澄ましたようにピンポイントで風の刃がレギオンアントたちに飛んで行っている。しかも雷がバチバチとしていて竜巻の近くにいるレギオンアントたちに雷を落としていた。


 その竜巻がどんどん増えてきて、あっという間にアークから見て左側の攻撃が届かない範囲はその竜巻による風の刃と落雷で埋め尽くされていった。


「わー…。凄まじいね上位精霊…。あ、今度は右側から…。おおー。僕もちゃんとやらなきゃ。もうここら辺のレギオンアントは冒険者さんたちに任せちゃおうか。巣の中に入ろう。」


 アークと分身たちはシルフとウンディーネを召喚しつつもずっと風の刃を飛ばし続けていたので、かなりの数のレギオンアントを倒していた。その中にはポーンやナイト、ビショップも含まれており、上位種は特に気を付けて首を刎ねて倒していった。ポーンはレギオンアントを少し大きくしたような感じで、ナイトは更に大きくなり、外殻がゴツゴツしている。ビショップはポーンと同じくらいの大きさだが、色が黒ではなく若干灰色っぽい色合いだ。


 最初の方に放った“風ノ咆哮かぜのほうこう”によりできた道はもうレギオンアントたちがなだれ込み、なくなっているので、もう一度道をつくらなければならない。


 刀術――“頂花ちょうか”――〈風龍咆ふうりゅうほう


 アークは使うことのできる刀術の中で、最も威力が強い“頂花ちょうか”に乗せて風の砲弾を撃ち出した。“頂花ちょうか”は全てを叩き切るための刀術であり、繰り出すのに多少の隙が発生するため実戦では中々使いどころが限定されてしまうが、現在であればまだ大丈夫であった。


 ゴオオァァァァァ――――!!!!!!――ドゴオォォ!!!


頂花ちょうか”に乗せて撃ち出した風の砲弾は龍を象ったような形になった。かなりの数のレギオンアントたちを跡形もなく吹き飛ばしているが、その勢いは止まることがない。最終的には巣の入り口をぶっ飛ばすことによってその砲弾は消滅することとなった。


 歩術――“咲渡さきわたり”――〈追風おいかぜ


 アークは巣までの一直線の道をつくった後、すぐに地面を蹴った。“咲渡さきわたり”は体勢を低くさせつつ、一蹴りで数十m進むことのできる歩法である。それを、“春蘭しゅんらん”による風の魔力を合わせることによって、更に長く、更に早く移動する。


「―――ちょっ……。塞がるの早っ―――」


 途中までは順調にスルスルと進めていたが、巣に近いほうからだんだんとレギオンアントたちが流れ込み、道が塞がってきた。しかも塞いでいるのはほとんどポーンやナイト、ビショップであり、その後方にはジェネラルが確認できる。ジェネラルは外殻が鎧のようになっており、他のレギオンアントたちとは比べものにならないほど威圧感がある。


 アークはできれば早く巣の中に入ってクイーンをを潰したいと考えていたが、素材をできるだけ綺麗に残すという枷があるので魔法をぶっ放すことができないのが辛い。


「―――ここはちょっと本気を出さないとね……。」


 クレアブルム流刀術――


「咲き誇れ―――“開花かいか”――“三分咲さんぶざき”!!」


 リュウゾウとの戦いで発動させたこの“開花かいか”は、体内の魔力を操作することによって強制的に五感を強化、また肉体を強化する能力である。


開花かいか”は魔法ではなく魔力操作によるものであるため、〔無魔法〕というわけではない。つまり、効果が重複するのだ。同じ属性の魔法を重ねがけしても効果は重複せず、かけた魔法より効果が高い魔法をかければ、上書きされる。そのため、“開花かいか”を使えるアークはかなり有利であるのだ。


 しかしアークの場合、まだ6歳であるのでこれに〔無魔法〕で身体強化を行うと、さすがに耐え切れない。そのため今回は“春蘭しゅんらん”と“開花かいか”の2つで勝負をする。“開花かいか”1つでもかなり限界なのだが、“春蘭しゅんらん”は身体の外側に纏っている形であるためまだそこまで影響はないようだ。


「この前はヤマト爺に止められちゃったけど…。今回はちゃんと戦えるね!」


《―――はい。力みすぎて自壊しないようにして下さいね。》


「うん、分かった。それじゃ―――」


 クレアに釘を刺されつつ、アークはポーンやナイトで塞がりつつある道を切り開く。


 歩術――“舞菊まいぎく”――〈疾風はやて


 舞を踊るように軽やかに足を運び、ポーンやナイトの間を縫うように駆け抜ける。風の魔力の補助を受け、かなり無理な姿勢でも立て直し斬り進む。通り過ぎると同時に刀を頭と胴体の境目に差し入れ、その頭部を刎ねていった。ポーンはそうでもないが、ナイトの外殻はそこそこ堅い。そのため、装甲の薄いその境目に狙いを付けた。


 ポーンとナイトはかなりの速さで舞うように駆けるアークを捉えることができず、為す術もなくただただ頭部を刎ね飛ばされ続けている。


 巣に近づいてくると、ようやくジェネラルがこちらを始末しようと動き出した。その動きはかなり速く力強いものであったが、アークにとっては認識できる範囲であった。


 ポーンやナイト、ビショップと同じように境目の部分を斬りつけようと刀を振ったその時、ジェネラルはサッと頭部をずらし、その堅い外殻で斬撃を防いだ。アークは攻撃を防がれ弾かれたことに驚いたが、隙は晒さずに即座にジェネラルのカウンターに対処する。


「―――うえー…。ジェネラルほどになるとさすがに考えて行動してくるようになるか…。」


《―――はい、上位種は知能も高くなり、その脅威度は跳ね上がります。しかし、アークならば大丈夫でしょう。ゆっくりリュウゾウさんたちやシルフちゃんとウンディーネちゃんの方が片付くのを待ちながら数を減らしていけばいいと思いますよ。あんまり飛ばしすぎるとバテてまともに歩けなくなりますから。》


「うーん…。確かにこのペースはキツいよ―――ねっ!!」


 刀術――“桜花おうか”――〈空風からかぜ


 予備動作の全くない唐突の風の斬撃を繰り出した。ジェネラルは突然自分に向かって牙を剥く風の斬撃を対処することができず、頭部を刎ね飛ばされ絶命した。


「ふぅ…。やっぱりそこさえ斬れればなんとかなりそうだね。問題は、まだかなりの数のジェネラルがいるっていうことと、もう1種類なんかでっかいのがいるってことくらいかな…!!」


 巣からもう出尽くしたと思っていたレギオンアントは、まだまだいるようだ。しかし、出てきたのは今までのレギオンアントたちよりかなり大きな個体であった。若干茶色見かかった黒光りをしているレギオンアントで、その外殻は要塞のようにガチガチに固められているようであった。


《―――あれは、レギオンアント・ルークですね。物理防御力、魔法防御力共にかなり高いので厄介な魔物ですね。あれは後回しにして、先にルーク以外のレギオンアントたちを片付けましょう。》


「うん、分かった!それじゃあギルマスたちが来るまでにできるだけ数を減らして、来たらルークを倒して巣に突入ってことで!」


 出てきたルークは3匹。まだまだ中にいるようであるが、あちらも戦力がかなり減らされていて焦っているのだろう。


 アークはまだ“舞菊まいぎく”を維持しながら若干後退しつつ、周囲のレギオンアントたちを片付けていく。


 中々減らないレギオンアントたちに飽きてきたアークは、素材がダメになってしまうと分かっていてもちょくちょく魔法を挟みつつ応戦していた。正直もう大分上位種は狩っていて、絶対余るだろうと思っていた。まあ、まだジェネラルの素材は少なく、ルークはまだ倒していないのだが。


 現在はジェネラルの対処だけ丁寧に行っているのみで、他のレギオンアントたちはガンガン殲滅していっている。


 30分程続けていると、ようやく後方からリュウゾウや『光翼の癒し』、『享楽の盾』、その他高ランクの冒険者たちが追いついてきた。それに、シルフとウンディーネもこちらに向かって飛んできている。


 ようやく来たかと、ニヤリと笑みを浮かべアークはルークを見据えた。






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