第34話 レギオンアント討伐作戦1
「―――あのー…。そろそろ離れて下さい…!」
「いやっ!もうちょっとだけ!ね?あとちょっと!」
リンカはアークに抱きついて鼻息を荒くしていた。戦場に可愛い弟を出すのが苦しい、というのは建前で、ただその可愛さを堪能しているだけであるのだが。
ここには『光翼の癒し』の面々と、ギルドマスターがいる。『享楽の盾』はもう既に前線へ向かったようだ。
「こらリンカ。アークくんは強いんだから、死ぬわけないでしょう。だから帰ってからやりなさいな。」
「んーー…。分かったわよ。アーク、頑張りなさいね!」
ルーミニアの一言によりリンカが引き剥がされた。リンカもアークが死ぬことはないと確信しているのでそこまで心配はしていなかった。
「はい。えーっと、僕は主になにをすればいいんでしょうか?それと、レギオンアントの素材とか残しておいた方がいい部位とかありますよね?」
ただレギオンアントを討伐すると言っても、どこまでやるのかが分からない。指名依頼の内容はただレギオンアントの討伐としか言われていないし、秘密兵器と紹介されたので余計にどう動けばいいか迷ってしまう。それに、アークの場合、大規模魔法を数回打てば終わると思っていたが、それだと素材を回収できず、実入りが少なくなってしまう。
「あー…。お前は上位種狩りをしてくれ。敵陣突っ切って要所要所潰してもらえると助かる。…それくらい、簡単だろう?」
そう言ってニヤリと笑うリュウゾウ。自分が行けない分をこちらに任せようとしていたようだ。
「分かりました。それで、素材は極力残す方向でいいんですか?」
「ああ、そうしてくれ。一応倒した魔物は持っているギルドカードを見れば分かるようになってるから、回収しなくてもいい。」
おお…。なんて便利なカード!変なところで優秀な世界である…!
「はい、じゃあそろそろ向かいます。なんだか戦闘音も聞こえてきたので。それじゃ!」
アークはそう言い残し、跳躍した。そのまま空を蹴り、上空へと駆けていく。
「―――あいつ空走れるんか……。」
「な、なんでもありね…!」
「……私も…飛びたい…。」
「ふふ。確かに気持ちよさそうね。…それじゃあ、私たちは流れてきたレギオンアントと、負傷者の治療よ。頑張りましょう。」
ルーミニアが指揮を執り、それぞれへの指示を飛ばすようだ。そして今、蟻の殲滅作戦が始まろうとしている。
「うわー…。クレア、こんなに蟻さんいるのはさすがに気持ち悪いね…。こんなに素材要らないよね?」
アークは上空から戦場を眺めていた。辺り一帯を埋め尽くす黒光りした蟻たちをみて、背筋が凍るような感覚になった。その数は見えているだけで1万以上はいるのではないだろうか。
《―――はい、レギオンアントの素材はさすがに多いかと思います。しかし、レギオンアント・ポーンやレギオンアント・ナイトなどの上位種の素材はギルドとしては多めに欲しいと思いますよ。》
上位種になればなるほどその個体数は減り、素材は珍しくかつ優れたものになっている。レギオンアントは特に群れであるため、上位種の素材を取りに来れないのだ。
「そうだね。じゃあ、できる限り上位種は傷つけないようにしようか。普通のレギオンアントは他の冒険者さんたちが倒す分で間に合うだろうし、僕は効率重視にするよ。」
《―――ええ、その方がよろしいかと。それと――冒険者たちにアークの存在を強くアピールしておいて下さい。今後の活動のために。》
クレアはアークが冒険者として活動しやすいようにそう指示した。今回アークが派手に暴れれば、バカどもに絡まれはしても、搾取の対象とはならないだろう。むしろなんとかしてコネをつくろうと仲良くしてくれるはずである。クレアはそう思い指示をしたのだ。
「んー?分かったよ。あっ、そういえばレギオンアントのランク?みたいなの聞くの忘れてた。上位種とか割と高いのかな…まあいいか、それじゃあ僕も参加しようか!」
アークはクレアの言った意味をあまり理解していなかったのだが、別のことを思い出し、そちらに意識を持って行かれてしまった。そして、とにかく頑張ればいいのだろうと思い、少し高度を落とし戦闘に参加する。
「んー、どうしようか。とりあえずスペースを確保したいから〔風魔法〕かな…。よし――!」
〔暴風魔法〕――“
――ドゴォォォォ!!!
圧縮した空気を爆発させ、その一帯のレギオンアントたちを360°に吹っ飛ばす。そしてできた空白の地面に着地する。
「あらら、地面まで抉っちゃった。まあいいか。ここからだよ…!」
アークは気合いを入れ直し、新たに開発した刀術を展開させる。
クレアブルム流刀術――
アークから膨大な魔力が吹き出し、その身体を包み込む。薄緑色をした魔力はその姿をアークの身体にしては大きめの羽織に変え、アークに装備された。頭には長めの鉢巻きのようなものが巻かれ、身体から発生する強風にたなびいている。銀髪であった髪色も薄緑色へと変わり、その見た目は神秘的である。抜いた刀には風の魔力が纏われ、刀を近づけただけでも切り刻まれるほど荒々しく魔力が流れている。
レギオンアントたちはアークから感じる膨大な魔力に近づけないでいた。そしてその足を止めてしまっている。それは冒険者たちも同じであり、アークの異常さを信じられないといった様子で見ていた。
「―――そっちから来ないなら…。僕から行くね?」
アークはそう告げ、思いっきり足を踏みしめた。
歩刀混合術――“
“破裂弾”で抉った地面を踏み込みにより更に抉りながら刀を遠心力を用いながら大きく横薙ぎに振った。刀は風の魔力を纏っており、その魔力が風の刃として前方へと放たれた。横幅3m程の、一直線上にいたレギオンアントたちはアークの目の前から姿を消した。
「――わお。めっちゃ威力高い。これはかなりレベル上がっちゃうねぇ。」
《―――はい。しかし、頃合いでしょう。アークは既に全てにおいて技術が高いのであとはレベルと年齢、身長を伸ばすべきです。》
「そんなこと言われてもねえ…年齢と身長は皆と合わせないとダメでしょ。」
〔時空間魔法〕を使えば年齢を上げることは可能なのだが、さすがにそんなことをしてまで強くなりたいとは思わない。
「とりあえず冒険者さんたちが戦いやすいように間引いてから、上位種狩りをしますか。」
〔地魔法〕――“
アークは戦場一帯の地面に魔力を流し込み、レギオンアントがいる場所全体に土の槍を発生させ、冒険者たちが戦いやすいように数を調整した。発生させた槍の数は約10000本。半数を倒すつもりでやったのだが、このことから既に2万匹のレギオンアントがいたことが分かる。
「これ、中規模じゃないよね…?絶対大規模だよ…」
《―――はい。大規模です。リュウゾウさんは報告では中規模と聞いていたようですが疑っていたようで、アークを差し向けたようですね。》
「あの筋骨隆々め…。なんとかして引っ張り出したいけど、ギルドマスターだからねぇ…。もう伝えてみる?そしたら来るかな?」
《―――いいと思いますよ。このままでは恐らく冒険者の半数が死にます。》
クレアの予想はあながち間違っていない。ここにいる冒険者はCランク以上がメインだが、DランクやEランクも駆り出されていた。経験を積ませるために期待の高い若い者たちを連れてきたのだろう。その近くにはAランクパーティーの『享楽の盾』がいるが、数の暴力の前では為す術もないだろう。
「よーし―――『『ギルマス!!現在総数2万匹を確認!!恐らくこれでもまだ少ない!!巣の中を含めた総数は、5万から7万と思われる!!後方はいい!早く来い!!!』』」
後方、防衛陣地へ向けて〔暴風魔法〕により拡声させて叫んだ。ちょっと生意気な感じで言ってしまったが、まあいいか。
「とりあえずギルマスは呼んだから、もうちょっとしたら切り込み隊長しようか。それまでは―――近場の処理ってことで!」
抉られた地面では足場が不安定なので移動する。冒険者たちに襲いかかっているレギオンアントたちはまだ大丈夫そうなので、そこへレギオンアントを増やさないように段幕で押し返す。
刀術――“
アークは限界にまで速度を上げて刀を振り回す。“
そして、クレアにより軌道操作の入った“
アークはこのままだと冒険者たちのやることがなくなってしまうと思い、適度に移動しながら風の刃を飛ばし、冒険者たちが辛くない程度に間引いていく。これを10分ほど続けていると、ようやくリュウゾウが到着したようだ。
「お前らァ-!!無事か-!?」
「アークーー!!私も来たわよ-!!」
「ちょっと、私たち、でしょ?」
リュウゾウに続いて『光翼の癒し』の面々、それに数名の冒険者も前線へとやってきた。最低限の医療班と防衛班を残して来てくれたのだろう。
「ギルマスが来た!!」
「『光翼の癒し』もいるぞ!!」
「こ、これならいけるぞ…!」
やはりギルマスとAランクパーティーは信頼度が高いようだ。アークは今まで冒険者たちに死傷者を出さないようにレギオンアントたちを間引くように行動してきたが、もうその心配もないだろうと思い、リュウゾウへ声をかけた。
「ギルマス、モリシゲさんたちと一緒に冒険者さんたちを護ってあげて下さい。僕は、切り込み隊長してくるので!巣の方を殲滅するので時間が経てばレギオンアントはこちらに流れてこなくなると思うので、そしたら精鋭を集めて巣の方に来てくれたら助かります!」
「お、おう…。分かったが……。お前、その格好めっちゃカッコイイな……!!」
リュウゾウはアークを見つけると、“
「ええ、めちゃめちゃかっこよくて可愛いわ!!!」
「ふふ。たしかに可愛いわね。」
「結局可愛いは取れないんですね……。これはあの訓練場で見せちゃった火のやつの、風バージョン?みたいなやつです。詳しくは秘密なので!それじゃ!」
〔暴風魔法〕――“
収束された風のレーザーが一直線にレギオンアントたちを跡形もなく吹き飛ばし、通路をつくった。その幅は約5m程。アークの魔法の威力が恐ろしいことが分かる。
「「「「「―――はっ…?」」」」」
これを見ていた全員が顎が外れるくらい口を開き驚いていた。アークはそんなことを気にすることなく駆けだした。
刀歩刀混合術――“
アークは左右に揺れるように駆けだし、分身した。
「「「「「―――――はっ!?」」」」」
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