第33話 青二才と『享楽の盾』と秘密兵器

 シュウはアークの手を引き、以前来たときに入った応接室へと向かった。扉を開けると、そこにはいつ見てもデカいギルドマスターと『光翼の癒し』の面々、それと知らない冒険者パーティーがいた。


「おう、来たか!早速指名依頼で呼び出してやったぜ!ガッハッハ!」


 うわー…。やっぱり指名依頼だったのか…。別にいいんだけど…。


「アーク!久しぶりね!元気だった?」


「あ、はいお久しぶりですリンカさん。元気で―――」


「――お姉ちゃん、でしょ?」


「あ、はい。お姉ちゃん。元気です。」


 リンカはアークに強制的にお姉ちゃんと呼ばせてきた。相変わらずな人である。


「はぁ……。ごめんなさいねアークくん。リンカ、強制はよくないわ。ほどほどにね。」


「…はぁーい。分かったわよ。ってかギルマス、アークを本当にレギオンアントの討伐に連れて行くの?」


「ああ、そのつもりだ。できる限り死傷者を減らすにはコイツに突っ込んでもらった方がいいだろうと思ってな。」


 ええー…。僕が切り込み隊長やるの…。それにレギオンアントなんて知らないよ…。


《―――レギオンアントは蟻の魔物です。それぞれ階級に分かれており、普通のアント、ポーン、ナイト、ビショップ、ルーク、ジェネラル、クイーンとなっています。クイーンは絶対に1体のみですが、規模が大きいとナイトやビショップ、ルーク、ジェネラルの数が増えやっかいになりますね。》


 ふむふむ、なるほど…。さっき中規模とか言ってたからまだマシってことかな…。


「―――おいおい、ギルマス。本当にこのガキの世話をしなきゃダメか?正直言って足手纏いなんだがな…。」


 今まで黙ってこちらを見ていた知らない冒険者が声を発した。見た目は青髪短髪の、好青年って感じだ。剣を2本差しているので二刀流なのだろう。


「おぉーー……。二刀流で……。青…二才……。―――ぶはっ!」


「「「「「ぶはっ!!」」」」」


 や、やばい!!発明だ!大発明だああ!!!渾身のギャグが発生してしまった…!!!


「ひぃ……。あははは!!お、面白すぎて、あは、あははは!!!」


「あ、青二才って!!はははは!!言うねえ!」


「ガハハハハ!!!お、お前や、やめろ笑わせるな、ガハハハハ!!!」


 かなり受けたようで、半分以上の人が笑っている。


「―――お前ェ…!殺ス!!!」


 青二才が2本の剣を抜いて斬りかかってきた。なんだか遅く見えるのだが、気のせいだろうか。いや、前に戦ったギルマスが速かっただけか、と自己完結しアークは行動に出た。


 歩術――“月下美人げっかびじん


 アークは身体の軸をぶれさせずにスライドするように一瞬にして青二才の目の前に移動した。まだ振り始めてもいないその剣ではアークを斬ることは不可能であろう。


 青二才はアークが急に目の前に現れたことに驚き、動きを止めた。


「――んなっ!」


「――その隙、致命的です――よっ!」


 そう指摘して、青二才の顎に肘を軽く打ち込んだ。打術を使おうと思ったが、殺してしまっては後味が悪いのでやめておいた。


「「「……は?」」」


 顎を撃ち抜かれた青二才は、そのまま吹っ飛び顔面から壁に衝突した。アークはかなり軽くやったつもりだったのだが、無意識に魔力を纏わせていたのでかなりの威力になってしまったようだ。仲間と思われる面々は唖然としている。


「―――あー、ごめんなさい。思ったより弱かったのでなんかぶっ飛ばしちゃいました。青二才さんはCランク――いや、Dランクの方でしたか?お世話とか言ってたのでBかAだと思ったんですが。」


 アークはBランクかAランクがこんなに弱くないと思っていたので、そう聞いてみた。


「いや……。あいつはAランクだ。なったばかりだがな…」


「……え?あはは、さすがにそれは僕でも嘘って分かりますよ。Aランクってあんなに弱くないですよね。ねえ、お姉ちゃん。」


 どこでリンカに聞いてみた。リンカはAランクであり、王都の住民や冒険者から認められる冒険者なので、その判別は付けられるだろう。


「―――いやぁ…。それが本当なのよねぇ…。でも魔物みたいに表すと、A-って感じなのかなぁ…。いや、B+?まあそんな感じなのよ。」


「ええー…。じゃあBランクでいいじゃないですか…」


「それがねぇ…。依頼達成数とか色々な評価ポイントがあったりするのよ。だからコイツはAランクになったんだけど…。でもアークと比べちゃうと、ねぇ?」


 その言葉にギルドマスターと『光翼の癒し』の面々が頷いている。


 すると、知らない冒険者パーティーの1人が発言した。


「あー…。いやあ、済まないな。うちのメンバーが失礼した。俺はAランクパーティー『享楽の盾』のリーダーをしている、モリシゲだ。一応Aランク冒険者をしている。そして、お前さんがぶっ飛ばしたのはうちの中で一番若くて新参のコルトだ。最近Aランクになったばっかりで調子に乗ってるんだ、許してやってくれ。」


「あ、はい。気にしてないです。」


 かなりがたいのいい重戦士って感じのイケおじだ。盾と斧で戦うようだ。


「じゃあ、次は俺っちっすね。俺っちは、タカっす!Aランクなんで、よろしくっすよ!因みにコルトの師匠って感じなんで、そこんとこもよろしくっすね。」


 めちゃめちゃチャラい感じで来たー…。でも面白そうな人で良かった。薄い黄色の髪をした、軽装備の二刀流お兄さんだ。なかなか強そう。


「次はオデだな。オデは、モリゾウっていうだ。モリシゲのアンちゃんの弟だな。よろしくだ。」


 こちらは完全重量級のおじさん?である。こちらも盾に斧のスタイルのようだ。


「あ、4人なんですね。」


『光翼の癒し』は5人だったため、なんだか少ないといった印象を受けた。


「―――ああ、1人魔法職のメンバーがいたんだがな。依頼の途中で死んだのさ。」


「あっ…。すみません。」


 なんだか全員の気が沈んだかのような空気になっている。これは皆その事情を知っているようだ。あえて聞きはしないが。


「いやなに。いいんだ。それより、ギルドマスター。俺たちは何をすればいいんだ?この子のお世話と言っても、1人で大丈夫そうだぞ。」


「ああ、確かにそうだが、現地に着くまで同行させてやって欲しいんだ。お前らAランクパーティーが一緒ならこいつも変なのに絡まれないだろう。」


「ああ、なるほどな。光翼たちは後方支援だから俺たちってわけか。おし、分かった。それじゃあ現地まで共に行こう。その後はもう知らんぞ?」


「あ、はい。お願いします。」


 こうしてアークはAランクパーティー『享楽の盾』に同行することが決まった。


「よし、じゃあアークのお守り役も決まったことだし、そろそろ移動するか!」


 リュウゾウは応接室のドアを開け、大声で叫んだ。


「お前らアァァァ!!!出陣だアァァァァ!!!!」


「「「「「「「オオオオオオォォ!!!!」」」」」」」


 ギルド内に詰めかけていた冒険者たちはリュウゾウの叫びに呼応し、雄叫びを上げた。ぞろぞろと出口から出ていき、城門の方へと向かう。城門の方にはかなりの数の馬車が並んでおり、各パーティーごとだったり、乗り合わせで乗ったりするみたいだ。


 それでも乗れないパーティーがあるくらい冒険者の数は多い。それ程にレギオンアントの討伐は本気なのだろう。


 アークは『享楽の盾』の面々と共に馬車に乗り込んだ。リュウゾウは『光翼の癒し』の乗る馬車の方に乗っているらしい。後方で指示を飛ばす係のようだ。リュウゾウが前線に出て蹴散らせばいいんじゃないかと思ったが、さすがにギルドマスターなので無理はできないのだろう。


 因みに、青二才は既に復活しており、こちらを睨んでいる。アークは悪いとは思っていないので謝っていないが、向こうからしたら謝れと思っているのだろう。


 まあ移動だけの仲になるのだからいいかと思い、アークは居心地の悪さに御者席に移った。御者をやっていたのは青二才の師匠、タカさんである。


「おや、アークっちどうしたっすか?あ、コルトから逃げてきた口っすね?」


「アークっちって…。まあいいですけど。その通りですよ。ちょっとめんどくさくなりそうだったので、こちらに来ました。」


「そうっすか。まあのんびりして下さいっす。レギオンアントを殲滅するのはもうちょっと後っすから…。」


 なんだかトゲトゲとした殺気を感じるのだが、何かあったのだろうか……。あっ…。


「―――あの…。聞いていいか分からないんですけど…。もう1人のメンバーさんって……。」


「―――ええ、そうっすよ。レギオンアントに、やられたっす…。遺体も残さず食べられたっすよ…。」


 やっぱりそうだったのか……。


「魔法職なのに、どうして……。」


「モリタはっすね…。コルトを助けるためにちょっと前に出すぎたっすよ…。それでモリシゲさんとモリゾウのサポートが間に合わず、レギオンアントの大群に飲み込まれたっす…。コルトは自分のことに夢中でモリタが死んだのは自分のせいだって知らないっす。……これ、秘密っすよ?あいつとモリタは歳も近くて仲が良かったっすから。」


「ええ…。分かりました。絶対、勝ちましょう。」


「そうっすね…。根刮ぎ狩り尽くすっすよ…!!」


 そうしてアークとタカはまだ見えない敵を殲滅せんと気合いを入れた。









 馬車に揺られて3時間が経った。そして、先遣隊が設営した防衛陣地へと到達した。ちょくちょくレギオンアントの死体があるので、ここも戦場だったのだろう。なんとか押し返したといったところか。


 続々と冒険者が到着しつつある防衛陣地には、冒険者で溢れかえり始めた。冒険者たちはまだかまだかとそわそわし始めている。そこに、リュウゾウが現れ設営した防衛壁の上に飛び乗った。アークを担いで。


「ちょ、ちょっと!なんで僕まで…!」


「まあまあ、いーじゃねえか。」


 アークはジタバタと暴れるが、ガッツリ担がれているのでその拘束を振りほどけない。


「よーし、お前ら!!これより、レギオンアント討伐任務を開始するッ!!レギオンアントの巣は伝えたとおり、この防衛陣地を南下した先にある鉱山地帯にある。俺たちが近づくと一気に溢れ出てくるだろう。しかし、安心しろ!俺が秘密兵器を用意した!!」


 冒険者たちは秘密兵器というワードにオオオォ!と盛り上がる。


「それは、コイツだァ!!」


 そう言ってアークの両脇を掴み、冒険者たちへ向けて掲げた。ライ〇ンキングの名シーンのように。冒険者たちはぽかんとしているが、リュウゾウは続けた。


「こいつはアークって言って、俺が急遽依頼して来てもらった。アークは単独で動くから、邪魔すんなよ。以上だ!―――総員、出陣せよォ!!!」


 冒険者たちは突然の紹介で少し反応が遅れたが、それでも雄叫びを上げてレギオンアントの巣へと向かった。


 これより、蟻退治が幕を開ける―――

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