第32話 料理と冒険者ギルドへ ☆

 クレアはお話ししながら待っているとか言っていたのだが、結局は自分が全部説明していた。逆にアークはなにもすることがなくなってしまったので、ミルとツバキ、そしてヤマトと喋っていた。


 そして大体1時間が経ったので、アークはキッチンへ向かい、料理を始めることにした。食材の名前は、前世とほぼ変わることなく、違う点は唯一知らない野菜や食材があることくらいであろう。


 アークはシンラに来てから今まで王城でお世話になっていたので、王宮料理人がつくったものしか食べてこなかった。その料理は美味しいのだが、なんだか味気なかった。恐らく調味料の種類が少ないのだろうと思う。


 アークは〔創造魔法〕で調味料を色々創り出せるので、今回の料理は色々試してみようと思う。


 今回つくろうと思っているのは、“エアロイーグルの唐揚げ”、“ホーンラビットの香草焼”、“ホーンボアの煮込み”、“ヴィレ草と野菜のサラダ”、“ベーコンと野菜のスープ”である。そして、授業の時に言っていたとっておきの料理とは、“コカトリスのプリン”である。料理というかデザートなのだが、これは間違いなくとっておきと言える程の美味しさである。


 コカトリスの卵は、成長ノ森の奥にあったコカトリスの巣からパクったものである。それに、エアロイーグルやホ-ンボアも成長ノ森で狩ったもので、そしてホーンラビットは歩みノ森で狩ったものである。ベーコンは、ホーンボアの肉からつくったもので、野菜も森で採ってきたものを使う。


 ヴィレ草とは、主に中級ポーションの素材として使われる薬草なのだが、これがサラダにして食べてみるとかなり美味しかったので、今回はサラダに使っている。


 アークは〔時空間魔法〕を用いながら、置き時間や煮込み時間を調節しつつ、料理を完成させた。料理が全て完成したので、とりあえず食卓へ運ぶ。〔力学魔法〕を使い、全ての料理皿を浮かせて運んだ。


 クレアたちはまだなにかやっているようだったので、先にヤマトたちに席に着くよう声をかけた。そして、クレアに脳内で終わらせるように話しかけた。


 クレアはすぐに皆に教えるのをやめ、ダイニングの方へ行くように促した。


 全員で囲っても狭く感じないほどのダイニングテーブルには、色鮮やかに盛り付けられた料理の数々が並んでいる。それを見た面々は、かなり驚いている。


「わ、わぁ……!美味しそうですアーク様!」


「凄いね…!!これほどの料理をつくれるなんて…!」


 アークが1人でつくったのだが、反応は中々いいようだ。パーティー仕様で綺麗に盛り付けた甲斐がある。皆がとても褒めてくれることに若干照れながら、早速食べ始める。


 皆も思い思い自分の食べたいものを皿の取りながら食べている。ヤマトは孫とお喋りしたいからと来ていたはずなのに、すっかり料理に夢中になっている。


「こ、これは美味いのじゃ…!なんて料理なんじゃ?」


「ああ、これは唐揚げって言うんですよ。シンラで言う天ぷらみたいな調理法でつくるんですよ。」


 シンラは和の国であり、前世にあった日本と同じような食文化が根付いている。食文化に限らず様々なものが和風であるのだが、やはり部分的にズレているので、完全に日本風、和風とは言えないのだが。


「アーク様、こちらのサラダにかかっているものはなんですか?」


「それは、サラダ専用の調味料、みたいなものだね。サラダがあまり好きじゃない人でも美味しく食べられるようになってるんだ。」


「ほ、本当です!とっても美味しいですね!」


 サクラは怪しい液体がかかっているとでも思ったのか聞いてみたようだ。アークの言葉に安心したのか食べてみると、美味しいことに気付き、たくさん食べている。


「……あ、あのアークくん…?クレアさんも食べてるですけど、精霊様って、食事するんです…?」


 ミルはクレアが食事をしていることが疑問だったようだ。


「あー……。クレアはちょっと特殊というか…。多分食べなくても大丈夫なんだろうけど、美味しいからって食べてくれるんだ。ね。クレア。」


「ふふ。ええ、アークがつくる料理はとても美味しいのでアークがつくった時はいつも頂いてますよ。それと、おそらく上位精霊であれば食事はできると思いますよ。」


「へ、へぇー…。そうなのですか、ありがとうございますです…!」


 ミルはクレアが上位精霊だと思っているので、クレアにとても丁寧に接している。本当のことを伝えたらどうなるのか少し怖い。


「…ア、アークは、どうしてこんなに料理が、上手なの……?」


 ミカゲは勇気を振り絞ってアークに話しかけた。皆がアークと話していて自分だけ喋れていないのがちょっと嫌だったのだ。


「ん?あー、僕はずっと1人で森の中で過ごしてたんだけど、唯一の楽しみが食事だったんだ。少しでも美味しいものを食べたかったから、料理するようになったんだよ。」


「…そ、そうなんだ……。すごいね、アーク。私はできないから羨ましいわ…。」


「そ、そうかな?あはは、ミカゲもできるようになるさ。僕が教えようか?」


 アークは褒められて少し恥ずかしくなり、ちょっとした照れ隠しで教えようかと聞いた。そんな一言を聞いていたサクラとミルがバッとこっちを見た。


「「私も教わりたいです!!」」


「あ…!わ、私が教わるはずなのに…。」


「あはは、ミカゲも教えるよ。じゃあ、今度また食事する時に一緒につくろうか。」


 そうしてアークは魔法と刀術と料理の3つを教える羽目になったのだった。


「食事会はジンに合わせようか。侍女さんがつくらない日ってことで、廻4回でいいかな?」


「…いいのかい?アークの負担になっちゃうと思うんだけど…。」


「うん、大丈夫だよ。料理するのは割と好きだし、皆とこうやって食事するのも楽しいしね。あ…、ミカゲとツバキさん、大丈夫だった?侍女さんがつくってくれるみたいだけど。」


 アークはミカゲとツバキが夕食は毎回侍女さんがつくっていると知っていたため、一応聞いてみた。


「ええ、私のところの侍女は大丈夫よ。それに、こんなに美味しい料理を食べられるんだもの。文句はないわ。」


「…わ、私のところも大丈夫。」


 ツバキは食事中ずっと食べるかヤマトと会話するかしかしていなかったので一瞬忘れていたが、それは秘密である。



 こうして毎廻4回で食事会をすることが決まった。











 それから毎回同じような日々が続き、今日は無ノ日。


 現在の時刻は朝5時。この日はギルドマスターから呼び出しを食らっており、冒険者ギルドに顔を出していた。最近は学院の移動の際にも付けなくなっていたお面だが、学校以外では付けるようにしている。


 学院から冒険者ギルドへはかなり遠い。なので、サブギルドマスターのシュウさんが馬車を手配してくれていたのでそれで冒険者ギルドへ向かった。


 1人で暇なので、最近メインで修行している魔法の修行を行う。


〔時空間魔法〕で手元に特殊な空間を生み出し、そこに両手を突っ込む。そして、その空間へ最大威力の各属性魔法を順番に叩き込んでいく。


 この空間内は、四方八方無限の距離があり、更にその役割はアークの“魔力貯蔵庫”となっている。アークは〔時空間魔法〕で色々な実験をして遊んでいたのだが、この“魔力貯蔵庫”はその産物である。


 生物はその体内に溜めておける魔力の総量が決まっている。修行などによりその総量を増やすことはできるが、Max値より余分に溜めることはできないのだ。生物は体内で魔力を生成しているのだが、総量の最大まで溜めきると、その魔力の生成は止まることになる。


 アークはそのことをクレアから知らされており、何かいい解決策はないかと考え、実験していった結果、“魔力貯蔵庫”が生まれたのだ。


 この“魔力貯蔵庫”に向けて魔法を放ってもその空間は無限に広いので、その魔法は最終的に魔力へと霧散する。そのため、魔力を注入するのも魔法をぶっ放すのも一緒であると、このような修行方法を思いついたのだ。


 この修行方法は最初の食事会の夜に思いつき、始めたので今日で7日目である。アークの魔法のレベルはかなり上昇し、今ではこのようになっている。



【ステータス】

 アーク=フォン=フォレストブルム

 年齢:6歳 Lv.47

 種族:ハーフエルフ?(強制隠蔽)

 職業:神ノ使徒

 称号:【転生者】【時空神の婚約者】【精霊に愛されし者】【シンラ国公爵】

 ●能力 

 固有能力:【叡智ノ書庫アカシックレコード】【精霊ノ寵愛】【闇夜ノ血脈】【クレアブルム流刀術】

 属性魔法:〔火魔法Lv.9〕〔水魔法Lv.9〕〔暴風魔法Lv.1〕〔地魔法Lv.8〕〔木魔法Lv.8〕〔光魔法Lv.9〕〔闇魔法Lv.8〕〔無魔法Lv.9〕

 特殊魔法:〔創造魔法Lv.6〕〔鑑定魔法Lv.6〕〔時空間魔法Lv.8〕〔完全隠蔽魔法Lv.2〕〔力学魔法Lv.7〕〔結界魔法Lv.7〕〔幻影魔法Lv.5〕

 固有魔法:〔精霊魔法Lv.11〕〔血魔法Lv.8〕〔生活魔法Lv.8〕 

 スキル:〔中級剣術Lv.8〕〔刀術Lv.8〕〔身体制御Lv.3〕〔魔力掌握Lv.2〕〔高速思考Lv.2〕〔多重思考Lv.6〕〔調理Lv.7〕(〔超絶倫Lv.2〕〔性欲制御Lv.2〕隠蔽中)



 全体的に属性魔法のレベルが上昇し、〔風魔法〕が〔暴風魔法〕へ進化した。なんだかんだ一番使っていたので進化が一番乗りであった。


〔時空間魔法〕もレベルが上がっている。あの空間を出したまま維持するのは中々疲れるので上がっていて当然だろう。他にもいくつかの魔法が成長しているが、ひとつだけレベルがMaxとなっていた〔隠蔽魔法〕がなんだか寂しそうに感じたので、進化できないかとクレアに相談したら、こうなった。なんか名前的に怖さを感じる。


〔精霊魔法〕はレベル制限がないようだ。それはそれでよかったのだろう。


 アークは“魔力貯蔵庫”に魔法をバンバン叩き込んでいると、いつの間にか冒険者ギルドに着いていた。アークの体内に残る魔力量は約1時間魔法を最大限で打ち続けても、1/4残っていた。魔法を打つのを止めると急速にその魔力量が回復していくので、その異常さが分かる。


 アークは馬車から降り、ギルドの中に入っていった。ギルドの中は以前訪れた時よりもかなりの人数がいて、なにかがあったと言わんばかりの騒ぎである。朝早くから皆さんお勤めご苦労様と内心で合掌した。


 アークはどうしたものかと悩んでいると、入り口の近くで待機していたシュウがこちらを見つけ、近づいてきた。


「やあ、アークくん。朝早くから呼び出して悪かったね。ちょっと今からレギオン

 アントの中規模討伐があるってことで冒険者が多いんだ。まあ、朝のこの時間帯はそこそこ人は多いんだけどね。それじゃあ、ついてきて。」


 シュウはアークの手を引き、以前来たときに入った応接室へと向かった。

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