第31話 夕紅葉と【クレアブルム流刀術】

 ヤマトには実践で鍛えるのがいいと言われたが、今回はまあいいだろうと思い、クレアと脳内で会話をする。


 クレア、なにかある…?


《―――はい、まず、アークは刀術に頼りすぎな点が見られます。それでもおそらくは大抵の相手に勝利することはできるでしょう。しかし、それは1対1の場合です。1対多の場合は、刀術のみでは対処しきることは難しいでしょう。なので、魔法を普段の戦闘から、1対1の場面でも多用するべきです。アークがこのまま魔法を戦闘中に使いこなせるようになれば、成人する頃―――いや、12歳程度でリュウゾウさんを圧倒できるかと。》


 だよねぇ……。自分でも刀術と身体能力に頼りっぱなしだとは思ってたけど……。それにしても12歳でリュウゾウさんを圧倒って、そんな歳でいけるかな…?


《―――はい。アークは一言で言うと、修行バカです。このまま修行を積み重ねればそれくらいは余裕かと。》


 バカとはなんだバカとは…!まあ、修行のしすぎというのは自覚してはいるんだけど…。なんかできるようになったり成長していくのが楽しいんだよね。前世だと僕はなにもできなかったんだし。これで釣り合いが取れるってもんさ。


《―――――はぁ…。やっぱりあなたは面白いですね……。それより、戦闘中に魔法を使いこなすことについてですが……。一度、魔法をめちゃめちゃ鍛えてみましょう。そうすれば魔法の有用性にも自ずと気付くでしょうし、新しい魔法の発見は新しい刀術の発展にも繋がりそうです。》


 おおお!いいね!新しい刀術の発展!!よしよし、それじゃあ、魔法の修行頑張ろうか!!


《――――――――――あ、はい。やっぱりアークはアークですね…。目的がすり替わってますが、まあいいでしょう…。いっそアークと私にしか扱えないようなとんでもない刀術を創りましょうか…。》


 クレアはなんだかとんでもないようなことを言っていたが、舞い上がっているアークには聞こえていなかった。





 アークはヤマトやリュウゾウの前で刀を出したのだが、使わないでまた仕舞うのはなんだか恥ずかしかったので、一度試してみたいことをやってみてから魔法の修行にはいることにした。そして、あまり目立ちたくないので、隠蔽の効果の付いた結界を張っておく。無意識にヤマトとリュウゾウを結界内に入れていたのだが、それは刀を使うところを見せようというのが頭の隅にあったためである。変なところでうっかりさんである。


「ふぅ―――――よしっ!」


 アークは精神を落ち着かせて、体内の魔力と刀に意識を集中させた。


 ―――想像するのは赤い炎。深紅に燃える全てを焼き尽くす炎。その炎は意思を持ち、敵のみを焼き尽くす。己の身に纏いつつも、その身は焼かない。再生の炎により何度でも立ち上がる炎の武者とならん―――――


 クレアブルム流刀術――花纏はなまとい――“夕紅葉ゆうもみじ


 アークは膨大な炎の魔力を体内から吹き出した。その炎はアークの身体を包んで燃やし尽くすかのように見えたが、その炎はアークを撫でるように柔らかく包み込み、その姿を甲冑に陣羽織、兜といった和の武将のような形の変化させそのままアークの身体に装備された。そして、手に持つ刀にも真っ赤に燃える炎が纏われている。


 不思議と熱さは感じないが、周りの熱気が上がっていることは分かった。


「―――戦国武将って感じだね。それにしても、僕の想像力って凄まじいよ。これに関してはイメージ通りだし、いや、それ以上かも知れないね。」


《―――ふふ。さすがですね。【クレアブルム流刀術】と属性魔法の合わせ技……。他にも発展させたら面白いですね。後で一緒に考えましょうか。》


 うん、そうだね。それじゃあ、ちょっと試しに動いてみるよ。


「―――ふっ!」


 ゴオォォォォ!!


 上段の振り下ろしをしてみたが、これはやばい。炎が広がりかなり広範囲にまでダメージが発生しそうだ。それに、なんだか炎の斬撃が出せそうな気がする。今はさすがに出せないが、今後試してみたら面白いだろう。そう思い、“夕紅葉ゆうもみじ”を解除した。


 上手くこの“花纏はなまとい”を発動することができてアークは安心した。前々から構想はあったのだが、リュウゾウの魔力の甲冑を見て、いい参考例となったのだ。そのおかげでこうして成功することができ、内心リュウゾウに感謝するのであった。


 そして結界を解除しようと振り向くと、そこには諦めたような表情をしているヤマトとリュウゾウがいた。


「あ、あれ?隠蔽の結界張ってたのに、なんで認識して―――って内側にいる!?」


「お主…。さすがにもう驚き疲れて慣れてきたわい…。」


「ああ……。俺もだぜ……。」


「あ、あははー…。今回のはちょっとギルドマスターのやつを参考にやってみただけですので……。ありがとうございます?」


 なんとなくお礼を言ってみたが、リュウゾウはなんだか怒っているようだ。


「俺が十数年修行してやっと身につけたもんを一瞬でぱくってんじゃねえよ!!」


 どうやらリュウゾウは自分の積み重ねて身につけた技術が一瞬で再現されたことに怒っているようだ。たしかに理不尽極まりないだろう。


「いやー…。まだ精度は全然なので、これからですよ…。あ、それじゃあ、結界解除しますね。そろそろ休憩時間になりそうですし、僕もちょっと休憩します。」


 そう言ってアークは隠蔽の結界を解き、4人が修行する方へ向かった。


「……。リュウゾウの小僧、あれは化け物じゃのぅ…。魔力量も莫大じゃし、戦闘センスも魔法技術もあり得んレベルじゃ。彼奴はもしかしたら神様の使徒かもしれんのぅ…。」


「ああ、そうだな……。魔王復活の時期に生まれてるってことはそうかも知れねえな。しかし、神様の使徒ってのはねえんじゃねえか?」


「それもそうじゃのぅ…。ほっほっほ。」


 ヤマトは正解にたどり着いていたが、その答えはないだろうと思考を切り離した。
















 アークは逃げる口実でそろそろ休憩時間だと言ってはみたが、あと10分くらい時間がある。そのため、やはりすることもないので皆の様子を見守り、アドバイスをすることにした。案外皆はこの短時間で中々で成長しており、最初の頃に比べると大分マシになってきている。


 それでも、まだまだであるので今後も続けていくことが大切であろう。


 そうして10分程が過ぎ、午後授業の前半が終了した。間に休憩時間を挟み、また皆に同じ修行を行わせた。しかし後半の時間は、ツバキがこちらへ参加していた。4人が抜け駆けしたことに対して怒っていたが、特別メニューを用意してあると告げると、機嫌が直り真剣に取り組んでいた。こちらも中々チョロいもんである。





 そうして2日目の授業は終了した。特別講師は今日限りということで、生徒たちは“光翼の癒し”の面々や、ギルドマスターにお別れの挨拶をしている。


 アークは一応正規の冒険者として登録しているため、何度かは会うことになるので軽い挨拶程度に済ませた。“光翼の癒し”の数名は悲しそうにしていたのは気にしないことにしよう。


 そして現在、アークの部屋にはサクラ、ジン、ミカゲ、ミル、ツバキ、そしてヤマトが来ていた。もちろん、修行と夕食はの招待のためである。クレアはもう既に召喚してあった。


 授業の時の修行で皆の魔力はすっからかんであるので、修行はどうしようかと思ったが、ジンが刀術を教えて欲しいと言ってきた。


 アークは刀術を教えてくれと言われるなんて思ってもいなかったので、どうしようかと迷ったが、


《―――教えてもいいんじゃないでしょうか。一緒に冒険するのならば…ですが。》


 クレアはそう言っている。たしかに、一緒に冒険するなら教えてもいいか、仲間が強ければ強いほどいいもんね!とアークは1人納得した。


 しかし、アークが刀術を教えることになると、刀術を希望していない面々をどうしようかと悩む。


《―――大丈夫です。今夜は一応パーティー形式となると思うので、1時間程女の子たちとお話していますよ。アークとジンさんの修行を見学しながら。》


 あー、そうだね。基礎の部分をちょっと教えたら、すぐ料理に入ろうか。


 そうしてアークは刀術を教わりたいと言ったジンと、なぜか一緒にやりたいと言っているサクラ、一応剣術を習っていたというミカゲの3人に教えることとなった。


「じゃあ、僕が使っている刀術について軽く説明するね。刀術の名前は、【クレアブルム流刀術】って言うんだけど、この刀術は授業の時にも言ったんだけど、僕らで創ったんだ。あの時は誰って言わなかったけど、もちろんクレアね。」


 クレアはなんだか誇らしげにしている。やはり、刀術を創り上げたのはかなり凄いことなのだろう。


「はい、私の精霊故の知識と、アークのアイデアを合わせて2人で創り上げました。この刀術を創る上で掲げた1つの主題として、『花』をテーマとしています。花が力強く咲く様、美しく揺れる様、儚く散る様など、その全てを術として表現するのがこの【クレアブルム流刀術】です。」


 アークとクレアが最初に考えたことは、このテーマ決めであった。色々な意見をお互いに出し合ったが、アークとクレア両方が納得したものの1つが、『花』というテーマであった。


「今はまだ、他の主題のことは話せませんが、ジンさん、サクラちゃん、ミカゲちゃんがもし本気でこの刀術を学ぶ気があり、ある程度この刀術を修めることができたらお教えしましょう。」


 クレアは3人を試すようにそう言った。返答次第では、クレアはしっかりと鍛えてあげるのだろう。


「ぼ、僕は、本気です…!兄上たちに負けない剣士に、そして姉上に負けない魔法使いになるんです…!だから、剣も魔法も、教えて下さい!」


 ジンはどうやら兄弟たちに負けたくない事情があるようだ。そこまでの気持ちがあるなら、クレアとしても、アークとしても否はない。


「わ、私は…ただ漠然と強くなりたいとしか考えていません……それでも、アーク様がお使いになっている刀術はとても興味があります!私はお父様とお母様みたいになりたいので、剣も覚えてみたいです!」


 サクラはケンシンやトモエ、そして兄たちの剣術の修行を今まで見てきた。まだ小さかったこともあり、そこには参加せずただ見ている毎日であったが、やはり気にはなっていたのだろう。それに、ケンシンとマイ、剣王と美魔女の血を引いているサクラなら、きっとこの刀術も修得できるであろう。


「…私の家は、戦いの世界で生きてきた一家なの……そんな中、私は本ばっかり読んでいる異端児って言われて馬鹿にされてたわ…でも、私は見返したい…!両親を、兄弟たちを!…だから、お願いします…!」


 ミカゲは家にいた頃から本ばっかりを読んでいて、ヤサカ辺境伯家の者らしくないと言われ続けていた。兄弟たちは皆武術の研鑽に励み、鍛えないミカゲを見ては馬鹿にする。ミカゲはアークと出会い、自ら殻を破りたいと思うようになったのだ。


「―――ふふ。はい、分かりました。今日はちょっとした説明と型を見せるくらいで終わりにしますが、次回は厳しく教えますので、覚悟しておいて下さいね?」


 厳しくとか言いながらも、結局は丁寧にしっかりと教えるのだろうとアークは分かっているので、クレアはやっぱり優しいなと改めて思った。


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