第30話 魔力操作の修行
ヤマトとリュウゾウはこの青く光っている魔蓄結晶を見て、かなり驚いていた。それもそうであろう。この結晶はかなり稀少な結晶であり、そして見た目もキラキラと輝いていて中身が透き通っているのだ。惑星オルタの技術ではここまで透明なものをつくることは不可能であり、唯一、ここまで透き通っているものが『魔結晶』と呼ばれるものなのだ。
アークがヤマトに手渡した『青の魔結晶』のサイズは、野球ボール程の大きさであり、このサイズのものはおよそ1000万オール。日本円にすると1億円である。
因みに、青は比較的多く発掘されており、一番多く発掘されているのは紫である。青に次いで珍しいのは、緑、赤、橙の順であり、赤と橙に関しては指で数えられるほどの数しか発掘されていない。
「それじゃあ、皆がやる修行の説明をするね。まず、皆に渡しておいた魔吸結晶が若干紫がかっているのは分かるよね?」
「ほ、本当です……!アーク様、紫になってます!」
「ぼ、僕のもだ…。昨日の夜はすぐ寝てしまったから気付かなかった……。」
「私のは少し黒みが強いけど……。なんとか紫になってるわ……。」
「ミ、ミルのもです…!きれいです!」
それぞれに渡していた黒かった魔蓄結晶は、それぞれ色の濃さが若干異なるが、それでもなんとか全員紫色になっていることが分かった。
ヤマトとリュウゾウはもう諦めたような顔をしていた。一応ヤマトにも渡していたのだが、ヤマトは魔蓄結晶に魔力を注がなかったのだろう。
「うんうん、それは魔吸結晶に魔力が溜まっている証拠だね。でも紫はちょっとしか溜まってないってことなんだ。もうちょっと溜めると青になるんだけど、それがさっき渡した魔吸結晶ね。」
と言いながらアークは自分でも手に持っている青の魔蓄結晶をフリフリと見せる。
「まずは、皆の魔力をできるだけ魔吸結晶に注いで、青に近づけてみて。倒れるまではやらなくていいから、それと、できる限り魔力が漏れ出ないように気を付けてね!」
「「「「はい!」」」」
4人は元気よくやる気に満ち溢れた返事をして青の魔蓄結晶を床に置き、紫がかった魔蓄結晶を両手に持ち、真剣に魔力を注ぎ始めた。
サクラとミカゲの魔蓄結晶は若干黒みがかっていたが、魔力を注ぎ始めて少しすると、完全な紫になっていた。
ジンとミルは元々魔力操作がサクラやミカゲより上手だったこともあり、既に完全な紫となっていた。そして、魔力を注いでいくと、2人とも魔蓄結晶が青となり、アークが渡したものと同程度の色合いとなっていた。
その約5分後、サクラとミカゲも青となり、アークはそこで一旦止めさせた。
「はい、皆一旦ここまでで。ちょっと休憩にしようか。」
アークの声に、4人は倒れるように地面に座り込んだ。4人ともかなり消耗しているようで、息が上がっている。魔力が枯渇する寸前まで注いだ結果、成果は上々のようだ。
アークは5分程休憩を取らせ、次の段階へと移させた。
「お疲れのところ悪いんだけど、次の修行は魔力が枯渇している今が丁度いいから早めに始めるね。じゃあ、両手に魔吸結晶を持って。」
アークはそう言って4人に両手に青く光る魔蓄結晶を1つずつ持たせた。
「では、最初は右手に持っている魔吸結晶から魔力を吸い取ってみて。これも中々コツがいるんだけど、やっぱり魔力操作の修行になるから頑張ってみて。できるだけ魔力が漏れないようにね。―――こんな風に。」
アークは自分で持っていた青い魔蓄結晶から魔力を吸い取り、その魔蓄結晶は段々と紫色になり、そのまま黒色へと変化した。
「黒くなったら魔力がなくなったってことだから、そこまでやってみよう。」
「ほ、本当に吸い取った…!これで魔力を回復できたのかい!?」
ジンは興奮した様子でアークに問いかけた。
「うん、そうだよ。青色ならジンの総魔力量と同じくらいの魔力量があると思うから、漏らさないように頑張ってね。」
4人はアークに言われた通りに魔力をできるだけ漏らさないようにして魔蓄結晶から魔力を吸い出し始めた。こちらは魔力を注ぐ時よりも早くできているようだ。しかし、早くできている分、魔力がやや漏れ出している。
1分ほどで右手に持っていた魔蓄結晶から全ての魔力を吸収した4人に、次なる修行を言い渡す。
「よし、じゃあ、いきなりだけど今度は注入と吸収を同時にやってみようか!」
「「「「えええーー!!」」」」
4人はその難易度が分かったのか、揃って叫んでいる。それぞれ注入するのも吸収するのも、全力で集中して行ってきたのでいきなり同時に行うなど、無理だと思ったのだろう。
「アーク様…。ちょっとそれは難しいんじゃ…?」
サクラのその一言に他の3人はうんうんと頷いている。
「んー、皆は難しく考えすぎなんじゃないかな…?とりあえずやってみてよ。ここさえ乗り越えたら、かなり成長できるはずなんだ。だから、頑張って!」
アークはコツを教えてあげようかと思ったが、答えを全て教えるのはなんか違うと思い、敢えて教えずやってみるように言った。
アークのアドバイスをもらえず渋っていたが、4人はそれぞれ思うようにやり始めたようだ。しかし、考えることは同じなようで、右手の魔蓄結晶に注入し、左手の魔蓄結晶から吸収するということを交互に繰り返している。
それぞれ別の作業をやっているせいで効率も悪いし、別々でやっていた時よりかなり魔力が漏れてしまっている。これは早めに修正しないと魔蓄結晶からも魔力がなくなってしまうと思い、結局アドバイスすることにした。
「皆、一旦止めて。あのね、この修行は昨日やったことの延長で、魔力操作の修行なんだ。多分、自分の中にある魔力と魔吸結晶の中にある魔力を別々に考えて注入したり吸収したりしていると思うんだけど、それは正解とは言えなくてね。」
アークはそう言って両手を広げるようにして魔蓄結晶を持った。右手には魔力の溜まっていない黒色の魔蓄結晶、左手には魔力の溜まっている青色の魔蓄結晶を。
そして、アークは左手に持つ魔蓄結晶の魔力を腕に通すように吸収し、そのまま吸収した魔力を右の腕に流していき、黒色の魔蓄結晶に魔力を注入していく。その一連の流れは、わずか数秒で行われた。それを見ていた4人は驚きの表情をしたものの、アークならば当然だとでも言うような表情をしていた。
「僕は、自分の魔力と魔吸結晶の中の魔力は同じものって想像しながらやっているんだ。そして、ただ左手に集まっている魔力を右手の方に魔力操作で流しているだけって感じなんだよね。魔吸結晶に魔力を注入するのはなかなかコツがいるんだけど、でも僕が言ったようなことを意識すれば多分いい感じになるんじゃないかな?」
アークは実演と解説で詳しく説明した。これくらいやれば、あとは皆がコツを掴むだけである。この後は皆を信じて、ひたすら繰り返してもらうのみである。
「今日はこれを、魔吸結晶と皆の魔力が枯渇するまで続けよう。頑張れたら、今日の夕食に僕のとっておきの料理出してあげる!」
アークは餌をちらつかせることにより、4人のやる気を引き出した。
「私、やってやりますわ!アーク様に近づくために…。アーク様の手料理のために……!!」
「ああ…。僕も強くなりたいんだ…。これくらいできるようにならないとね…。それにとっておきなんて言われたら……!!」
「…私も、頑張るわ……!……そして私もアークと―――――」
「ミルも頑張るです…!」
1人何かを言っていたが、アークは聞こえていないふりをした。
アークは皆が思ったよりやる気を出してくれたことを嬉しく思っていた。そして、アークの実演を見てなにかを掴んだのか、さっきよりもスムーズにできているように見られる。それでもまだ魔力が多く漏れ出てしまっているので、終了するまでの時間は短いだろう。
「―――のぅ、アークや?そのぅ……。儂も夕食について行ってもええかのぅ…?」
いい歳したお爺ちゃんが指をツンツンさせながら上目遣いで聞いてきた。
「ええー…。別にいいですけど……。」
「やったのじゃぁ!!孫と食事できるのじゃ!!久しぶりじゃのう!」
あー…。ツバキとサクラ目当てか…。まあ中々そういう機会もないだろうし、いいか。学院長室も毎回使わせてもらう訳だし。
「はっ。ヤマト爺は相変わらず孫バカだな。あんまりしつこくすると嫌われるぜ?」
「うっ―――」
リュウゾウの一言はヤマトに深く突き刺さった。まさに今その状態であるため、ヤマトにはかなり堪えたようだ。
「―――あっ、ツバキさんがいないまま進めちゃった。大丈夫かな…。」
「ほっほっほ。大丈夫じゃよ。ツバキはかなり優秀な魔法使いじゃ。孫の贔屓目なしでな。それに、ツバキは負けず嫌いじゃし、置いて行かれたとしてもすぐ追いつくじゃろう。」
「なら大丈夫ですかね。それじゃあ、みんなが魔力操作の修行をしている内に、僕は僕で修行しますか。」
アークはそう言って魔法袋から普段使っている刀を取り出した。その名も、『刀くん2号』である。こちらは真剣であり、本来修行で使うものではないのだが、木剣では重さの違いなどからなんだかしっくりこないのだ。なので、万が一がないように皆から少し離れた位置に移動する。
「ほう……。アークや。お主は剣術の修行かのぅ。1人でやるんかのぅ?」
「あ、はい。僕はなんだか戦っていると魔法を使うことが少なくなってしまうんですよね。魔法を挟みながら戦えればもっと楽になるって言われてるんですけど、やっぱり刀術に頼っちゃって。なので、刀を振りながら魔法を使う修行をしようかなって。」
アークはリュウゾウとの戦いの時も、基本は身体能力を強化する魔法だったり、加速する魔法だったりと、攻撃魔法をほとんど使っていなかった。唯一使った場面は、皆を巻き込まないようにするために使用したものだけであった。もっと効果的に使えれば、楽に戦えるはずであると、クレアに何度も言われているのだが、まだ改善できていない。
「ほほう…。まあ、頑張るんじゃな。そういうのは実践で鍛えるのが一番なんじゃが…。あとでダンジョンに潜ってみたらどうじゃ?」
「―――ダンジョン?……ああ、あの…。近くにあるんですか?」
アークは前に知識としてもらったものを思い出し、どこにあるのかと尋ねた。
「ああ、お主らは知らんのか。この学院の地下にあるんじゃよ。それと、あの湖の中心にある浮島にもあるのう。」
思ったよりも近い場所にあることを知り、今度入ってみようと思ったアークであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます