第28話 リュウゾウと再戦

 本日も2話投稿です!前話を読んでいない方は是非、1話お戻り下さったら嬉しいです!



 ――――――――――――――――――――



 訓練場の中心。リュウゾウとアークは木剣を持って対峙していた。リュウゾウはニヤニヤとこの戦いを楽しみにしたような表情で、アークはただ目を閉じ、意識を高めている。


 周りの生徒と講師たちは理由も分からずリュウゾウにより端へと追いやられている。なにがあるのかと不思議に思っているだろう。


《―――アーク、全開でいいです。今出せる力を全て出し切って下さい。》


「ああ、分かってるよ。試したいこともあるんだ。」


「ん?誰と喋ってんだ?」


「―――あっすみません、独り言です。」


 おっとっと、つい声に出してしまった。気を付けなきゃ。


「それじゃあ、審判はジュウベエに任せるぞ。」


「はあ……。分かりましたよ…。それじゃあ準備はいいか?お互い、無理しないようにな。じゃあ―――――始め!」


 合図と同時に、両者は駆けだした。


 アークは瞬時に〔血魔法〕で血液に魔力を送り込み、身体中に魔力を行き渡らせ、身体を強化する。そして、〔無魔法〕で更に身体能力を底上げする。更に、〔風魔法〕を纏い速度を上げる。


 この前戦った時と同様に打ち合うようだ。そう思ったアークは、早速仕掛ける。


 刀術――“黄金花こがねばな


 アークは木剣と木剣が打ち合う相手の意識が一瞬ずれる瞬間に、木剣を〔光魔法〕で発光させ、目眩ましした。


「んおっ!」


 木剣の打ち合いは小手調べだったのか引き分けに終わったが、アークは次なる一手を繰り出す。


「はっ!」


 打術――“万華ばんか


 リュウゾウが固まっている隙を突き、身体に拳を添え、一瞬にして力を込め、内蔵へダメージを加える一撃を放つ。


 しかし、リュウゾウは危機を察知したのか、なんとか後退することでダメージを減らすことに成功する。


「――ぐっ!このっ!」


 リュウゾウはなんとか後退させた身体を一気に前方へ移動させ、力一杯、アークには受け止められないほどの袈裟斬りを放った。


 歩刀混合術――“舞菊まいぎく藤波ふじなみ


 アークはこの一撃は“藤波”だけでは受け流せないだろうと考え、踊るような足裁きと身体使いで斬撃の勢いを外側に逸らす。


 歩刀混合術――“咲渡さきわたり風花かざはな


 リュウゾウの渾身の袈裟斬りを逸らす勢いを利用してそのまま力一杯地面を蹴り、前方、リュウゾウの真横を通り抜ける。そのまま木剣を脇腹に叩きつけるように振り抜いた。そしてアークはそのまま距離を取り、納刀するように木剣を腰に差す。


風花かざはな”は本来であれば切っ先を残し、相手や自分の推進力を利用して相手を斬る刀術なのだが、木剣なので今回は打撃にしたのだ。


「んがっ!いってえな!」


 リュウゾウはアークの攻撃がクリーンヒットしたものの、ダメージが浅いように見える。おそらくリュウゾウも身体強化の魔法であの筋肉に加え防御力を増しているのだろうとアークは考えつつ、静かに次の行動へ思考を切り替える。


「おいおい、前回は大分手ェ抜いていやがったな?だったら俺も手ェ抜かずにちゃんと相手してやるぜ!」


 リュウゾウはさっきよりも速度を上げてこちらへ突撃してきた。といってもアークにはまだ知覚できる範囲であるので気にすることはないが。


 アークはアークで、このまま簡単に受ける気は更々ない。リュウゾウはアークはその場で躱すか受け流すかとしか思っていないようであるが、そう単純ではないのだ。


 歩術――“月下美人げっかびじん


 アークは身体の軸をぶれさせることなく、スライドするように前方へと瞬時に移動する。それにより、リュウゾウからはアークが瞬間移動したように見え、木剣を振るタイミングがずれる。


「――ちっ!」


 リュウゾウは慌てて木剣を横薙ぎに振り抜こうとするが、遅い。


 打刀混合術――“彼岸花ひがんばな零梅こぼれうめ


 アークは神速の居合をする勢いを利用する。刀身をそのまま相手の方に向けることなく、リュウゾウの持つ木剣に柄を打ち付け、手を痺れさせようとしたのだ。“彼岸花ひがんばな”はアークが扱える刀術の中では最速かつ最強の威力を誇っている。


「うわっ!っと危ねえ――っとォ!」


「ええ!――うわっ!」


彼岸花ひがんばな”の威力を加えた“零梅こぼれうめ”を受けて、木剣を手放さないのは予想外だった。そのことに驚きすぎて一瞬止まってしまい、その隙を突かれて前蹴りを食らってしまった。


 なんとか後退することでダメージを減らすことができたが、吹き飛ばされてしまう。アークはなんとか体勢を整えるが、リュウゾウはアークへと距離を詰める。そのまま超速の連撃で畳み掛けに来た。


「おらおらおらおらおらおらおらおら!!!!」


「―――――――――――っ!!」


 なんとか後退しながら、必死に躱し、受け流しとしていたが、これ以上行くとクラスメイトたちに突撃してしまうので、ここは魔法を使う。


〔風魔法〕――“団扇風うちわかぜ


 からの――


〔地魔法〕――“無限槍むげんやり


 受け流した際にできる一瞬の隙を突き、〔風魔法〕で突風を発生させ叩きつけ、〔地魔法〕で地面から土の槍を大量に出現させ、押し返す。


「おっとっとっとっと!!お前、無詠唱でそこまでやるか!」


 後退するリュウゾウをそのまま追随するように土の槍が迫るが、リュウゾウは焦る様子もなく迫り来る土の槍を木剣で叩き折っていく。


「余裕で対処しないでください―――よっ!」


 歩刀術――“散桜ちりざくら


 混合術ではなく、完全に独立した歩刀術としてアークが編み出した技、“散桜ちりざくら”を使った。左右に揺れるように緩急を付けて走り、相手に分身したように錯覚させる。魔法を使わず、身体能力のみで錯覚させることもできるのだが、相手が相手なので、今回は〔幻影魔法〕を併用し、より強く相手を惑わせる。


「分身……!?」


 アークは5人に分身して、リュウゾウに殺到する。〔幻影魔法〕でつくり出した分身たちは、本物は1人だが、4人は偽物である。しかし、影でつくり出しただけではなく、実体を持っているので実質5対1の状況である。


“多重思考”により分身たちを操り、それぞれ思い思いにぶっ叩く。本命であるアーク自身は〔隠蔽魔法〕で認識から外れ、背後から近づき斬りつけた。


「――がはっ!くっそ!」


 リュウゾウはやられっぱなしでイライラしているのか、力任せに背後を振り向きざまに斬り付ける。そこにはもちろんアークはおらず、すでに〔隠蔽魔法〕で隠れている。アークは分身たちと共にひたすらリュウゾウを滅多打ちにしていたが、リュウゾウはとうとうブチ切れた。


「―――――ガァアアア!!!!」


 咆哮と共に足を思いっきり地面に叩きつけ、周囲に強力な衝撃波を放ち、アークとその分身たちを吹き飛ばした。その衝撃波により、分身たちは消えてしまった。


 突然の強烈な威圧にアークは若干の恐怖を感じ、少し距離を取った。


「ったく、木剣の模擬戦で良かったぜ……安心して本気出せるからよォォ!!!」


 リュウゾウはそう言った途端、身体の中から魔力が溢れ出し、その魔力がリュウゾウに纏わり付いていた。その見た目は、甲冑を着た重戦士のような見た目であるが、その甲冑は魔力でできているため、重さはない。しかし、防御力の面ではその堅さはかなりのものであろう。


「ちょちょちょ、ちょっと!!本気出しすぎじゃないですか!?」


「ああ?今はそんなんいいんだよォ!んじゃあ、お前も本気見せろよォ!」


「うわーー…。もう、しょうがないか…。切り抜けるしかないよね……。」


《―――アーク、あれを使うんですね?》


「うん―――見てて。とりあえず、頑張ってみるよ。―――あ、ギルドマスター、ちょっと僕も本気出してみるので、あとちょっとやったら終わりにしましょう!消耗するんで!」


「あ?おう、分かった分かった!」


 リュウゾウからに了承も得られたので、アークは魔力を身体から溢れ出させる。


 溢れ出た魔力は、アークの身体を回り始め、その魔力は桜の花びらのようにキラキラと桜色に光り輝いた。その様子は桜吹雪が舞い散るようにアークの身を包み込んでいるようであった。


 クレアブルム流刀術――


「咲き誇れ―――“開花かいか”――“三分咲さんぶざき”!!」


 アークは桜色の魔力を身に纏った。その魔力は袴のような形状となり、風が靡いているかのようにその袴は揺れている。更に、アークからは桜の花びらが吹き出ているかの如く桜色の魔力が溢れ、訓練場を満たしていく。


「―――綺麗……!」


「す、すげぇ……!」


「―――暖かい魔力……」


 いつの間にか自分たちの訓練をやめ、周囲でアークとリュウゾウの戦いを見守っていた皆はアークの様子に見惚れていた。それはもちろんサクラや、ミカゲ、ミルも見惚れていた。


「よーし、行きますよ!」


「おう、来い!!」


 両者は駆け出し、そのまま木剣を打ち付け―――ようとした時、突然アークとリュウゾウの間に雷が落ちた。それに反応したアークとリュウゾウは一瞬にして進行方向を変え、避けることに成功した。その雷を落とした主はと言うと―――


「お主たち、訓練場を壊す気か!!いい加減にせい!!!」


 怒髪天を衝くような表情をしたヤマトがその雷が落ちた地点に佇んでいた。


「おいおい、ヤマト爺よォ、いいとこだったのに邪魔すんじゃねェよ!」


「なーにが邪魔じゃ!周りを見てみぃ!こんなに破壊しおって!それに生徒たちも怯えておるじゃろう!」


「―――――あー、そうだな、ちょっと夢中になりすぎたか。久しぶりにこんな強い奴とヤッたから、楽しくなっちまってよ。ガッハッハ!」


 リュウゾウは身に纏っていた魔力の甲冑を解除し、威圧感を解いた。訓練場の空気が一段和らぎ、周りにいた生徒や講師陣は一息ついた。


「―――ふぅ…。それにしてもアークや。お主、強すぎじゃろう……。リュウゾウの小僧に本気を出させる奴なんぞ、それこそAランク冒険者にはいないくらいじゃよ…。」


「いや~…。あはは…。まあ僕が使ってる刀術がなければここまで戦えてないですから。まだまだ刀術頼りで上手く魔法を扱えていないので、これからです。」


 アークは桜色の魔力、“開花”状態を解除させ、地面に倒れるように座り込んだ。


「……お主たちの戦いは最初から見ておったが、今まで見たこともない流派の刀術だったのう…。誰に教わったんじゃ?」


 ヤマトはどうせあの爺の仕業で誰かに仕込ませたのだろうと思っていたが、その答えは予想だにしていなかったものであった。


「ああ、この刀術、【クレアブルム流刀術】は創り出したんです。僕と相棒で。」


「「―――はっ?」」


 ヤマトとその会話を聞いていたリュウゾウは、言葉の意味を理解できなかった。


「いや、だから、創ったんです。」


「「「「「えええーーー!?」」」」」


 皆にも聞こえていたようで、その意味を理解した者たちの絶叫が訓練場に響いた。

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