第27話 特別講師と『光翼の癒し』
アークたちは訓練場に到着すると、そこには既に特別講師とやらが待ち構えていた。1人だと思っていたが、割と大所帯であった。6人いたのだが、明らかに1人だけゴツゴツながたいのいい大男がいた。アークにとっては見覚えのあるその男は、生徒たちをキョロキョロと見回し、誰かを探している。
すると、1人の女性がジュウベエに向かってがなり立て始めた。
「ちょっと!私の弟はどこにいるのよ!このクラスに入ったって聞いたからこうして皆に私の弟を紹介するために連れてきて、あわよくば私の勇姿を見せようと思ってたのに!」
こちらも見覚えのある女性―――リンカが、アークが見当たらないことをジュウベエに問い詰めている。そうすると、それに乗っかるように大男もジュウベエに向けて声を発する。
「おうおう、そーだぜ?ジュウベエよお、アイツ、ギルドカード受取りに来るように伝えておいたはずなのにすっぽかしやがったんだぜ?ちょっと絞めておいてやらんといかんのよ。……それで、どこにいるんだ?」
―――あっ……。忘れてた。一応知ってはいたけど、冒険者になるのやめようと思ってたから行かなくていいやって思ったんだっけ…
「お、おいおいギルマス、それに“光翼”さんよ…。ここにいるじゃねえか。おいアーク!助けろ!!」
「……あ、はい。お久しぶりです、ギルドマスター。それに―――お、お姉ちゃん…?」
アークの素顔を見たことがなかった特別講師陣は、驚愕に目を剥いた。ギルドマスターと男性陣は信じられないものを見たと、顎が外れるくらい口が開いている。リンカと女性陣は、首を傾げながらお姉ちゃんと口にしたアークに悶えまくっており、リンカに関しては心臓を撃ち抜かれたような感覚に陥っていた。
「あ、あああ、ああ、あなたが、アークなの……!?」
「お、おいおい!お前そんな顔してたのか!お面外してるから分からなかったぜ…!」
「あ、あはは…。最近は外して過ごせるようになってきたんですが、外出の時はまだまだ付けてますね。」
頬をポリポリと掻きながら照れたように笑うアークを見て訓練場にいた全員が顔を赤くした。そしてそんなアークにリンカが飛びついてきた。
「ああああ、私の弟!こんな可愛いなんて最高ね!!私の、私の…!スーハース―ハー…」
若干恐怖を感じたアークであったが、実害はないのでそのままにしている。しかし、本人は良くても他が黙っていない。
「離れて下さい!!アーク様は私のです-!!」
「…そ、そうよ…!!離れなさい…!」
「は、離れるです…!」
サクラとミカゲ、ミルはアークに抱きついているリンカを必死に引き剥がそうとした。しかし成人した女性の力にかなうはずもなく、中々引き剥がすことができない。
「もうちょっとだけ!あとちょっとでいいから…!スーハー…。」
そんな様子を見た特別講師陣の中の1人の女性が、持っていた杖をリンカの頭めがけて振り下ろした。
「ッ痛!!ちょ、なにするのよルーちゃん!」
「あなたねぇ…羨ま―――んんっ!アークくんが困ってるじゃないの。それにサクラ様だって他の子だって困ってるわ。早く離れなさいな。」
いかにも魔法使いといった格好をしている女性がリンカをアークから引き剥がした。
「ぶーぶー。まあいいわ。あ、そうそう!アークに私のパーティーメンバーを紹介しようと思ってたのよ!皆、ちょっと来てー。」
リンカが声をかけた先は、特別講師たちであった。呼ばれた彼らはこちらへと近づいてくる。
「なんだか特別講師みたいなので登録されて学院には入れたから、一応子どもたちへも紹介しておきましょうか。今日の午後は皆の面倒を見るわけだしね。私たちは、『光翼の癒し』っていうパーティーで活動をしているAランクパーティーよ。」
生徒たちはAランクパーティーという言葉を聞いた途端、ざわめき出した。Aランクというのは中々なれるものではなく、1つの街に1パーティーいれば良い方である。ここは王都であるため、複数のAランクパーティーがいるにはいるが、『光翼の癒し』はかなり人気が高く、有名であるようだ。
そう言えばゴツゴツ先生に“光翼”って呼ばれてたね。異名持ちってやつなのかな…
アークがそのように考えていると、リンカは続けて自己紹介を始めた。
「私はリーダーのリンカよ。Aランク冒険者で一応“光翼”って呼ばれているわ。皆はリンカお姉ちゃんって呼んでね~!」
金髪のお姉さんはどこまでいってもお姉ちゃんと呼ばれたいようだ。中々に筋金入りである。
「私はサブリーダーのルーミニアよ。Aランク冒険者で主に魔法を使うわ。よろしくね。」
杖でリンカをぶっ叩いていた茶髪のお姉さんは魔法担当であるようだ。
「私……シズ……。Bランク……。よろしく。」
黒髪の女の子はルーミニアの後ろに隠れて小さく自己紹介した。Bランクというだけあって実力は確かなのだろう。
「俺はカールニアだ。Aランク冒険者で、剣士だ。ルー姉の弟だが、一応双子なんだ。よろしくな。あ、こっちはイワオって言って、Bランク冒険者なんだ。あんまり喋らないから、それはごめんな。」
茶髪の好青年は、スキンヘッドのがたいのいい男性を紹介した。茶髪の好青年はルーミニアの弟というのは顔が若干似ているのでなんとなく分かった。スキンヘッドさんは大きな盾を背負っているので、タンク役なのだろう。
「これが私のパーティーメンバーよ。それで、ついでのギルマスね。」
「おいおい、テキトーに説明すんな。俺はリュウゾウ=ハカードだ。王都キョウラクの冒険者ギルドマスターをしている。今日来たのはコイツがギルドカードを受け取りに来る約束をすっぽかしやがったから、わざわざ届けに来たんだ。なあ?」
「は、ははあ…。すみません……。」
自分の不手際なのでなにも言い返すことができず、素直に謝る。
「あ、でも僕ギルドカード要りません。冒険者はまだ僕には早かったかなって。もうちょっと強くなってから冒険者になろうと思います!」
その言葉にギルドマスターと『光翼の癒し』、ジュウベエはまた唖然とした。
「お、おいお前、マジで言ってんのか…!?あんなに強いんだから大丈夫だろうが…!」
「え、嫌みですか?あっさりギルマスに負けたのによくそんなこと言えますよね…。」
「……は?いや、お前、俺とあれだけ戦えていたらそれは大分凄い方だぞ!?自分で言うのもなんだが、俺は王都で1、2番目に強い自身があるしな!」
「そ、そうよ!?私たちも見てたけど、アークは実力的にはBランク並よ?いや、下手するとAランクよ!?」
《―――そうですね。アークは今だったらAランク相当――いえ、Sランク相当には達していると思いますよ。》
ギルマスもリンカさんも、クレアまでそう思っているのか……まあ、登録しておけば便利だししてもいいかな?
《―――はい、そうして下さい。そして、強い魔物を倒しに行きましょう?》
うん、そうだね!
「あー、分かりました。じゃあ、一応冒険者登録しておきます。」
アークは最初に冒険者ギルドに登録する目的を思い出し、登録だけはしてもいいだろうと思い、ギルマスからカードを受け取った。
「よーし!受け取ったな!んじゃ、少ししたら指名依頼出してやるから、キリキリ働けよ!ちなみにEランクからスタートだ!ガッハッハ!!」
ギルマスは、最初からアークに指名依頼をしようと決めていたが、突然冒険者になるのをやめるだなんて言いだしたときは相当焦っていた。しかし、なんとか登録させることに成功し、指名依頼を出すことを高らかと宣言した。
「ええ!!僕は今学院に通ってるんですから、やめて下さいよ!」
「ああ、分かった分かった。廻1にしといてやるさ。ガッハッハ!」
「はあ…もう、皆が話に付いてこられていないんですから、早く授業を始めましょう?」
アークは呆れながらジュウベエに催促した。
「あ、ああ。そうだな。よしお前らー。それぞれの先生の得意なことは聞いていたな?教えてもらいたい先生のところに行ってこーい。」
生徒たちは、各々自分が学びたいことははっきりしていて、魔法ならルーミニアとリンカ、その側にいるシズの元へ、剣や近接戦闘の場合、カールニアとイワオの元へ。なぜかリュウゾウの元には1人も集まらなかった。そして―――
「あ、あのー、なんで皆は僕のところに……?」
サクラ、ジン、ミカゲ、ミルはアークの元に来ていた。ツバキはAランク冒険者、それも異名持ちも魔法使いというネームバリューにつられてそちらへ行ったようだ。
「それはもちろん、アーク様に学んだ方がいいと、私の直感でそう思いましたので!」
……サクラは相変わらずなようだ。そう言ってもらえるのは嬉しいけど。
「まあ僕らもそんな感じだよね。あのヤマト様の反応を見る限り、アークの魔法技術は凄いと思うからね。」
そう言うジンに、ミカゲとミルは必死にうんうんと頷いている。そんな様子を見ていたリュウゾウは、寂しそうにアークに声をかけた。
「お、おい…。なんで俺のところには誰も来ないんだ……?」
「あーー……。ギルマスは教える立場じゃなくて監督みたいな役割だと思われたんじゃないですかね…?」
そんなこと言われても、そのゴツゴツさを見れば子どもは近づかないだろうなどとは言うことはできず、濁した。
「お、おう。そうか。それじゃあ、アークたちを見るとするか!」
うわ!なんてことだ!!別に僕らは大丈夫なのに!!
「あ、あの、僕らは僕らでやるんで大丈夫ですよ?」
「なーーに遠慮すんな!遠慮すんな!!」
あらー…。これはもう逃れられない…。2回も遠慮すんなって言ってるよぉ…。
「よし、まずは模擬戦だ。アーク以外はおそらく無理だろうから、まだ見てな。ってことで、アークやるぞ。」
「うえー…。分かりましたよ…。でも今回は魔法も使いますよ?本気出してもギルマスは死なないと思いますし。」
アークは前回同じ土俵で戦っていたが、それでは天と地の差があり全く歯が立たなかった。やられっぱなしというのも面白くないので、一泡吹かせてやろうと、魔法を使うと宣言したのだ。
「ん?ああ、いいぞ。少しは保たせろよ?ガッハッハ。」
リュウゾウは思っているよりもかなり楽しめることを今は知らない。
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