第23話 リフォームと転移
初日の授業は終わり、放課後となった。約束どおりにアークの部屋へと行くために、アーク以外の面々は揃って学院長室に向かっていた。実は、アークが自分の部屋で皆に魔法を指導すること話してみたのだが、許可は得られたものの、やはり女子生徒が男子寮に入るところを見られたらダメとのことだった。
そこで、学院長を訪問するという名目にし、学院長室から転移すれば大丈夫だろうということになったのだ。しかし、アークはまだ自分の部屋に行ったことがないので転移ができない。座標さえ分かれば行けなくもないのだが、なにせ寮が広すぎて自分の部屋の場所など分からないのだ。
そんなわけで、アークは現在自分の部屋に訪れている。階数は12階で中々の高さであったが、幸いエレベーターもような装置があったため、苦労はしなかった。
アークは王城を出るときに侍女を付けるかと聞かれたが、色々な事情があるのでお断りさせていただいた。ナニとは言えないが。
部屋に入ると、50畳程のリビングが広がっており、更に奥には扉がいくつか見られる。かなり好待遇な部屋になっているようだ。しかし、内装はすこしダサい。木材によるフローリングに、少し濁った白色の壁。天井も木材仕上げであり、なんだかミスマッチである。
「クレア、この部屋の内装、変えちゃってもいいかな?」
《―――はい、問題ないかと。あまりにもダサいので、むしろ変えた方がありがたいはずです。》
「そうだよね!じゃあ、クレア。―――お願いしてもいい?」
アークは感覚的にダサいと分かるものの、自分が変えるとなるとちょっぴり自信が無いので、クレアにお願いしてみた。
《―――はぁ…分かりました。どうせ家具も創ってほしいと言うと思っていたので家具は創って〔時空間魔法〕の部屋の方に入れてあります。》
「おおお!ありがとうクレア!」
アークは〔時空間魔法〕を持っており、その能力は凄まじいものであった。〔時空間魔法〕とは、本来存在するものではなかったのだが、昔、〔空間魔法〕と〔時魔法〕を持っていた少女が神に至った時、それは生まれた。その神はナナなのだが、とてつもない能力をアークに授けたものだ。
その能力とは、文字の通り〔空間魔法〕と〔時魔法〕の能力を合わせた能力なのだが、これが凄い。〔時魔法〕は本来自分にしか干渉できない魔法である。自分の未来を見たり、時間が遅く進んで見えたりといったようなことまでしかできなかったのだ。しかし、〔空間魔法〕の能力が加わり、空間を指定してその場所の時間を早めたり遅めたりすることもでき、また、時間の経過しない空間を作り出すこともできるのだ。
《―――では、〔創造魔法〕により内装を一新します。》
クレアがそう言うと、アークの体からキラキラとした魔力が溢れだしてきた。その魔力は部屋全体に満ちて、共鳴するように一瞬閃光が走る。あまりの眩しさに目を閉じたアークであったが、目を開けると、そこには和モダンで統一された新築の匂いが香る美しい部屋があった。
床は、ダークブラウンの木材によるキレイなフローリングで、扉がない側のスペースには段上がりの畳が広がっている。壁は真っ白であり、開口部には木材を使用している。天井にも高級感のある木材が貼られ、カーテンはダークグレーに統一されている。
クレアは同時に家具の設置もしてくれていて、その家具はブラウン系に統一されている。一気におしゃれな空間になり、アークのテンションは高まる一方であった。
《―――キッチン、寝室、浴室脱衣所、トイレ、ウォークインクローゼットも一新しておきました。》
「ええ!ちょっと見てくる!!」
アークは皆との約束を忘れ、部屋を見て回ろうと駆け出すが、クレアが止める。
《―――アーク、そろそろ学院長室に飛びましょう。皆様が待っているはずです。》
「―――あっ。忘れてた!ありがとうクレア。それじゃ――“転移”」
アークの姿はその場から一瞬にして消えた。
学院長室には、学院長であるヤマトの他に、サクラ、ジン、ミカゲ、ミル、そしてツバキがいた。ヤマトは元々ツバキを除く4人とアークの5人聞かされていたのだが、なぜかアークがおらず、ツバキが来ている。まあ、なんてことないだろうと考えつつ、全員を座らせた。
「よくきたのぅ。アークから聞いておるが、お主たちは魔法の訓練をしに行くんじゃろう?放課後になっても訓練するとは、関心じゃ関心じゃ。」
「はい、お爺さま!アーク様はいっつも1人で毎日しゅぎょーばっかりしているので、私たちもそのしゅぎょーに混ざって一緒に強くなるのです!」
「ほっほっほ。そうかそうか。それで、アークはどうしたんじゃ?それにツバキもおるし、聞いていたことと違うようじゃが。」
ヤマトは早速気になったことを聞いた。
「アーク君は一旦自分の部屋に行ってから来るそうよ。それと、私はもっと魔法を上手く使えるようになりたいから来たの。」
ツバキは淡々と、それと同時にはっきりとした意思っで答えた。
「ほう、少し遅れるんじゃな。まあいいわい。―――それにしても、アークとはとんでもない奴じゃったのう…あれ程の魔法を使うとは、さすがに6歳とは思えんわい…」
「はい!アーク様は凄いんです!魔法も凄いかも知れませんが、剣も凄いんですよ!しゅぱぱ!って、相手をすぐ倒しちゃうんです!」
「え、アークは剣術もすごいのかい…?そっちも是非教えてもらいたいよ…」
サクラのアーク自慢にジンが反応した。ジンは王族の家系であり、剣術や刀術をかなり大切にしている。王族やそれに連なる一族は、【シンラ剣術】や【シンラ刀術】といった先祖代々受け継がれてきた技術があり、それを修得することは何よりの栄誉である。
「ほっほっほ。屋内じゃそれは厳しいじゃろうて。剣術は違う時間に教えてもらいなさい。部屋も隣なんじゃから、いつでも大丈夫じゃろう?」
「は、はい……そうですね。分かりました。」
「―――っと、そこのモジモジしているお二人さんや。大丈夫かの?体調でも悪いのかのぅ?」
ここで、最初から気になってはいたが、敢えて声をかけていなかったミカゲとミルに声をかけた。
「あ、お爺さま!ミカゲちゃんとミルちゃんはアーク様のお部屋に行くことにとっても緊張しているのです!」
サクラのカミングアウトに2人は顔を赤くさせながら俯いた。初恋の人の部屋に行くのはさすがに緊張するだろう。ヤマトは、そんな2人を微笑ましそうに眺めている。
「ほっほっほ。アークはモテるのぅ。それにしても、ヤサカ辺境伯の娘が恋するとは、少々以外じゃったな。お主は読書しかしてない印象じゃったから、まだまだ先になると思っておったのに。」
「あ、い、いえ……その……」
ミカゲはなんて言ったらいいのか分からずに口ごもる。かつて感じたことのない恥ずかしさと恋心に頭が真っ白になる。
「お爺様。女の子にそのようなことを言っては失礼ですわ。それに、ミカゲはそういったことは苦手そうなんですから、皆で助けないといけません。もちろんお爺様もです。」
「わ、儂もか。うーむ…まあ儂の力が必要になりそうじゃったらいつでも来なさい。そこのエルフの子もじゃな。」
「「あ、ありがとうございます…」」
ミカゲとミルは遠慮がちに答えた。
それにしてもツバキがそういったことに口出しをするとは…いつも魔法魔法で色恋のいの字もないツバキの進歩を見られて少し感動したヤマトであった。
そんな会話をしていると、ミカゲの目の前に光り輝く魔法陣が現れた。その中からアークが現れ、着地する。しかし、その着地した足下には、ミカゲの足があり、アークは盛大に踏んでしまい、体勢を崩した。
「痛っ!」
「うわわ―――っ!!」
アークはバランスを崩してしまい、そのままソファに座るミカゲを押し倒すように倒れ込んだ。
「あたた……ミカゲさん、ごめん、大丈夫?」
ミカゲは突然のことに頭が追いついてなかったが、アークが目の前に現れ、今現在自分の顔のすぐ目の前に初恋の相手がいることを認識すると、興奮が限界に達して爆発し、気を失った。
「―――ふ、ふにゅう……」
「あ、ミカゲさん!!だ、大丈夫!?」
アークは慌てて立ち退き、どうすることもできなくてあたふたする。
「ほっほっほ。アークや、お主大胆よのぅ!」
「ぼ、僕は狙ってやってませんよ!たまたま転移した場所があそこだったんです!!」
アークは必死に弁解をしようとした。しかし、他の4人が気になったことは他にあった。
「あ、あなた!!転移の魔法を使えるの!?どーやってやったのよ!!」
「アーク様!本当に使えたのですね!凄いです!」
「アーク君……すごいのです……!」
「……さすがだね。」
アークはツバキ以外には転移の魔法を使えると言っていたのだが、あまり信じられていなかったようだ。ツバキはというと、鬼の形相でこちらに問い詰めてきている。
「そ、そんなことよりミカゲさんだよ!ど、どうする?“オールヒール”かければ治るかな…?」
「ほっほっほ。大丈夫じゃよ。安静にしておけばその内目を覚ますじゃろうて。」
ヤマトはアークの慌て具合に呆れながらそう答えた。しかし、それにしても本当に転移を使いこなす者がこんなにも若いことにヤマトは驚いていた。自分が転移を使いこなせるようになったのは、たしか成人して数年経ったときだと覚えていたので、さすがに信じられなかった。
うーむ……。ツバキが此奴の教えを受けたら歴代でも天才と言われた儂やマイを超えられるかもしれんのぅ……。
そんなツバキはオロオロしているアークに掴みかかり必死に問い詰めている。他の面々はそんなツバキに若干引きつつ、そんな状況を見守っている。
ヤマトはそんなアークを見かねて、助け船を出した。
「ツバキや。その辺にしておくんじゃ。今のツバキじゃったらおそらく転移は使えんじゃろうから、アークにしっかり魔力操作を教えてもらいなさい。」
「……は、はい。お爺様。絶対覚えて見せますわ。」
そうして学院長室での一幕は終わった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます