第22話 【クレアブルム流刀術】の修行 ☆

 現在、食堂にて食事中である。食堂の端の方にいるものの、噂が噂を呼び、生徒がアークを見ようと殺到してきた。しかし、なぜか学院長も一緒に食事をしており、声をかけるには至っていなかった。


「ほっほっほ。アークや。お主人気者じゃのう?まあその顔なら当然じゃろうて。」


「ヤマト爺は僕の顔見ても普通でしたね。さすがお年寄りって感じです。」


「これアーク。お年寄りにお年寄りなぞ言うもんじゃないわい。まあ、マイとケンシンの坊主に聞かされておったし、アークの爺さんからも連絡が来たからのぅ。丁寧に脳内にアークの顔が映り出されおったわい。」


 爺ちゃんは凄い魔法使いのようだ。しかし、孫の情報を安易に伝えるのはやめて欲しい。


「…爺ちゃんに連絡することってできますか?」


「ん?できるが…。なにか伝言かの?」


「はい。爺ちゃん、あんまり僕の個人情報をひけらかさないように!って伝えて下さい。あと、今度会おーね、とも伝えて下さい。」


「ほっほっほ。分かったわい。あの爺、すっ飛んでこないといいんじゃが…。」


 伝えてくれるみたいで良かった。僕から直接伝えるのがベストだけど、連絡先とかも知らないし、森にいたときに会っていないことからまだその時じゃないということだろう。




 周囲に座っている生徒たちは、アークが自然に学院長と話している姿を見て、唖然としていた。実際、ヤマトはこの国では英雄の1人であり、シンラ国民の憧れの人物なのだ。ヤマトと話をするということは値千金の価値があり、恐れ多くもある。そんな人物を前に、アークはヤマト爺と呼んだり、普通に会話している。これはもう唖然としない方がおかしいのっであった。


 昼食を食べ終わり、アークたちは教室へと戻ることになった。


「じゃあの、アーク。それにサクラとツバキよ。今度遊びにくるのじゃぞ?」


 そう言い残して転移で帰って行った。なかなかに騒がしいお爺ちゃんだったが、たまに話しをするなら楽しいからいいだろう。


 アークはひと目を気にして足早に教室に戻っていった。




「ツバキちゃん、お爺さまはアーク様を気に入ってしまわれましたね。」


「そうね…お爺様は数少ない友人の孫だって聞いて舞い上がってましたから、余程嬉しいのでしょう。それに…魔法の腕も高いようですし。」


 キリッっと睨み付けるようにアークを見つめ、アークが魔法を使ったときを思い出す。


 ―――夜空のように深くキラキラとした魔力に美しい川の様な魔力の流れ……正に私の理想…!


「是非教えを請いたいわね…」


「あ、それなら私たちの放課後訓練に参加しますか?アーク様に魔法を教えてもらうのです!」


「っ!!本当なの!私も行くわ!」


 そうしていつの間にかアークの知らないところで人数が増えたのだった。






 午後の授業はアークにとって退屈であった。簡単な算数の授業であり、こんなの見ただけでパッと答えが分かってしまう。なので、アークはひっそりと修行をすることにした。


【ステータス】

 アーク=フォン=フォレストブルム

 年齢:6歳 Lv.45

 種族:ハーフエルフ?(強制隠蔽)

 職業:神ノ使徒

 称号:【転生者】【時空神の婚約者】【精霊に愛されし者】【シンラ国公爵】

 ●能力 

 固有能力:【叡智ノ書庫アカシックレコード】【精霊ノ寵愛】【闇夜ノ血脈】【クレアブルム流刀術】

 属性魔法:〔火魔法Lv.4〕〔水魔法Lv.5〕〔風魔法Lv.7〕〔地魔法Lv.5〕〔木魔法Lv.5〕〔光魔法Lv.6〕〔闇魔法Lv.5〕〔無魔法Lv.6〕

 特殊魔法:〔創造魔法Lv.6〕〔鑑定魔法Lv.6〕〔時空間魔法Lv.6〕〔隠蔽魔法Lv.Max〕〔力学魔法Lv.6〕〔結界魔法Lv.6〕

 固有魔法:〔精霊魔法Lv.8〕〔血魔法Lv.6〕〔生活魔法Lv.7〕 

 スキル:〔中級剣術Lv.6〕〔刀術Lv.6〕〔身体制御Lv.2〕〔魔感覚Lv.6〕〔思考加速Lv.9〕〔多重思考Lv.5〕〔調理Lv.5〕(〔絶倫Lv.7〕隠蔽中)


 アークのステータスは現在、このようになっている。どれかを鍛えようかと思っていたのだが、クラスメイトを鑑定していく中で、面白いことを思いついた。


 ミカゲに〔影魔法〕という魔法があり、カナには〔幻魔法〕という魔法があったのだ。〔幻魔法〕はマイが持っていたためある程度は知っていたのだが。


〔影魔法〕と〔幻魔法〕を組み合わせれば、〔幻影魔法〕になるんじゃないか?と踏んだのだ。そう思い、クレアに聞いてみると、


《―――その認識で間違いありません。早速創り出しますか?》


 と返ってきたため、うんと返事をしておく。


《―――了解しました。〔創造魔法〕を発動します。〔影魔法〕を創造します。―――完了しました。特殊魔法:〔影魔法〕を獲得しました。続いて、〔幻魔法〕を創造します。―――完了しました。特殊魔法:〔幻魔法〕を獲得しました。獲得した〔影魔法〕と〔幻魔法〕の統合を開始します。――――――――――完了しました。特殊魔法:〔幻影魔法〕を獲得しました。使い方は脳内に送ってありますので、そちらを参考にして下さい。》


 おおお!ありがとうクレア!早速これを使ってこっそり修行してみよう!


 まず〔結界魔法〕で小さめの結界をつくり、それに〔隠蔽魔法〕をかけ、周りから認識されないように隠す。その中に、〔幻影魔法〕で小さい僕を2人だして戦わせてみる。


 案外難しく〔多重思考〕や〔思考加速〕を使わないと処理しきれなかった。しかし、この難しさはいい修行になると確信した。授業中はこれを繰り返そうと心に決めた。


 アークひとりで操作しても、結局は攻撃のタイミングなどが分かってしまうため、片方の操作はクレアに任せることにした。


《―――これは【クレアブルム流刀術】のいい修行になりますね。お互いに俯瞰して見られるのは様々な問題点が浮き彫りになって画期的です。》


 そうだね。それに幻影だからわりと危険性の高い技にも挑戦できるしね。


《―――アークは私がやってもいいと言っているのにそういった攻撃をしませんからね。》


 できるわけないじゃないか…大事な人なんだもの……


《―――ふふふ…嬉しいです。ありがとうございます、アーク。では、いきますよ?》


 うん―――こい!


 両者同時に幻影を走らせ、同じ技を繰り出した。


 刀術――“彼岸花ひがんばな


 両者の神速の居合が繰り出され打ち合う。火花が散るような勢いであったが、隠蔽の結界内であるのでそのことに気付く者はいない。お互いに一瞬止まったが、どちらからともなく飛んで後退する。


 着地と同時にクレアは仕掛ける。


 歩術――“月下美人げっかびじん


 そのままの体勢で足をスライドさせるようにして、アークが操作する幻影に一気に近づく。相手からしたら瞬間移動したように感じる技だが、今は俯瞰で見ているため、近づくことがバレバレである。


 刀術――“落花らっか


 花びらが舞い落ちるかのような軌道で刀が振り下ろされる。これは受け流すのが困難な刀術であり、受け流すことを選択した途端、王手をかけられる。


 歩刀混合術――“咲渡さきわたり風花かざはな


 アークは歩術と刀術の合わせ技を仕掛ける。“咲渡さきわたり”で、一気に相手の真横をすり抜けると同時に、切っ先を残し、通り抜ける勢いを利用して相手を斬りつける。


 クレアは“落花らっか”をそのまま“風花かざはな”を受け流すための軌道に変え、あわよくば刀をはじき飛ばそうとした。


 刀術――“藤波ふじなみ花摘はなつみ


 攻撃による独特の波を読み解き、その流れを完全に外に受け流すと同時に刀身を巻き上げるように力を込める。


 アークはなんとか刀を放さずにすんだが、大きくバランスを崩してしまった。そこにクレアは容赦なく襲いかかる。


 刀術――“花園はなぞの


 体を回転させ、大きく旋回させるようにして繰り出された横薙ぎは、遠心力を伴いアークの操る幻影に襲いかかった。


 いつも通りであったらここで負けて終わりであるが、今回はまだ諦めない。この修行では幻影を操り戦わせることによって、新たな可能性を探らなければならないのだ。今まで試してきた組み合わせにはない新たなものを…


 歩刀混合術――“花野はなの藤波ふじなみ


 バランスが崩れた体を無理矢理できる範囲で修正し、“花野はなの”で大きく地面を踏み込み地を揺らしながら体勢を整える。そして、“藤波ふじなみ”により地の揺れによって若干バランスの崩れた“花園はなぞの”を受け流し、そのまま前進し距離を離す。


 ―――よし!なんとか切り抜けた!


《―――ふふ。まだまだいきますよ?》


 歩刀混合術――“咲渡さきわたり菊芽きくが


 クレアは“咲渡さきわたり”により神速の速さで距離を詰め、低い位置から斜め上に向かって鋭い刺突を放つ。この突き技を受け流すことはまだアークには難しいであろう。なにせ神速の移動に神速の突きが合わさっているのである。


 アークは、ここで最近練習中の歩術を試してみることにした。それはクレアに何度も使われ、敗北してきた歩術である。相手の動作により生じた隙に瞬間的に飛ぶことにより、認識から外れることのできる歩術だ。


 歩術――“高嶺花たかねのはな


菊芽きくが”の途中に生まれる隙を見極め、一瞬できた死角に躊躇わず飛ぶ。これにより、クレアの操る幻影は一瞬アークの操る幻影を認識できなくなったであろう。そして、認識から外れることに成功したアークは、次なる1手を叩き込む。


 打術――“万華ばんか


 飛び込んだ死角はクレアの操る幻影のすぐ近く。体に拳を押し当て、内蔵へ衝撃波を飛ばす。アークはここで勝利を確信した。しかし、クレアはそんなに甘くはない。それに、あくまで俯瞰で見ているため、目の前の幻影から認識されなくなっても、こちらからではバレバレなのだ。アークはここに来てうっかりさんであった。


 打術――“崩牡丹くずれぼたん


 アークの操る幻影が自分の体に拳を押し当てることを察知したクレアは、体を後ろに倒しながら相手の右膝を蹴り壊した。体を後ろに倒したことによりダメージを減らすことに成功していたクレアは、右膝を壊され動けないアークの操る幻影にとどめを刺す。


 刀術――“桜花おうか


 膝を壊され、前屈みになっているアークの操る幻影は首を差し出したような格好になっている。その首に向け、下段から神速の一閃を放つ。


 アークの操る幻影は首を断たれ、膝から崩れ落ちそのまま消失した。


《―――ふふ。私の勝ちですね。それに、“高嶺花たかねのはな”を使っても、こちらからは分かりますのに。》


 あーー!油断した!!そうだった!!うっかり……


 今回は勝てると思ったが、結局は負けてしまいアークは思わず天を仰いだ。アークの様子が変なことを薄々感づいていたサクラだったが、アークが天を仰いだ姿を見て、問題が分からなかったのかと勘違いし、話しかけた。


「アーク様、なにか分からない問題がありましたか?」


「―――あっ…いや、解き終わってさ!あはは…」


「そうだったんですね!さすがです!」


 やっぱりサクラはチョロすぎると再確認したアークであった。




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