第21話 同盟と魔法 そして失敗

 アークがお面を外し、騒がしくなっている中、ミカゲはサクラに勇気をだして話しかけ、訓練場の端に連れてきた。


「……あの、サクラ…。私ね…。」


「ミカゲちゃん。もしかして…アーク様に惚れちゃいました?ふふふ。」


 ミカゲの気持ちはもうサクラにはバレていた。いや、サクラだけでなく、クラスの半分には気づかれているかもしれない。


 訓練場に着いてからずっとアークの方をチラチラと見ながら顔を赤くしている様は、さすがにあからさま過ぎたであろう。


「……気づいてたの?」


「はい!私たち、親友ですからね?なんでもお見通しなんです!だから…。私はミカゲちゃんを応援しますよ?なんだったらアーク様にミカゲちゃんのいいところとか可愛いところとか教えてあげて、協力します!」


サクラとミカゲは、仲が良かった。王城で開かれるパーティーにはミカゲも引っ張り出され強制的に参加させられていた。しかし、ミカゲは1人でずっと本を読んで時間を潰していたのだ。そこへ、いじめっ子貴族たちが何度かからかいに来たのだが、それを撃退したのがサクラであった。それ以来サクラはミカゲにとって唯一の親友となったのだ。


「わわわ!そこまでしなくてもいいよ…!―――でも…いいの?」


「はい。アーク様はとっても優しくてとっても強いのです。私とシオリお姉様だけで独占なんて、もったいないです。それに、将来結婚したら私たち一緒に住めますからね!」


「―――そうなの…。ありがとう!サクラ、協力して!絶対にアーク君を射止めなくちゃ…!」


「はい!頑張りましょう!」


 ミカゲはサクラと手を取り合い、固く握手をした。その時、エルフの少女―――ミルがヒョコッと現れた。


「…あの、その話、ミルも混ぜて欲しいです…いいです…?」


「ミルさん…!あなたも?分かりましたわ!」


 こうして3人の同盟ができあがり、この日からアークはミカゲとミルのいいところをサクラに聞かされる日々が続いたとか…








 お昼までまだまだ時間があるということで、それまで訓練場で時間を潰すことになった。お面を外したアークにまだ興奮が冷めることはないのだが、いつまでもこのような状況とはいかない。


「先生、魔法の練習をしたいです。長期休暇で家にいる間はなかなか練習できていなかったので。」


 ジンは公爵家なので連日パーティーであったり、短期間の習い事であったりと、鍛錬の時間に充てることができていなかったため、そう口に出した。また、それもあるがアークの実力をみれるいい機会だとも思っていたため、都合が良かった。


「おいおい、俺が見るのに魔法か?まあいいけどよ。アドバイスはできんから、勝手にやれよ。あ、あと魔法やりたくない奴らは反対側で剣と体術教えてやる。」


 そう言ってジュウベエは訓練場の反対側に歩き出すと、数名の生徒がそちらに向かった。


 僕も剣やろうかな。魔法は皆の前だし―――


 そう思ってアークもジュウベエの元へ向かおうとすると、ジンとサクラ、ミカゲ、ミルに止められた。


「アーク様!私とミカゲちゃんとミルちゃんに魔法教えて下さい!アーク様はいっつも1人でしゅぎょーしてらっしゃるでしょう?」


「サクラ様、僕も一緒にいいですか?」


「はい、もちろんです!ミカゲちゃんとミルちゃんもいいよね?」


「あ、う、うん。別に、いいわ…」


「はいです。大丈夫です!」


 あれ。なんか勝手に僕が見る流れになってるんだけど……


《―――人に教えることもまた修行ですから。頑張って下さい。》


 んー、それもそうか。新しい発見もあるかもだし、やってみるのも悪くないだろう。


「うん、分かったよ。僕は制御くらいしか上手くないけど、やれるところまで頑張ってみるよ。」


「やったー!ありがとうございますアーク様!」


「あはは。落ち着いてサクラ。あまりはしゃがないの。」


 アークはサクラを宥めるために手を取り、頭を撫でた。


「は、はい―――しゅ、しゅすみません……///」


 サクラは不意に手を握られ、頭を撫でられて興奮と緊張に顔が真っ赤になる。


 なぜかミカゲとミルも顔を赤くしていたが、なぜなのだろう?まあいいか。修行だ修行!


「えーっと…。まずなにからやる?ジン、くん?」


「僕のことはジンでいいよ。僕もアークって呼ぶからさ。」


「あ、うん!分かったよ、ジン。」


 アークは初めてこの世界で友人ができたような気がして、とても嬉しくなった。


「僕は魔力操作が苦手だから、その練習かな。ミカゲは?」


 ジンは気を利かせてミカゲに話を振った。


「…わ、私!?んー……。私も魔力操作がいいわ…。」


 若干顔が赤いままそう答えた。アークとしてはあの時に聞こえてしまったため気持ちには気付いているため、なんとも言えない感じになっている。


「じゃあ、魔力操作からやろっか。…サクラ?大丈夫?」


「は、はい!大丈夫です!やりましょう!」


 放心状態のサクラを戻しつつ、魔法を使うときに意識していることを聞いてみた。


「ジンは魔法を使うときの流れを説明してって言われたら、なんて答える?」


「僕かい?そうだね…。例えばファイアボールは、魔力を掌に集めつつ、詠唱して打ち出す、かな?」


 そこからかー…。まあまだ5.6歳だし仕方ないよね。


「あー…。実はそれ、効率が悪いんだよね。あはは。」


「え、そうなのかい!?アークはどうしてる?」


「僕は、一言で言えば、想像する…かな。」


「「「「想像…?」」」」


 アークが言った意味が全く分からない4人は揃って首を傾げた。


 魔法とは、魔力を媒介にし、望んだ現象を発生させることである。それは個人によって発生させられる属性に違いが見られるが、適正のあるものであれば、魔力がある限り誰でも発生させることができる。


 しかし、ここで重要となるのが、魔力操作と想像力である。


 魔力を体内でキチンと操作・制御しきれていないと魔法の威力調整ができず、不発や暴発が起こりえる。また、自分が望む現象をキチンと想像しないと魔法が正確に発動しない。発生する現象を理解した上で、正確に想像することができれば、使用魔力の低減や威力増大が見込めるのだ。


「実はね、詠唱って必要ないんだよ。あれは想像力、魔法を出すイメージの補助的な役割でしかないんだ。あとは魔力を掌に集めるのも補助されているけどね。」


 詠唱には2つの役割があり、1つ目は言葉を紡ぐことによる想像の補助、2つ目は言葉を紡ぐことによる魔力の収集収束だ。


「―――だから強い魔法使いたちは詠唱をしていないのか…。なにかのスキルなのではないかと言われてたけど、単純なことだったんだね。」


「うん、そうなんだ。だから僕は、発生させる魔法を想像して発動させているよ。でも、それに加えて魔力操作も大事なんだけどね。ちょっと見てて。」


 アークはそう言って誰もいない方の木の的に火の玉を放った。火の玉は赤く、的に当たった瞬間に的を少し焦がし、霧散した。


「これがテキトーな想像力と魔力操作で出したファイアボール?ね。」


 アークは魔法を使うときこれと言った魔法名は付けておらず、ただ想像のままに使っていたため、ジンの言ったファイアボールと呼んでみた。


 ジン、サクラ、ミルは無詠唱で発動させたことに驚いたが、それよりも的が焦げていることに驚いていた。あの的は木でできていながらも、学院長の防御魔法が付与されているので、一切傷などが付かないはずであったのだ。


「じゃあ、次はちゃんと魔力操作と想像力を意識するからね。あ、分かりやすいように想像の方は口に出してみるよ。」


 そう言ってアークは的に向けて構えた。


「―――ふぅ……。火の玉、火の玉。燃えろ。熱く熱く。イメージは完全燃焼。青く熱く。そして収束しろ。収束。そして爆ぜろ。―――よし!」


 アークはゆっくり時間をかけて魔法を発動させた。


 発生した火の玉は青白く輝き、先ほど出した火の玉より一回り小さくなっていた。そして、的に当たったと同時に爆発した。


 ドゴオオォォ……!!


 ―――あ、やっば。やりすぎた。溜めが長すぎたか。


「―――っとこんな風になるんだ!あははは。」


 4人は唖然としたまま固まって動かない。んー、理解してくれていればいいんだけど。


 その時、学院長のヤマトが転移で現れた。


「なにごとじゃ…!敵襲か!?」


 ―――あっ。やっばい逃げる?ねえ、逃げる?


《―――逃げない方がいいですよ。おそらく説明するのに結局呼び出されますから。》


 あー…。それもそうだね。ならもう僕から言おうか。


「あ、あのー…。ちょっと威力調節ミスっちゃいまして……。あはは…。」


「―――アーク…。お主の仕業じゃったか…。こちらに入っている情報ではお主は魔法をあまり使わんはずじゃったが…。間違いじゃったのぅ……。」


 アークは確かに戦闘や修行では大それた魔法は使っていないが、魔力の操作や魔力量はピカイチである。


「あー、魔力操作の修行ばっかりしてて初めてちょっとだけ威力を大きくしてみようとしたら、こうなってしまって……」


「あーー…お主、そういえばハイエ―――――っといや、エルフじゃから魔力量も多そうじゃな。これからはしっかり制御できるようにするんじゃな。」


 うっかり言ってしまうところだったが、これはおそらくアーク自信も知らされていないだろう事実なので、慌てて誤魔化した。


「それで、なんの魔法を使ったんじゃ?エクスプロージョン系か?」


「あ、火の玉です。」


「―――ん?火の玉?」


「あ、はい。ファイアボール?とかいうやつです。」


「―――お、お主…。なんでファイアボールがそこまでの威力になるんじゃ……。」


「あははー…。僕も知りたいなぁーなんて……。」


 しばらくして教員たちが訓練場に殺到してきたが、ヤマトがやったこととして事件は収束した。






「それにしても、すごいねアーク。僕もあれくらいできるようになるかな…。」


「きっとできるよ。僕が教えてあげる!トモダチだからね!うふふ。」


 ―――か、可愛い…!!


 ジンたち4人は嬉しそうにニコニコしているアークを見て、悶絶した。アークは初めての友人に何かを教えるということに充実感で満たされており、嬉しくてニコニコしていたのだ。


「アーク様…!私たちもご一緒していいですか?」


「うん、いいよ!あ、いつにする?空いてる時間とかがいいよね。」


「―――放課後から夕食前まででいいんじゃないかい?」


「うん、そうだね。じゃあ、僕の部屋にしようか。」


 アークはまだ自分の部屋を見たことがなかったが、とにかく広いということは知らされているので、丁度いいと提案した。


「アーク様、男子寮には女の子は入れませんよ?特別な許可がないと罰則を受けてしまいます…」


「あ、じゃあ僕の転移の魔法でいこう。そうすればバレないさ!」


「「「「転移魔法使えるの(です)!?」」」」


 ―――あ、あんまり言わない方が良かったかな…。

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