第19話 1-Sと自己紹介
アークはヤマト爺に連れられ、1-Sに向かっていた。
「試験って、何かしましたっけ?」
「ああ、あれは嘘じゃ。そう言っておけば試験を受けたと思われるじゃろ?」
「そうなんですね。…ってことはサクラはSクラスなのか。案外優秀なんだね。」
事前にクラスはS、A、B、C、Dがあると知らされており、Sが1番優秀らしい。それぞれ20人、30人、40人、50人、60人の一学年200人いるらしい。
「僕が入ると21人になっちゃいますけど、大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫じゃよ。おおよその人数であって固定値というわけじゃないからの。」
ならよかった…僕が入って1人落ちちゃったらそれは申し訳なさ過ぎる。
「よし、着いたぞ。入りなさい。」
ヤマト爺がガラガラと勢いよく扉を開くと、背中を押されて教室内に入る。
「おうおう!来たか来たか!久しぶりだな!!」
ああ!この人はサクサを助けたときの護衛隊長!
「ゴツゴツ侍さん!お久しぶりです!!」
「だれがゴツゴツ侍じゃ!!お前のせいでそれ、定着してんだぞ!!ステータスにまで反映されるしよ…!」
あー…。それ絶対オルタ様のせい…。
「あ、皆さん、初めまして。アークです。一応言っておきますが、男です。よろしくね。」
このゴツゴツ侍さんやらなにやら出会う人出会う人に女の子と間違われるので、先に言っておく。今回はキチンと拍手された。
「お前の席はサクラ様のご意向でサクラ様の隣だ。1番後ろの窓から二番目な。」
サクラ…。誰かを移動させて空けてくれたのかな…。なんか申し訳ない。
「あ、はい。それにしても、サクラ様って呼ぶんですね。この学院ってそういうの無しみたいな感じって聞いたんですけど。」
「ほっほっほ。王族は別、という風習かのぅ。こちらからすれば、王族が調子に乗らなければそれでいいわい。のぅサクラや。相変わらず可愛いのぅ!」
「おじいさま!お久しぶりです!」
おじいさま!?ってことはクロムウェル家って王妃様出してるのか!美魔女さんだよね…。この人からあの美魔女さんが……。
そしてサクラは不機嫌そうな顔をしながら文句を言った。
「わ、私も普通にしてほしいと頼んだのですよ!でも皆さん直してくれないんです…。」
―――可愛い。
「まあいいんじゃない?サクラだってそんな感じの口調なんだから。」
アークはそうサクラに言うと、1人の男子生徒が声を荒げた。
「貴様!無礼だぞ!サクラ様になんて口の利き方をしている!」
おおー…。急にきた、誰ですか…。
正義感に溢れた少年が椅子をひっくり返す勢いで立ち上がり、がなり立てる。
「カズマ様!この方は私の婚約者なのですよ!だからいいのです!」
「なぁ!!そ、そんな!サクラ様に婚約者が…」
段々声の大きさが尻すぼみになっていった。もしかして、サクラのこと好きだった口か。それは申し訳ないことをした。渡す気は無いが。
「……そのことは少し前に知らされていたはず。これだから槍バカは…。」
「な、何だと!バカではない!!槍が好きなだけだ!」
「……それを槍バカって言うのよ…」
槍バカ少年の前の席に座っていた黒髪の女の子が鬱陶しそうに婚約発表について告げたが、一言多かったせいで余計に鬱陶しくなっている。本を読みながら振り向きもせずにいるところを見るとあまり仲良くはないのだろう。
「……それにしても怪しいお面付けているのね。なんで?」
本を読んでいる女の子はパタっと本を閉じ、アークへ質問をした。
「んー…爺ちゃんの形見?だからかな…」
その理由を考えていなかったアークはどうしようか悩んだが、無難そうな答えを言ってみた。
「……ん。ごめん。嫌なこと聞いたわ。」
「あ、死んでないよ。」
「―――私の心配を返しなさい!それに形見って遺品とかのことだから!」
おおお…無感情な寡黙少女だと思っていたけど案外感情あり…
「ミカゲちゃん、どうどう?」
「私は馬じゃないわ!」
「「「ブハッ!!」」」
―――サクラが秀逸すぎる…!!それに返しも完璧だ…!!吹き出したのは僕とヤマト爺とゴツゴツ侍さんだけであったが。分かってる!!
「ほれほれ。アークは早く席に着きなさい。あ、このクラスにはもう1人孫がいるんじゃ。のぅツバキ。お勉強頑張るのじゃぞ?」
そう声をかけたのは少し気の強そうな女の子だ。銀髪の長髪でいかにも魔法使いが着そうなローブを制服の上から羽織っている。いいのか…?
「はい、お爺さま。分かりましたので、早くお帰りください。」
ツバキさんはもうお爺ちゃん離れをしているようだ。愛情が一方通行であり、なんだか可哀想である。
「アークぅぅぅ!孫が冷たいんじゃ!キンキンなのじゃ!!」
「あ、はい。そういうところですよ?まあ言っても直らなさそうですが。」
「うう、その通りかもしれんが…うむ。それじゃあ帰るとするかの。じゃあの!」
ヤマト爺はツバキにウインクを送りながら転移の魔法で消えていった。そう言えば美魔女さんも転移の魔法使ってたよな…。家系ですな。
アークは席に着き、机に積んである教材を魔法袋に全てしまう。
「おう、アークよ、お前魔法袋持ちか!誰からもらったんだ?」
あ、しまった。ちょっと迂闊だったか。どうしよう…
《―――ここは天丼です。》
おお!いいね!!
「んー…爺ちゃんの形見?」
ミカゲさんの方を向いて答えてみた。さてさて、乗ってくれるだろうか。
「……ぷっ―――」
あ、笑ってる。望んだ結果は違かったが、まあよしとしよう。
「……あ、あなたね…。ぷっ―――」
しかし笑っているのは1人だけである。解せぬ。クレアもそう思うでしょ?
《―――解せぬです。》
「あーー…。もういいわ。今日はもう授業の雰囲気じゃないんで、一旦休み!アークのために自己紹介の時間にするぞ-。じゃあ、ジンから。」
そうして自己紹介が始まった。なんでも爵位が高い人から自己紹介するらしい。これは常識なのだそうだ。
「はい。僕はジン。タチバナ公爵家三男のジン=フォン=タチバナだ。父上から色々聞いているよ。よろしくね。」
「あ、クシンさんの!よろしくね!」
文官お兄さんのとこの!薄赤髪の肩まで伸びた髪の少年だ。これは始めての友人のチャンス!同じ公爵ってわけだし、仲良くなれそうかな?
「次はワタクシですわ。ワタクシはアマミヤ侯爵家三女、サチホ=フォン=アマミヤですわ。よろしくお願いいたしますわ。」
いかにもお嬢様って感じの子だ。髪は頭の横からくるくるして垂れている。これが片ドリル…!
「……ミカゲよ。ミカゲ=フォン=ヤサカ。ヤサカ辺境伯家―――ぷっ。」
まだ笑ってる。割とうけて良かった。なんとかミカゲさんとは仲良くなれそうだ。
「次は俺だ!ランバルト伯爵家が二男、カズマ=フォン=ランベルトだ。まだ認めたわけじゃないからな!」
青髪の気の強そうな少年だ。サクラの手前、なにをとは言えないところがダメダメである。サクラはもう僕のものなので諦めて欲しい。まあ、なにを認めていないのかは定かではないが。
「私はツバキ=フォン=クロムウェルよ。お爺さまが迷惑かけたわね。」
6歳だというのに達観している。クロムウェル家恐るべし…。なんだか機嫌悪そうだしあんまり関われなさそう。睨んでるし…。
「俺は!ユウマ=フォン=アキーリだ!子爵家長男だ!よろしくな!」
6歳児にしてはでかい体をしている…将来は脳筋になりそうで怖いがいいやつそうだ。黒髪のわんぱく小僧って感じだね。
「わ、私はカーロ子爵家五女の、カナ=フォン=カーロです…。よろしくお願いします…。」
薄紫の髪をした気弱そうな女の子だ。それにしても五女って、大分多いよね…。
「僕、オサム!アプリル男爵家の長男なんだ!よろしくね!」
ちょっとおバカっぽい茶髪の少年だ。いいキャラしてるけど、男爵家大丈夫かな?
「マーレ男爵家二女のアキ=フォン=マーレよ。もしいいとこにお嫁に行けなかったら、もらってね?うふふ。」
明るめの茶髪の女の子だ。あんまりお嫁さんを増やす気は無いのでやめてほしい。この子は要注意と。
あとの9人は平民や商家の子だった。それに外国から来ている子までいるみたいだ。その子らはおいおい紹介するとしよう。
「アーク、お前も一応ちゃんと自己紹介しとけ。お前のことちゃんと知っとかないとなにかとヤバいこともあるからな。」
「ヤバいことってなんですか…。分かりましたよ。」
一応僕が公爵っていうのは貴族間では伝わっているはずだけど、貴族じゃない子たちは知らないもんね。
「えー、改めまして。僕はアークです。アーク=フォン=フォレストブルム。国王陛下から公爵位をもらいました。今まではフォレストピア大森林で暮らしてましたが、色々な縁があってシンラに来ました。お面は本当は付けたくないんですが、爺ちゃんとか王様が付けておけと言うので仕方なく付けています。あ、サクラと婚約したのは、サクラをたす―――――うわ!」
「アーク様!!それは言わないで下さい!!!!」
サクラは自分から襲いかかったことを言われると思い、止めにかかった。アークの後ろから両手で口を塞いだのだ。しかし、お面を付けているので口を塞ぐことはできなかった。しかし、ここで事件が起こった。
―――カラン。
アークの付けていたお面が外れ、床に落ちた。
「―――あっ!」
アークは咄嗟に手で顔を隠し、窓の外を向きながら急いでお面を拾って付けた。
「も、申し訳ありませんアーク様!」
「ううん、大丈夫だよ。ごめんね、婚約したってあまり言って欲しくなかったよね…。」
「あ、いえ…。私からきせーじじつをつくったことを言われると思ってしまって―――あっ!あ、あ、あの、これは違うのです!!」
サクラは自ら暴露してしまったことに顔を真っ赤にしながら必死に誤魔化そうとしている。そんなことより―――
「―――あの、見えちゃった…?あはは…。」
咄嗟に隠したものの、窓側の2列に座っている子たち数人には見られてしまったようだ。ジンに、カズマ、ミカゲと、留学生のエルフの子―――ミルに見られてしまったらしい。
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