第17話 学院?とガチ修行

「こ、こ、公爵様…!すすすすみませんでした!!!」


 え、なんか謝ってきたー…


《―――おそらく失礼な口の利き方をしたと謝っているのでしょう。最悪の場合、不敬罪で罰則があります。》


 あー、そういうことか。


「あはは、別にいいんですよ。リンカさんは命の恩人なんですから。普通に話して下さい。」


「―――ふぅ。よかったー。それにしても、あなた!こういうことは前から言っておきなさいよ!」


「ふふふ。こうしたほうが面白いかと思いまして。それに、あれだけ弟だ弟だって言っていた子が公爵様だって気づいたとき、どうするのか見てみたかったんです。」


 ナギサさん、王城って伝えずに連れてきたんだ。中々酷いことをするもんだ。


「うぅー…でも弟は弟だもん!…いい?」


「ははは、別にいいですよ。」


「やったー!!念願の弟…!」


 この人はおそらく末っ子だったのだろう。弟か妹が欲しくて仕方が無かったのだろう。そうして嬉しがっていたが、ここが王城と思い出すと、ナギサに詰め寄った。


「あなた!私はもう帰りたいわ!早く早く!」


「はいはい、分かりました。ではアーク様。また今度。」


「バイバイ!私の弟よ!今度はお姉ちゃんって呼んでね!」


 リンカはナギサの背中を押しながら慌ただしく部屋を出て行った。


「騒がしい方でしたね。―――それにしてもアーク様。怪我をされたと聞いてとても心配したんですよ?」


「ホントよ!アークくん、あんまり無茶しないでよね?」


 婚約者2人がちょっと怒った顔で両腕にしがみついている。


「うん、ごめんね。気を付けるよ。」


 そういってお面を外した。人前では付けておかないといけないが、この2人の前なら大丈夫である。


「―――は、はい…!気を付けるのなら、いいんです…」


「―――そ、そうね…」


 アークの顔が見えた途端、急にもじもじする王女たち。シオリの方は股のほうに手を伸ばしているが。


 そのとき、コンコンと扉をノックする音が聞こえ、侍女さんが入ってきた。


「皆様、湯浴みの準備が整いましたのでお知らせにきました。それと、マイ様からの伝言で、アーク様は男湯に1人で入りなさいとのことです。それでは、失礼します。」


 昨日のまき散らしてしまったのがやはりダメだったのだろう。シオリは絶望したような顔になってる。サクラも残念そうだが、あんまり気にはしていないようだ。


「それじゃあ、行こうか。―――シオリ?」


 シオリはベッドに座ったまま動かない。


「…あ、安心してちょっと腰が抜けちゃったから、少し休んでから向かうわ!」


「うん、分かった。じゃあお先に。」


 そういってアークとサクラは浴場へ向かった。


「―――よし!」


 シオリはアークとサクラが離れていくのを確認すると、ベッドにダイブした。


「スーハース―ハー。ああああ、アークくんの匂い…興奮するぅ…」


 シオリはベッドに染みついたアークの匂いを必死に嗅ぎながら股に手を伸ばし、自慰行為をし始めた。


 この後、アークはベッドに染みついたエロい匂いに苦労することになることを知らない。







 アークはお風呂から上がり、食堂で食事をしていたが、ふいにケンシンからこんなことを言われた。


「なあ、アーク。お前、学院に通わないか?今は長期休暇でサクラたち全員は戻ってきているが。」


「学院、ですか?んー、通った方がいいですか?」


「ああ。公爵なのに学院を出ていないと外聞が悪いからな。」


「そうなんですね。でも途中からって、大丈夫ですか?」


 途中から入るとなるとのけ者にされそうな気がしてちょっと怖い。


「ああ、大丈夫だ。国王推薦ってことにしておけばなんとかなるだろ。」


 あ、職権乱用ってやつか。


「お父様!私と同じクラスでお願いします!」


「ああ、そのつもりだ。アークを頼んだぞ。」


「はい!」


 こうしてサクラのクラスに入ることが決まり、入学まで待つことになったのだが…


「あ、あと3日後な。長期休暇が明けるの。」


「えええ!それは聞いてないです!」


「ああ。今言ったからな。」


「安心して下さい、アーク様。入学の準備はほぼ完了してありますので、特に用意するものはありませんから。」


 おお!ありがたいナギサさん!これでゆっくり修行ができる!


「あ、王様。屋上の広場になってるところ、使ってもいいですか?中庭だと誰かしら人が通るので。」


「ん?ああ、いいんじゃないか?」


「ありがとうございます!それじゃあ行ってきます!」


 そう言い残し、そのまま屋上へ向かっていった。


「なんであんなにストイックなのかねぇ。まあ、詮索する気はねえが。」









 アークは屋上の広場に着いた。夜になり、暗くなっているが、魔法で明かりを灯せば大丈夫だろう。


「よし、“精霊召喚”!」


 そう唱えると、何もない空間に魔法陣が浮かび上がり、クレアが現れる。


「アーク今朝ぶりですね、こうして顔を合わせるのは。」


「う、うん、そうだね。」


 アークはクレアがドタイプなので、笑みを向けられると途端に赤面してしまう。


「あらあら?アーク、顔が赤いですよ?そんな可愛い顔されると、襲いたくなっちゃいますから。」


 そうアークの耳元で囁いた。なんとかアークはそれに抗い、気を引き締めた。


「よ、よし、気を取り直して、修行しよっか!」


「――ふふ。まずは、歩法からですね。今朝やったとおりに進めましょう。」


 30分程歩法の修行を続けた。ある程度形にはなってきたと思う。


「では、もう試合形式にしてしまいましょうか。剣の型は情報として脳内に送ってあるので、あとはひたすら実戦を繰り返す方がアークには合うでしょう。」


「ん、そっか。たしかにリュウゾウさんと戦ってたときが1番成長できる気がしたし。じゃあ、お願い!」


「今回は魔法も合わせて使って下さいね?使えるのと使いこなせるのとでは全然違いますから。」


 そう言われたら使うしかない。〔血魔法〕と〔風魔法〕、〔無魔法〕を発動し、体が耐えられる極限まで身体能力を高める。相対するのは、同じように木剣を構えたクレア。本人曰く、リュウゾウの何倍も強いと言う。それなら加減は要らないと、本気で挑む。


「アークはおそらく脳内に送った剣技は大半は使えるでしょう。それらを組み合わせてみたり、魔法と組み合わせてみたり、色々試してみましょう。それでは―――」


 そういった途端、クレアから突っ込んできた。上段から振り下ろされるその剣の軌道は、リュウゾウが見せたものとほぼ一緒であった。リュウゾウの時は躱して反撃をしたが、今回は修行だ。全てに対しての対処を探るいい機会なので、ここは受け流す。


〔力学魔法〕と知識だけある剣技を用い、左上から斜めに振り下ろされる木剣の軌道を完全に流しきる。そして追撃を受けないように後ろに体を引きながら返す木剣で胸元を切り上げる。


「いい使い方ですね。まだまだ行きますよ!」


 いい使い方と言いながらもあっさり反撃を躱しているクレア。さすがリュウゾウより強いと言うだけはある。


 次は、アークがリュウゾウに押し切られたあの超連撃である。あの時は6~7回に1回くらいしか返せなかったが、今回は魔法もある。せめて3回に1回は返してみたいものだ。


 クレアはかなりの速さで剣を振り回していたが、その思考はかなり冷静で余裕をもっていた。そして考えることは、どのような軌道で繰り出せばアークはこの剣技を使うのだろうか、だ。それを100通り、1000通り繰り返す。


 1000通りも繰り返すと、アークは大体の剣技を使い終えたのが分かった。もちろんどの剣技でもクレアに当てることはできなかったのだが。


 しかし、かなりの収穫があったのは事実であるので、アーク自身はこれで良しと思っている。


 アークは、知識としてあった剣術を使ってみて、思ったことがあった。それは、これを使いこなせても、これを超えることはできないということだ。先人たちがつくり上げたこの剣術は、いい意味と悪い意味で完成されている。


 いい意味では、これをマスターすれば、かなり強くなれるだろう。しかし、悪い意味では、これ以上発展の余地がなく、成長できないだろう。


 どうしたものかと悩んでいると、クレアが名案を授けてくれた。


「アーク、あなたが剣術を創り出せばいいのです。あなただけの剣術、あなただけの流派として。面白そうじゃないですか?」


 そのとき、パズルのピースがはまるかのようにピタッと悩みが解消した。


「それだ!そうしよう!あ、でもこれは僕だけの流派じゃなくて、僕とクレアの流派にするんだ!!」


「―――はい…!一緒に頑張りましょう、アーク!」


 どちらからともなく2人は近づき、キスをしていた。










 修行が終わり、クレアの召喚を解き、部屋に戻ってくると、自身を浄化し、そのままベッドに入る。修行に時間がかかり、起床時間まであと4時間であるので、早く寝なければならない。


 ベッドに入ると、なんだかエッチな匂いが漂ってきた。これは…


《―――アークとサクラが部屋から出たとき、シオリが1人で自慰していたようです。》


 な、何してくれるんだ…!これじゃあ眠くても寝られないじゃないか…


 そのとき、勝手に魔法陣が浮かび上がり、クレアが出てきた。


「アーク、私が鎮めてあげます…♡」


「―――――あああぁぁ!!!」


 クレアは1時間休むことなくアークの弱いところを攻めまくり、気絶させた。


 翌朝の朝食ではアークが死んだような目をしていたのだった。

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