第16話 ギルマスとの戦いと自称姉
アークはリュウゾウに首根っこを掴まれ、宙をぶらぶらしながら冒険者ギルドに併設されている屋外訓練場に連れてこられた。
クレア-、助けてー。
《―――アーク、頑張って下さい。おそらく勝てませんが、死にはしません。》
やっぱりめちゃめちゃ強いよねぇ。
《―――いい修行の機会です。ここでスキルアップをしましょう。》
んー、ポジティブ!そうしようか!
「よし、ほんじゃ俺がお前の実力を判断してやるから!ドンとこい!ガッハッハ!」
併設されている冒険者ギルドの中にまで聞こえるような声でそう宣言した。訓練場にもともといた冒険者はなんだなんだとこちらを注目している。
「ギルマス自らって、なんだあの嬢ちゃん。」
「ギルマス-!女の子いじめちゃダメよー!」
「……お面外さねえかな…」
「あの子絶対可愛いわ!!妹にしたいわ!」
「ギルマスは幼女趣味!!ギルマスが幼女趣味だ-!号外号外!!」
1人冒険者ギルドの方に走っていったが、筋骨隆々おじさんは大丈夫なのだろうか。変な噂が立っちゃうんじゃ?それに―――
「僕は男です!!!!!!!!」
今までで一番声を張り上げたんじゃないかというくらいの叫び声を上げた。
「うえ!まじか!坊主、頑張れよ!」
「ギルマス-!男の子でもいじめちゃダメなのよー!」
「……いや、あの子は女の子だ。絶対そうだ…」
「じゃあ弟ね!私の弟!頑張ってぇ!」
「なにぃ!号外しちまったぜ!ちょっとまた行ってくるわ!」
ふぅ。なんとか僕が男だって認識されたね。
「んじゃあいいか?お互い木剣で、勝敗の決着は降参か戦闘不能と判断された場合だ。……シュウ!審判やれ!」
「はいはい、来ると思いましたよ。初めまして。僕はギルマスの尻ぬぐい係のシュウです。よろしくね。」
うわ-。かわいそう…僕だったらやめちゃうね。
「あ、はい。僕はアークです。よろしくお願いします。」
「おいおい、サブマスだろうがよ、そこは。まあ間違ってねえけどな!ガッハッハ!」
あ、サブギルドマスターなんだ。見た目は文官みたいな感じだけど雰囲気は武人って感じがする。やっぱり強そうだよねぇ。
「ははは。じゃあ、両者準備はいいですか?それでは―――始め!」
合図と同時にリュウゾウは走り出す。アークは相手の実力がどの程度なのかを確かめようとスロースタートを選んだが、悪手だったようだ。
リュウゾウは小手調べに上段からの振り下ろしを初撃に放った。アークは受け止めてやろうと思ったが、この巨体の力はさすがに無理だろうと思い、躱すことを選んだ。
アークは左斜め前に滑り込むように回避し、それと同時に体を回転させ、木剣を振り上げると同時に跳ね起きた。
「―――うお!これを躱して更に反撃までしてくるか!面白い!」
「避けられるとは思いませんでした―――よっ!」
今度はこちらから、とアークは予備動作なしにリュウゾウに肉薄し、木剣を持っている腕を狙い撃ちした。リュウゾウはアークが瞬間移動したように見えていたはずだが、それでも対応して、アークの剣戟を木剣で受け止めた。
「はっ!危ねえ危ねえ!こりゃあ少し本気を出さなきゃいけねえなァ!」
リュウゾウの纏うオーラがすこし刺々しくなったような感じがした途端、リュウゾウが一瞬で距離を詰めてきた。これは躱しきれないとなんとか剣の軌道を逸らすが、2撃目、3撃目…と続けられる剣戟に、アークは対処しきれず、完全に後手に回っていた。
《―――アーク、冷静に。思考加速で相手の攻撃をしっかり認識して下さい。今朝の修行の歩法を意識して受け流して下さい。無理に全て受ける必要はありません。躱せるものは躱し、反撃の機会を窺って下さい。それと、なぜ魔法を使わないんですか?》
―――ありがとうクレア!ちょっと焦ってたよ。よしよし、集中!!魔法は向こうが使ってないからこっちも使わないだけ!
アークは体から余分な力を抜き、歩法を意識して体勢を整える。冷静になると、リュウゾウの剣戟にはなんとか対処できるようになっていた。数回のうちにできる隙をついて反撃をしてみたが、リュウゾウは目を剥き、驚愕の顔をしていた。
「―――お前!いや、アーク!!最高にやるじゃねえか!戦いの中で成長するやつなんか中々いねえぞ!」
「それはどうも……!!こっちも必死なんですよ!」
ここから約3分もの剣の打ち合いが続いたが、アークはまだ慣れないのか、体勢を崩してしまい、そこからは一瞬であった。リュウゾウが放った渾身の横薙ぎにより、腹部を強打し吹っ飛ばされ、訓練場の側壁に叩きつけられた。
「ガハッ!!」
アークは腹部への強打による衝撃に昏睡しそうになりながらも必死に耐えるが、その後の壁に叩きつけられた衝撃により、意識を失った。
「―――あ、やっちまった。」
「アーク様!!!」
訓練場の外れの方で控えていたナギサがアークに駆け寄った。
「これは酷い……“ハイヒール”!!すぐ王城へ運びます!メイ!馬車の準備を!!」
「は、はい!」
その間もナギサは回復を続けるが、状況は芳しくない。そのとき、戦いを見ていた自称姉などの冒険者たちが駆け寄ってきた。
「ちょっと!ギルマス!私の弟になにするのよ!」
「ギルマス!さすがにやり過ぎだ!」
「いじめちゃダメだって言ったでしょー!」
「いや-、ついな。つい!」
「ついで許されないわよ!まったく…あなた、私に任せなさい。」
そう言って自称姉はナギサを止めさせる。
「え…あ、はい。お願いします。」
「よーし、それじゃ…“オールヒール”」
そう唱えた途端、アークの体が光り出し、その光が体に吸い込まれた。
「うん、これで大丈夫ね。じゃあギルマス。詫びと治療代、大金貨1枚でいいわよ?」
「うげっ!相変わらずがめついな…まあいいだろう。」
「あ、なんか馬車でどこかに連れてくんでしょ?私も乗るわ。いいでしょ?」
「は、はい。よろしくお願いします。」
そうしてアークは自称姉にお姫様だっこをされた。
「あ、ナギサ。問題なく合格だ。Gランクから始めるのが普通なんだが、Eランクからにしておく。あとで取りに来いよ。」
「なーーにが問題なくよ!バカなの!?もう、さっさと行きましょ。」
そうして馬車に乗り込み、急いで帰路に着いた。
「それで…これはどこに向かっているのかしら?」
自称姉は焦っていた。馬車は診療所か、どこかの住宅に向かうのかと思えば、高等商業区にまで進み、もうすぐ貴族区だ。もしかして貴族の子息かなにかか?と思い始め、内心ヒヤヒヤしていた。
ナギサはその焦りを見て面白そうに答えた。
「―――ふふ。着いてからのお楽しみですよ?」
そうして30分後、王城に到着した。
「ここって………王城じゃないのよ!!なんでなのよー!!」
自称姉は叫びながらも王城の中に引きずり込まれていった。
アークは目を覚ました。
「―――知ってる天井だ。あれ、僕寝てたっけ…」
「あ、目を覚ましたのね!良かったわ。」
……なんか知らない女の人いるんだけど…
《―――訓練場でアークのことを弟と呼んでいた方です。》
あー、あの人か。―――あ、僕ギルドマスターと戦ったんだった。負けちゃったねぇ。
《―――それは仕方ありません。レベル差、体格差、経験の差など、色々ありますので。》
それもそうだね。もっと修行しなきゃ。もっともっと努力しなきゃね。
「えーっと…大丈夫?ぼーっとしてるけど……」
「あ、大丈夫です。ちょっと考え事をしてて。」
「そうなのね。あ、自己紹介がまだだったわ。私はリンカよ。一応Aランク冒険者なのよ。」
そういって胸を張った。割と大きめなので目のやり場に困る。
「あ、僕はアークです。よろしくお願いします。―――それで、どうしてここに?」
「あなた、ギルマスにぶっ飛ばされて危ないところだったのよ。そこを私の治療魔法で治したってわけ。お礼にこれからはお姉ちゃんって呼んでもいいのよ?」
「そうだったんですか!ありがとうございました。」
ちょっとお姉ちゃんのところはスルーしておこう。
すると、部屋のドアが開き、ケンシンとマイ、サクラ、シオリ、そしてナギサの5人が入ってきた。
「アーク様!」「アークくん!」
サクラとシオリが飛びついてきた。随分心配をかけたようで、目が赤くなっている。
「この女の人になにもされませんでしたか?」
…そっちかい!多分大丈夫だとは思うけど。
「ハッハッハ!アーク、リュウゾウに派手にぶっ飛ばされたんだってな。」
「ああ、はい。なんとか食らいついたんですけど、あっさり負けましたね。このレベルじゃ多分冒険者は無理そうなのでもうちょっと修行してからにしようと思います。」
アークは普通にしているが、負けたことにかなり傷ついていた。それはクレアにしか分からないのだが。
「お前、マジで言ってんのか!?…ガッハッハ!お前の実力はランク的にはBくらいには届いているはずだとは思うぜ?」
「そうよ?それにリュウゾウは元SSランクだし、6歳でケンシンの一太刀を止める実力があるもの、十分だと思うわよ?」
「あはは。でも自分のことは自分で決めますので…」
そのとき、蚊帳の外であったリンカにケンシンが声をかけた。
「おう、あんた。ありがとな。アークを治してくれたんだろ?…はいよ。大金貨5枚だ。」
そういって大金貨を入れた袋を放り投げた。
「あ、あ、ありがとうございます!!!」
リンカは袋を受け取り、土下座をするように平伏した。
「ハッハッハ。そうかしこまるな。それじゃあ俺は行くわ。ゆっくり休めよ。」
ケンシンとマイは部屋から出て行ったが、サクラとシオリ、ナギサそしてリンカは部屋に残った。
「あ、あの、アークくん?あなた、何者?」
リンカがそう聞いてきた。…何者?僕は何者なんだろう。その質問にはサクラとシオリが答えた。
「「私の婚約者(ですわ)(よ)!!」」
ない胸を張り、ドヤッと答えた。
「お、王女様たちの婚約者……!?すごいポジション…!もしかして、どこかのお貴族様の御子息とか…?」
「いや、僕が公爵なんですよね…親はいないですよ。爺ちゃんならいるらしいんですが。」
アークは爆弾を投下した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます