第15話 お買い物と冒険者ギルド

 目的地に着いた。ここは、ちょっとお高めな服屋である。アークは自分で服を作り出せるが、いかんせんセンスがないのでシンプルなものしか持っていなかったのだ。


 なので、ナギサにそのことを伝えると、ここに連れてこさせられたのである。お面を付け、店に入った。


「ようこそ、ナギサ様。本日はどういったご用件で。」


「はい、今回は先日叙爵されたアーク様のお召し物を選びに伺いました。」


 あ、僕そーいえば公爵なんだった。


「そ、そうでしたか!これはこれはフォレストブルム公爵様。ようこそいらっしゃいました。お召し物は何着ほど御入り用でしょうか?」


 急にすごい謙った!僕が叙爵されたってことはもう知られてるっぽいね。


「はい。ラフなもの2着に、しっかりしたものを2着。あとは、おすすめを2着でお願い。」


 これだけあればいいだろう。


「承りました。それでは、採寸致しますので、こちらへ…」


 そういって採寸され、試着されで中々に時間がかかった。


 解放されたのは、あれから1時間後。


「フォレストブルム公爵様、本日は誠にありがとうございました。お会計は合計で94,000オールでございます。お支払いはどうされますか?」


「あ、貨幣で。―――はい。」


 貨幣制度は、1オール=銭貨1枚で、日本円にすると約10円である。順に、銭貨・銅貨・銀貨・大銀貨・金貨・大金貨・小白金貨・白金貨・大白金貨・鳳凰金貨となる。


 10000オールで金貨1枚なので、金貨9枚と大銀貨4枚を袋から出し、渡した。この袋は小さいが、実は容量がほぼ無限である。時空間魔法の実験の際につくり出してしまったものだ。


 日本円にすると94万円もするという事実に驚きながらも、貴族ならばこれが普通なのだろうと頑張って見栄を張った。


「はい、確かに頂きました。またのご利用をお待ちしております。」


 そうして店を出た。


「お次は、どこへ行きますか?」


「次は、冒険者ギルドかな…冒険者登録は何歳でもできるらしいし。早めにしておこうかなって。」


「…分かりました。冒険者は荒くれ者が多いので、気を付けて下さいね。」


 そうして、またナギサに王都の説明を受けながら冒険者ギルドに向かった。









 高級服屋を出て、40分くらいが経過した。高等商業区を抜け、商業区に入ったときは大分町並みは変わったと感じたが、商業区から冒険者区に入るときはそこまで変化は見られなかった。格式の差はあそこからなのだろう。


 目指している冒険者ギルドは、城門に近い場所にあるため、中々時間がかかる。それに、こんな仰々しい馬車に乗っていると嫌でも目線が集中する。これで冒険者ギルドに入っていったものなら、もう時の人である。


「―――ナギサさん?もう降りて歩いて向かいたいんですが、いいですか?」


「ダメです。そんなことされたら私がクビになりますのでやめて下さいね。」


 それはいけない。まあ、お面付けてるし絡まれることもないだろう。……多分。


《―――絡まれる確率は、98%です。》


 あ、確定で絡まれるやつなんだ。でも、2%は絡まれないらしい。頼む神様…!


《―――オルタ様からの干渉により、120%の確率で絡まれることになりました。》


 頼む神を間違えた……


「あ、アーク様、着いたようですよ。参りましょうか。」


 馬車を降りると、そこには木造の大きな建物が建っていた。冒険者ギルドってかいてあるし、ここがそうなのだろう。それにしてもでかすぎる……


 そんなことを思いながら戸を開く。中に入ると、朝であるのにアルコール臭が立ち込めており、数人が倒れている。


 おおーー、これが冒険者ギルド……内装キレイ!木造なのにこれだけ大空間になってるのはすごいな!どーやってるんだろう?やっぱり魔法なのかな…?


「―――アーク様、どうされました?」


「あ、いえ。なんでも。それじゃあ登録しましょう!」


 そうして歩き出したとき、明らかに酔っている中年のおじさん冒険者が立ちふさがった。


「んー?嬢ちゃん、今、登録するっつったかぁ?嬢ちゃんみてーに小せえと邪魔にしかならねーんだわ!さっさと帰んな!―――おっ、姉ちゃん、きれーだな。今晩付き合えよ。気持ちよくしてやるからよ!エッヒャッヒャ!」


 ―――テンプレきたー!ねえ、クレア、どうしたらいい?


《―――玉を潰し、再起不能にするのが最善です。いえ、そうしてください。》


 えぇー、それはかわいそうだから潰れない程度にしておくね。潰す感覚なんて味わいたくないし。


 アークは歩法を意識し、軸がぶれないようにして接近に気づかれないように一瞬で距離を詰め、腰に差してあった刀を鞘ごと抜き、居合の要領で下段から股間を斬り上げるように軽く振り抜いた。


 パコンッ!!!!!


「ギョアァァーーーーーーー!!!!?」


 中年おじさんは股間を手で押さえ、床にゴロゴロ転がり始めた。


「―――アーク様……今瞬間移動しませんでした?」


 アークの今の挙動は、ナギサから見ればそのように見えていたであろう。


 実際は“縮地”といった技であり、アーク自身も知らず知らずに使っていた。今朝のクレアによる指導により、軸がぶれずに移動することを意識させることによって、今まではただ急接近するだけの技が、敵が認識できずに急接近する技になったのだ。


 軸がぶれないという効果は実は凄まじい。人は、なにかをしようとするとき、必ず予備動作というものが発生する。攻撃のタイミングは予備動作から掴むことが普通であるのだが、アークが行っている歩法の訓練は、この予備動作を発生させないのだ。


「いや……普通に移動してぶん殴っただけなんだけど…」


 未だに転がっている中年おじさんを尻目に苦笑しながら、受付に歩き出す。


「あのー、登録したいんですけど…」


「は、はい。冒険者ギルドへようこそ。登録はあなただけ?」


 受付嬢さんはナギサさんをチラッと見て、ただの付き添いなのだろうと踏み、聞いてきた。


「はい。僕だけですね。」


「―――僕?……もしかして、男の子?」


 この受付嬢さんはどうやら女の子だと思っていたようだ。あの中年おじさんがお嬢ちゃんとかいうからだ。もう。


《―――その髪型とお面で素顔が見えないからだと考えられます。》


 あー、それもそうか。じゃあ僕のせいか。


「あ、はい。僕は男ですよ。」


「あ、そうだったんだね。ごめんなさいね。それでは登録の方を―――」


 そういって手続きを進めようとしたとき、ナギサさんが受付嬢さんに近づき、耳打ちし始めた。


「―――――ええええ!!!公しゃ―――もがもが。」


 ナギサが慌てて受付嬢の口を塞ぐ。


「あまり大きな声をださないで下さい…!お忍びですので…!」


「は、はい…!すみません…!あ、応接室の方へどうぞ!」


 なんだか分からないが、応接室に通された。公爵だから面倒な手続きでもあるのだろうか。いやだいやだ。


「しょ、少々お待ち下さい!ギルドマスターを呼んできます…!」


 え、ギルドマスターってここで一番偉い人じゃないか…


「ナギサさん、大丈夫なんです?」


「はい。ケンシン様から、冒険者ギルドに行くとしたらギルドマスターに紹介しとけと言われていましたので。」


 へー、そうなのか。


 ―――ん?なんかデカい足音が……


 だんだんと足音が近づいてきて、扉の前まで来て止まった。そして、バタンッ!と勢いよく扉が開かれた。


「おうおう!お前がアークか!ケンシンが最高の息子ができたとか自慢してきたが。俺はリュウゾウだ!リュウゾウ=ハカードだ。よろしくな!公爵様よ!」


 うわあー、筋骨隆々おじさんがまくし立ててきた。これは返しておいたほうがいいか。


「アークです。アーク=フォン=フォレストブルムです。よろしくお願いします。」


「おいおい、かてーな。ナギサ、こいつはいつもこんな感じか?」


「いえいえ。いつもは可愛らしくはしゃいでおられますよ?」


「いやはしゃいでないから!」


 なんで嘘をつくんだ!僕はなにもしてないのに!


《―――おそらくエッチしていたことを言っているのではないかと思われます。》


 ―――あ、そういう……いや、それはそれでダメじゃないか?


「ガッハッハ!それはなによりだ。うし、俺が呼ばれたってことは、なにかあるんだよな、ナギサ?」


「はい。アーク様の冒険者ギルドのギルドカードを作って欲しいのです。それも見習いではなく、正規の冒険者として。」


「ん?見習い?」


「おう、お前見習いの制度もしらなかったか。見習いはな、成人未満、つまり15歳未満のやつらのことを言うのさ。その間は簡単な依頼しか受けられないんだが、それでも収入はあるからな。それで登録する若い奴らがいるんで、この制度ができたんだ。」


 ほへー、そうなんだ。じゃあひとりで来てたら危なかったね。


「それで、できますか?」


「んー。できなくはないんだが…大丈夫か?お前が強いのは見ただけで分かるんだが、割とダルいやつらに絡まれるぞ?」


「あー、さっきも絡まれてるので大丈夫です。」


 あの中年おじさん、立ち直ったかな?


「あ?まじかよ。じゃそいつはなんかの罰則付けとくか。悪かったな。」


「いえいえ。それより、見習いの件、どーなるんです?」


「おう、そういうことなら、正規で登録するか。なんか言われてもカード見せれば俺の名前が書いてあるから、安心しな。」


 おー、ありがたい!これでいろんなこと回避できるね。


「んじゃ、訓練場いくか!」


「―――え、なぜ?」


 脳筋男が急に変なことを言いだした。

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