第9話 シンラに到着と謁見の準備
食事を終え、そろそろ目的地に着きそうな時間になってきた。
「あの…もうすぐ着く国ってシンラっていうんですよね…?」
出発前、チラッとサクラから聞いていたことを思い出す。
「あぁ、そうだぞ。自慢の国だ。なんたって、修行最果ての地って呼ばれてるくらいだからなぁ!ガッハッハ!」
ナイスガイお兄さんが答えた。自慢の国か…良い国だといいな。
「ケンシン様って、どの爵位なんです?割とお高めなんです?」
アークは婚約者の父親と言うこともあってズケズケと質問していく。しかし、この質問に周りのみんなは凍り付いた。
「んあ?お前、知らなかったのか?オレ、王サマだぞ?つまり、貴族よりも偉いってこった!ガハハ!」
予想だにしなかった答えにアークは凍りつく。え…?嘘でしょ?つまり、王族?サクラは王女様?え、王女様とずっとちゅっちゅしてたってこと―――?
「あら、サクラ。言ってなかったの?」
美魔女さんがサクラに問う。
「あ…その……アーク様が喋ってくれなくなるんじゃないかと思って…」
サクラが泣きそうになりながら言うと、ケンシンが謝ってきた。
「まあ、サクラも悪気があったわけじゃねーんだ。すまなかったな。」
「―――いえいえ、ちょっとビックリしただけですので…」
「おう、よかったよかった。ってな分けで、港に着いたら速攻転移で王都に飛ぶから、よろしくな。」
おー、やっぱり転移できるんだね。この美魔女さん。でも魔力量はそんなに多くないっぽいから少数しか転移はできないよね。そしたら、転移装置とかかな?
そうこうしているうちに着いたみたいだ。
「よーし、全員着いてこい、転移装置んとこまで案内するぞ。」
やっぱり転移装置か。船を出るならお面付けとくか。そう思い、お面を取り出し、被る。
「あ、アーク様、またお面付けちゃうんですか?」
「うん、あんまり顔を人前で見せるのは良くないって言われてるんだよね…」
あはは、と笑いつつ外を目指す。そんな会話を聞いていた美魔女さんが会話に混ざってきた。
「たしかにアークくんの顔は整いすぎてて目立つわよね。まあいいんじゃない?サクラはライバルに取られなくてすむんだし?」
「たしかにそうですね!アーク様はかっこよすぎるので女の子が寄ってきそうです…」
「あはは、それは困るよ…」
そんなことを言いつつ、港に出て、転移装置を目指す。
しばらく歩くと、1軒の大きな屋敷が見えてきた。
「ここは王族専用の屋敷だ。ここに転移装置が置いてあるから、入ってくれ。」
そう言って案内されたのは、日本の武家屋敷と海外の洋館が混ざったような木造の落ち着いたお屋敷だった。
「ふぉおおお!!す…すごいぃ!!」
アークは感動していた。転生前は城下町の研究をしていたので、もちろん武家屋敷についての知識もあるのだ。まさに武家屋敷×ファンタジーな建物に興奮を隠せないでいた。
「ふふふ…アーク様もそんな反応をされるんですね!可愛い…」
サクラがそう言って腕に絡みついてきた。
「あ…いや―――ちょっと建物とかに興味があったんだよね…あはは。」
ポリポリと頬を掻きながら照れるアーク。
「おぅ、こんなんで感動してたらこの先もたないぜ?ほら、さっさと行くぞ。」
ケンシンはアークに褒められて嬉しいのかニマニマして、そう告げた。
室内はやはり土足厳禁であった。アークは〔時空間魔法〕に靴をしまうが、他のみんなは侍女さんに持たせるらしい。
そうして向かったのは、隠し扉の向こうにあった地下室。なるほど、隠した場所に転移装置を置いてるのか。それはそうか。とひとり納得する。
「うし、じゃあマイ。頼んだ。」
「はいはい、それじゃ、いきますよ。ちょっと衝撃が来るからみんな好きな子に捕まってね?うふふ。」
そう言うと、サクラは即座にアークの真正面から抱きついた。しかし、アークに抱きついたのはそれだけじゃなかった。周りに控えていた侍女さんズが一斉にアークに殺到したのだ。
「ちょ!あんたは離れなさいよ!」「嫌よ!アークちゃんは私のものよ!」「あぁ…アーク様…いい匂い…」「アーク様ぁぁ!」「チャンスチャンスチャンス……」「よし!捕まえた!」
アークは侍女さんズの甘い香りに頭をクラクラさせながら必死にあらがおうとサクラを強く抱きしめた。そして、辺り一帯が光り、浮遊感が襲った。
光が収まり目を開けると、そこは広い和室だった。旅館の宴会場みたいだな…と思っていると、美魔女さんがこちらにひっついてる侍女さんズに声をかけてきた。
「―――あなたたち…何しているのかしら?」
ちょっと顔に青筋を浮かべている。あまり見ないようにしよう…
侍女さんズは慌てふためいた。王妃が怒っていると。自分たちは首になるのではないかと。そもそもマイがあのようなふざけたことを言わなければこんなことにはなっていなかったのだが。
「あなたたちのことは、よーーく分かったわ?ええ―――」
宴会場?の空気が一気に冷たくなった。侍女さんズは真っ白になりながら自分の運命を待ち受けている。
「あなたたちは―――――将来サクラとアークくんに仕えなさい。これは王妃命令よ?…でも、それまでの間、王宮侍女をやめることは許さないわよ?うふふ…」
マイが急に美魔女スマイルをつくり、そう告げた。侍女さんズは何を言っているのかわからないといった顔をしたが、数秒後、その顔は歓喜に染まり、泣き出すものもいた。
「「「「「ありがとうございます!マイ様!」」」」」
侍女さんズは王宮侍女って職業なのか…それってすごいんじゃ…?そんなことをアークが思っていると、サクラが不満げに呟いた。
「…アーク様は私のなのに…」
両頬を膨らましてふて腐れているサクラをみて、アークはそんなサクラを抱きしめた。
「ふふ…サクラは可愛いね。」
「―――もう!アーク様、急にそんなこと言わないで下さい…!」
サクラは急に機嫌が直り、ニマニマとだらしのない表情を浮かべた。
「おいお前ら…もういいか?そしたら謁見ノ間の用意だ。クシン、頼んだぞ。」
「はい、兄上。では皆様、それぞれの持ち場に。」
いままでどこにいたんだと思ったくらい影を潜めていたクシンは急に生き生きし始めた。アークは謁見?と不思議に思ったが、自分には関係ないと思ったので、ぼーっとしていたが、そんなアークにケンシンは告げた。
「おい、息子よ。お前のための謁見だから、準備しろよ。それに、サクラと結婚したかったら報奨全て受け取れよ。分かったな?全てだぞ!」
そう言い残して去って行った。え、まじか。でもお金とか勲章とかっぽいし、まあいっか。
アークはこの時気楽だったのだが、後々それは間違いだったことを知ることになる。
アークは、侍女さんに連れられ、更衣室のような部屋に入った。
「アーク様。私は王宮侍女をしております。メイと申します。先ほどは失礼致しました。」
と、丁寧に頭を下げてくる。
「ううん、気にしないでいいですよ。僕も嬉しかったですし、こっちがお礼したいくらいですよ。」
とアークは言い、あははと笑った。侍女はお礼したいという言葉を聞き、目が光る。
「お礼していただけるのですか!それでは、ほっぺにちゅーをお願いします!」
そういって急に性格が変わるメイさん。
「あ、はい…いいですよ。じゃあ少し屈んで下さい。」
メイは13歳で少し身長が高めであったので、ちょうど良い高さまで屈んでもらう。そして、ほっぺにキスしようと目を閉じてゆっくり唇を近づけた。
ちゅ。
ん?ほっぺじゃない?目を開けると、メイさんの唇がアークの唇とくっついている。アークは慌てて離れる。メイは顔を赤くしながらアークにそっと近づき、耳元で囁いた。
「―――きせーじじつ…できちゃいましたね?うふふ…」
アークは驚愕した。なんてやり手な侍女さんなんだ、と。
「うぅ…やってしまった…」
そんなアークに呟きを聞いて、メイは次の手を打った。
「ふふふ。このことをサクラ様に知られたくなかったら、私も将来雇って下さいね?」
メイは先程の侍女さんズには混ざれておらず、真面目な性格が出てしまいアークに抱きつかなかったのだ。あそこで抱きついておけば…と後悔していたため、これはチャンスであった。
「う、うん…分かりました…。」
そうして着替え出すが、誰かが入ってきた。それはあの時の侍女さんズではない違う侍女さんであった。
「あら、まだでしたのね。もうそろそろ謁見が始まりますから、急いで下さいね?うふふ―――あと、メイ。私には分かりますよ?そんな冷静なふりをしても…うふふ―――」
この侍女さんがなにか勘付いたようだ。
「メイのドタイプだし、メイならなんとかして襲いかかるんじゃないかと思ってたわ。あなた、結構やり手だしね。秘密にしておいてあげるから、アーク様が当主になったときに私も引っ張ってよね。それでチャラよ?」
そういって去って行った。なんか変な勘違いをしているのではなかろうかと思ったが、ここは流しておく。
「はぁ…なんか勘違いしてたけど仕えられることはバレてたわね…。さすがはミオさん。そういうわけで、早く着替えましょうか。あ、私がアーク様に使えることになったことは秘密でお願いしますね。」
こうしてアークは着替えを終え、新たな侍女さんを2人?得た。
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