2章 和国 シンラ 編

王立シンラ学院 1年生 編

第6話 救出とサクラ様

 戦闘音を頼りに、木から木へと飛び移りながら急行する。


「それにしても身体能力オバケになっちゃったよねぇ…これじゃN〇RUT〇だよ…」


 某忍者漫画のように森の中を駆け回る。


 2分ほど経つと、15体程のオークに囲まれたお貴族様風ご一行が見えた。シンプルながらも豪華な馬車が3台並び、20人程の護衛がその馬車3台を中心に守りながら戦っている。すでに護衛の10人程は倒れているので、戦況は悪いのだろう。馬車も壊れ、馬も怪我しているっぽいので、最悪な状況である。


「んー、どうやって加わろう?…あ、あのゴツゴツの侍さんが隊長さんかな?あの人になら声かけても大丈夫だよね…」


 下手に声かけて、注意を引いてしまったらやられてしまうかも知れないとアークは思っていた。


「じゃあ、行きますか!」


 そう意気込んで、体中に〔血魔法〕で魔力を循環させ、〔創造魔法〕で創り出した愛刀『刀くん2号』の柄を掴み、居合いの勢でゴツゴツ侍隊長の付近にいるオークに〔風間法〕による加速で突っ込む。


「ふっ!―――――横薙ぎっ!っよし!」


 ズパッ!


 オークの太い首を真横に一刀両断して見せた。オークは自分が死んだことに気がつかないままその生涯を終えた。


「ゴツゴツ侍さん!助太刀いたします!!」


「「ブハッ!!!」」


 近くにいた護衛たちが一斉に吹き出した。それでも集中を切らさずに戦闘を続けられているのはさすがだろう。


「だああれがゴツゴツ侍じゃあ!!!嬢ちゃん、あとでシバくから覚えとけ!!あとありがとよう!!」


 そう言って対峙していたオークを切り捨てた。


 声が高かったことと髪が長かったことで女の子と勘違いされてしまったが、わざわざ訂正する必要もないかと感じ、そのまま戦闘を開始した。


 残りのオークは13体。今の実力を試すチャンスであったので、ここは自重しない。〔血魔法〕〔風魔法〕に加え、今度は〔力学魔法〕も発動させる。


 護衛の脇をすり抜け、オークに向かって駆け出す。


「お、おい!嬢ちゃん、危ねえぞ!」


 ノッポ護衛さんが叫ぶが、そんなのは無視である。


 今までは慣性の力を刀と腕にだけ適応していた。しかし、それではまだまだである。今回フルスロットルで戦うには全身にも適応せねば、と考えていた。


「物理法則を無視した戦法、いざ!」


 1体目のオークに向かって飛び、首を切断する。そのまま〔力学魔法〕で慣性力を相殺し、〔結界魔法〕で足場をつくり、真横に飛びつつ刀を振る。護衛がいない箇所には〔風魔法〕で首を飛ばす。


 敵陣に突っ込んでいるので、四方八方から攻撃が飛んでくるが、慣性力を無視した

 軌道で難なく全ての攻撃を躱す。武器を振り下ろしたオークは頭を差し出したかのように下げ、一瞬の硬直が生じた。


 その隙を逃すアークではないので、そのまま5体のオークの首を飛ばす。


 最後の1体には、〔血魔法〕と〔風魔法〕の出力を上げ急接近してから、逆袈裟に振り上げた。オークは抵抗することもできず、絶命した。


「なぁ…!!なんだあの嬢ちゃん…!」


 ゴツゴツ侍さんと護衛さんは唖然とし、アークの戦闘を見ていた。一瞬で戦闘が終わり、アークは納得のいかないような表情をしていた。お面で見えないが。


「ふぅ…終わりました!皆さん、大丈夫でしたか?」


 気の抜けるような声で尋ねるアーク。そんな中、ゴツゴツ侍さんが意識を取り戻した。


「おぅ、ありがとな嬢ちゃん。おかげで助かったわ。いざとなったら護衛対象抱えてこの場を見捨てて逃げようと思ってたが、命拾いしたな。なあ?」


 そう護衛たちに冗談交じりで問いかける。


「冗談キツいっすよ!そしたら隊長のことあの世でゴツゴツ侍っていうあだ名広めるっすからね!!」


「あ、ほんとにゴツゴツ侍さんだったんですね!!」


「そんなわけあるかああ!!!お前が初めてだわ!それをネタにされてんの!」


 アークのおかげ?でいいあだ名が付けられてしまったのである。






 アークは怪我をしている人に〔光魔法〕で簡単に治療を行い、死んでしまった人は、遺品を回収し、〔火魔法〕で弔った。


 馬の治療や馬車の修理は専門の人がいるらしく、任せることにした。


 あ!とアークは気づいた。女の子と間違えられていることである。お面を外しながらちょっと怒りつつ告げた。


「ふう…すみませんが、僕、男ですからね!お嬢ちゃんってやめてください!」


 その場は凍り付いた。恐ろしいほどに美しい少年とも少女ともいえるような顔つきをしたエルフがそこに現れたのだ。


「お、お前…!めちゃめちゃ可愛いな…!!」


 えっ。ゴツゴツ侍が何かを言っている。


「あ、ちょっと怖いので近寄らないで。ちょっと!近寄らないで!」


「お前男なんだからいいだろ!ハグさせろ!!」


 お面を被り直してから、ぎゃあーー!と逃げ回っていると、馬車の中から文官風の男とお姫様風な桃色の髪の女の子が出てきた。そして文官さんが声を張り上げた。


「ジュウベエ!この変態が!やめるんだ!」


「はっ!申し訳ありません!」


 お。急に跪いておとなしくなった。僕もやろう。そう思ってゴツゴツ侍の真似をして跪いた。


「おや、きみはそんなことしなくていいんだよ。…まあ、此度は助かった。ありがとう。」


 急に優しい口調になった。いい人っぽいね。


「ちょっと素性は明かせないんだけど、まあ位は高い方でね。こうした場合はなにか褒美をとらせなきゃいけないんだけど、なにか欲しいものはあるかね?」


 素性は明かせないって…お忍びかな?褒美か…やっぱりここは街まで案内してもらおうかな!


「は!近くの街まで同行させていただければ、と、思います!」


 ちょっとぎこちなくなっちゃったけど、大丈夫だよね。


「ん-、それだと褒美にはならないしこっちとしてはきみに同行して欲しいと頼むつもりだったから…どうしようか―――――ん、ごめんちょっと待ってて。ジュウベエ、出発の準備を。少し外します。」


 そう言って文官さんは一番奥の馬車に戻っていき、ジュウベエはどこかへ行ってしまった。こうなると、残されたのはお嬢さまと僕の2人である。気まずいのでどうしようか迷っていると、


「あ…あの!…お名前。教えて…?」


 顔を真っ赤にしながら尋ねてきた。貴族の娘さんだろうか?失礼にならないようにしよう。


「は!ぼ―――私はアークと申します。」


 無難に答えておいた。完璧だ。しかし、お嬢さまは少し不満げである。


「…そんなに、堅くならないでください…あの―――こちらに来て!」


 そういって腕を取られ、馬車の中に連行された。


「あ、あの…お嬢様?あまりこういうのはよろしくないのでは??」


 アークは慌てていた。未婚の女性が密室で男と2人になるのはよろしくはないと知っていたからだ。


「いえ、いいんです!あ、私はサクラと申します。此度は助けていただいてありがとうございました。」


「あ、はい、気にしないで下さいお嬢様。しかし…隣に座らなくても、反対側が空いておりますよ?」


 腕を組んだまま離れようとしないサクラ様に、遠回しに離れて下さいと伝えてみた。


「私、怖かったんです…でも、急にジュウベエの叫び声が聞こえて、外を見てみたら、アーク様が戦ってらっしゃって。とてもかっこよくて…それに…終わってからみんなと仲良く喋ってるときに、お面を外されたでしょう?私…一目惚れしてしまいましたの…!」


 顔を真っ赤にしながら大胆告白をされてしまった。


 ええーー!!ちょっと困った!!どうしよう!なんか急展開だよね!めちゃめちゃ可愛いから嬉しいんだけどさ、身分差がねえ…


「お、お嬢様「サクラと呼んで!」サ、サクラ様…私は貴族ではありませんので、おそらくはそういった関係は無理かと…」


 仕方なくやんわり断ってみた。


「アーク様は、私のことお嫌いですか…?」


 目をうるうるさせて上目遣いで聞いてくる。


「うっ!いえ!むしろ好きなんですが…身分というものがですね…」


 この時、サクラの目が光った。


「お母様…私、やりますわ!こんな時には、きせーじじつですね!」


 とサクラが小さく呟く。


 サクラの母は、どうしても射止めたい相手など身分差を気にすることなくアタックしろと教えてきた。しかし、それは無類の強さを誇っていたり、人間性がしっかりしていないといけない。サクラはまだ幼く、そういった判断はまだできないのでこれから教える予定だった。


 そして、サクラは大胆な行動に出る。アークを押し倒し、お面を外し、馬乗りになりながらキスを仕掛けた。


 ちゅ。ぷちゅ。くちゅくちゅ。ちゅ。ちゅ。ちゅー。ちゅぱ。


「んん!――サクラ――様!んっ――」


 ちゅぱちゅぱ。ちゅ。ちゅ。ぺろぺろ。くちゅくちゅ。ちゅぱ。


 その瞬間、扉が開いた。


「サクラ様、先ほどのしょうね―――――サクラ様!!!!??」


 あ―――死んだ?


 アークはあまりの衝撃と興奮により、気を失った。

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